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Sunday, December 14, 2014

汗っかきと油売り

日本が選挙で大騒ぎしている間に、世界は様変わりしています。原油安がアメリカの信用収縮を引き起こすという流れですが、2012年のQE3を始点に始まった世界規模のリスクオン相場が終焉を迎えた模様です。

米で原油安・株安が加速 NY株、終値315ドル安:日本経済新聞
先日OPECが価格維持のための減産を見送った結果、原油価格は60ドル割れとなり、サウジなど埋蔵量が豊富で開発が早かった=固定費負担が少ない地域と違って、技術革新で掘削設備の初期投資が嵩む米シェールオイル(厳密にはタイトオイルですが、便宜的にこう呼びます)の優位性が損なわれているわけですが、逆に初期投資が大きいだけに簡単に減産できず、むしろ生産を続けて資金回収に走らざるを得ない状況にあります。シェールオイルの損益分岐点は1バレル50-80ドルですから、既に赤字操業の油井もありますが、シェール革命を担う企業が中小企業であり、銀行や投資家から資金を集めていて、既に金融筋は資金回収に動き始めたということで、ダウ工業株が石油関連中心に売り込まれて相場を押し下げました。

今回の原油安は長引くと見られております。理由は新興国の成長減速があります。中国の成長鈍化に留まらず、原油安自体がブラジルやロシアなどの資源国に打撃になります。またFRBのQE3終了やウクライナ問題での対ロ経済制裁や、イスラム国の台頭に伴う混乱(トルコなど)と、国ごとに事情は違いますが、QE3 の緩和マネーがシェール革命に沸くアメリカへ還流される流れがあった中での原油安ですから、余剰資金は株式から債券へ、特に安全資産の国債へという流れになります。所謂リスクオフが始まったわけですね。

通常ならば日米金利差が縮まって円買いドル売りとなり、円高となる局面ですが、日銀の異次元緩和が効いているようで、極端な戻りにはなっておりませんが、円安の動きが止まると見ることはできます。特に直近の動きが急だっただけに、為替が安定すればそれはそれで良しとすべきでしょう。世界は汗っかきよりも油売りに微笑んでいます。

原油安自体は輸入国にとってはグッドニュースですが、こうした負の連鎖がなぜ生じるかといえば、そもそもOPECの価格支配力の低下があります。かつて世界の石油生産量の5割に及んだOPECですが、80年代北海油田の操業開始でシェアが低下したときに、シェアを維持するために増産してやはり原油価格が急低下したんですが、この時のショックで旧ソビエトの石油収入が激減し、東西冷戦終結のダメを押しました。

その後サウジを中心に意図的な増産や減産で原油価格を操作してきたOPECですが、減産して価格を釣り上げてもロシアやメキシコなどの非OPEC産油国を利するだけだったり、OPEC加盟国のインドネシアが資本蓄積が進んで国内消費市場が成長局面になり、結果的に国内消費量が増えて産油国から脱落し、OPEC脱退という具合にシェアを落とし続け、現在世界の石油生産量の1/3まで後退しています。

国別生産量もサウジアラビアがロシアの台頭でトップの座を譲り、加えてアメリカのシェール革命でアメリカがロシアを抜いてトップに立ち、石油輸入国ではなくなりました。当然国際石油市場の需給に変化が出るわけです。そもそもリーマンショックで原油価格が高騰したことがシェール革命に追い風だったわけですが、革命の進捗と共に需給が緩み、今の事態を呼び込んだわけです。だから原油安はメデタイと手放しでは言えないわけです。グローバル資本主義体制は閉鎖系ですから、開放系を前提とする従来の経済理論では説明のつかないことが度々起こります。1バレル40ドルあたりが底値と見られますが、しばらくは値下がりが続くと見られます。

てことで日本ですが、8日の7-9月GDP改定値が下方修正と話題になりました。ま、修正幅は小さく、大勢に影響はないんですが、同時に4-6月期はマイナス6.7%と若干の上方修正もありました。均せばトレンドは変わっていないということです。注目すべきは昨年10-12月期が前期比マイナス1.6%だったわけで、2012年11月以来の景気上昇局面は終わっていたと見るのが素直な見方でしょう。今年に入って1-3月期は消費税増税による駆け込み需要が盛り上がったために、既にピークアウトして下降トレンドに入ったことを見逃したということですね。で、4-6月期に反動減の後、回復軌道に乗るのではなく、隠れていた下降トレンドが顕在化したってことですね。QE3の終了を待たずに失速したアベノミクスは幻です。景気回復期待で与党へ投票した皆さん、残念でした。

