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Sunday, November 02, 2014

ミザリーハロウイン

日銀が追加緩和を決めました。長期国債30兆円買い増しや投信の追加購入などで、年間70兆円のマネタリーベースの増加を80兆円まで増やすというもの。厚労省のGPIFによる株式買い増しの発表と重なったこともあり、市場は大きく反応しました。

日銀が追加緩和 国債購入30兆円増、物価上昇の鈍化懸念  2014/11/1 1:38:日本経済新聞
緩和効果は順調で、追加緩和は不要と自信満々だったものが、4月の消費税増税以来消費の戻りが弱く、物価がなかなか上がらないことに危機感を持ったようです。早い話うまくいっていないということですが、元々デフレ脱却という政策目標が妥当だったのかという議論はなされず、目先のサプライズを演出したものです。そのためにタイミングを図ったようで、ハロウイン サプライズというところでしょうか。

思い出されるのが白川前総裁時代の2012年2月の追加緩和をバレンタイン プレゼントとして市場が反応したことですが、このときは当の白川総裁自身が面喰っていたようで、後に緩和拡大の政治圧力を増すことになり、翌年4月の任期途中の辞任となり、任期途中で引き継いだ黒田総裁の下で異次元緩和に踏み込んだわけですが、同じようなサプライズでもコンテクストはまるで異なります。

世界を見渡せば米FRBは逆にQE3終了を予定通り実行し、当面ゼロ金利は継続されるものの、世界中に拡散した米ドル資金は還流するものとみられており、経済規模の小さい新興国はダメージに身構えますが、米国内ではまだ早すぎるという議論もあり、そんなときに日銀が追加緩和を発表したわけですから、金融筋が歓迎するのは当然です。加えて欧州ECBの量的緩和への期待もありますが、こちらはユーロ参加国間の足並みがそろわず、特にドイツが強硬に反対している状況ですから、日銀のこのタイミングでの追加緩和はウエルカムということでしょう。つまり日銀の追加緩和は国内の信用創造でマネーストックを増やすことなく、外資系金融にいいとこ取りされるだけです。

長期国債の買い増しの意味するところは、日銀の保有国債の償還期間が伸びることを意味します。実際平均残存期間を現在の7年程度から10年程度に延ばすことを算段してます。これで一番喜んでいるのは国債を管理する財務省で、既発債の借り換えをより長期のものに変えても、日銀が買い取ってくれるならば、銀行も積極的に引き受けてくれます。長期債は当然金利も有利ですし、その上日銀が適宜高値で買い取ってくれれば、長短金利差で利ザヤが稼げて銀行にミルク(利ざや)を与えられます。これでますます民間向けの融資は減ることになりそうですが。

保有国債の残存期間が伸びることで、緩和縮小がさらに難しくなります。下手に市場で売却すれば値崩れして長期金利をはね上げてしまいますから、結局期限まで保有して償還を待つしかなくなります。金利操作の手段としては日銀当座預金の超過準備の利息で調整するしかなくなりますが、それは民間融資の一段の圧縮となり、経済に与える悪影響は甚大です。とはいえここまで踏み込んでしまった以上後戻りはできませんから、どう転んでも経済が縮小する未来を確定することになります。今年4月に国会の同意を得て5年の任期を得た黒田総裁でも任期中に正常化はできないわけで、無責任極まりない話です。

2012年3月の日銀政策決定会合では、白川総裁の下金融政策の変更はなかったんですが、1人の委員から追加緩和の提案があって否決されたのですが、4月に総裁副総裁の3名が入れ替わり、例の異次元緩和が決まった時には全員賛成票を投じ、改選されなかった6人中5人の審議委員の心変わりが指摘されましたが、今回は5対4の僅差ということで、いくらなんでも追加緩和は無謀とか、実務的に限界といった意見も出ており、今回は一応政治的に圧力があったわけではなさそうで、せめてもの救いですが、独立性を重んじるべき中央銀行が政治に屈した歴史は消せません。あーしょーもなー。

