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Sunday, March 23, 2014

相鉄スト報道で官製ベア礼賛とスト批判のメディア

日本のメディアのおかしさが露出した話題です。久々の春闘ベアラッシュ報道の半面、労働者の権利であるストライキに対しては否定報道のオンパレード。4月からの消費税増税で景気を腰折れさせないためには賃上げが必要と、政府が異例の賃上げ要請しているわけですから、政府の提灯持ちはしても、労働者に寄り添う気はさらさらなしというわけですね。

相鉄のストに関しては、以前取り上げたことがありますが、大手私鉄の仲間入りを果たしたものの、沿線人口の減少が止まらず、持株会社化とリストラで経営立て直しに向かう相鉄の問題点は当時と変わりません。報道ではストが振替輸送の対象外と知って激高する乗客などが取り上げられておりますが、全体としては意外に冷静な受け止めがされ、逆に相鉄労組への同情の声もありますので、報道の偏りぶりが際立ちます。

そもそもスト権は、団結権、団交権と並ぶ労働三権と呼ばれる労働者の権利ですが、それぞれ独立した権利ではなく、労働者単独では会社側と対峙するときに同等とはとても言えない弱者であることが前提です。単独では弱いから仲間を集めて組合を作り、その組合が会社と対峙して交渉を行い、賃金その他の労働者の待遇を決めていくわけですが、それでも対等とは言い難いので、組合はストを通告し、会社側に団体交渉で問題解決を迫るという構図ですから、相互に関連しています。

またストは単なる労働の放棄ではなく、スト期間中は賃金もカットされますので、組合が日当を支給するわけで、組合側にとってはかなりの負担になります。また実施ルールも厳格に決められており、特に今回のように統一ストではなく個別的なストの場合、他社との直通運転や連絡運輸などに関しても取り決めがありますので、会社側のみならず労組側にも大きな負担があります。逆に言えばそこまでしないと団体交渉で会社側から誠意ある回答を引き出すのが難しい場合にストが通告されるといえます。ストを打つ労総側以上に、会社側の対応次第でストは回避可能ですし、昨今はスト決行前に妥結して回避ということが多くなっております。今回のようなスト突入は断交不調で時間切れという構図です。

私の学生時代などはストは年中行事で、ストで学校が休みになると楽しみにしていて、朝起きたら妥結していてガッカリ^_^;なんてことも度々ありました。またどうしても休めない会社では、貸布団を手配して社員を会社に泊めたり、社用車で個別送迎したりして業務に支障が出ないようにしたりもしておりました。震災などの災害で注目される業務継続計画(BCP)ですが、かつては普通にストに備えていました。こういった精神論ではない具体策はむしろ昔の方ができていたのかも。BCPも災害のみならず育児休暇を含む長期休暇の取りやすさという観点から見ると、改めて日本のダメな雇用慣行を思い知らされます。

今の人は昔に比べてストに慣れていないのですから、逆にこういう時こそメディアは正確な情報を伝えるべきかと思いますが、実際は冒頭の通りで、ストを打った労組を悪者にする偏った姿勢です。

あと日本固有の問題として、企業内組合の限界という点もあります。そもそも日本で労働組合と呼ばれているのは、欧米で言えば労使協議会に相当するもので、本来は産業別、職能別に組織された労働組合が、中央交渉で決めた待遇を、個別企業や職域に適用するために設けられる協議機関に過ぎないものです。それに労働三権を付与する日本の労組はそもそも奇形ですが、それが典型的に表れるのが公務員なわけで、労働三権が制限され、政治活動も建前上禁止されています。

故に労組はそもそも会社外の組織であり、組合活動は会社の勤務時間外に会社施設以外の場所で行われるのが普通ですが、日本では会社側が社外勢力との対峙を嫌って認めなかった一方、戦後のGHQの占領政策で、過激化する労働運動を抑え込むために認めた妥協の産物が日本の企業内組合というわけで、企業内にありながら、勤務時間外や会社外での活動など本来は産業別組合だから妥当な制約を課しているわけです。

さらに企業内組合の団結力を会社の求心力に利用して忠誠心を鼓舞したり、過激な組合をけん制するために穏健な第二組合をでっち上げて組合を無力化したりということが散々行われてきました。で、労組幹部には管理職予備軍の若手が起用され、組合で組織運営を経験することがキャリアパスとなるわけですが、よく考えると、組合の専従者は人事部付の辞令を受けて組合費から給料を受け取るわけで、会社にとっては社員が拠出する組合費を利用して幹部候補社員を育成していたとも言えるわけで、どこまでも会社に都合の良い仕組みでした。それでも高度経済成長で成長の果実を賃上げなどで労働者に配分することができたので、それなりに機能してきたのですが、バブルが崩壊し、生産年齢人口が減少へ転じた90年代を境に、この仕組みは持続できなくなります。

