官と民の振り子
土曜日の積雪は首都圏で大きな影響をもたらしました。気象庁が記者会見まで開いて大雪の警告を出したのも異例ですが、JR東日本が外出の自粛を呼びかけるとともに、計画的な間引き運転を行ったのが目立ちます。週末ということもあり、平常運転に拘って営業列車を乗客ごと駅間で缶詰にすることを回避しようということですね。平日だったら可能だっただろうかという疑問は残りますが、滅多に出現しない特異日の対応としてはアリと考えます。
で、面白い仮説があるんですが、経験則として首都圏で大雪は週末に多いというのがあります。これは企業が休業することで電力などエネルギー消費が減る結果、気温が下がるというものですが、もちろん実証レベルのサンプル数があるわけではありませんので、あくまでも仮説の域を出ませんが、そうであるなら雪の備えがないからと除雪体制や融雪システムの導入などは、敢えて考える必要がないということは言えます。特異日は家で巣篭りしてやり過ごすのが最適解というわけですね。
実際雪だけではなく、低気圧の接近に伴い、強風が観測されました。風速30mはちょっとした台風のような嵐ですから、外出を控える、あるいは外出中ならば早めに帰宅する、帰宅が困難ならば寝泊りの可能な温かい屋内に留まる、といった対応を取るのが賢明ということですね。丁度都知事選の投票日でしたが、都市防災として、こういった原則に従ったサポート体制を整えるというのは、現実的な対策と言えるかと思います。
流石にこの暴風雪は、多重化が進んでいると言われる首都圏の系統電力送電網でもトラブルを避けられなかったようで、広範囲に停電が起きました。特に横須賀市で11,700世帯という大規模な停電がありました。おそらくその関係でしょうけど、動いていた京急が東電の電力制限要請を受けて運休となるなど混乱しました。暴風雪による停電というと、12年11月の北海道の長期停電事故を思い出します。
というわけで、本題は北海道の話です。監査データ改ざんで組織として問題を抱えるJR北海道が刑事告発されます。<
JR北海道を強制捜査へ データ改ざん問題 :日本経済新聞2011年の中島社長(当時)の自殺に留まらず、坂本会長まで自殺という異常事態の中で、トップ交代や行為者の処罰は行われたものの、それで問題が解決するわけでもなく、当初社外から招へいが検討されていたトップ人事も、内部事情に明るい人物でなければ困難として内部昇格で決着するも、民営化前後の新規採用見合わせで、幹部候補の中堅が育っておらず内部人材も薄いし、データ改ざんも国鉄時代まで遡る悪しき慣習によるものということで、国交省も打つ手なしということなんでしょう。とりあえず容疑者未詳のまま検察の捜査で真実を抉り出すしかないという状況です。様々な問題が表面化した結果、頭を抱えるような現実に直面してしまったということですね。
元々JR北海道の経営環境は厳しかったのですが、民営化後の変化をザックリ言えば、スピードと重量の増加に押し潰されたということになるでしょうか。実現可能性はともかく、株式上場というゴールを目指し、新型特急車を投入しスピードアップを図るとともに、民営化直後に完成した青函トンネルを通じて本州との直通も実現したことで、大きな変化に直面します。
かなり記述を端折りますが、青函トンネルの開業を以てしても、青函間の旅客数は青函連絡船時代にピークに及ばない一方、天候の影響を受けなくなった貨物の需要は高まり、相対的に貨物の比重が増しました。それに合わせてJR貨物は老朽化したDD51重連を単機で代替可能なDF200に置き換えて輸送強化を図りますが、軸重14t(低速時15t)のDD51を軸重16tのDF200で置き換えられたわけですから、それだけ線路へのダメージは大きくなります。もちろん国鉄時代よりもレールは太く道床も厚くなり、路盤の土壌の水分が凍結して線路を持ち上げる凍上現象も路盤の改良で減ってきているはずですが、通過トン数と軸重の増加は、それだけ線路の軌道狂いを増やします。そうでなくても冬の積雪期には保線作業ができませんから、温暖な季節に集中保守が必要になるにもかかわらず、適切な作業が行われていなかったとすれば、事故が頻発するのは無理もありません。
