私情の失敗アベノミソッカス
久々の更新ですが、ウクライナ問題で欧米とロシアの対立が起きて、ロシアにいい顔したい日本の立場が微妙になっています。安倍政権の外交力が問われる場面ですが、残念ながら現状はミソッカス状態です。
そもそも不思議なのは、経済的に破綻状態と言えるウクライナを巡るロシアとEUのせめぎ合いに何の意味があるのかということです。シリアの場合は曲がりなりにも石油権益のある資源国ですし、ムスリムの少数派アラウィ派による少数派統治で政情不安定で、それゆえイスラエルの強硬派を刺激する結果、パレスチナ和平にも影響するなどの状況があるわけで、国際政治上重要であることは明らかですが、ロシアがら供給されている天然ガスの代金も滞り、値引きしてもらっている状況で、国内に有力な産業があるわけでもない農業国で、チェルノブイリを抱えるなどで、仮に将来EUに加盟するとしても第二のギリシャになりかねないし、そもそもそのギリシャショックで厳しくなった加盟条件をクリアできるとも思えません。
加えて今回の政変劇はいろいろ問題含みです。失脚したヤヌコビッチ大統領が問題のあるリーダーであることは間違いないですが、収監から解放されたティモシェンコ元首相も大概です。そもそも自陣営だけでは単独過半数も取れず、反共ナチ礼賛の極右勢力の助けで政権を得た人物です。今回の政変でも極右勢力の陰がちらついています。そもそも欧州各国では流石に勢力を維持できない極右勢力が、政情不安のウクライナを狙い撃ちしたとも言われいています。シリア内戦でも反政府勢力にアルカイダ系が紛れ込んでいることで、アメリカが軍事行動を自重したとも言われますが、ウクライナでも厄介な政治勢力に味方する可能性があるということですね。
で、シリア関連でアメリカが軍事介入をしなかったことでロシアに足許を見られているという分析がありますが、シリアの化学兵器廃棄プロセス自体は以前からアメリカが提案しロシアが拒否する流れで来ていたわけですから、結果的にロシアの提案で実現し、不十分ながら和平プロセスが前進したのですから、アメリカ側から見ても悪くない展開です。
むしろこうしたプロセスで米ロ両国リーダーが当事者として関与した下地があればこそ、ウクライナ問題での電話会談でのやり取りも可能だったんでしょう。北方領土問題でロシアの顔色を伺う日本のリーダーとは大違いです。オバマ大統領との電話会談でも日米両政府の公式見解に食い違いがありますが、要するに安倍首相は一方的に聞き役に回っただけと見ることができます。そもそも靖国参拝で信用が地に落ちているわけですし、だからプーチン大統領に直接電話せずに谷内国家安全保障局長のロシア派遣でお茶を濁すしかないわけです。これで北方領土交渉をプーチンとやるつもりという冗談のような話です。嗚呼ミソッカス。
というわけで、ウクライナ情勢はいずれ着地点が明らかになると思いますが、いわゆる新興国の政治リスクというのは、ある程度一般化しておく必要がありそうです。中進国のジレンマと呼ばれる状況ですが、政治的に不安定だったり、安定していても腐敗していたりで、先進国になり切れないで停滞するというのは、過去にも多くの国が陥りました。典型的なのがアルゼンチンですが、畜産大国として繁栄を謳歌したものの、イギリスの凋落とアメリカの台頭の中で政治の腐敗で産業構造の見直しができず、工業化で後れを取ります。先日のアルゼンチンショックのように、今や真っ先に経済が変調する国になりました。
尤も新興国は国によって状況が異なりますので注意が必要です。中進国のジレンマでよく中国が引き合いに出されますが、その中国が今国を挙げて政治の腐敗一掃に取り組んでいることは、あまり報じられません。中国当局は日本で考えられている以上に、現状では成長が続かないことを認識しています。円安になっても日本の輸出が伸びず、貿易黒字が定着し、直近では経常赤字に転落した日本ですが、メディアで報じられるのは、中国の経済変調が原因というものですが、よくもまあ大嘘をと思います。確かに対中貿易が縮小傾向にあるのですが、同じ時期に米欧韓各国は対中貿易を拡大しています。早い話が尖閣問題で縮小に転じた対日貿易の穴を埋めているので、特にドイツの躍進ぶりは目を見張ります。