というわけで、ミザリー(惨め)なハロウインとなったわけですが、同様にほろ苦い思いを感じさせるこんなニュースもあります。

最終バスは満員御礼 都営終夜運行 2014年11月1日 夕刊:東京新聞
都営バスの終夜バスに関しては、以前のエントリーで取り上げましたが、当時危惧したように、アジェンダ(政策課題)が不明確で、現状のどういう問題をどう解決するのかという点が詰められていなかった結果、知事が変わって赤字を理由に簡単に廃止されてしまったわけです。アジェンダが明確で、政策評価ができていれば、赤字は課題解決のコストとして一般財源から補てんして良い話ですが、そこがはっきりしなかったということと、終電後の足という意味では、郊外へ向かう路線こそ本命だったはずで、その意味で民間事業者が手掛ける深夜急行バスの終夜運行のようなものこそ求められていたのではないかという気がします。

また終夜運行のためにバス3台を要していたというのが納得いかないんですが、おそらくバス故に輸送力の限界から多客時の対応を図ったのかもしれません。とすれば最初から運行頻度を上げて利便性に配慮した方が良かったかもしれませんし、多客時でも次の便の待ち時間がそこそこならば、積み残しご免でも良かったかもしれません。この辺は都営バスで運行するかどうかも含めて、今後に生かしていければ良いのですが。

というわけで、猪瀬前知事の思いつき以上のものにはならなかったわけです。元々ニューヨークなどアメリカの大都市で地下鉄の終夜運行を知ったことからの発想だったらしいのですが、おそらく帰国後交通局に打診して夜間保守間合いがあるから無理という回答を得て、それならバスでとなったのではないかと思います。この辺は日本の鉄ちゃんでもあまり知られておりませんが、そもそも日本と欧米とでは保守の考え方が大きく異なります。

欧米ではある程度損傷が進んでから集中保守を行うという形ですから、所謂日常保守がないわけで、それなら終夜運行も問題ないわけですが、代わりに集中保守のときは長時間運休して徹底的に治すということをやるわけです。そのためにハード自体がかなりハイスペックに作られていてメンテナンスフリーになっており、また人件費の高い欧米で、人の集まりにくい夜間作業を回避するという面もあるわけです。それを言うなら日本だってそうですし、少子化で今後ますます厳しくなるわけなんですが、日本では伝統的に予防保全の考え方で、損傷が進まないうちに手を入れて劣化を防ぐという考え方です。

この違いを文化的なものと捉えるとそこで思考停止になってしまいますが、日本の都市鉄道の輸送密度の異常な高さが影響しているのではないかと思います。よくよく考えれば日本でも道路では舗装や埋葬物の保守で不定期に車線を閉鎖して工事やってますから、欧米では鉄道も同様なんでしょう。ただし今の日本でそうれをやろうとすると、大混乱が予想されます。日本の鉄道の定時運行率の高さとも関連しますが、結局定時運行しないと輸送力が落ちて積み残しが出てしまう状況だから、定時運行の要請が強まり、結果的に日常保守で正常な状態を保つことにならざるを得ないということでしょう。加えて岩盤の上の表土が厚く、水分含有量も多い中で、欧米のように堅牢なハードを整備することも難しいということはあります。それも最近は技術革新されてきてますが、既存インフラの作り直しには多大なコストがかかるために、そこは触らずに済ませたいということもあるかもしれません。

というわけで、同様の問題で揺れているのが北海道新幹線の整備で青函トンネルを通過する寝台列車が廃止される問題も、結局新幹線になると0-6時の長大保守間合いの確保が規則で求められていることからきているわけで、高速新線といえども貨物列車の運行を考慮せざるを得ない欧州の高速鉄道とは条件が異なるわけで、海外からは Garden rail (箱庭鉄道)と揶揄される結果になるわけです。当然海外へ輸出となれば高コストの問題もあり競争上不利なわけですが。

最後に、猪瀬前知事は徳洲会から受け取ったとされる5,000万円の現金で追い込まれたわけですが、内閣改造で誕生した新閣僚が次々と疑惑をもたれている現状は猪瀬氏にどう見えているのか興味深いところです。悪質性では比較にならないほど今の方がひどいですし、特に小渕氏に関しては、本人は知らなかったようですが、ほかの人が形式犯と言える政治資金規正法の問題であるのと違って、公職選挙法に抵触するのではないかと言われ、市民有志の告発で東京地検が動く事態となっております。そういやハツ場ダムもこの人の選挙区だったなあ。

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