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June 2015

Sunday, June 21, 2015

集団的自慰権

いやまったく、集団オナニーみたいな集団的自衛権の論戦はアホらしさ大爆発です。政府提出の安保法制が憲法に抵触するのは明らかですが、「自衛権を主権国家の自然権で個別的も集団的もない」というのがバカバカしい。主権国家はそもそも相互承認に基づくクリティカルな存在であるという基本が理解できていないから、反対派を説得できるわけがない。だから言葉を弄して煙に巻くしかないにしても、政治家がここまで劣化していたのは、国民として責任感じなきゃならないのか。

乗っ取られる主権国家のエントリーで述べましたが、そもそも主権国家は他の主権国家から承認されて初めて主権国家たりうる存在であり、複数の主権国家間の力の均衡で平和が保たれるのですが、ウエストファリア条約を起点とする主権国家同士を規定する国際法は改定を重ねられ、現在に至ります。ですから主権国家に自衛権が自然権として備わっているというのは、それ自体は間違いではないんですが、相互承認の原則に従って相手国の主権を尊重することが含意されており、それを侵害する行為としての侵略戦争を禁止し、万が一の侵略戦争への備えとしての自衛権なんですね。

で、ここまでは個別的自衛権の話で、複数の主権国家を前提とする限り自明ですが、集団的自衛権はこれほど自明ではありません。集団安全保障を司る国際連合の存在を前提とし、侵略戦争に対しては国連安保理決議を経て組成される国連軍が対処することになっていますが、時間がかかりますから、その間に被害国が侵略行為を受け続けることに対して、近隣国が被害国の要請を受けて軍事介入し支援することを指します。

ただし侵略行為自体はそれほど目に見える形で起きるわけではなく、元々火種があって一触即発状態だったりすれば、些細なきっかけで軍事衝突が起きた場合、厳格に加害国と被害国を分けられるわけではなく、最終的には安保理決議でその評価が下るわけですから、場合によっては加害国に与したと見られるリスクもあります。リアルな集団的自衛権行使は、高度な政治判断に基づく見込で動く賭けでもあるわけで、憲法との整合性は取りようがないのが現状です。個人的には集団的自衛権の行使自体はあり得るという立場ですが、あくまでも憲法の理念に対する例外規定となるわけで、個別具体法で具体的な事例を定義する以外にあり得ません。というわけで、今回の安保法制は筋が悪すぎるという評価になります。

例えば具体例として南シナ海の中国の岩礁埋立事案ですが、満潮時に海面下へ没する岩礁に領有権はありませんから、それを足場にした埋立地はあくまでも公海上の埋立地であって、領有権を主張できずEEZの起点にもならないという国際ルールの遵守を中国に求めたもので、アメリカは公海の航行の自由を迫ったものです。この辺中国も国際法を理解できていないようですが、一触即発とばかりに騒ぎ立てる日本のメディアもどうかしてます。日本では報じられてませんが、先日の日米防衛ガイドラインの発表は、事前にアメリカが中国に説明しており、中国に対するものではなく、むしろ日本の軍国化を抑えるものとしています。所謂ビンの蓋論ですね。

で、南シナ海のややこしさに無自覚なのもどうかと思います。多数の島が浮かぶ南シナ海は沿岸国が自国の都合で勝手に無人島に旗を立てている状況があり、中国の行動だけが問題ではないんです。現状では領海が入り組み、EEZの線引きも困難なモザイクの海なんです。しかも歴史的に日本もコミットしています。南沙諸島では戦前日本が領有を宣言し日本企業が燐鉱石の採取をしていた島があります。そのため台湾の高雄市の行政区分に属す形になっていたのですが、戦後日華平和条約で日本は台湾と共に領有権を放棄してます。これ台湾へ敗走した中華民国との平和条約で、当時の台北政府は一応中国を代表する主権国家で且つ戦勝国として国連安保理常任理事国でしたが、サンフランシスコ講和条約の当事国からは除外され、個別条約で処理したもので、これは当時のアメリカ政府の助言に従ったものです。