加えて特急のスピードアップです。国鉄時代は最高速100km/hだったものが、120km/hから130km/hと改められ、これも線路にダメージを与えます。加えて振り子機構が問題を大きくします。国鉄時代に開発された自然振り子システムですが、その狙いは車内の乗客が感じる超過遠心力の緩和で、そのために重心より高い回転中心で遠心力を利用して車体を傾斜させます。その結果水平方向の重心は曲線の外側に振られる形となりその反力として車輪フランジにかかる横圧はむしろ増えます。そのために振り子車は軽量化と低重心設計がされてますが、それでも線路を押し広げる作用が強くなり、軌道狂いを生じさせます。JR北海道ではスーパー北斗向けに281系、スーパーおおぞらと一部スーパー北斗向けにより回転中心の低い283系を登場させたのですが、後者が例の石勝線で脱線火災事故を起こした車両で、現在使用を停止しています。
エンジンを床下架装するディーゼル動車で振り子機構はJR四国2000系で初採用され、バスや航空とのj競争にさらされていたJR北海道でも都市間輸送のてこ入れ策として採用されたのですが、軌道を痛めることもさることながら、車両メーカーの富士重工が鉄道車両製造から撤退したこともあり、その後宗谷本線や石北本線向けには空気バネ圧制御の車体傾斜システムを採用した261系に移行し、その後の標準車となりました。
これはシステムがより簡便である上に、車体傾斜で曲線の内側へ重心を移動させますから、遠心力による軌道への影響を軽減しますので、JR北海道にとってはより最適な設計といえますが、振り子よりはマシとはいえ、エンジンと駆動軸を結ぶ推進軸の偏倚を吸収し、車体傾斜をエンジントルクが打ち消さないように点対称の2エンジンというメンテナンス性の問題は抱えています。ただでさえ厳しい路線立地で、メンテナンスコストの多いディーゼル動車を多用せざるを得ないのですから、どこかで無理が出てくるのは避けられなかったと言うことはできます。
尚、電車でもJR西日本が381系、281系と続いたくろしお号へ非振り子の287系を投入してますし、JR東日本で唯一の振り子車である中央線スーパーあずさ用E351系を車体傾斜システムのE353系で置き換えが発表されております。当面スーパーあずさへ投入されるものの、いずれE253系あずさ/かいじも置き換えが予定されています。振り子式のE351系を投入したものの、線路改良が追い付かず、本領を発揮する前に老朽化で退陣となるわけです。加えて車体傾斜システムの成熟で要求性能を満たせるということもあるのでしょう。
こういう現実に直面する中で、社員のモチベーションを維持するのは困難を極めます。実際、発足当時こそ新型車の投入やスピードアップに熱心だったものの、株式上場どころじゃない現実の中で、経営陣も目標を見失ったものと考えられます。とにかく本業の鉄道業は赤字で、経営安定基金の運用益で辛うじて最終黒字という構図で、しかも鉄道・運輸機構による運用益の利子補給で事実上の補助金を得ている状況では、経営陣も本業の鉄道業への情熱を失い、黒字確保を目的に関連事業に傾斜する結果、ますます鉄道の現場は主流組合の北鉄労に丸投げされる一方、必要な資材や人員は不足がちですということですね。そんな中で札幌のJRタワーが建設されたわけです。もはや経営形態を見直す段階にあると言えます。
それもかなり思い切った方法を考える必要があります。輸送実態がら言えば、札幌都市圏以外のローカル輸送は思い切ってバス化して撤退した上で、上下分離でJR貨物と同様に第二種事業者として特急を走らせると言うあたりに落としどころがありそうです。その場合経営安定基金に国と道が追加拠出してJR北海道から線路を買い取り、リースバックするというような方法が考えられます。いわゆる公設民営方式とし、ローカル輸送は地元バス会社との協議で、別会社による鉄道としての運行も選択肢として残しつつ、地域ごとにJR北海道の運営から切り離すといったところでしょうか。その際DMVも選択肢として生かせる可能性があります。ま、現政権でここまで踏み込めるとは思えませんが。
考えてみればトップの不審死(下山事件)、営業列車の火災事故(桜木町事件)、貨物列車の脱線転覆(松川事件)と戦後混乱期と類似の事象が重なっているのが気になります。あと留置車両の無人走行(三鷹事件)で役満だけど。あ、JR東海の名松線(沈黙)。
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