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January 2016

Sunday, January 31, 2016

引く手あ、まった!

いやはや、黒田日銀の暴走ぶりは留まることがありません。というか、異次元緩和以来、はっきりしたことはただ1つ。何でもありの緩和至上主義で、明言されている目標も曖昧化しているということ。物価目標も緩和継続による裏の目標である円安誘導の方便じゃないかと疑っております。国民にとっては盗っ人に財布を握られたようなもの。アベコベ相場に繰り出した日銀の追加策のしょーもなさが今回のテーマです。まずは政策の概要です

日銀がマイナス金利 その仕組みと揺れた判断:日本経済新聞
端的な解説としてはこれがわかりやすいと思います。つまりはマイナス金利といっても、日銀当座預金の法定準備預金額を超える部分に現在0.1%の利息をつけていますが、今回はその部分は現行通りで触らず、今後増える部分については-0.1%、つまり逆に銀行が日銀に金利を支払うというもので、法定準備額はゼロ金利(当座預金だから当然ですが)、それを超える部分についてプラス部分とマイナス部分を設けるというややこしいものですが、多分激変緩和で、今後の推移次第では見直しも含むものと考えられます。一言で言えば奇策中の奇策で、市場にサプライズを与える以外に効果は殆どない上に、従来の異次元緩和政策とは矛盾した部分もあります。

そもそも当座預金に利息が付くのはおかしなことなんですが、これ量的金融緩和をスムーズに遂行するためのもので、米FRBが始めて白川総裁時代の日銀が取り入れたものですが、要は信用力があって担保価値のある国債を銀行が持ちたがるのを買い上げるわけです。国債は流通市場での値動きはあるものの、満期まで保有すれば元本は保証されますが、それを日銀が買い上げれば金利の付かない当座預金との交換ですから、利ザヤ稼ぎの銀行にとっては痛し痒しなわけですから、見返りにごく低い利息をつけて国債を手放しやすくするという意味があります。加えて誘導目標の金利を残す意味もあります。非伝統的と言われる量的金融緩和でも、中央銀行の政策目標はあくまでも金利であるという基本を失わない意味があります。

それが異次元緩和ではベースマネーを増やしてやれば、人々にインフレ期待が生じてデフレマインドを一掃し2%の物価目標を設定するという風に説明されています。マネー供給を増やせばインフレ期待が生じるというのはおかしな議論なんですが、実際は国債を大量に買い上げて国債流通市場を干し上げることで、国債に張り付いている銀行の資金を融資に振り向けさせる狙いで所謂ポートフォリオリバランスと呼ぶものですが、銀行は日銀の国債を高値で売ってその資金で新発国債を購入しますから、いつまで経っても融資が増えないわけです。そもそも低金利だと銀行の利ザヤの元となる長短金利差も縮まってしまいますから、国債市場を干し上げれば銀行が融資を増やすという経路が説明されてますが、実際は企業の資金需要そのものが乏しく、融資は増えません。マイナス金利もこの面では効果は乏しいと見て良いでしょう。

真の狙いは国債金利の圧迫で通貨安狙いというわけですね。新年早々進行した円高の阻止で追加緩和を市場からせがまれていた状況で、何もしないわけにはいかなかったのですが、既に2014年10月の追加緩和で国債買い取り額を50兆円から80兆円に増やしており、国債市場の規模からいえば、あと20兆円増やすのが精一杯ですが、それを使えば以後の政策対応の手段がなくなる最後の手でもあり、それは温存したのが日銀の本音です。追加策の使いどころは来年4月の消費税増税にありというわけですね。故にこれまで否定し続けてきたマイナス金利を突然導入するということで、日銀審議委員の中からも「手詰まりを市場に見透かされる」という理由で反対意見が出たぐらいです。

てなわけで、市場も意図を図りかねて乱高下したわけです。サプライズはあったものの、こうした一過性の効果をどれだけ積み重ねても、動き出したリスクオフの動きは止められません。あと、当面のプラス金利とマイナス金利の併用局面では大きな動きはないでしょうけど、銀行にとっては利ザヤの圧縮が進むわけで、ますます融資を渋るようになります。そればかりか、いずれ預金の利息もゼロからマイナスにということもあり得ます。実際マイナス金利を導入したデンマークやユーロ圏諸国などではそうなっています。国民の対抗策は現金を引き出してタンス預金となると、逆効果になるわけですが、そこまで踏み込むかどうかは現時点では不明です。

