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August 2015

Sunday, August 30, 2015

TOICAの壁

北陸新幹線の開業で並行在来線が切り離されたことで、青春18きっぷの使い勝手がかなり変わりました。首都圏からだと、中央線、信越線又は大糸線経由のルートは使えなくなり、JR東海エリアを通る必要がありますが、青春18シーズン特有の混雑と乗り継ぎに辟易しなければならないわけで、どうせならTOICAの壁で日常的に足が向かないJR東海エリアを中心に消化しようというのが、この夏の戦略でした。

加えてやはり疎遠な静岡、浜松、名古屋の都市交通にも触れておきたいということで、5日分のうち3日分をJR東海エリアに割り当て、ついでにシャッター街と化した後に復活が伝えられた小田原駅の地下街や伊東線でリゾート21乗車などのオプションを睨みつつ、いつもながらの行き当たりばったりですが、なかなか実り多いものとなりました。

名古屋では愛環、リニモ、城北線、ゆとりーとライン、基幹バス新出来町線などの初乗車を楽しむ一方、廃止が取り沙汰される養老鉄道もと欲張りました。養老鉄道に関しては、過去に逆上下分離疑惑を指摘しました。正直裏は取れておりませんが、当時の日本企業のコンプライアンス意識からいえば否定できないところです。

その養老鉄道の廃止ですから、地元にとっては面白くない話ですが、線形が悪くインフラがぜい弱な一方、複数の市町村に跨ることから、同時に分離されたものの、伊賀市内で完結する伊賀鉄道が公的支援を得つつ東急の中古の投入ながら老朽車両の更新を実現しているのに対し、厳しい状況です。元々国鉄貨物の通過輸送で稼いでいた路線ですが、国鉄の車扱貨物の撤退で翻弄され、車社会の名古屋都市圏の外延で需要にも合致しないルートなど悪条件が重なっています。とはいえバスで代替するには距離が長くスピードダウンのマイナスを考えると解決は簡単ではありません。

名古屋にj関しては、初乗りのリニモ9で、なるほど丘陵地帯でアップダウンが激しいことから、非粘着駆動のリニアはありかもしれないとは思います。また荷重制限があることから、大量輸送向きではなく、海上の森の開発問題で揉めた愛知万博の経緯からも、輸送インフラのキャパによる開発抑制効果も評価すべきでしょう。インフラ整備に伴う環境負荷の面でもプラスでしょうし、とにかく首都圏と比べれば都市規模の違いから適正な輸送インフラの考え方も違ってくるわけですね。この辺は新出来町線やゆとりーとラインも同様です。その新出来町線は優先信号が導入されていないので、ほぼ交差点毎、停留所毎に信号につかまってしまいますが、おそらくバス優先にすれば混乱するということなのでしょう。

そういう意味でゆとりーとラインの発想は自然なんだと思います。ガイドウエー区間では結構なスピードを出しますし、駅間も長く、郊外から都心へのアクセス手段としてはうまく考えられています。ただし案内輪の収納問題からツーステップ車なのは惜しいところ。バリアフリー対策は悩ましいところです。それでもここまで高度化されたバス輸送システムという意味で、BRTと称して良いでしょう。ゆとりーとライン利用は名鉄瀬戸線小幡駅からゆとりーとライン小幡緑地まで徒歩連絡したんですが、落ち着いた郊外住宅地で、都心との距離を考えると首都圏から見てうらやましい限りです。都市の実情をフィジカルに知るにはまち歩きは重要です。

てことでやっと本題ですが、青春18きっぷで西に向かうと、JR東海エリアの駅で首都圏からカード1枚で突撃してきた乗客の精算所の長い列は恒例でしたが、いつからかは定かではありませんが、とりあえず東海道線の東京―熱海間プラス山手線内乗車に限り、駅の自動精算機で精算可能になっていました。さすがに精算でマンパワーを消費するわけにはいかないわけです。ただし逆は不可というわけで、券売機で磁気券購入が必要です。また沼津下で乗り入れるJR東日本の普通列車グリーン車ではSuicaグリーン券に対応しておらず、改札外で磁気グリーン券を事前購入する必要があります。

