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Sunday, July 20, 2014

乗っ取られる主権国家

ウクライナ上空を航行中のマレーシア航空機の墜落という痛ましい出来事がありました。マレーシア航空といえば、3月8日のタイ沖で消息を絶った370便が思い起こされ、またかという印象もありますが、今回は陸地への墜落で、遺体や残骸が残っており、おそらく洋上へ墜落したと見られる370便とは様相が異なります。にしても紛争地帯上空を飛ぶ民間機に違和感はあります。

で、ウクライナ東部ドネツク州の親ロシア武装勢力による地対空ミサイルで誤爆されたという見立てでほぼ間違いないでしょう。ただしウクライナ政府やアメリカが言うようなロシア軍のコミットは考えにくいと思います。ロシアは親ロ武装勢力に対しては軍事行動の自粛を求めていましたし、それを条件にウクライナ政府との停戦交渉も行っていたわけですから、親ロ武装勢力へのコミットは、何のメリットももたらしません。

特にアメリカ発の報を無批判に垂れ流す日本のメディアの連中は、ウエストファリア条約を起源とする主権国家についてきちんとした知見を持ってほしいところです。思い出していただきたいのがロシアによるクリミア編入の一連の出来事です。元々ソビエト時代にロシアからウクライナに編入されていて、元々ロシア系住民が多かったクリミアが、ヤヌコビッチ大統領失脚の政変劇に呼応してウクライナから独立を宣言し、それをロシアが承認し、間髪入れずクリミアでロシア編入の是非を問う国民投票が行われ、ロシアに編入されたわけですが、相互承認を本質とする主権国家の枠組みを逸脱してはおりません。

主権国家は他の主権国家から承認を受けて初めて主権国家たりえますし、主権国家同士の合従連衡は元々認められておりますので、クリミアのロシア編入は主権国家同士の合意事項として実行されたわけですし、その際に戦闘行為などの暴力的なプロセスもなかったわけです。むしろNATOが介入したボスニア紛争の方が暴力的で正当性が疑われます。日本の近隣では台湾が独自の施政権を保持しながら、他国の承認が得られないから主権国家とみなされないわけですが、だからといって北京政府による暴力的な併合には国際社会が目を光らせているために、中国も手を出せない現状があるわけです。

その観点から言えば、ドネツク州の親ロ武装勢力がいくら軍事的に実効支配してドネツク人民共和国を名乗っても、現時点でロシアを含む他の主権国家からの承認は得られておりませんので、主権国家ではないわけです。実際ロシアは上記のように軍事行動の自粛を求め、ウクライナ政府と和平プロセスを動かそうとしているわけですから、クリミアのケースとは全く異なります。日本のメディアはここが理解できないか、意図的に無視しているかで、的外れな報道ばかりです。ちなみにイスラム国を宣言したイラクのISISも現時点では主権国家ではないわけです。

というわけで、不幸な出来事ではありますが、マレーシア航空機の誤爆によって、むしろ和平プロセスが進むと考えられます。親ロ武装勢力は国際社会から見放され、ロシアとウクライナの和平交渉はやりやすくなるわけです。少なくともウクライナに関しては、ロシアはかなり理性的に動いています。ただしナショナリズムを鼓舞するプーチン政権にとっては、親ロ派の抑え込みは困難が伴うことでもあり、対応を難しくsています。

ナショナリズムが主権国家を危うくすrというのは、日本も他山の石とすべきですが、事態は逆方向へ向かっているように見えます。これは日本に限らないのでしょう。天安門事件を受けての江沢民による愛国教育が、尖閣問題で暴走したりしているように、実は主権国家にとってナショナリズムは劇薬でもあります。相互承認こそが主権国家の本質であり、戦争もルールに従い、2つの大戦を経てルール自体も変わり続けています。先日話題になった集団的自衛官も、国連憲章で認められてますが、日本では議論の内容がかなりとっ散らかってまして、基本は2国間の相互防衛ですが、国連安保理決議に基づく集団安保行動や、所謂シーレーン防衛のようなものまで議論されてます。これらは別です。特にシーレーン防衛のような、経済的な核心的利益の防御は含まれません。この議論のロジックは、尖閣問題や南沙、西沙諸島における中国の立場を正しいとする議論にもなり得ます。

