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Monday, March 17, 2014

原始マネーと電子マネー

太平洋ミクロネシアのヤップ島ではフェイという現役の石貨が使われておりますが、大小さまざまな円盤状の石の真ん中に穴が開いているもので、大きさか30㎝から3m程度まであり、最大のものは重さ5tにもなります。真ん中の穴は棒を差し込んで担げるようにということのようですが、実際は携帯性はほとんどなく、動かすことなく所有者がどんどん変わるという形で流通しているそうです。

そんな風ですから日用品の売買に使われるわけではなく、婚姻などの慶事にやり取りされる儀礼的なもののようですが、島民にとっては重要な価値交換のツールということが言えます。経済史的には古代の贈与経済に類似した形態ですが、お金の原点とも言うべき原始マネーが現役というところに、世界の広さを実感します。

で、面白いのは筏で運搬中に時化に遭って海中に沈んだ石貨があるんですが、クレーン船で釣り上げるわけにもいかず、海底にあるものとして所有権の移転が滞りなく行われているというのですから不思議ですね。これはもはや物理的実体そのものがあると仮定されているだけとも言え、通貨の原点というものをよく示しています。物理的には無価値であっても、社会的に価値が信用として共有されていれば、通貨として機能するってことです。

これ実は先進国も似たようなことやってまして、かつてのブレトンウッズ体制で米ドルが金本位制だった時代、フランス政府の要請で米ニューヨーク連銀の地下金庫に保有する金を払い出すときに、敢えて金を移動させず、払い出しと同時にフランス政府から米ニューヨーク連銀への預託の手続きが取られており、海底の石貨と同じことやってたわけです。ましてニクソンショックで金交換を停止された米ドルです。金本位制ならば金という物理的実体に紐付けされていたものが、単なる紙切れになり、口座決済の場合は古くは紙台帳だったものが電子化され、単なる電気信号になっているわけですから、その物理的実体はますますあいまいです。

というわけで、通貨は社会的に共有された信用とでも定義するしかない存在という意味で、太古の昔とさほど変わっていないということが言えそうです。少なくとも社会の成員の間では価値あるものと見なされているというわけです。もちろん社会制度としては歴史を踏んで洗練されてきており、政府から独立した中央銀行に通貨発行権を集中させるというのが、現時点での世界標準的な制度ですが、政治の圧力に対して中立とは言えず、FRBが資金供給量をほんの少し調整しただけで、世界が混乱する現実を私たちは目の当たりにしているわけです。

そんな欠陥だらけの通貨システムですが、人類が交換を始め、経済を発展させていく上で、重要な役割を担っていることもまた確かです。通貨の機能は大きく3つあり、決済手段、価値尺度、価値保存の3つですが、経済を機能させるためにはいずれも欠かせないものです。

決済機能というのは、通貨と財やサービスとの交換を意味します。代金を支払って品物を受け取るというごく日常的に繰り返される事柄ですが、そのためには支払われる通貨を受け取る側が価値を認める必要があります。その価値というのは、受け取った売り手が買い手に変わって別の売り手から相応の価値のあるものと交換できるという前提が必要です。つまり通貨は物々交換を媒介する存在ということになります。

同時に物々交換だと、各品目ごとの交換レートの関連付けが事実上不可能で、力関係や口上で左右されることになり、スムーズな交換を阻害しますが、通貨を媒介させることで、物の価値を通貨単位で表せるようになり、そのことが交換を促進するわけです。いわゆる交換価値とか価格とか言われるもので、通貨単位で物の価値を表象するのが価値尺度という機能になります。

あと価値の保存ですが、直感的に最も分かりにくい機能です。要は受け取ったお金は直ぐに使わずに貯めることができるということですが、通貨が交換のツールであるという点からすれば、この価値保存は受け取ったお金を直ぐに使わずに将来に備えるという意味になります。つまり目先の我慢を強いることになるわけですが、それを可能にするためには、2つの条件が必要です。

1つはその目先の我慢がその人の当面の生存に影響しないこと、言い換えれば得られる通貨が生存レベルより多いことということになります。もう1つは我慢の結果、将来により大きな満足が得られるということですが、これは今の満足と将来の満足の時間軸を置いての異時点間の価値交換ということになりますが、そのためにはそれを促進するインセンティブが必要になります。それが金利として定義されます。言い換えれば余剰資金を目先の満足のためでなく将来のより大きな満足のために用いるということで、ここにこそ資本主義の基本原理があるわけです。つまり貯蓄が投資に回ってそのリターンで経済が拡大し成長するという循環になるわけです。よく言われる「貯蓄から投資へ」は無意味です。なぜなら実際は貯蓄=投資なんですから。