そもそも中国は人口大国で、内需が巨大な上、工業化で中間所得層の台頭が顕著に見られます。ところが中国に進出する多くの日本企業が賃金の上昇を憂いているのですから、そもそも工業化の意味を理解していないと言わざるを得ません。工業化は国民の所得の向上を通じて消費市場が拡大することで成長するのであって、やっと中国がその段階に差し掛かったところでドイツなどに市場を明け渡すということをやっているわけです。
生産年齢人口の減少が続く日本にとって、中国の工業化の果実を取り込めないのは、みすみす成長機会を逃すことになるのですがね。ま、国内でも消費税率アップで108/105でインフレ率近似で2.85%が確定しているのに、業績好調な大企業でもベースアップ2,000円台で1%程度の攻防って、賃上げ率がインフレ率に追いついていないのに得意顔って違うだろって話ですが、自国民の従業員に対してもこの態度ですから、グローバル経済で日本企業が生き残るのは困難と言うべきでしょう。
あまり言われませんがTPPの交渉不調も、アメリカの日本に対する厳しい見方を助長しています。安倍政権ではいわゆる重点五項目と称して、関税撤廃の例外扱いを勝ち取ろうとしていたわけですが、アメリカが求めたのは関税と共に非関税障壁の撤廃まで睨んでいるのですから、交渉がまとまるわけがありません。それどころか関税撤廃はアメリカ以外の交渉参加国からも求められております。言ってみれば浮いた存在になっていて合意を遠ざけていると見られているわけです。それにそもそも消費税率アップは輸出還付金と併せ技で非関税障壁となりますので、消費税率アップとTPP交渉参加は相反する政策ですが、政府にその認識はなさそうです。だから交渉参加なんかやめとけと言ってたのに。
で、長くなりましたが取り上げたいニュースはこちらです。
JR北海道社長に島田氏 総務・営業畑 グループ会社から復帰 :日本経済新聞結局JR北海道はトップ人事をいじるだけで、当面現状維持となりました。しかもトップに指名された島田氏は労務管理のエキスパートで、労組への締め付けで嫌われて関連会社に出された人物です。これでJR北海道が課あける問題を解決できると考えているとすれば、政府はあまりに浅はかです。問題は人口減少で運賃収入が減っている一方で、それ以上にコスト削減にまい進した結果、削るべきでないコストまで削ってしまったわけで、それを補う資本増強や上下分離などの支援策なしにはいずれ立ち行かなくなります。これ福島の汚染水漏れを「アンダーコントロール」と言ってのけたのと同じで、気休めにもならないし、むしろ状況は悪化すると断言できます。
リーダーの私情の失敗は明らかです。市場の失敗は売り手と買い手の情報格差に由来する情報の非対称が原因ですが、私情の失敗はリーダーの思い込みの視野狭窄による情報の非対称ってことですね。
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Comments
どっちにしろ、クリミア半島を占領したという事実は揺るぎがないわけで、「北方領土交渉」も
現実にはロシアがずっと占領しているわけで似たようなものですが、どっちもたいして差がありませんよ。
ま、アメリカが本音では尖閣なんかどうでもいいように、日本も本音ではウクライナもクリミアもどうでもいいわけで。
メディアが騒いでるのがどうであれ、「赤字に転落(アメリカは網ずっと前から「転落」しているが、そもそも貿易と言うのは金額でみればゼロサムである)」したのは、実は輸出が増えなかった
のが問題ではなくて輸入が増えたからで、第一が原発が止まった燃料代、第二が特に弱電、デジタル家電の競争力喪失と、元から中国で作って日本に輸入してるものが多かったからですね。
だからそもそも「対中貿易が縮小」なんてしてませんから無意味です
中国については、元から安い賃金目当てなのだから賃金が高くなれば撤退するのは当然でしょう。
そういう業種企業なんだから今更それを批判するなら、賃金が安いからと言って(日本など先進国ではなく)進出した時点を持って批判しなくてはなりません
所得が高くなることによって発展する業種は残るか進出するでしょうが
>日米両政府の公式見解に食い違いがありますが、要するに安倍首相は一方的に聞き役に回っただけと見ることができます
