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Sunday, April 20, 2014

ホントは怖い人口問題

これまで何度も取り上げてまいりましたが、現状を見るとその本当の恐ろしさに気づいていないか、あるいはわざと見ないふりしているのかわかりませんが、めまいを禁じ得ません。少し基本的なところからおさらいします。まずはこのニュース。

生産人口、32年ぶり8000万人割れ 65歳以上25%超す  :日本経済新聞
人口の突出して多い団塊世代(1947-1949生まれ)が全数65歳以上の高齢者になる今年も同じぐらい減りますから、短期的に生産年齢人口の減少を止める手立てはありません。生産年齢人口の減少は、供給サイドから見れば、労働力の投入量の減少となるわけですから、生産の減少となるわけで。直接的にGDPを押し下げるわけですが、ことはそう単純ではありません。

労働市場が健全に機能するならば、労働力に希少性が生じるわけですから、賃金の上昇をもたらし、その副次的効果として省力化投資が活発になり、結果的に労働生産性の向上で消費も投資も活性化されていくはずです。加えて90年代にブレークしたIT革命はそれを確実に後押ししたはずですが、日本で起きたことは全く異なります。欧米の多くの国ではこうなったんですけどね。

逆に欧米が失敗したのが移民政策です。多くの国で受け入れたものの、低賃金の非熟練労働中心で、国内で貧富の差を拡大し、治安の悪化をもたらしたり、移民の定住で社会保障負担をむしろ拡大したり、政治的な排斥運動をもたらしました。あと忘れてはならないのがアメリカのサブプライムローン問題であり、住宅バブルの崩壊の影響は未だに続きます。まして日本の急激な生産年齢人口の減少に対応するためには、1千万人規模の移民受け入れという、どう見ても日本社会に大きなストレスをもたらす規模が必要で、ヘイトスピーチ問題を抱える日本では現実的に無理でしょう。

日本固有の問題として、80年代の不動産バブルとその崩壊があります。その結果、日本企業は債務、設備、雇用の3つの過剰を抱え、長期低迷に陥ります。それでも90年代前半には調整が進まず、生産年齢人口の増加も年功序列を前提とする長期雇用の中で、企業体力を蝕みました。そのため生産年齢人口がピークアウトした90年代後半になってやっと雇用調整というタイミングのずれがあり、就職氷河期や高齢者失業などの問題を引き起こします。その結果完全雇用状態が崩壊し、上述のような賃金の上昇は起こらなかったわけです。またそれに留まらず過剰設備故に省力化投資が進まず、IT化に後れを取る結果となります。

90年代には山一や拓銀などの破綻をきっかけに金融危機が起きるわけですが、その原因となる不良債権の解消は進まず、大手行の合従連衡によるメガバンク形成と、りそななど一部銀行の一時国有化で何とか凌いだのですが、その過程で産業再生機構のような官製ファンドの助けを借りてダイエーやカネボウなど多くの企業が整理されました。不良債権の反対側には企業の過剰債務があるわけで、それは過剰設備と過剰雇用を抱えて思考停止状態だったもので、損切りが必要だったのですが、そのやり方は問題でした。

2002-2008年の景気拡大期に製造業で起きたことを見れば、名目GDPが+2.7兆円ですが、固定資本減耗が+1.5兆円に対して雇用者報酬が-1.5兆円で営業余剰が+2.7兆円です。固定資本減耗は企業会計の減価償却費で、設備の維持費とほぼ同義です。つまり過剰設備で維持費が増加したわけですが、その調整を雇用で行い、企業利益を最大化したわけです。ベアゼロ春闘や非正規雇用の拡大で調整されたわけですが、その結果家計の購買力が低下する一方、過剰設備故に生産は減らないから、物が売れないで、値下げを余儀なくされます。これがいわゆるデフレと呼ばれる現象ですね。貨幣現象などではないわけです。

かようにバブルの後始末は長く経済を停滞させるわけですが、その対策として毎年税収を上回る財政出動で赤字が拡大し、財政を圧迫しているわけですが、その結果国内の生産水準に見合わないレベルの公的固定資本を抱え込むことになってしまいました。企業も設備過剰で生産の拡大は見込めない中、公的固定資本の拡充は稼働率の低下を意味しますから、それ自体が成長の足を引っ張ります。財政再建のために公共事業を縮小するのは当然のことですが、現実は震災復興や国土強靭化の掛け声の下、拡大に向かっています。しかし国内建設業は構造不況業種として縮小均衡状態だったため、投資も人材育成も進まず、消化不良を起こしているわけです。

結果的に人が集まらないから工事が進まないとか、競争入札が不調で執行が滞ったりしているわけで、育成に10年はかかる専門性の高い職人の不足ですから、工事の遅れは避けられないところです。これは当然民間資金の開発事業でも同じで、例えば再上場が決まった西武HDの赤坂の再開発事業なども影響を受けます。その西武のニュースです。