第一次大戦(WW1)から100年ということで、欧米では歴史を振り返り、平和を希求することがブームですが、その中で米中関係がWW1直前の英独関係に酷似しているという議論があります。元々オーストリア・ハンガリー帝国とセルビアの小競り合いだった地域紛争が、全欧州を巻き込みアメリカにも飛び火した原因は今もって不明とされています。ただ覇権国だったイギリスは膨張主義に見える新興国ドイツを脅威に感じ、一方伸び盛りのドイツにとっては、英蘭連合との軋轢やフランスとの国境紛争で囲い込まれていると感じていて、それが地域紛争をきっかけに各国の同盟関係の連鎖で大戦に至ったという点で、特にアメリカで懸念されているのが、尖閣問題で日中の小競り合いになった時に、同盟国のアメリカが巻き込まれるのではないかという懸念が高まっております。

また北朝鮮に対して中国が本気で経済制裁を仕掛けている中で、アメリカにとっては日韓関係の悪化も頭痛の種です。中国の支援がなければ持って2年と言われる中、日米韓3国の同盟強化こそ重要なのに、日本独自の制裁解除などは懸念材料にしかならないですし、中国から見れば韓国を取り込むチャンスに映っているわけで、ホント少しは空気読めよなと呆れます。主権国家の基本は相互承認であり、国家間の関係は自らの鏡像でもあるという関係の本質に少しは思いを致せよな。

そういう中で、国家主権の私的利用というべき事態が進んでいるのが気になります。例えばノバルティスファーマや武田薬品工業の臨床試験を巡る大学の研究不正問題や、小保方論文で明らかになった理研など、研究機関の資金漁りとでも呼ぶべき状況が明らかになりました。これは日本だけの問題ではないんですが、自浄作用が働かないという点で日本は際立っています。小保方氏の博士論文を巡る早稲田大学の見解のように、不正は明らかだけど、それを処罰しちゃうと収拾がつかなくなるという変てこなロジックで撤回されないとか、意味わかりません。小保方氏に関しては公費で研究していたんですから、欧米では刑事責任を問われる案件ですが、理研は懲戒処分もせず、再現実験に参加させるなど、世界に恥を晒しております。

財界は財界で法人税減税を国に強く求めておりますが、無意味な議論であることは再三述べてまいりました。政権を味方に取り込んで自分たちに都合の良い制度にしようという意図を隠しもしなくなってます。自分たちの判断ミスでグローバル経済で連戦連敗、死屍累々の山を築いた責任は取らず、政府が悪い、日銀が悪いで、実際に日銀が異次元緩和に踏み込んで夢のような円安をもたらしても、輸出は増えず、ただ日本企業の競争力の低下だけが鮮明になっているけど、それを認める度量もない。本当に衰退へ向かっているというべき状況です。こんな時世界のどっかで戦争でも起こってくれれば。口には出さない本音ですね。そうえばどっかの鉄道会社の会長さんが言ったとか言わないとか。日本国はアホな愛国者と愛国者を装う利権屋に乗っ取られつつあるようです。てなところでこんなニュースです。

リニア新幹線、環境基準クリア 27年開業へ秋着工  2014/7/19 1:16 日本経済新聞
生態系への影響や残土処理の問題が指摘されてますが、地下水脈の遮断や岩盤崩落の危険など、未知の問題も多数ありますが、意外に重要なのが騒音問題です。名古屋新幹線訴訟の敗訴で厳しすぎる騒音規制が課されている鉄道の基準によらず、航空機などの基準に準拠したより緩い規制を用いているのですが、環境基準自体を都合よく切り張りする姿勢にも疑問がありますし、そもそもリニアに関する技術情報はJR東海しか持っていないので、国に判定できるだけの知見があるかどうかも怪しいところです。