というわけで、いよいよ迷走する黒田バズーカですが、出口戦略がますます困難になり、正常化は黒田総裁の任期中には無理な状況です。その間に財政再建も進まず通貨の信任を棄損して、将来世代に大きなツケを回すことになります。すでに日本の経済規模は基軸通貨であるドル建てで2/3に減価しており、2010年に逆転された中国とはすでに倍以上の差をつけられている状況を直視すべきです。その中国は現在資金流出が止まらず、人民元安を阻止しようとしています。通貨安が国益に反するからですね。あえて円安にして通貨の信任を棄損し富を減らす日本のありようは異常です。

閑話休題。金利の英訳はi nterest で、利子、金利のほか、興味、関心の意味もあります。通貨当局の暴走にinterest を失わないことが大事です。「黒田バズーカ」を礼賛するリフレ派の議論はすでに破たんしており、例えば原油安で物価が下がったというのは、リフレ派の議論では特定品目の値下がりは他品目の有効需要を押し上げるから一般物価はむしろ上がるというのがありましたが、見事に外れてます。というか、元々値動きの大きい生鮮品とエネルギーは外すのが常識で、所謂コアコア指数というのですが、米FRBはこれを物価指標としています。日銀の異次元緩和ではなぜか生鮮品のみを除外したコア指数を指標としており、元々ここに誤魔化しがあったのですが、裏の目的である円安が実現すれば物価は上がるわけで、実際食料品などは値上がりしており、日銀もそれを理由に成果を強調しています。全くふざけた話です。「黒田バズーカ」からマイナスされたのは interest ではなく intellect (知性)ではないのか。つまり「黒田バカ」^_^;。

日銀が銀行に融資を促すのは、ある意味当然ですが、少なくとも国内には融資案件が見当たらないのが現実です。2003年のソニーショック以来続く日本の電機メーカーの逆風は終わらず、未だに過剰設備に苦しんでいて、しかも産業革新機構のような官製gファンドに助けられて延命している状況をどう見るのか。中国のバブル崩壊と過剰設備は以前から言われておりましたが、中国当局は元高を維持して過剰設備の解消に踏み込んでいます。今の中国の減速はその結果なわけで、痛みを緩和して問題を先送りして結果的に国力を低下させている日本の方が問題です。今回も中国ショックのような言われ方をしていますが、国内の産業構造転換ができない日本の問題なんです。

で、民間投資が増えないから公共投資を増やして景気浮揚というのですが、これは1930年代のような真正デフレのときならともかく、今の日本ではむしろリターンの少ない非効率な投資が行われて結果的に国全体の生産性を下げています。そんな中でこんな救いのないニュースが。

JR北海道が道内全線区で赤字 14年度、札幌圏も26億円  :日本経済新聞
JR北海道の劣化は止まらないばかりか、当面赤字確定の北海道新幹線まで引き受けなければならないわけですが、道庁をはじめ地元自治体はJR北海道に自助努力を求めるばかりです。投資収益逓減の法則はこうした末端で出現し、ジワジワと拡大していくものです。以前から整備新幹線の問題点を指摘し続けてきましたが、将来性のない中途半端な投資を積み重ねても、むしろメンテナンスで足を引っ張るだけというのが如実に現れてます。

JR北海道に関しては以前からローカル輸送からの撤退を提言しております。元々国鉄分割民営化時に安易な値上げはしないという「公約」があって運賃改定もままならず、特に通学定期券の割引率が私鉄やバスより高率なままとなっている一方、JR北海道のように札幌都市圏以外では事実上通学にしか利用されていないローカル列車の維持は原価割れ輸送そのものです。実際割引率の差でJR高山本線と並行する名鉄各務原線や名松線と並行する近鉄大阪線・山田線では、通学利用がJRに流れている現実があります。いずれも収益性の高いJR東海だから維持できているので、JR北海道では無理です。象徴的なニュースとして石北線上白滝駅の最後の1人の女子高生が卒業と共に駅の廃止が決まり、メディアを賑わせましたが、そこからこの通学定期券のよる実質原価割れ輸送の問題に切り込んだ報道は見られません。ここを何とかしないとJR北海道は救われまあせん。