しかし70年代に日中が接近し平和条約が締結されると、台湾側から日本と国交断絶が宣言され、1952年締結の平和条約はこの時点で無効とされました。ただしその後北京の共産党政府が1つの中国として国連に加盟し、台湾問題は中国の内政問題とする国連決議が可決され、台湾は主権国家の地位を失ったわけですが、中国側から見れば仮にも主権国家時代の国民政府が交わした条約なので、その効力が北京政府に継承されると解釈する余地はあります。中国の南シナ海進出のきっかけは、案外日本の戦後処理が起点かも(小声)。というわけで、こんなややこしい南シナ海に日本の自衛隊を派遣するような火に油を注ぐ行為をアメリカがやるわけないです。

というわけで、アメリカの狙いは主に中東の紛争解決に日本の自衛隊を派遣することにありそうですが、逆に言えばアメリカの中東へのコミットは低下するということでもあります。何しろシェール革命でアメリカ自身は化石燃料の中東依存度を下げているわけですから。アメリカ流の軍事オフショアリング(海外下請け)というのが問題の本質です。ある意味ホルムズ海峡機雷掃海はアメリカの意向には沿っていますが、封鎖で最もダメージを受けるのはイランですから、非現実的です。加えて日本はおよそ半年分の石油戦略備蓄がありますし、そもそも石油火力は少なく、石炭とガスが中心です。つまり中東が原因で電力供給のボトルネックは生じません。

むしろ石油ショックを契機に中東依存が見直され原子力発電を強化した歴史があります。中東ガーな人たちの歴史知らずはどうしようもないですね。もう少し言えば、80年代に気候変動問題がクローズアップされ、化石燃料依存からの脱却のための原子力推進が言われたのであって、この面からも原発問題は安全保障問題と直結しているわけです。80年代はソビエトのペレストロイカで東西融和が現実味を帯び、冷戦終結を見越して欧州中心に冷戦後の国際秩序を模索する動きがあって、その中で温暖化ガスとしてのCO2削減が政治テーマに昇格してきたものです。

ww2でも日本が南方へ戦線を拡大したのは、資源確保が目的だったわけで、途上国の工業化が進めば資源争奪圧力が高まることは容易に想像できます。実際新興国の台頭が進んだゼロ年代に石油価格が上昇したわけですし、ロシアやブラジルや中東産油国などの交易条件が改善されたわけで、逆に先進国の交易条件は相対的に悪化しました。その中で先進国が競争力を持つ分野として環境分野が注目されたわけです。

特に欧州では核戦争に代わる地政学リスクと認識され、意欲的な削減目標が立てられたわけですね。それを理解しない日米両国は、せいぜい原発推進の口実ぐらいの認識しかななったわけです。その意味で2009年のCOP15コペンハーゲン会議では、日本の鳩山首相とアメリカのオバマ大統領が意欲的な姿勢を見せ、ポスト京都議定書の締結に期待がありましたが、より多くの援助を引き出そうとする中国がぶち壊したわけです。その中国も政権が変わり「新常態」と呼ぶ安定成長への移行を模索する中で、環境問題でアメリカと歩調を合わせるまでになりました。

一方の日本はフクシマの事故を口実に目標を取り合下げました。それでいて再生可能エネルギーへの移行は進まないどころか、削減目標の積算根拠となった電力構成で太陽光を7%(6,400万kwh相当)としました。これは認可済みの太陽光発電事業事の総出力8,000万kwhから稼働率を加味すれば、これ以上の認可はしないことを意味します。FITには問題ありますが、適切な減額評価を盛り込むことで、むしろ技術革新を促すべきですが、それを放棄してどうするつもりでしょうか。官製ガラパゴスまっしぐらです。

欧州では太陽光のピーク出力による余剰電力を利用して、水を電気分解して水素を作って貯蔵、運搬して、必要な時に燃料電池で電力に戻すという計画が始動しています。日本ではトヨタのFCVが売り出されたものの、現状は化石燃料由来の水素を利用しますから、CO2排出削減にはつながりません。むしろ貯蔵、運搬、充填の各過程でエネルギー消費を伴う=CO2排出増ということになります。燃料電池の用途としては欧州流が本来の狙いです。ここにもガラパゴスの芽が^_^;。

