汗っかきと油売りと戦争
パリ同時多発テロを受けt戒厳化でスタートした国連気候変動枠組み条約締約国会議、通称COP21ですが、今回は市民デモ禁止という異常な雰囲気で開催されましたが、その是非はとりあえず脇へ置きます。
COP21、パリ協定採択 196カ国・地域が参加 :日本経済新聞途上国を含む排出削減目標の国連提出と国内対策実施が義務化されたことと、2023年から5年ごとに目標を見直し進捗を検証するメカニズムも採択され、大きな前進であることは確かですが、一方で京都メカニズムと称されたクリーン開発メカニズム(CDM)は見直されず、事実上日本の離脱で崩壊状態の現状はそのままです。
これは大変愚かなことでして、結果的に温暖化防止を先進国の責任とする途上国と先進国の間で、資金援助に関して対立を残したままとなっています。排出権クレジットの売買というCDMは、含意として先進国から新興国への資金援助であり、且つそれを市場メカニズムに委ねることで、対立を回避する普遍性のあるルールだったのですが、その意味で震災による原発停止を口実に離脱した日本の近視眼は残念です。ちなみに決めたのは民主党政権ですが、原発が全停止状態にあった2014年度の排出量を見てみましょう。
2014年度(平成26年度)温室効果ガス排出量速報値(2015年11月) 概要 [PDF 234KB]そう、減ってるんですよね。原発全停止で、しかも核燃料棒の冷却で化石燃料由来の電力を消費しながらです。ま、リーマンショックで経済が打撃を受けた2008年~2009年を底に経済の回復と共に増加に転じていますから、政権の読み違いを一概に批判はできませんが、アベノミクスとやらで株価も上がった2014年の減少は何なんでしょうか。ほぼ全セクターで排出量が減っている状況ですが、主に電力料金の値上げによる省電力の深化でしょう。原発を動かせば電力料金が安くなるという議論がありますが、原子力賠償法で東電以外の電力会社も資金を拠出していることをお忘れなく。原発を動かしても下がる理由はありません。そもそも原油価格下落で原発稼働の必要性はますます低下しています。
その原油価格の下落が止まらないわけですが、OPECの生産調整見送り、米シェールの新規投資こそ減っているものの、高効率油井の産出は高水準に加えて、イランの経済制裁解除もあって、供給のだぶつきは当面続く一方、価格下落に伴う需要の誘発もないという説明しにくい現実があります。特に経済成長に伴いあれほど消費量を増やしてきた中国で、明らかに消費量が減速しているわけです。
あくまでも仮説ですが、化石燃料の消費量が中国に留まらず新興国全般で減少していることに注目すると、むしろ工業化の行き詰まりと見るべきなのかもしれません。新興国の工業化は生産設備の世界への拡散となり、競争が激化します。その結果工業製品の低価格化、所謂コモディティ化によって新興国の経済成長自体が制約されているのではないかと思います。また中国に関しては既にポスト工業化段階に至り、経済のサービス化が進んだ結果という分析もあります。日本で中国人観光客の爆買いが見られるように中国の工業生産の減少イコール中国経済の減速ではないわけです。中国は先進国に近づいたわけです。
その一方で日本を含む先進国は、ポスト工業化で工業生産そのものが減少し、またCO2排出削減の取り組みで化石燃料の消費量も減らしてきた結果、供給が需要を上回る状態が続いているということでしょう。加えて消費国が低価格を利用して戦略備蓄を積み上げている状況ですから、多少の需要の上振れでは価格が戻らないという局面に至ったというわけですね。CDMに関しては「生産拠点が移動するだけで排出削減にはならない」という批判があったわけですが、意図とは別に事実として効果はあったと見ることができます。逆に不確実な未来に対して柔軟に対応できるという意味で、市場メカニズムを生かしたCDMはやはり優れているという評価が成り立ちます。
その結果こんなニュースが。
サウジ系、日本株運用縮小 上場企業の「大株主」半減 :日本経済新聞いやもう事態として逆オイルショックといえる段階ではないかと思います。産油国の国富ファンド(SWF)が世界規模のリスクオフを動機づけることになりそうです。前エントリーで取り上げた日本のGDPも改定値が発表されまして、速報値の年率マイナス0.8%から年率プラス1.0%と大幅条項修正されましたが、その理由がいただけません。
商業動態統計の9月速報値、在庫集計でミス GDP改定幅に影響 :日本経済新聞ブレガ大きくなった原因と考えられるのが、商業動態統計の9月速報値で前年比10.8%減だったものが確報値で0.4%増と大きくブレたことが指摘されてます。経産省によると調査票未提出企業の数値を速報段階で推計せず除外していた可能性があるということです。注意が必要なのは、在庫減少は企業に設備投資を促すから景気にプラス、逆に在庫増は販売不振で在庫調整が滞っているからマイナスとなる事象なので、GDPの上方修正に関わらず景気後退の証拠という点ですね。
その一方で設備投資が増えているのですが、製造業よりも流通や小売りなどの部門ででの話で、一つはネット通販の増加に伴う巨大物流センター、そのほか小売りや飲食などの店舗への投資の増加が特徴的ですが、その裏には客を失うリアル店舗があり、そのリアル店舗は改装や業態転換を迫られということですから、これも景気回復の証拠とするのは無理でしょう。ま、GDPはしょせん推計値に過ぎませんから、数字がどうあれ実態は変わらないわけですが。アベノミクス風前の灯火。増税して軽減税率とか目くらましには相変わらず熱心ですが。
ま、というわけで、1年前のエントリーのタイトルを借りての新エントリーですが、原油安による油売りのチキンレースをよそに、汗っかきの知恵が試される局面で、果たしてパリ協定が実効性のあるものかどうか、疑問は尽きません。CDMの放置のみならず、グローバル化で需要拡大が続く運輸部門の排出削減は手つかずのままです。自動車の燃費は確実に改善されてるのですが、それ以上に台数が増えて排出量は増えてます。原発がCO2排出削減に寄与しないように、自動車の燃費改善も排出削減への寄与につながらないということです。そんな中でVWのような不正事件が起きていることもまた見ておく必要があります。原発に踊って会社を傾かせた東芝もそう。来る水素社会を標榜するトヨタにもどんな落とし穴があるか予断を許しません。
そんな中で一瞬こんなニュースに眩暈くらくら
。日印、原子力協定で原則合意 高速鉄道に新幹線方式採用 :日本経済新聞NPT非加盟のインドとの原子力協定の意味わかってんのか?それに目をつぶっても東芝がWHで痛い目にあっている一方で、やはり経営不振の仏アレバと三菱重工のカップリングは悪い冗談にしか見えませんが。まして原油安は原発にとってコスト競争がシビアになるわけですから、これ悪い汗っかきですね。
新幹線の売り込みはインドネシアで失敗したばかりです。今回はJR東日本と川崎重工のペアで、現実的な対応は期待できるものの、そもそもガラパゴス化した日本の新幹線規格から離れないと、連戦連敗は間違いないです。特にコスト面ですが、インドネシアの失敗を受けて円借款を大盤振る舞いしてますが、
というわけで、頭の悪い汗っかきと追い詰められた油売りがシリアで戦争という環境もへったくれもない現実をどう評価すべきか。気候変動問題は安全保障に直結する問題だという認識は少なくとも日本では見られません。困ったもんです。
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