という点を踏まえて、日本の異次元緩和や米FRBのQE3やECBの緩和策の結果、先進諸国はどこも低金利のわなに陥っているわけですが、これはとりもなおさず資本主義の低体温症とでも言うべき深刻な事態だということが言えます。余剰資金である貯蓄に見合う適切な投資が見当たらず、日本で言えば経済効果が見込めない公共投資で生産性をむしろ下げているというのが実情です。そのため投資資金は新興国へ向かう流れとなるわけですが、こうして見ると、国内産業の空洞化は新興国の台頭でもたらされたのではなく、先進国の国内事情でもたらされたと言えるわけです。

というわけで前置きが長くなりましたが、本題は原始マネーではなく電子マネーの話です。2007年はPASMOスタートの年で、nanacoやwaonなどの流通系電子マネーも産声を上げたことから「電子マネー元年」と言われて早7年ですが、同じFelicaシステムを用いながらシステムが乱立している現状がSONYの戦略不在の結果であると以前指摘いたしました。その後交通系カードに関しては共通化が進んだとはいえ、まだ不完全なままです。

そして消費税絡みで1円単位の運賃が認可され、4月から実行されますが、これも対応がバラバラで、JR東日本は山手線内と電車特定区間に限ってICカード運賃<磁気券運賃としたものの、幹線運賃と地方交通線運賃はJR東海とJR西日本と共通化という縛りがあって、区間によって磁気券の方が安いケースも出ており、JR東日本は地図式運賃表にICと磁気券の価格の大小関係を示す表を掲示して案内するとしておりますが、トラブルが起きそうですね。

以前にも指摘しましたが、ICカード乗車券は鉄道営業規則上は乗車券という扱いで、制度上の制約が多い一方、着映画明示されていないことを理由に振替輸送の対象外とされるなど、便利なようで不便な存在と化しています。で、消費税も5%→8%→10%と2段階で上げられることが、今回の措置を生んでいるわけですが、同じJRでも西日本では磁気券の割引切符が多数存在することで、ICカードの普及が進んでいないことがありますし、JR東海はそもそも電車特定区間運賃がないということで、同じJRで判断が分かれた理由です。とはいえ民営化から早四半世紀を経て、未だに民営化当時の枠組みを維持しなければならないというのも変な話です。無理な相談かもしれませんが、JR東日本には、リーディングカンパニーとして現状を変える大胆な運賃政策を打ち出してほしかったという思いを拭えません。1円単位運賃は結局現状維持の事なかれ主義の結果でしかありません。

ま、具体的には法改正が必要な事柄なんですが、現状の総括原価方式の認可上限運賃制度や運賃計算の根拠となる3年平均のレートベースという計算方法や、明示されていませんが、総括原算出の標準報酬率(2%?)といい、JR旅客会社、大手私鉄、大都市地下鉄などの恣意的グループによるヤードスティック規制など、既にほころびが見える現状を何とかしたいところです。

例えば認可運賃は基本賃率のみを定め、運賃区界や具体的な運賃額を殉難に決められるようにするだけでも、いろいろなことができます。現行の運賃水準では存続が困難な地方ローカル線、例えば廃止が決まった岩泉線などは、龍泉洞観光ツアー付帯の体験乗車主体という実態から、高めの特別運賃を収受するとか、大都市圏でも混雑緩和のための設備投資が必要な線区や区間に運賃を上乗せするとかしつつ、全社で基本賃率を上回らないようにするという形で運賃に柔軟性を持たせることができれば、積極的な輸送改善がやりやすくなります。現状は人口減少による自然減が頼りですから、改善が進まないわけです。

で、ヤードスティック規制も意味があるのかどうか。むしろ同じ地域の輸送を分担する複数の事業者で共通運賃を制度化する方が、より効率化のインセンティブが働くのではないかと思います。ヤードスティック規制は同一グループの事業者の平均値をベースに優秀な事業者には超過利潤を認め、平均以下の落ちこぼれ事業者を締め付ける制度ですが、グルーピングが恣意的で、特に落ちこぼれ事業者の改善は期待薄ですので、むしろ欧州などで一般化している運輸連合方式を制度化して客観基準でプール精算する方が合理的です。特に首都圏はICカード乗車券の普及が進んでおり、いわゆるビッグデータが得られるわけですから、事業者間の収益配分は昔より容易なはずです。東京都も地下鉄一元化よりも共通運賃の制度化こそ取り組んで欲しいですね。

