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Sunday, August 09, 2015

混雑は飛んで来る

「桜木町で架線切断」と聞くと、戦後五大事故の桜木町事故を連想してしまうんですが、何の因果でしょうか。

京浜東北線、架線切れ運転見合わせ 駅間で停車も  :日本経済新聞
工事作業を誤って垂れた架線に電車が接触してショートして出火し全焼したものですが、戦時設計の元祖走ルンです^_^;モハ63の構造上の問題で、満員で乗客は逃げられず被害を大きくしました。事故を受けてパンタグラフ付近だけだった屋根の絶縁キャンパスを全面張りに改めたり、二段目がj固定で開口面積が狭い三段窓を全上昇式に改造したり、内開きだったために混雑が災いして開けられなかった貫通扉を引き戸に改造したり、乗客が操作できる非常用ドアコックが設置されるなどして、対策されました。

今回はみなとみらいの花火大会で混雑した結果、先行列車の遅れから停止した列車が、停止禁止のエアセクションで停止し、再力行時の大電流でショートして架線が切断し電車に接触したものですが、現代の電車は絶縁も難燃化も強固なものの、停電で長時間の運転見合わせとなりました。また乗務員の制止を聞かずにドアコックを開けて線路に降りた乗客が多数いて、線路が並行する東海道線や横須賀線もトバッチリを受けてしまいました。桜木町事故の因果は巡ります。

エアセクション停止による架線切断は2007年、さいたま市の高崎線でも同様の事故がありましたが、今回防げなかったのはATC設置区間だったからという謎な話。

京浜東北、停止禁止区間から発進 架線ショートし溶ける  :日本経済新聞
つまりATCでエアセクション停止を回避するようシステム化されていたのですが、花火大会の混雑で遅れが生じ、列車間隔を目視で低速運転する確認運転のために、ATCならば停止しない筈のエアセクションに停まってしまったわけです。他の区間は高崎線の事故で停止禁止の音声を流す装置が設置されたのですが、京浜東北線はATC区間ということで省略され、運転士もエアセクションを認識していなかったということです。マンマシン系インターフェースには思わぬ盲点が潜んでいます。

大量輸送に特化していて、とかくそれを揶揄されることが多い首都圏の通勤電車ですが、架線接触で燃えなかったという意味で、安全性は確実に進化しています。その一方で混雑率の数字上は改善されていても、定員超過が日常化している混雑の方は相変わらずというのが何とも複雑な心境にさせられます。世界的にも東京名物満員電車は有名で、昨今増えた訪日外国人観光客の体験乗車という話も。毎日混雑に揉まれる通勤客にとってはありがたくないインバウンド需要です。オリンピック大丈夫かい。スーパーシティの暑い夏です。期間中は積極的に休暇を取りましょう。

今回の事故もみなとみらい花火大会というローカルイベントが引き金を引いたわけです。花火見物は単独よりグループ利用が多いから、グループが固まって奥へ詰めないとか、浴衣に団扇で乗降にも時間がかかるとか、様々な要素が重なった結果かもしれませんが、オリンピックで不慣れな外国人客がグループで移動とか、混乱は覚悟した方が良いです。マジで。慣れた通勤客はらば混雑してもカオスにならないで済みますが、一見客にそれを期待することはできません。

あと忘れてならないのが、今回のように元々輸送量の多いJRが止まった時に振替輸送先となる私鉄が受けきれない問題で、今回は横浜戦も止まったこともあり、いつもの京急に留まらず、横浜市営地下鉄ブルーラインにも振替輸送で乗客が殺到し、やはり混雑により遅延が生じます。当然状況によっては振替輸送先での人身事故などの二次災害も考えられます。日本の鉄道の弱点は混雑ということもできます。定時運行率が高いのも、遅延が発生すると実質的に輸送力が低下して混乱が長引くからということもあります。

加えて「ワタシニホンゴワカリマシェーン」な外国人観光客が巻き込まれるわけですから、ただでさえ省力化でぎりぎりのマンパワーで回している鉄道事業者にとっては災難です。結局自動改札の一部開放などで混乱を回避するしかないというスマートでない対応を迫られます。しかもSuicaなどのIC乗車券は振替輸送対象ではないわけですが、そもそも欧州で見られる運輸連合方式の共通運賃制度ならば、振替輸送そのものが不要なんで、五輪を契機に検討してほしいところです。