いろいろ調べると、名古屋地区のmanacaで実施される乗継割引に非対応で、都営バスの90分ルール割引やバス得ポイントなどSuicaとPASMOで共通化されているのとは異なります。名鉄とラッチ内でつながる豊橋と弥富では乗継専用タッチセンサーを設置、PiTaPa陣営の近鉄との共同使用駅である桑名では専用のゲートのない自動改札機(こんなもん初めて見ましたが)を跨線橋上に設置して乗継客にタッチさせるなどしてあくまでも改札分離して自社だけで独立ブロックを形成するその姿勢は孤立主義的傾向の強いJR東海らしいと言えばらしいですが、乗客の利便性は置き去りです。尚、JRと近鉄の共同使用駅である津はTOICAエリア外なので特別な対応はないようです。

一方新幹線専用カードのEX-ICとは併用可能で、新幹線を使えばエリア外もカードだけで利用可能ということで、なるほどあくまでも新幹線利用への誘導なのかということですね。加えTOICAエリアの三島―岐阜羽島間で、新富士を富士、岐阜羽島を富士に置き換えて新幹線停車駅2駅以上の区間でTOICA定期円を所持する場合は、普通車自由席乗車に限り特急料金をカード残高から引き落とすことが可能という具合に新幹線への利用誘導が露骨です。

ま、そんなこんなでちょっと気になったのが、いくつかの駅で改札外へ出てみて、駅前が結構悲惨な状況なのが目につきました。決して人口は少なくないのに、車社会で郊外型店舗でにぎわいが駅前から消えたということなんでしょうけど、特に四日市と近鉄四日市の駅前の違いを見ると、終わってるという感じです。新幹線で稼いでローカル輸送はおざなりということでしょうか。ま、あれこれ考えさせられます。

近鉄に限らず、静岡鉄道が自社系列のジャストラインと連携したり、遠州鉄道が中間駅の整備された駅前広場に自社バスを乗り入れたりして一貫輸送を意識している一方で、JR東海は駅の外は異界とばかりの冷淡さです。また系列企業であるはずの東海交通事業城北線の扱いも酷いですね。勝川は数百m離れた高架線上の無人駅で、JR駅への乗り入れは可能な造りですが敢えて繋がずですし、枇杷島も貨物線を通じて名古屋までレールは繋がっており、折り返しのホームを確保できれば乗り入れ自体は可能ですが、そんな気はさらさらなさそうです。沿線は人口も張り付いており、利便性を高めればもっと利用されそうですが。

車両面では主力の313系は良くできた車両ですが、とにかく編成が短く、青春18シーズンのせいもあるかもしれませんが、混雑までは無「なくても立客は当たり前というのも、違和感を覚えます。JR東日本で上野東京ラインの開業で話題となった10連の混雑があれだけ悪評なのですから、輸送力の余裕は大事です。その一方かつてのスター311系は発進時のショックが大きく乗り心地を損なっています。同じカム軸制御の211系がマイルドなのと比べると不思議ですが、これにあたるとハズレ感があります。てなわけでJR東海disな話になりましたが、見たまま感じたままですので悪しからず。

青春18きっぷは元々学校の休暇シーズンの余剰輸送力を活用して追加コストがほとんどかからないから実現できている格安な企画商品ですから、受益をリース料で召し上げられる整備新幹線のスキームを前提とする限り、今後も利用エリアが縮小せざるを得ないわけで、来春の北海道新幹線開業で青函間の特例もなくなること確実です。そんな中で北陸新幹線に新たな動きです。

北陸新幹線延伸で新ルート「小浜・京都」案 JR西  :日本経済新聞
従来の3ルートに対する第4のルートの提案です。従来の3案は基本計画線に8沿った小浜ルート、軌間可変電車(FGT)を前提とする湖西線ルート、東海道新幹線乗り入れを前提とする米原ルートですが、コスト面で有望とされる米原ルートはJR東海が内職を示しますし、アーバンネットワークに組み入れられた並行在来線の扱いで地元との合意形成が難しいということもあり、JR西日本は湖西ルートでの整備を検討していましたが、北陸新幹線による観光需要の誘発効果を目の当たりにしてか、若狭湾の中心都市小浜と京都をルートに組み入れ、将来は大深度地下で大阪延伸というものです。

この場合並行在来線は小浜線敦賀―小浜間が想定されますが、原発銀座のリッチな自治体の助けで小浜線の電化を実現した柳の下のドジョウ狙いでしょうか。とすれば原発の順調な再稼働が前提となりますが、逆にだから国も後押しが期待できるという読みもあるかもしれませんがちとキナ臭いところです。原発と新幹線といえば川内を連想させますが、原発関係者は京阪神から通勤が可能になり、小浜がシャッター街になるという微妙さが隠れています。また恩恵のない滋賀県が騒ぎ出すということで、すんなりいきそうもありません。あーあ。