90年代のリストラと採用手控えにゼロ年代の雇用の非正規化で、正規雇用者中心の日本の労組は組織率20%まで低下して存在感が低下しており、今回の官製ベアではまんまと乗せられて存在感をさらに低下させています。労組の名誉のために1つだけ指摘しておきますと、連合傘下の最大単産労組で小売りや外食でバイトやパートも一部ながら組織するUAゼンセン同盟が、小売りや外食の企業トップと会談を重ね、業界で多い非正規労働者の賃上げに奔走したことは評価すべきでしょう。実態は元々賃金水準が低い業界で若年人口の減少で求人難のため、賃上げしないと人が集まらない現実に背中を押された結果とはいえ、地道に成果を上げたとはいえます。

で、相鉄の問題に戻りますが、そもそも日本の制度では持株会社化はガバナンス上問題があることは度々指摘してきました。具体的には会社法で経営に責任を負う取締役の背任などの責任追及が、日本では子会社の取締役までは届かないという問題があります。相鉄の場合持株会社移行時点では一部バス事業を抱える事業持株会社でしたが、結局相鉄HDに残ったバス部門も子会社の相鉄バスに移管され、HD所属の乗務員は相鉄バスへ出向させられているのが現状です。相鉄HDはその結果時純粋持ち株会社となり、事業部門の幹部は訴訟リスクを回避できる体制になりました。その中で相鉄労組は組織を割らずに団結を維持してきたわけで、その努力には敬意を表したいと思います。

バス部門の分社化は相鉄だけの問題ではないのですが、相鉄ではバス部門の大規模リストラとセットで進められている点に特徴があります。相鉄のバス部門は鉄道と連携して駅と沿線の団地を結ぶ路線が中心で、特に旭区で顕著ですが、開発時期が早かったこともあり、人口の高齢化と流出で利用減に歯止めがかからず、事業の縮小を余儀なくされております。今回のストはそういったバス事業への支援の意味があるわけです。

相鉄HD自身は都心直結プロジェクトで沿線価値を高めることに活路を見出そうとしているようですが、横浜市の横やりでJRのみならず東急東横線との直通まで背負い込んで事業費を膨張させてしまった上、頼みのJR直通も貨物幹線の東海道貨物線で工事間合いの確保が進まず、工事が遅れていて計画に狂いが生じております。加えて横浜駅西口の大地主でもある相鉄HDですが、東口の再開発が進んで地盤沈下している現状は簡単に解消せず、相鉄ムービルの東急グループへの転売を余儀なくされるなど、厳しい状況は続きます。

同じようなバス分社でも、例えば京王バスでは分社で雇用条件を見直した一方、既存路線の増発や東急バスの一部路線の移管を受けたり、自治体のコミュニティバスの運行を受託したりして規模拡大を図っているわけで、相鉄の場合とは趣が異なります。新会社の社員定着率が悪いなど是非はありますが、攻めの分社化ではあるわけで、規模縮小一辺倒の相鉄とは異なります。

それと今、先日の宮城交通の夜行高速バス事故で露呈したように、バス乗務員の求人難が深刻化しており、危険なのは旧ツアーバスばかりではないことが明らかになりました。一応乗務体制の基準は満たしていはいたものの、人手不足で勤務体制に無理があったようです。かつては高給取りだったバス乗務員が、今は不人気で人が集まらないという現実があります。大型二種免許所持者でも、」接客で高度なコミュニケーション能力を求められるバス乗務員はきつい仕事と認識されるようになり、震災復興や公共事業でダンプに乗り換えたり、ネット通販の拡大で物流トラックに乗り換えたりする人が増えているそうです。宮城交通の場合、傘下のミヤコ―バスによるJRのBRT運行受託の影響もあるのかもしれません。今のままでは乗務員の確保がネックとなってバス事業が立ち行かなくなる可能性もあり、そういった文脈からバス事業に拘る相鉄労組の姿勢は評価されて良いのではないかと思います。

上述のUAゼンセン同盟の地味なパート労働者の待遇改善活動のようなことが、バス事業でも必要ではないかと思います。それが地域の日常の足の維持に資するものとなることを期待して終わりたいと思います。

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