にも拘らず、交通政策基本法に基づく国の交通基本計画でも、抽象的な文言が並び、地域公共交通ネットワークの強化などのお題目は並ぶものの、運賃共通化には踏み込んでいません。その一方でLRTやBRTなどの表層的な定義(LRTは低床の次世代路面電車とかBRTはバス専用道や連接バスなど)をしたり、過疎地のデマンド交通を含めて裏付けが不明な数値目標が並んだりで、これでは単なるメニューの羅列に過ぎないわけで、具体的な改善につながるとはとても思えない代物です。

運輸連合方式による共通運賃の阻害要因は主に2つで、1つは鉄道事業法などの事業法で厳格な独立採算原則が与えられており、例えば同一事業者で鉄道とバスを兼業していても、両者それぞれで独立採算を求められます。その一方で同じ鉄道同志での内部補助は自明の前提とされているという縦割り構造があり、まして異なった事業者間の調整を困難にしていることがあります。実際に乗客から収受した運賃の分配が難しいわけですね。

もう1つは独占禁止法との関係です。運輸連合方式は独禁法上は価格カルテルと見做されますから、違反行為となります。それを公共交通の利便性向上でひいては利用率を高めることで公共性があるということを個別具体法で定義してやる必要があるわけです。ところが交通政策基本法にも地域公共交通活性化法にもそのような条文はありませんから、仮に事業者間の調整ができたとしても、独禁法の例外として公正取引委員会に認めてもらう必要があります。しかし現時点では法的根拠はないわけです。

東京のような大都市で、しかも複数の交通事業者が関わっていて、且つ鉄道事業者同士でも賃率に開きがある状況では五里霧中ではありますが、特定都市鉄道整備促進特別措置法(特特法)で定義する手もあります。共通運賃エリアでは鉄道各社の上限運賃を超える水準の共通運賃を設定し、各社の賃率に応じて分配することで、超過利潤分の残額が出るようにして、その一部をフィーダー輸送を担うバス事業者へ配分し更に残りを特特法の本来の目的である輸送力増強投資の原資として非課税積立し、混雑緩和に必要な投資を後押しするという仕組みにすることが考えられます。高めの運賃設定は、中心部への過度の集中を抑制する意味もあります。

人口減少で通勤通学客が長期的に減少が見込まれる中で、鉄道事業者に大規模投資を控える傾向は否めず、混雑率は長期的に低下しても、混雑の解消は見通せない現状を変えるには、これぐらい思い切ったことをしないと無理でしょう。まして東京名物満員電車の体験乗車を目指す観光客が世界から集まるって、経済を支える現役世代の悲鳴が聞こえます。コンドルは飛んでゆくけど、混雑は飛んで来る(涙)。こんなインバウンドは嫌だと声を上げましょう。

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Comments

今回のトラブルは、鉄道のプロとしてのJR東日本に疑問を感じます。
標識や警告音がなければ何も考えずに止めてしまうというのは、あまりにもレベルの低い話です。

人口減少への対応として職人技を廃して標準化・自動化を進めるのはわかりますが、どんなに最先端の技術を導入しても最終的にそれを扱うのは人間ですから、現業がお猿の電車レベルでは困ります。というより、猿なら変に気を利かせて手動で制動かけないでしょうから、今のJR東日本は猿やロボット以下かもしれませんw

Posted by: yamanotesen | Monday, August 10, 2015 06:49 PM

装置化、自動化が進めばブラックボックス化する領域が増えるのは仕方ないところです。

私たちが当たり前に使っているWindowsでもレジストリいじってカスタマイズとかは既に一般ユーザーには手が出せませんし、むしろオンラインサポートに任せた方が良いわけですが、システムの完成度が上がったからできることでもあります。どこまで自動化しどこまで人の判断力に頼るのか、その設計は難しい段階にあります。