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Sunday, August 09, 2015

混雑は飛んで来る

「桜木町で架線切断」と聞くと、戦後五大事故の桜木町事故を連想してしまうんですが、何の因果でしょうか。

京浜東北線、架線切れ運転見合わせ 駅間で停車も  :日本経済新聞
工事作業を誤って垂れた架線に電車が接触してショートして出火し全焼したものですが、戦時設計の元祖走ルンです^_^;モハ63の構造上の問題で、満員で乗客は逃げられず被害を大きくしました。事故を受けてパンタグラフ付近だけだった屋根の絶縁キャンパスを全面張りに改めたり、二段目がj固定で開口面積が狭い三段窓を全上昇式に改造したり、内開きだったために混雑が災いして開けられなかった貫通扉を引き戸に改造したり、乗客が操作できる非常用ドアコックが設置されるなどして、対策されました。

今回はみなとみらいの花火大会で混雑した結果、先行列車の遅れから停止した列車が、停止禁止のエアセクションで停止し、再力行時の大電流でショートして架線が切断し電車に接触したものですが、現代の電車は絶縁も難燃化も強固なものの、停電で長時間の運転見合わせとなりました。また乗務員の制止を聞かずにドアコックを開けて線路に降りた乗客が多数いて、線路が並行する東海道線や横須賀線もトバッチリを受けてしまいました。桜木町事故の因果は巡ります。

エアセクション停止による架線切断は2007年、さいたま市の高崎線でも同様の事故がありましたが、今回防げなかったのはATC設置区間だったからという謎な話。

京浜東北、停止禁止区間から発進 架線ショートし溶ける  :日本経済新聞
つまりATCでエアセクション停止を回避するようシステム化されていたのですが、花火大会の混雑で遅れが生じ、列車間隔を目視で低速運転する確認運転のために、ATCならば停止しない筈のエアセクションに停まってしまったわけです。他の区間は高崎線の事故で停止禁止の音声を流す装置が設置されたのですが、京浜東北線はATC区間ということで省略され、運転士もエアセクションを認識していなかったということです。マンマシン系インターフェースには思わぬ盲点が潜んでいます。

大量輸送に特化していて、とかくそれを揶揄されることが多い首都圏の通勤電車ですが、架線接触で燃えなかったという意味で、安全性は確実に進化しています。その一方で混雑率の数字上は改善されていても、定員超過が日常化している混雑の方は相変わらずというのが何とも複雑な心境にさせられます。世界的にも東京名物満員電車は有名で、昨今増えた訪日外国人観光客の体験乗車という話も。毎日混雑に揉まれる通勤客にとってはありがたくないインバウンド需要です。オリンピック大丈夫かい。スーパーシティの暑い夏です。期間中は積極的に休暇を取りましょう。

今回の事故もみなとみらい花火大会というローカルイベントが引き金を引いたわけです。花火見物は単独よりグループ利用が多いから、グループが固まって奥へ詰めないとか、浴衣に団扇で乗降にも時間がかかるとか、様々な要素が重なった結果かもしれませんが、オリンピックで不慣れな外国人客がグループで移動とか、混乱は覚悟した方が良いです。マジで。慣れた通勤客はらば混雑してもカオスにならないで済みますが、一見客にそれを期待することはできません。

あと忘れてならないのが、今回のように元々輸送量の多いJRが止まった時に振替輸送先となる私鉄が受けきれない問題で、今回は横浜戦も止まったこともあり、いつもの京急に留まらず、横浜市営地下鉄ブルーラインにも振替輸送で乗客が殺到し、やはり混雑により遅延が生じます。当然状況によっては振替輸送先での人身事故などの二次災害も考えられます。日本の鉄道の弱点は混雑ということもできます。定時運行率が高いのも、遅延が発生すると実質的に輸送力が低下して混乱が長引くからということもあります。

加えて「ワタシニホンゴワカリマシェーン」な外国人観光客が巻き込まれるわけですから、ただでさえ省力化でぎりぎりのマンパワーで回している鉄道事業者にとっては災難です。結局自動改札の一部開放などで混乱を回避するしかないというスマートでない対応を迫られます。しかもSuicaなどのIC乗車券は振替輸送対象ではないわけですが、そもそも欧州で見られる運輸連合方式の共通運賃制度ならば、振替輸送そのものが不要なんで、五輪を契機に検討してほしいところです。

