衰退の五輪タイマー
4-6月期のGDP速報値が発表されて、年率換算で実質マイナス6.9%という数字が出ました。久々のマイナス成長ですが、1-3月期のプラス6.1%との見合いで消費税増税による駆け込み需要の反動という説明がされています。確かに前期(1-3月期)の数字が伸びた分、分母が大きくなっているので、4-6月期の落ち込みは一時的というのは、一見正しそうに見えます。
しかし7月に入っても経済指標が弱めで、失速しているのではないかと言われるようになり、その声に押されて政府が渋々認めたのが消費と輸出の弱さです。しかし消費は悪天候のせい、輸出はウクライナのせいということで、消費税転嫁による物価上昇(消費者物価で3.3%増)に賃上げが追い付かず、実質賃金が目減りしていることは認めないんですね。それを認めれば来年10月からの消費税率10%へのアップができなくなるからですが、この辺のストーリーが崩れてきているわけです。
仮に消費税増税の駆け込みと反動が均されて7-9月に盛り返すと仮定すると、1-3月期と4-6月期で10兆円ほどのギャップがありますので、、均して5兆円とすれば、7-9月期は前期比プラス1%、年率換算でプラス4%でフラットということですから、伸びているならば少なくとも4%台後半の数字にならなければなりませんが、おそらくせいぜいプラス2%台の水準にしかならないと思います。とにかく消費が弱すぎます。
それを裏付けるデータは貿易統計から読み取れます。直近の5月の赤字が7,400億円、6月が7,600億円と、4月までの月1兆円超の赤字から半減していて、大雪の影響で消費が落ち込んだ2月の7,300億円に迫ります。消費の低迷は輸入の減少を通じて貿易赤字の緩和要因になるわけですから、それだけ5,6月の消費が低かったということですが、駆け込み需要の反動減ならば4月が落ち込むはずなのに、5月6月に落ち込みがみられるところがミソです。更に7月の速報値が9,600億円ですが、天候不順で消費が落ち込み、ウクライナ問題で輸出が伸びなかったと政府が認めたことを念頭に置くと微妙な数字です。日経新聞では主にASEAN向け輸出が伸びたということらしいんですが、赤字が拡大しているわけですから、国内消費は相当弱いということでもあります。
貿易統計の奇妙な推移ですが、原因の1つは2月の大雪の影響でしょう。輸送網の寸断で駆け込み需要に対応した増産体制を阻害した結果、3月末時点でのクルマなど耐久財の受注残が積みあがり、4月引渡しが増えた結果、落ち込むはずの4月の消費に下駄を履かせたと見ることができます。その特殊要因がはげ落ちた5月以降の消費は落ち込むわけです。秋の政局は消費税問題が大きくなりそうです。
輸入に関しては相変わらず燃料輸入が増えているのですが、円安の影響で金額が膨らんだもので、数量ベースでは増えていないのは相変わらずで、原発が止まっているから貿易赤字は成り立たないわけです。むしろ天候不順で特に原発停止の影響が大きい西日本で猛暑日が激減しており、電力需給を助けています。今年は電力危機が叫ばれないのはこういった事情です。
輸出に関しても、対アジア、対欧州で改善が見られるものの、2010年に日本を抜き世界第2位の経済大国となった中国に対しては3,200億円の赤字で、これでも改善されてはいますが、2013年時点で米ドルベースでGDPが日本の2倍にまで成長した中国との貿易の改善は喫緊の課題です。はよ和解せい。
でも政府は全く懲りずに、消費税率アップのための経済対策を打ち出そうとしているというから呆れます。増税するために財政出動するぐらいならば、目先の景気よりも長期的課題である財政再建に舵を切るべきですが、実態は前エントリーで指摘したように、民間の信用収縮で吸い上げた資金で日銀が国債を買い支えるという病的な状況です。建築分野での人手不足も深刻で、公共事業を積み増しても入札不調で執行が滞る流れは変わらず、事業の遅れと事業費に肥大化で財政をますます疲弊させるだけです。
そんな中で日本経済新聞の論説委員による辛口コラムが注目です。
中外時評「五輪の品格」はどこに なぜ巨大施設やカジノか 論説副委員長 大島三緒これに関連する記事がこちらです。
2014/8/31付日本経済新聞 朝刊
横浜市、臨海部に新展示施設を計画今のような状況で五輪を当て込んで巨大ハコモノやらカジノやら、ロンドンのような成熟国の品格を見せるのではなく、途上国根性丸出しの計画が大手を振って出てくるってのはどうなんだろうかと思います。それよりも上記コラムにもあるように、ヘイトスピーチをなくす努力が求められます。同様に東京都でも変なプロジェクトが動き出しそうです。