特に今回のようにイベント絡みだと、需要の上振れ度合いや上記客の行動などに予測困難な要因がありますから、機械任せだとだらだらと雪だるま式に遅延が拡大し、別の形のトラブルになっていた可能性もあります。東神奈川から磯子まで何本かの裏スジを引いて臨時を走らせるにしても、車両や要員の手配は事前にすませておく必要がありますし、結局失敗から経験値を積むしかないのが現実です。

昨今歩きスマホ原因の人身事故も増えていて、乗客の行動も読みずらさが増している中でのホームドア設置や、社会的要請に基づくバリはフリー化などを事業者の努力目標とするなど、それらの根源的な解決に必要な混雑の解消への投資が進まない現状は、やはりどっかおかしいのではないでしょうか。

Posted by: 走ルンです | Monday, August 10, 2015 11:36 PM

今日は。いつもブログを楽しく拝見しています。
最近、名鉄の岐南駅ポイント破壊の一件や、
この東日本の一件など現場の判断を疑う事故が
大変気になりますね。
北海道がヒヤリハットの塊みたいな状態だった事と同様
どれも大事には至ってないものの、何か危険な兆候が
現場で増えていやしないかと危機感を抱きます。
鉄道の様に巨大なシステムでは一つ一つのネジの緩みを
経営者が気づく事はまずない訳ですが、
多くの大事故はそれらが積み重なって起こっており、
尼崎のようになってから振り返るのでは余りに愚かです。
こういう所の危機感を鉄道事業者には強く望みます。

Posted by: ポポロ | Thursday, August 13, 2015 09:08 AM

コメントありがとうございます。18鉄してて遅レスとなりましたがご容赦ください。

現場のミスが疑われる事故として、JR西日本の山陽新幹線の部品脱落もありました。こういった単純ミスはなかなかなくなりませんが、それを前提とした安全対策というのが、所謂ヒューマンファクターの議論なんで、システムで対応する方向性でしょう。

その中での京浜東北線のトラブルですが、これは現場判断というよりは、マニュアル通りの対応が引き起こしたと考えるべきで、マンマシン系のトラブルでは多いものです。混雑に伴う駅ホームの人の滞留は直sつ的に人身事故につながる可能性もありますから、確認運転で可能な限り先行列車との間隔を詰めて、雪だるま式の遅れを防ぐのはある意味当然の対応です。混雑を前提とするとこうならざるを得ないというところです。

JR北海道のケースはむしろコストダウンの行き過ぎという原因が見えてますから、資金支援がないならサービス水準を落としてでもメンテナンスにリソースを割り当てる以外に出口はないわけで、やや性格が異なります。

というわけで、鉄道事業者だけの問題というよりも、社会全体で必要なコストをどう負担していくべきかといった議論が必要なんでしょうけど、政府もメディアも関心がないようで困ったもんです。

Posted by: 走ルンです | Saturday, August 15, 2015 07:04 PM

こんにちは。
桜木町の記憶も新しいところに今度は立川でケーブル火災。
またも帰宅難民をわんさと生み出すに至りました。
システムの高度化に伴い、ブラックボックス化が進む、
というご主張もわかりますが、後始末のグダグダ振りを見ると
JR東日本という企業に対して不信感を抱かずにはいられません。
電気を扱うのが苦手な企業、というイメージがより一層強くなりました。

それとは別に、代行交通機関の対応等、他社や地方自治体を巻き込んで考えていく必要がありますね。
一民間企業で対応できる範囲は限られるわけですから。

Posted by: blue sky | Wednesday, August 19, 2015 03:32 PM

コメントありがとうございます。遅レスご容赦ください。

中央線のケーブル火災ですが、現時点で原因除く方はありませんので、コメントしにくいんですが、電気鉄道にとって電力供給は急所ではあります。

毎回問題になりますが、今回も立川―西立川間で駅間で立往生した列車がありましたが、とりあえず駅へ収容するには、バッテリーを積むぐらいしか思いつきません。かつて貨物輸送花やかなりし頃なら、DD13などのディーゼルスイッチャ―がそこら中にいましたから、救援は簡単だったんでしょうけどね。

Posted by: 走ルンです | Thursday, August 20, 2015 11:04 PM

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