にも拘らず、交通政策基本法に基づく国の交通基本計画でも、抽象的な文言が並び、地域公共交通ネットワークの強化などのお題目は並ぶものの、運賃共通化には踏み込んでいません。その一方でLRTやBRTなどの表層的な定義(LRTは低床の次世代路面電車とかBRTはバス専用道や連接バスなど)をしたり、過疎地のデマンド交通を含めて裏付けが不明な数値目標が並んだりで、これでは単なるメニューの羅列に過ぎないわけで、具体的な改善につながるとはとても思えない代物です。

運輸連合方式による共通運賃の阻害要因は主に2つで、1つは鉄道事業法などの事業法で厳格な独立採算原則が与えられており、例えば同一事業者で鉄道とバスを兼業していても、両者それぞれで独立採算を求められます。その一方で同じ鉄道同志での内部補助は自明の前提とされているという縦割り構造があり、まして異なった事業者間の調整を困難にしていることがあります。実際に乗客から収受した運賃の分配が難しいわけですね。

もう1つは独占禁止法との関係です。運輸連合方式は独禁法上は価格カルテルと見做されますから、違反行為となります。それを公共交通の利便性向上でひいては利用率を高めることで公共性があるということを個別具体法で定義してやる必要があるわけです。ところが交通政策基本法にも地域公共交通活性化法にもそのような条文はありませんから、仮に事業者間の調整ができたとしても、独禁法の例外として公正取引委員会に認めてもらう必要があります。しかし現時点では法的根拠はないわけです。

東洋のような大都市で、しかも複数の交通事業者が関わっていて、且つ鉄道事業者同士でも賃率に開きがある状況では五里霧中ではありますが、特定都市鉄道整備促進特別措置法(特特法)で定義する手もあります。共通運賃エリアでは鉄道各社の上限運賃を超える水準の共通運賃を設定し、各社の賃率に応じて分配することで、超過利潤分の残額が出るようにして、その一部をフィーダー輸送を担うバス事業者へ配分し更に残りを特特法の本来の目的である輸送力増強投資の原資として非課税積立し、混雑緩和に必要な投資を後押しするという仕組みにすることが考えられます。高めの運賃設定は、中心部への過度の集中を抑制する意味もあります。

人口減少で通勤通学客が長期的に減少が見込まれる中で、鉄道事業者に大規模投資を控える傾向は否めず、混雑率は長期的に低下しても、混雑の解消は見通せない現状を変えるには、これぐらい思い切ったことをしないと無理でしょう。まして東京名物満員電車の体験乗車を目指す観光客が世界から集まるって、経済を支える現役世代の悲鳴が聞こえます。コンドルは飛んでゆくけど、混雑は飛んで来る(涙)。こんなインバウンドは嫌だと声を上げましょう。

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Sunday, August 02, 2015

21世紀のドイツ・イデオロギー

大草原wwwwwwww神宮の森

国立競技場計画の見直しで泣きを見るのは誰か|inside|ダイヤモンド・オンライン
高さ制限15mの神宮の森を再開発用地に化けさせるために新国立競技場の建設計画を露払いに高さ制限70mに緩和されたというお話。理論上は地権者の意見がまとまれば、ららぽーとやイオンモールのような大規模商業施設の建設も可能になります。現時点で地権者は沈黙してますが、再開発用地を作り出す手法は築地市場の豊洲移転を連想させます。被害者面の東京都にも利権の匂い。ちなみに白紙撤回されたはずの新国立競技場予定地の工事は続いています。政府も嘘つきです。

片や東芝の不正会計問題。元特捜検事の郷原氏の解説は明快です。

東芝は「社長のクビ」より「監査法人」を守った:日経ビジネスオンライン
第三者委の報告書は最初から監査法人を調査対象から外していて、狭い範囲しか明らかにしていません。これだけの不正を監査法人が気付かない訳は無いんで、東芝経営陣が嘘の情報を流していたか、あるいは大手企業と大手監査法人という通常無風の取引関係から阿吽の呼吸のお目こぼしか。いずれかが明らかにならないと刑事訴追は無理と。

