インシデント週間
山手線で重大インシデントがありました。12日に神田駅近くの山手線と京浜東北線の併走区間で更新により撤去予定の架線柱が倒れ、線路を死傷したものでs、数分前に営業列車が通過していたことから、重大事故につながりかねないインシデントとなりました。朝6時に発生し休日で工事スタッフが集まらないこともあり、復旧は15時と9時間に及ぶ運休となりました。
とはいえ休日だったから混乱はそこそこで済んだ面もあります。山手線は田町―田端―池袋間で運休。京浜東北線は蒲田―東十条間で運休とし、後に蒲田―品川間で運転再開するも、折り返し設備の制約もあり、運転間隔は開きました。それでも並行する中央線と東海道線、上野東京ラインは生きており、地下鉄への振替輸送も行われました。平日だったらもっと混乱したかもしれません。
その後の報道でJR東日本は10日時点でポールの傾きを認識していて13日終電後に撤去工事を予定していたのですが、週末を挟んだから対応が遅れた面もあるわけですが、同時に異常を発見しても直ぐに工事に取り掛かれない現実もあり、この辺の時系列の微妙さは頭に入れておく必要があります。
そもそもは2本のポールに横梁(ビーム)を渡した状態で、架線にも張力が掛かっているわけですから、微妙な構造計算が必要なのではと思っていたら、案の定同様の工事では構造計算して上司の承認を得ることがマニュアルに定められていたということで、何故マニュアル違反が生じたかが根本の問題です。加えて異常を認識し工事を手配するバックアップがどこまで可能なのか、特に昨今保守部門は外注化されていて、指示命令系統に齟齬が生じやすい背景はあったわけです。リカバリーにも課題があるわけです。マニュアル違反という意味ではJR北海道の青函トンネル列車発煙事故と共通ですが、こちらは正社員で運転保安要員である車掌の判断の問題があり、しかも記者会見で社長がそれを適切とするなど、事後の対応にも疑問があり、より深刻です。
14日には今度は広島空港でアシアナ航空機の着陸失敗という事故が起こりました。広島空港は天候の急変で霧による視界不良があるということで、カテゴリー3の無線誘導装置(ILS)が設置されていたものの、西側だけで、当日は風向きの都合でで管制官に東側からの着陸となり、着陸に失敗したものですが、パイロットのミスとする見方と悪天候によるダウンバーストの影響とする見方があります。
事故機はエンジンを接地してバウンドして滑走路を外れており、まかり間違えば火災による爆発炎上の可能性もあったほか、フェンスの外は崖になっていて、運が悪ければ機体ごと滑落もあり得たなど、大惨事の可能性がありました。また照明が落ちて搭乗客の避難が混乱したり、客室乗務員がパニックになってシューターによる搭乗客の避難を補助しなかったとか、いろいろ問題点も出てきております。パイロットのミス、管制官の判断の正否、数十億円と言われるILSの完全設置、客室乗務員の対応など論点はいろいろあり、経営の苦しい地方空港故に、ILS設置も簡単ではないですし、そもそも世界規模のパイロット不足に加えて客室乗務員の適正な訓練など、航空業界が抱える様々な問題が横たわります。頼みの西側ILSも損傷しており、17日に仮復旧したものの、悪天候時には欠航となる暫定運用で混乱は続きます。
というような一連を見ていると、人材の枯渇、労働力の劣化が通底する問題として浮上します。人口減少が続く日本ですが、韓国を始めアジア諸国も同様の傾向が見られます。このことに意味するところは、人口減少による労働力不足を移民で補充することの困難を示します。政府が進める介護労働を外国人実習生で補充というのもまず無理といえます。そもそもトラブルの多い日本の実習生制度は低賃金や長時間労働などで国際機関からも改善勧告されていますし、正規雇用であっても円安で日本への出稼ぎに妙味がなくなっていることを自覚すべきでしょう。政府のやっていることは何の解決にもならないわけです。
ただ気になるのは、人口減少による労働力の希少化が、素直に賃金の上昇につながるのかに疑問があります。というのは、潜在成長率0.6%と先進国中最低の日本ですが、生産年齢人口1人当たりで見ると1.6%程度の成長率になるわけで、実は欧米を凌駕する水準にあります。それだけ労働生産性が高いのかといえば、時間当たりの労働生産性は欧米に大きく後れを取っており、実態は長時間労働の深刻さを伺わせます。実は日本人雇用者も実態は外国人実習生に引けを取らない劣悪な状況に置かれているわけです。実は日本の労働市場は新興国並みというお寒い状況です。
生産年齢人口が減少するんですから、本来は労働生産性を高めなければならないわけです。労働生産性は単位時間当たりの付加価値創出力で測られますから、高付加価値労働へのシフトが重要なのに、現実的には逆の現象が起きているわけです。付加価値が低いから長時間労働で埋め合わせなければ国際競争に勝てないという悲しい現実です。
高付加価値というと必要性の薄い高機能多機能を詰め込んだ結果、世界から忘れられたガラパゴス携帯が典型的ですが、必要性を超えた高性能高機能高品質を付加価値と勘違いしているのが日本のリーダーたちです。付加価値というのはユーザー目線での評価の総体ですから、ユーザーである消費者の購買力に依存し、その消費者の大多数は労働者であるという当たり前の現実が見えていないのでしょう。無駄な高性能高品質よりも、ブランドやサービスで差別化することこそ重要です。言い換えればサービスの高価格化ということです。
新興国の工業化の進捗で供給過剰な工業製品で勝負すれば低価格に泣くわけで、そこを認識できない日本の無能なリーダーたちは、値下げしないと物が売れないと「デフレだ、日銀何とかしろ!」てなことで、責任転嫁するわけですが、それで問題が解決するわけがありません。必要なのは産業構造の転換を伴う本来の構造改革ですが、既得権層の反対で進まないばかりか、政府が既得権層におもねっているのですから、日本経済は沈みっぱなしにならざるを得ないわけですね。これ以上続けると落ち込みますからこの辺にしときます。
てな中で、交通分野でも人手不足は確実に事業環境を侵食するわけですが、ちょっと面白い傾向が先日開業した北陸新幹線で見られます。
乗客2.7倍、乗車率は50%割る 北陸新幹線1カ月 :日本経済新聞これぶっちゃけ航空の便数維持の結果、平日のビジネス客の移転が進まず、北陸新幹線の乗車率を低めているわけです。つまり観光がメインの新幹線ということで、航空は機材の小型化もあって搭乗率100%近い、つまり相当数の利用を断っている状況ですが、運賃を安く設定しても燃費の良い小型機材で席を埋めている状況は採算性も高いと言えます。逆に言えば東京対北陸のビジネス利用は航空でカバーできるオーダーしかないというわけです。北陸新幹線は料金を高めに設定してますし、グランクラスを設定し3等級制として客単価を上げてますから、乗車率の低さはカバーできるでしょう。逆に需要の季節波動の多きい観光輸送では乗車率の低さは機会損失の低減につながるわけですから、おそらくこのまま役割分担が定着すると考えられます。
これは従来新幹線の開業が航空の撤退につながる傾向とは異なり、結果的にJRも航空も付加価値を高めたわけです。もちろん新幹線に関しては引き換えに並行在来線切り離しで三セクに負担をかけていることには注意が必要ですが。新在通算で付加価値が高まるかどうかは現時点では何とも言えません。
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