これ丁度川内原発の再稼働が認められた原発とよく似た構図ですね。重要な技術情報は事業者が握っていて、国は専門家を集めて審査はするけれど、情報の非対称性があるので、安全性は担保されていないわけですね。原子力規制委の田中委員長はある意味正直で、規制委は安全を保障しないと明言しています。しかし電力会社にとってはお墨付きを得れば何でも良いわけで、政府も規制委が通したならOKと、誰も責任を取らない体制が出来上がりです。STAP論文問題と何と似ていることか。そしてこちらです。

JR九州、上場へ鉄道の赤字解消 青柳社長に聞く  2014/7/11 6:00日本経済新聞 電子版
整備新幹線の財源確保のために、JR九州の株式上場で株式売却益を整備新幹線の財源に充てようという与党提案を受けて政府から打診されたJR九州ですが、本業赤字から脱却するために赤字ローカル線の廃止を打ち出したというのです。政府の打診だから経営安定基金の存続に交渉の余地ありという打算も見え隠れしていますが、これぶっちゃけ整備新幹線の整備前倒しのために赤字ローカル線を廃止しますという話でして、スジが悪すぎますね。株式を上場するなら株式市場のルールに則るべきですが、赤字解消は結構ですが、株式市場での評価は将来の成長性であって、赤字線廃止すれば済む話でもないんですが、国の関与でルールを曲げてもらおうかという下心丸見えです。まるで国の方針に従って特定地方交通線転換にまい進した国鉄末期とダブります。

整備不良らしい事故を連発するJR北海道も末期症状ですが、情報独占で国すら翻弄するJR東海といい、国の歓心を買うために赤字ローカル線廃止に踏み込むJR九州といい、旧国鉄の悪弊が頭をもたげてきているようです。

p.s.江差線札苅駅構内の貨物列車脱線事故で、事故調の報告書はまだですが、JR貨物は積荷の偏りが原因かもしれないと発表し、改善の方針を述べています。元々重量バランスの厳しい航空機ではコンピュータで適正な重量配分を瞬時に産出するシステムを稼働させており、先日そのシステムのトラブルでJALが軒並み欠航やらかしましたが、逆に国鉄末期にコンテナ輸送に切り替えながら、こういった根本的なところがシステム化されていないかったということで、どうやらJR7社体制は詰んだという感じがします。

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Comments

今回の事件にかかわってないにせよ新露派のバックにロシアと軍がいることなんて明白な以上、そんな言い逃れはできませんよ。

ロシア系住民が多数派とはいえ、少数派のウクライナい人も存在するわけですし、元々その「独立」の経緯を欧米は問題視しているし、バックにロシアがいたことは明白なので。
(欧米側が支援していた「革命」)


北はどうせ既に核を持ってる北朝鮮が崩壊してほしいなんて誰も思ってませんよ。
勝手に動かれる不利益はあっても、結局これまで存続を許してきた理由はどこにあるか?と考えると

北朝鮮の核を韓国が捨てる確証はない。
無論国際的圧力はかかるでしょうが、核(開発計画)を圧力があったにせよ自主的に捨てたと宣言した国は、結局中東にせよウクライナにせよ大国ゲームに巻き込まれて侵攻されてますからね。

核除いても中国は
米軍基地がある国家と国境を接したくないし、米も中国と国境を接する国に軍隊置いておくのもまずい、(おいておくほど関係が悪化したらなおまずい)

だからと言って撤退されると韓国1国で国境を挟まなきゃいけないのも韓国にとっては(親中意識もある一方で恐中意識もある)

だからさっさと日本の関心事である拉致問題を解決したほうがいい

まさか見殺しにしろとでも?
逆に経済制裁以上に強硬な手段となるとそれこそ武力的手段しかない

というか、実質的に日本の独自制裁を解除したくらいで、北朝鮮の経済危機が脱するほど「劇的効果があった」のですかね?散々大したことないと指摘されていたような。
そして、核やミサイル問題に関する制裁は日本も続けている