特に後者の場合は深刻で、大手監査法人が監査した日本企業の決算は信用できないという見方がされるかも。ITバブル崩壊時の米エンロンやワールドコムの破綻に関連して大手会計事務所のアンダーセンも破綻しました。日本ではりそなグループの決算に関わった会計士の自殺という事件がありました。公的資金注入後、JR東日本出身の細谷社長が送り込まれ、監査法人を朝日からトーマツに変更しています。本来そこまで踏み込むべきですが、そうすると困ったことがありそう。

東芝の原発事業に1000億円単位の減損リスクも|inside Enterprise|ダイヤモンド・オンライン
2006年、原子力ルネサンスを掲げる米ブッシュ大統領が原発新設を解禁し、原発輸出の機運が高まる中、経産省の肝いりで米原子力企業のウエスチングハウス(WH)を東芝が買収したのですが、市場価格の2倍と言われる高値買収となり、多額ののれん代が発生。のれん代の償却は予定通り進行中と東芝は発表してますが、WHの事業がスカスカで、追加ののれん代の減損処理が発生しているのではないかと言われています。そんなときに監査法人を変更して資産査定のやり直しをされるのを避けたかったとすれば、東芝が歴代社長3人を含む取締役8人の解任までして守りたかったものが見えてきます。過去の決算で1,000億円規模の減損処理を強いられると、赤字化で繰り延べ税金資産の取り崩しになれば傷口を広げます。おまけ
米、日本政府を盗聴か 「ウィキリークス」が文書公開  :日本経済新聞
案外東芝は米政府の描いたシナリオに乗っかっていただけかも。裏は取れてませんが。

東芝は鉄道との関わりも深く、1899年(明治32年)には前身の芝浦製作所が京急の前身の京浜電気鉄道にモーターや台車、制御器などを納品しています。記録上国産最古のものですが、試作品の域は出なかったようです。日本の電気鉄道はアメリカのインターアーバンで技術を培ったアメリカの輸入品に依存していて、甲武鐡道の電車運転に始まり、国鉄、阪神など電気鉄道初期はほぼGE製品が使われ、東芝はGEと提携して技術を習得し、国産化にまい進します。同様の関係は三菱電機―WH、東洋電機―EEなどで、日立は独自に国産技術を構築して参入しています。WHは南海、大軌(近鉄の前身)、小田急など、EE(デッカー)は京阪、京成などのユーザーを獲得しています。

技術的には大胆なチャレンジもあって、TT1やTT2と呼ばれる直角カルダン台車を開発して東武や阪神へ売り込みましたが、保守面で課題が多く、後が続きませんでした。カルダンドライブは樹脂製たわみ板を用いた東洋電機のTDカルダンと三菱電機がWHの技術を用いたWNギヤカップリングドライブが主流となります。東芝はしばしばユーザー視点を見失うところがあるようです。その東芝が買ったアメリカの名門WHも歴史に翻弄されて抜け殻になっていたのかもしれません。

東芝の話が長くなりましたが、本題はギリシャ問題。結局ギリシャの何が問題でどう解決されたのか、日本のメディアではあまり伝わってきません。ギリシャ問題は日本の地方政治と通底する問題でもあるんですが、EUの開発プログラムで融資を受けて多数のインフラを整備したものの、特にオリンピック関連が顕著ですが、終わってみれば廃墟の山。低稼働のスタジアム等は維持費も出ない状況です。元々産業基盤の弱いギリシャではもてあましてしまいます。

ギリシャの主要産業は海運と観光と農業ですが、主たる外貨獲得手段の海運が早くからリベリアなどの外国船籍を用い安価な外国人船員を雇用して雇用面での空洞化が著しいものがあります。同様の海運大国のデンマークとは大違いで、しかも船会社のオーナーは資産をスイスなどに持ち題出して課税逃れが当たり前。黒字が内需に貢献せず政府も常に税収難にあえいでいました。

地政学的には西欧から東へ突き出した位置にあり、東西冷戦時には対ソ最前線ですし、またトルコと国境を接し中東イスラム圏とも近いということもあり、軍事費の負担が他国より大きいという傾向があります。観光は何しろ古い遺跡の保全がキモで、やはりコストはかかるし、またインバウンド需要を満たすためにリソースを取られるから、ほかの産業が育たない。そんな中で農業は比較的安定した産業基盤ですが、最大の輸出相手国がロシアでウクライナ問題による経済制裁で直撃されてます。加えて昨今の中東北アフリカの治安悪化による地中海難民が押し寄せてということで、いいとこなしの状況です。