とまあ電子マネーと言いつつ鉄ちゃんの性でIC乗車券に偏った話になっておりますが、そもそもFelicaも世界標準になりそこなっており、GoogleはNFC規格を決済システムに導入しFelica外し?と言える動きをしています。NFC自体は決済に留まらずWihiやBluetoothと並ぶデバイス間通信も想定しているようですが、SONYが迷走している間に事態は動いているわけです。

あとSNSやGPSと連動して特定の場所に反応するチェックインシステムやゲームなどの有償ポイント交換などの疑似決済システムは多数提案されており、未だにデファクトスタンダードが確定していない状況ですが、下手するとFelicaシステムがガラパゴス化なんて事態もあり得ます。何しろ日本国内ですらシステムの統一ができていないんですから。

で、もう1つ、最近話題となった電子マネーといえばビットコインですが、ICカードなどはあくまでも現金をチャージして使うもので、一部ポストペイのものもありますが、そちらは簡易クレジットカードといった性格ですが、いずれもリアルマネーと紐付けされた決済システムですが、ビットコインやそうした紐付けがなく、ネットの公開鍵と対応する秘密鍵を組み合わせた暗号技術によって生み出された通貨という意味で特殊です。日銀の黒田総裁は「「通貨に非ず」と明言し、政府もそれを追認している格好ですが、冒頭の原始マネーのことを思い出していただきたいんですが、ぶつっり的実体としての価値はどうあれ、社会的に信用を共有されていれば通貨としての要件は備えていると言えるので、「通貨に非ず」は正しくないということになります。

というか、政府にとっては困った存在なんですが、ビットコインはP2Pテクノロジーを用いて有志メンバーによってブロックチェーンと呼ばれる取引記録が維持管理される仕組みです。そしてメンバーには暗号式を解いて、それを他のメンバー全員が追認することでビットコインが与えられる仕組みで、これをマイニング(発掘)と称して、システムの維持を動機付けるとともに、マイニングが進むごとに暗号式の難易度が上がり、且つ上限が定められていることで、金に似た希少性を持たせているという意味で、金のような存在という意味で「通貨に非ず」ということなんでしょうけど、金は事実上通貨として機能していることはご存じのとおりで、少なくとも価値尺度としての機能は疑いの余地はないところです。いわゆる金貨は少数派で決済機能は限定的ですし、金利も付きませんが、化学的に安定していて酸などで解けないなど保存性の良さから「有事の金」という言われ方もしたりします。そういう点から言えば、ビットコインは国境を越えた決済手段として、高額な為替手数料が不要という特性を持ち、且つ金融機関の営業日や営業時間にも制約されないなどの特長があり、決済に特化した通貨という意味では究極の電子マネーと言えます。

とはいえ大手取引所のマウントゴックスが破綻したではないかと言われますが、あくまでも破綻したのはマウントゴックスであってビットコインではないということは押さえておくべきです。このマウントゴックスがずさんな会社だというのは以前から噂されていて、特にシステムの弱さからハッキングは起こるべくして起きたというべきでしょう。こんな報道があります。

マウント・ゴックス、既存の決済システムに依存 | ロイター | 東洋経済オンライン | 新世代リーダーのためのビジネスサイト
マウントゴックス社が大手銀行のネットバンキングのシステムに依存しながら取引所を運営してきたこと、その大手行3行中2行は日本のメガバンクで、欧米の大銀行は当局の規制強化を睨んで手を出さなかった中で、しかもマウントゴックスは金融庁にいちいち合法か否かの照会をしていたということですから、ずさんな運営を日本の金融当局が認めていたということで、こうなると政府の「通貨に非ず」という見解は責任取らずに逃げているということを意味します。

希少性を担保にネット上の決済システムに特化したビットコインですが、当然リアルマネーとの紐付けは、信用の裏付けとして重要なんですが、その重要な取引所が簡単にハッキングされるようなお粗末な存在で尚且つ日本の当局が消極的ながらお墨付きを与えていたという点は問題です。しかも顧客の預かり資産の分別管理すら行われていなかった疑いがあるというのは致命的で、少なくともこれを放置したとすれば金融庁の責任は主といえます。ま、よくわからないものに対する事なかれ主義の果てなんでしょうけど、日本の官僚機構の劣化は極まれりというところでしょうか。ま、ハッキングされたことで、ビットコインに価値があることが証明されたとは言えますが(笑)。

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