で、五輪関連で環状2号線整備で会場となる湾岸地域へのFCVバス輸送を東京都が打ち出してます。トヨタと日野の共同開発したFCVバスの採用を狙っているのでしょうけど、輸送力の面で連接バスとなると、国産メーカーはお手上げになります。従来国内に需要がなかったために連接バスの技術は日本には存在しないためです。鉄道の連接車と違って上下方向の可動幅も大きくなりますし、特にノンステップタイプで主流のリアエンジンタイプだと後ろから押す形となり、事故時の座屈現象の回避が難しいので、今から開発を始めて2020年にはまず間に合いません。輸入バスにトヨタのFCV搭載がせいぜいでしょうか。しかも五輪後の転用まで考えると、実現可能性はかなり低くなります。新国立競技場を迷走させる国も国ですが、都も人のこと言えません。

しかしそんなあれこれのある中で、中央区がこんな計画をぶち上げてます。

銀座-有明の地下鉄構想、事業費は2000億円 中央区試算  :日本経済新聞
東京都がFCVバスを走らせようとしているルートに地下鉄をというのです。しかもゆりかもめや大江戸線のような中途j半端なものではないものというのですが。事業費2,000億円で13万人/日ですが、江東区が提案し東京都が検討路線に取り上げた8号線延伸(豊洲―住吉)が事業費900億円―1,200億円で20万人/日ですから、ほとんど実現可能性はありません。事業主体は第三セクターで運賃を高めという想定ですが、今後の高齢化の進捗を睨むと人件費上昇による事業費上振れと需要の下振れの可能性も視野に入れると、やめとけということですね。

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Sunday, June 07, 2015

あーせい、こーせい、そーせい

てなわけで、前エントリーのジングウ・ファミリアが迷走してます。結局デザインコンペで選ばれたザハ・ハディドとの契約を解除して、どうやら屋根なしスタジアムに仮設スタンドで当座をしのぐようです。問題の根源にあるザハデザインから離れたのは半歩前進ですが、そもそもデザインコンペ当時から指摘されていた問題に目をつぶったまま突っ走った文科省や体協の責任は重大です。

ザハデザインの実現可能性の低さは、あの屋根が径間500mの橋と考えればわかりやすいのですが、川や海なら別の場所で組み立てた橋桁を船で運んでクレーン船で設置という方法が使えますが、神宮の森では使えない手法ですから、現地に巨大鉄工所を期間限定で設置するしかないですし、大量に鋼材などを搬入するためには、広範な周辺道路の整備も必要です。そのために費やされる費用は3,000億円から1,600億円に減額見直しされた本体建設費を上回るものになる上、神宮の森の保全にも悪影響確実というわけで、実際に着手するまで気付かなかった無能ぶりにうんざりします。負担を断った東京都の対応は正しいと言えます。

てなニュースの一方、今週も起きた重大インシデント。

京浜東北線電車が線路内の看板に衝突、けが人なし 点検作業員、誤って置く? - 産経ニュース
空自ヘリ・ANA機・JTA機、あわやのトラブル 那覇空港 | 沖縄タイムス+プラス
名鉄運行続行に疑問 中部運輸局、停電「本来は故障扱い」:社会:中日新聞
京浜東北線で保線作業員の勘違いで並行する東海道線に設置する筈の作業看板を京浜東北線に置いて電車が衝突したもの。2つ目は全国版のニュースで大々的に取り上げられましたが、管制官の離陸指示を自機に対してと勘違いした自衛隊ヘリの過失ですが、異常事態を咄嗟の判断で回避したANAとJTAのパイロットはお見事です。3つ目は電気連結器カバーが外れて雨水侵入によるショートが原因んで電源ダウンした列車がブレーキが作動せずオーバーランしたものですが、名鉄の対応にいろいろ問題が指摘できますが、詳述は避けます。

こういうニュースに接して思うのは、日本の人口減少のインパクトが、マンパワー不足による労働力の劣化につながっているのではないかという危惧です。人口減少といっても、生産年齢人口の減少ですから、少子化対策は解決策になりません。むしろ高齢者の増加と共に扶養人口の増加をもたらし、少数の現役世代への負担を加重させる悪手です。以前から指摘していますが、労働力の減少は資本装備の増強である程度カバーできるんですから、その方向で対策を打つ必要があります。新国立競技場のようなリソースの浪費は許されないという自覚が必要です。