で、選挙報道に占拠された^_^;日本のメディアですが、ペルーのリマではCOP20開催中です。今回アメリカと中国が努力目標ではありますが、自主的に削減目標を出してきたという意味で、合意の期待もありますが、会議は紛糾し、延長して続いています。先進国と途上国の対立は相変わらずですが、2大排出大国が削減に舵を切ったことは前進ではあります。

COP20、共同議長案に途上国反発 被害軽減策求める:日本経済新聞
米中両国共にCO2排出量の多い石炭火力のリプレースに主眼があります。アメリカはシェール革命で激安になったガス火力へのリプレースは国内資源へのシフトの意味もあり、経済的負担が低いですし、中国の場合は深刻な大気汚染対策の意味合いもあり、いずれも大国の都合と言ってしまえば身も蓋もない状況で、具体的な補償を求める島嶼国などの反発を抑えられない状況です。しかし自主目標すら打ち出せない日本よりはマシではあります。そんな日本では石炭火力の新設すら計画される一方、こんなニュースは世界からどう見られるか。
「再エネ」最大限導入へ、問われる国の本気度 | 企業戦略 | 東洋経済オンライン
所謂九電ショックですが、論点はいろいろありますが、記事にない視点としては、太陽光の定格出力の合計がピーク需要量を超えると言いますが、太陽光の特性としてピーク出力でも定格出力の7-8割ですし、また立地によってピーク自体がずれるので、定格出力の合計にさほどの意味はありません。逆に一部でトラブルが発生して発電が止まっても、原発のような大規模な影響は出ないわけで、将に分散電源のメリットなわけで、それを理解せずに接続拒否はいただけません。原発のような集中電源とは需給調整の考え方自体が違うわけです。おそらく認めてしまえば原発再稼働が遠のくという判断でしょうけど、再エネ率2%の段階でこれでは、本気度が疑われます。というわけで、COP20の報道が極端に少ないのですが、まさかだから選挙をぶつけたか?

少し気候変動から離れますが、製造業の今を象徴するニュース2本並べます。

考える工場 ドイツから新産業革命 製造業ネクスト(1):日本経済新聞
ニッポン次世代工場、コンパクトラインのすごみ 日経ものづくり編集委員 木崎健太郎
ドイツと日本の次世代製造業の姿が対照的に異なります。ドイツはInternet of Things(IoT)を工場のライン編成まで含めて人工知能(AI)で自律的に調整し、需要変動に柔軟に対応しようというもので、前提として複数部品を集成したモジュールを組み合わせて最終製品をロールアウトさせるというもので、異業種も含めて世界中の多数の工場が連携し、製造ラインを形成するというも大胆なものです。実現すれば世界規模の全自動工場となるわけですが、同時に世界中に工場が立地し、需要に対して供給力が過剰であることを利用して、需要の変化に素早く対応する、つまり世界中の工場を稼働させたり休ませたりして最適化するという壮大な発想です。そのために機械同士をネットで繋いで、人を介在させないわけです。

一方日本ではセル方式による製造ラインのコンパクト化です。セルでアルミ鋳造から削正、組み立てまで一貫して作業ができ、少量生産に向くという触れ込みですが、要は固定費の削減で少量生産に対応しようとするもので、正直コストダウン発想が目立ちます。いすれも自動化により雇用が機械に置き換えられるという意味で製造業の雇用創出能力は大きく失われます。人は主にマーケティングを担当する形となり、求められるスキルが変わるということになります。気になるのはドイツ式がグローバルな余剰生産能力を前提として、付加価値を生み出そうとある意味攻めているのに対して、日本方式は利益確保のためのコストダウン発想が強い気がします。どこかグローバル経済の現実をつかみ損ねている気がするのは気のせいでしょうか。

この辺気候変動問題にも通じる袋小路感を拭えません。ま、それはそれとして、気候変動問題では現状手つかずの交通分野での排出削減問題では、鉄道王国の日本に出番はあると思います。ただし難しいのは、交通は需要のマネジメントが難しいという問題があります。例えば新幹線のような高速鉄道ですが、単体のエネルギー効率は高いものの、需要との見合いは難しいところで、元々需要の強いところでしか事業化できないとか、原理的にスピードアップは可能ですが、その分電力消費も高まり、結果的にエネルギー効率を下げる場合もあるなどもあり、例えば欧州では300㎞/h超の高速域の営業運転は足踏みしており、むしろ都市間輸送よりも都市近郊輸送の高速化(200-250㎞/h程度)への取り組みが見られます。日本のもいつまでもフル規格新幹線ではなく、ほくほく線方式のスーパー特急を見直した方が良いのではないかと思います。気候変動を含む環境問題は、グローバル経済で数少ないフロンティアでもあります。

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