西武HD、公開価格1600円 想定時価総額5470億円、私鉄5番手に  :日本経済新聞
当初の想定価格2,300円では売上1億超の東急の時価総額を上回り、売上7千億弱の西武HDでは無理筋でしたが、議決権の1/3強を握る米投資ファンドのサーベラスが求める2,000円以上も果たせず、結局公開価格は仮条件の下限の1,600円となりました。当然サーベラスは売り抜けを断念せざるを得ないため、長期保有にシフトしています。おそらく西武側は再開発の始まった赤坂や、次なる再開発案件の高輪などをネタにサーベラスを説得したと思いますが、人手不足による工事の遅れや事業費の膨張を考えると、かなり厳しい見通しになりそうです。

この辺の事情は以前のエントリーでも取り上げましたが、西武HDにとって不運なのは株価が低迷していることです。燃料価格の上昇を背景に物価が上昇傾向ですが、ウクライナ危機でロシアへの経済制裁が長期化し燃料高が定着する可能性が高まり、ただでさえ異次元緩和でドル円は円安傾向ですから、このまま資源高によるコストプッシュインフレに移行する可能性があります。しかしそれは政府や日銀が言うデフレ脱却とは程遠いスタグフレーションのような状況になりそうです。こうなると西武HDがサーベラスに示した成長戦略は画に描いた餅になる可能性もあり、またしてもサーベラスとの対立のニュースが流れるかもしれません。

で、同じエントリーでアベノミクス相場と言われる株価と為替の相関にも触れていますが、異次元緩和の効果か為替がこう着する一方、株価は軟調です。いわば日本株の独歩安で、従来のリスクオン相場の相関が崩れた可能性があります。悪い円安で日本企業の将来に疑義が生じたと見ます。そもそも西武HDの再上場問題でも、サーベラスの日本撤退の思惑があったように、所謂海外勢の資金引き揚げ傾向はかなり鮮明です。それを見越してか、麻生財務相のこんな発言が。

財務相、GPIF「成長戦略改定する中で議論されるのが正しい」 :主要金融ニュース :マーケット :日本経済新聞
これで株価がやや持ち直しましたが、これが成長戦略というところに、この政権のショーもなさが集約されています。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、厚生年金と国民年金の積立金約130兆円を運用する最大の投資ファンドですが、国民の預かり金である年金の運用では、安全性こそが重要で、元本保証のある国債投資が適切で、リスク資産である株式への投資は本来ご法度ですが、現状は4.1%という高すぎる利回り目標を課されている結果、指数連動のパッシブ運用で保守的に運用されていますが、それをポートフォリオを見直して株式比率を高め、且つアクティブ運用で高利回りを狙うというのですが、フリーランチ(タダ飯)はないという投資の格言を無視したもので、このタイミングは明らかに90年代の株価PKO再現を狙った口先介入です。ホントお下劣な政治家です。

といった中で、他方こんなニュースです。

北海道と青森県、新幹線高速化へ協議会 沿線自治体も参加  :日本経済新聞
青函トンネル区間の最高速が140㎞/hに制限され、東京―新函館最速4時間10分の発表を受けての協議会設立ですが、何をいまさらです。これ以上JR北海道に負担を強いるわけにはいかないんで、お願いすれば何とかなるという問題ではありません。自治体の対応が見ものです。
フリーゲージトレイン新車両公開 JR九州、長崎導入へ準備  :日本経済新聞
日本ではフリーゲージトレインと和製英語で呼ばれる軌間可変車両(GCT)で、重量問題から無意味と指摘させていただきましたが、炭素繊維を用いて軽量化という技で、どうにか実用化の目途をつけてきましたが、当然高価格になりますし、それでも最高速270㎞/hでもはや九州内以外では走れるところがないという代物です。まして輸送力も小さく、高価で能力が劣るという意味で、投資収益逓減法則そのままです。そこまでして新幹線が欲しいのかい。

GCTに関しては、JR四国でも山陽新幹線への直通とショートカット新線の組み合わせでGCTを活用した四国新幹線の構想を打ち出していますが、JR四国にそんな高い買い物が可能なのかどうか。結局自治体の支援次第ということになりますが、そこまでやれば地域が疲弊することは確実です。まして人手不足で今後の事業化はリスクが高まっているわけですからなおさらです。

というわけで、元々容量に余裕のある地方空港の活用の方が費用や実現までの時間で見て手っ取り早いですし、今後高齢化の進む東京などの大都市とつながることが、必ずしも地域の活性化策にはならなくなるということも見ておく必要があります。春秋航空の合弁による国内就航も決まりましたが、狙いは中国人旅行客の受け皿ということで、中国の20都市以上と成田や関空を結ぶ国際便の設定と併せて国内線で東京以外に日本を売り込もうという戦略です。つまり海外旅行に慣れたリピーターに多様な選択肢を提供するということで、空港を持て余している地方にとってはチャンスです。またこういったニッチな需要を掘り起こすことこそが、日本の残った数少ない成長分野でもあります。いい加減それに気づいてもいいんじゃないの。

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