それはあなたの思い込みでしょう。
まあ同じだったらいいなりとか言うんじゃないでしょうか。
TPP云々も同じこと。
JR北海道は、経営安定基金の補給金を受ければという但し書きですが資金はあります。
やはりまず経営体質でしょう。
後そもそも、この手のリーダーが云々言説は
一つは何でもかんでもリーダーのせいにすること
もうひとつはリーダーさえ素晴らしければ何とかなると言う幻想
この両方を助長すると思いますよ
Posted by: ando | Monday, March 17, 2014 05:13 AM
えーと、貿易収支に限定して申し上げます。輸入の増加は、金額面では大きいものの、巷間言われる原発停止による燃料輸入に限っては、数量は増えておりません。金額が増えたのは為替が円安に振れたからです。事実認識が間違っている以上、何の反証にもなっておりませんね。
というわけで、顔洗って出直してください。
Posted by: 走ルンです | Monday, March 17, 2014 10:05 PM
増えてますって。現実を直視しましょうよ
>為替が円安に振れたからです
そりゃ円安に振れれば輸入している燃料が円換算で高くなりますが、そもそも原発があれば輸入しなくて済んだ燃料です。
だから原発が止まったせいと言って差し支えない
止まったのは去年じゃないから直接はそれだ
と限定していうならばそれについては間違ってませんが、それを言うなら原発以外の要因も全て去年一気にそうなったわけではありませんしね。
Posted by: ando | Tuesday, March 18, 2014 01:34 AM
そもそも、貿易収支の、それも話の一部の燃料代しか指摘しないということはそれ以外はいうことはないのでしょうか?
貿易収支のところだけ読んでも、燃料以外の輸入の増加についても言及してるんですけど…
特に中国からの輸入が増えてるので対中貿易は縮小してないですよと言う話は本文に密接にかかわってくるのですけど
「数量が(前年に比べて)増えていない」のは原発が止まったのが13年ではないためにすぎませんし、「円安に振れた」と言っても、それ以前の円高の時代がわずかに戻っただけです
(無論原発が動いている時代でも燃料は輸入していたので円安になれば増えるでしょうが)
Posted by: ando | Tuesday, March 18, 2014 02:45 AM
貴方が言う現実とやらの根拠がわからないので、どうお答えすべきかわかりません。
石油やガスはどの化石燃料の輸入に関しては、201年と2012年の比較で0.6%のプラスですが、円建て輸入金額では4割程度のプラスと、数量と金額の傾向がはっきりかい離しています。
2010年と2012年というのは、原発の停止の影響を見る上でわかりやすいサンプルです。もちろん石油や天然ガスなど中身の問題はあります。
石油は非発電の燃料用途で元々減少傾向ですすから、天然ガスが増えているという指摘ならばあり得ますが、少なくとも原発停止による燃料輸入増で貿易赤字という説明は成り立たないと言えます。
ご指摘のもしも原発が動いていたらという想定も無意味です。現実は大飯3・4号機を例外として全停止だったわけで、理由は電力消費量そのものが減っていることが挙げられます。ぶっちゃけ電力料金が上がった結果、需要の価格弾力性が働いたというのが、無理のない説明でしょう。料金といっても認可対象の基本料金や従量料金に留まらず、燃油費調整額や固定価格買い取り制度(FIT)に基づく再エネ発電賦課金等でユーザー負担が増えた結果、電力消費が手控えられたってことです。
原発が稼働していれば必要なかった燃料輸入は3.6兆円あるという議論もありますが、夜間電力対策が必要な原発の発電量がそのまま波力発電の燃料費削減につながるわけではありませんから、机上の空論です。
というわけで、貴方が言う現実とやらの根拠をザックリとでも示していただかないと、有効な議論にはなりません。それを無視した対応をされるなら、スパムと見なして対応いたしますので、悪しからずご了承ください。
Posted by: 走ルンです | Wednesday, March 19, 2014 09:58 PM