で、時代に翻弄されるギリシャですが、ギリシャ自身の責によるものはオリンピックぐらいです。中東の治安悪化はアラブの春に乗じて軍事介入した英仏や反政府勢力を支援するアメリカなどの問題ですし、ウクライナ問題もアメリカの保守派がウクライナの右派セクターをけしかけたのは公然の秘密。加えてユーロ圏で勝ち組にのし上がったドイツのロシア嫌いが顕在化してウクライナ問題を膠着化させてしまったわけです。ギリシャ問題も債務減免を最後まで突っぱねたのがドイツですし、それ以前にEUの東欧圏への拡大も、元々ロシア嫌いのポーランドやバルト三国が加わり、更にウクライナまでもとなれば、ロシアの反発は当然でもあるわけです。

米英仏の中東介入はそれはそれで問題ですが、アラブの春に乗じたように、一応普遍的価値に乗っかる形を整えてますが、ドイツはどうもそうではなさそうだというところです。そんなんでタイトルを思いついたんですが、パリ・コミューンの攻防戦をドイツで見ていた若き日のカール・マルクスが、コミューンという市民自治の統治スタイルに未来を感じエールを送る一方、その実現を阻むものが資本主義的諸関係にありと喝破して資本主義批判に軸足を移すのですが、この時期の哲学草稿の有名なフレーズが「翻って我がドイツは神聖同盟の下で眠りこけている」とドイツの後進性を嘆いたのでした。

マルクスの没後、サラエボ事件からWW1に至る過程やWW1後にフランスが突き付けた無理な戦後賠償の結果ハイパーインフレに悩まされたヴァイマール共和国時代。その閉塞感を突き破って見せたヒトラーの台頭、そしてWW2へ進み2度目の敗戦となる歴史を、マルクスはどう評したでしょうか。地域性を止揚できないドイツの後進性を嘆いたのではないかと。

そのドイツを欧州のチャンピオンに押し上げたユーロ導入ですが、そもそもは東西統一で経済停滞を余儀なくされていたドイツのコール首相にフランスのミッテラン大統領が囁いた結果と言われます。フランスの本音は強するマルクをドイツに手放させることだったと言われますが、米FRBに倣ったと言われるECBの本部はドイツに置かれ、ドイツ色に染まっていきます。

ギリシャ問題に戻りますが、2009年のギリシャショックで債務の一部減免と追加支援の代償として緊縮財政を受け入れた結果、プライマリーバランスは黒字化し経常収支も黒字化。しかしGDPが25%縮小して財政赤字の対GDP比は17%から18%に悪化しています。つまり稼ぐ力を失って債務返済が進まないということです。これ以上の緊縮は無理とギリシャ国民が拒否したのは当然です。

そして「21世紀の資本」で資本主義の格差拡大プロセスをマルクスと異なったマクロ経済理論から説明したトマ・ピケティからも、WW2の戦後処理で債務を減免されたドイツに苦言を呈しています。思えばドイツのギリシャに対する仕打ちはWW1後のドイツにフランスが課した膨大な戦後賠償とも似ています。ドイツの指導者たちは不都合なことは忘れたんですかねえ。

てなことを見ていると、結構日本が心配になります。ギリシャの海運会社はまるで国内投資を抑制して世界へ出ようとする日本の自称グローバル企業の姿勢とダブりますし。インバウンド需要に浮かれる観光立国の危うさとか、朝鮮動乱以来のアメリカ保守派のテーマだった日本再軍備の最後のピースとなる集団的自衛権行使に突っ走る政権とか。そしてこんなニュースです。

TPP、大筋合意見送り 対立解けずと関係者  :日本経済新聞
日本の報道では地財や乳製品などで、やれカナダが、マレーシアが、ニュージーランドがと他国のせいにしてますが、実際の対立構図は単純で、ISD乗降を押し込もうとするアメリカとそれに同調する日本対他国ということで、日米両国が交渉を台無しにしているのが実態です。日本の国土防衛を約束しただけの日米安保を軍事同盟に昇格させるだけでは足りず、経済面でもアメリカのお先棒を担ぐ走狗と化しているのが今の日本です。またオリンピックに浮かれ財政再建も見通しが立たず、ギリシャに近づいていると感じるのは気のせい?というわけで、最後にこの言葉で締めます。
翻って我が日本は非対称同盟の下でアメリカン・イデオロギーに浮かれている。

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