同様のリソースの浪費は昨今の地方創生ブームにも感じます。そんな中でこんなニュースを取り上げます。

45年ぶりにSL疾走、ファンら見守る 鳥取の若桜鉄道:朝日新聞デジタル
鳥取県の三セク若狭鉄道の活性化策として、JR西日本から無償譲渡されたC12型SLを活用した沿線活性化策の社会実験ですが、車籍がなく従来若狭駅構内の体験運転などに試用されていたものを、本線運転しようというわけで、車籍のないC12を走らせるために本線を線路閉鎖して走らせるという手続き上はトリッキーなやり方です。車籍を取得するには保守検査体制を整えて鉄道事業運転規則に合致した体制を組む必要がありますが、自治体主導の三セク鉄道には高いハードルです。

面白いのは撮影地の所謂お立ち台を有料化したことで、単発のイベント運行ではありますが、定期運行を睨んでキャッシュフローを生み出す努力は評価できます。ただしSL運行自体は大井川鐡道のほかJR山口線、真岡鉄道。秩父鉄道などで定期運行され、それほど新鮮味があるわけではありません。競合がある中で、若桜へ足を運んでもらえるにはどうするか、そこまで考えなければうまくいかないわけで、今回の社会実験が一過性のイベントで終わるか、指定日だけでも定期運行にこぎつけられるかは予断を許しません。そしてSL運行の老舗の大井川鐡道にも容赦のない現実が降りかかります。

大井川鉄道、再生支援申請へ 沿線の地域づくりに影響  :日本経済新聞
70年代に名鉄が資本参加し、SL運行で観光鉄道として集客力を発揮し、ローカル私鉄の勝ち組とも目されていましたが、沿線人口の減少には抗えず、また関越道事故を契機とするツアーバス規制強化で、新金谷から大井川鐡道へ乗り継ぐツアーバスが激減し、経営の屋台骨が揺らぎ、利用の少ない一般列車の減便に至ったのですが、島田市をはじめとする地元自治体への支援要請も不発で、政府系ファンドへの支援要請となりました。スポンサーとして北海道のホテル事業者のエクリプス日高が出資する一方、名鉄は撤退します。

地元自治体との関係でいえば、観光鉄道としての成功体験故に自治体が動かなかった可能性があります。つくづく交通政策基本法の元となった交通基本法の民主党案にあった移動権が盛り込まれなかったことが残念です。観光鉄道としての成功は決して鉄道の未来を保障するわけではなく、地域との関係を定義できなければ、生きた鉄道としての命運は開けないということですね。移動権に関しては憲法に定める基本的人権の拡張概念として定義することで、憲法に紐付されれば、憲法そのものの改正をよりやりにくくする意味もあり、現在安保法制絡みで国会が迷走してますが、所謂護憲派も「憲法を守れ」だけではなく、憲法を生かした立法を心掛けてこなかった結果が今の混迷ということですね。ちなみに安保法制に関しては、9条だけが問題ではなく、内閣の権能を定義した73条に軍事に対する指揮権が明記されていないことも問題になります。

ま、こんな状況ですから、某大都市の名物市長ご執心の都市鉄道三セクでのSL列車運行の協力要請を大井川鉄道が断ったのは当然ですね。それどころじゃないわけですから。

というわけで、大都市と地方との関係でいえば無視できないニュースがあります。

25年の東京圏、介護施設13万人分不足 創成会議、41地域へ移住提言 政府、交付金で後押し :日本経済新聞
首都圏の高齢者集中で施設が不足するから、施設に余裕のある地方へ高齢者の移住を促すというのですが、高齢者ほど住み慣れた地域を離れたくないものですし、ましてインフラが整備された大都市部ほど生活しやすいということもあります。むしろ問題は地価が高いがゆえに施設の整備が思い通りに進まないし、介護職の賃金が低すぎて、地価が高い東京では生活できないなどといったことが問題なんで、これは例えば今後建設されるマンションを高齢者対応の医療や介護施設のテナント誘致を義務付けるとか、介護保険からの介護報酬以外に、都などが上乗せするとかやりようがあります。要は実際のニーズに合った社会保障サービスを実現させることであって、数合わせの移住計画などうまく行くわけないです。ま、こんなところに地方創生を打ち出す現政権の統制的な性格がにじみ出ています。あーせい、こーせい、そーせいじゃうまく行かんわ。

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