2014/8/29 1:40
都心と臨海部結ぶ新交通手段を検討 都、BRT念頭にこちらは2020年までに完成予定の環状2号線に専用レーンを設定してBRTをということで、新たなハコモノではないんですが、燃料電池バスか電気バスで連接バスということになると、欧州メーカーぐらいしか対応できませんし、仮に燃料電池バスの場合、水素ステーションをどうするかという問題も付きまといます。仮に事業者が自前で準備することになると、欧州製燃料電池連接バスで1台数億円プラス水素ステーション設置でも数億から十数億ということで、とんでもない初期投資を抱え込むことになり、五輪後も運営継続という条件だと入札に参加する事業者が出てこない可能性もあります。むしろ五輪対応ならばつくば万博のときのように、車両は他への転用を前提に通常のディーゼル連接バスを都が用意して、五輪後に希望する事業者へ売却して連接バス自体の導入を後押しするなどを考える方が現実的です。加えて羽田空港アクセスですが。
2014/8/30 0:24
羽田から変わる東京 JR東、都心と結ぶ新線構想運輸政策審議会の時期答申のための事業者へのヒアリングであきらかになったものですが、JR東日本の深謀遠慮が読み取れます。東京貨物ターミナルから3方向への新線建設で事業費3,200億円のほか、傘下の東京モノレールの東京駅延伸で1,000億円ですが、輸送力を勘案すれば東京モノレールの計画はコストパフォーマンスが悪すぎます。もちろんJRの羽田アクセス線が実現して空港連絡輸送をu失った場合でも、活性化のためのターミナル見直しはあり得るとしても、その前に老朽化したインフラのリニューアルという課題もあることから、羽田アクセス線実現のための当て馬と見るべきでしょう。逆に蒲蒲線や都心直結線などの他社による競合プロジェクトの阻止を優先するために、限定的ながら東京五輪に間に合わせる計画も盛り込んでおります。東京(タ)隣接のりんかい線車両基地と回送線を活用して新木場と羽田空港手前の仮駅の間で仮開業という構想ですが、他社を出し抜きたいということでしょう。
五輪へ部分開業を検討
2014/8/20 0:16
JR東日本がここまで羽田アクセスに拘るのは、成田スカイアクセスの開業で落ち込んだ成田空港連絡輸送のリベンジの意思があるものと思われます。N'EXは今日も空気を運んでいます^_^;。いっそスカイマーク買っちゃえば。羽田発着枠36便は1,000億円出しても高くないです。ただしJR東日本はりんかい線を運営する東京臨海高速鉄道の買収を東京都に打診しており、羽田アクセス線の建設と併せてかなりの大盤振る舞いではあります。尚、りんかい線の自社線組み込みはおそらくないと見ます。成田スカイアクセスで住都公団の鉄道事業を京成電鉄が買い取り千葉ニュータウン鉄道としたように、上下分離を前提にJR東日本が第二種事業者となることで、高額な固定資産の負担を軽減しようということです。必然的にりんかい線の高運賃は解消されないと見るべきでしょう。
少しおさらいですが、羽田発着枠に関しては新規参入社への優先配分ルールがあり、新規事業者が大手の傘下に入った場合、20%超の出資で「出資比率に応じて発着枠を返上するルールです。ANAはそれを承知でADO,SNA,SFJの経営支援で出資して枠を返上してますが、結果的に減便による競合対策となっていて確信犯ですが、SFJはさすがに強引だったこともあり、兵站が伸びきって余力がない状態ですし、JALに至っては政府から810ペーパーという投資に事前承認を求める枷がはめられており事実上動けないし、一部報道されたエアアジアは、日本政府の外資嫌いを察してフェルンナンデスCEOが否定、SKYの国際線進出で提携相手とされたデルタは沈黙という状態ですが、航空各社の狙いはSKYが経営破たんすれば36便の発着枠が再配分されることを睨んでいるわけで、ついでに言えばLCCで深刻化するパイロット不足もSKYのOBで補充という思惑がありそうです。だからこそ異業種のJR東日本が出資(できれば第三者割当増資引き受け)で経営権を取得することで、第三局のポジションを維持することが寡占防止の観点から望ましいのですが、そこまで余力があるかどうかは微妙です。
というわけで、五輪の喧騒でハコモノ積み上げて五輪タイマーを起動して財政を悪化させるか、五輪の品格に目覚めて成熟国の余裕を見せるか、今結構な岐路ではないかと思います。
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