そもそも、テロ支援国家解除等北朝鮮によったのはアメリカの方が先ではなかったか。

プロトコル外交の場では北はまだ完全に孤立していないというメッセージにはなるにせよ、そのメッセージを読み取っても、各国のする選択に影響は対してない奈良影響力はない


>法人税下げ云々
確かに露骨な自己への利益誘導と見られても仕方がないにせよ、法人税って利益から徴収するわけで、国際競争に負けて赤字か対して利益が出ていない企業は元から払ってないんですよね。
むしろ赤字企業にも外形標準課税されるとそういう企業は余計に退場が早まる。


>夢のような円安
1ドル100円台のどこが夢のような円安?
70円や80円の時代の方が普通ではないでしょう
110円台や120円台ならかなりの円安だと言ってもいいかもしれませんが

ドルの価値も相対的に下がっているから、かっての名目基準ではダメという話もありそうですが

例えばウォンに対してはリーマンショック前後よりまだ円高

Posted by: ando | Thursday, July 31, 2014 01:32 PM

ドネツクの親ロ派にロシア政府の統制が働いている証拠はありません。むしろ統制が働いていないと見るべきでしょう。

あと主権国家ってものをちゃんと理解してくださいね。クリミア編入が完全に正しいというつもりはありませんが、国際法上の手続きに特段の瑕疵はないんで、ドネツクとは事情が違うという事実を述べているのですが。

またウクライナ政府の正当性にも疑問が多々ある状況で、ロシア憎しでアメリカに同調するのもどうかと思います。米ロ間では中距離ミサイル削減などで重大な意見の相違もあり、アメリカはロシアを叩きたい動機があるわけですから。少なくとも双方の言い分を聞いて吟味する必要はあります。

北朝鮮についても、中国の支援がなくなったという事実を述べております。そういう意味で微妙なタイミングでの日朝平壌宣言の和平プロセスを動かすってのは、外交音痴と言われても仕方ありません。別に拉致被害者を見殺しにせよというわけじゃなく、もっと大局を見るべきではということです。

法人税の問題も論点を理解されてませんね。繰り返しの説明は省きますが、外資を呼び込んで競争を活発にというのが本来の趣旨なのに、大企業の明らかな利益誘導が見えますねってことを言っているのですが。

為替レートに関しては、もっと勉強してください。実効為替レートは現状十分すぎる円安水準です。輸出が伸びないのは日本企業の国際競争力の低下によると見るのが自然です。それ以前にマクロ経済環境が激変しているわけですから、過去の成功体験を繰り返そうとしてもうまくいきません。産業構造の転換を意味する本来の構造改革が必要ということです。

Posted by: 走ルンです | Thursday, July 31, 2014 11:44 PM

本筋とは関係ないですが、主権国家について質問です。
パレスチナや台湾を主権国家ではないとみなす根拠はなんでしょう?
クリミア自治政府が、ロシアによって承認されたことを根拠として主権国家とするのであれば、前者2国はどちらも少なくない数の国家に承認されているので、主権国家とみなせると思うのですが。

Posted by: しょくぱん | Thursday, August 07, 2014 01:22 AM

現実的な政治力の問題として、アメリカをはじめとする西側諸国の意向が強く働くということです。

主権国家の本来の姿から言えば、現状はかなりトリッキーになっているのは仰る通りですが、本来は相互承認と内政不干渉を旨とする普遍主義に依拠します。

そういう点でロシアのクリミア併合はかなり皮肉な展開ではあります。西側諸国主導で進んだボスニア紛争の逆を行ったわけで、ロシア側から見て表面上の手続きは整っているわけです。だから実態はどうあれクリミアの原状復帰を西側諸国も言わなくなったのです。

Posted by: 走ルンです | Thursday, August 07, 2014 10:31 PM

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