地域の足を守るというなら、イギリスに倣ってフランチャイズ制を導入する手があります。地元自治体やバス会社が出資した三セクで第二種事業者としてローカル列車を運営するわけですが、参入のハードルを下げるために、資産である車両や乗務員はJR北海道への委託を認め、運行管理やメンテナンスはJR北海道で一元化し、運賃は上限だけ定めて自由化するというような形にすれば、バス事業者にとっては鉄道を軸とした路線再編で需要掘り起こしの余地が出てきます。整備新幹線の並行在来線切り離しが認められるなら、これぐらいは可能なはずです。

加えてJR北海道に残る都市間輸送分野も新幹線頼みができない以上別の方法を考えるべきです。そこにこんなニュースが。

(ビジネスTODAY)ハワイ便、運賃競争再燃 ANA、エアバスA380導入を発表 座席数で日航追う :日本経済新聞
これデルタと争ったスカイマーク争奪戦でANAが繰り出した必殺技だったA380引き受けの結果ですが、ANAは抜け目ないというか、発想が戦略的です。欧米などの長距離路線への投入にはたった3機では遣り繰りができませんから、近場の海外と言えるハワイ線で、しかも需要は旺盛な割にJALの6便に対して4便と劣勢な中で、座席集で優位に立とうという戦略です。加えて言えばビジネスユースの強い欧米路線では大型機で便数を集約すると利便性が低下するということもあります。転んでもタダでは起きないですね。教祖の激しい航空業界らしい話です。

これと比較して整備新幹線問題で右往左往するJR各社の近視眼ぶりが残念です。JR北海道本体のてこ入れは航空業界とのコラボが望ましいいのではないでしょうか。昨今北海道を訪れる外国人が増加しているんですから、対東京の速達性よりも外国人観光客の誘致に力を入れたほうが活性化につながるわけで、道庁もHACに肩入れするぐらいなら、JR北海道に資金提供して航空との連携を深める方向で対応すれ良いと思います。あるいは場合によっては航空会社に経営をゆだねることも選択肢になります。整備新幹線問題はドル箱の国内航空を圧迫するものとして対立意識が強いですが、東京から5時間かかる新幹線に期待して財政支出するよりもずっとましな地域活性化策となります。銀行の融資拡大から大幅に逸脱いたしましたが^_^;、リターンの見込めない投資をするぐらいならば見直し引き返すことも重要です。新幹線は魔法の杖でも打出の小槌でもないのです。

それともう1つ。やはりJR北海道がらみですが。

日高線復旧費、8億円増 JR北試算で38億円に  :日本経済新聞
日高線は高波被害で長期運休中でいまだに復旧のめどが立っておりません。運休が長引けば結局鉄道がなくても何とかなるとなって未来が閉ざされるわけですから、危機的です。そういえばJR東海の名松線末端部こそ復旧が決まりましたが、今年3月26日改正でやっと運転再開です。JR東日本では大船渡線、気仙沼線、のBRT化と山田線(宮古-釜石)の三陸鉄道移管による復旧が決まった一方、只見線(会津川口―只見)は放置されています。ローカル線の存続問題はJR北海道だけの問題ではないのですが、結局利益誘導の果てに強引に建設されたローカル線がJRの経営の足を引っ張る構図です。投資案件の取捨選択がいかに重要かいい加減気づけよ(怒)。

おまけ。記事中の貨物新幹線はできの悪い官僚の思い付きに過ぎません。上下50本の貨物列車の存在が営業最高速度140㎞/h制限の理由ですが、それを解消するために貨物列車を200㎞/hで走らせようというわけですが、新幹線の構造規則上、軸重16t*4軸*16両=総重量1,024tの構造物荷重を想定しており、ギリギリ1,000t列車を置き換えられますが、そのためにコンテナの積み替え行う分のロスは考えていないんですね。E5系量産車10連の空車重量が455tで積車重量500t未満と半分以下ですから、そんな列車を200㎞/hで走らせれば線路のメンテナンスに負荷がかかります。フリーゲージ以上に実現可能性は低いと言わざるを得ません。

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Sunday, January 24, 2016

ギグ老いるショック

新年早々からのアベコベ相場も21日22日のNYダウの戻りで一服感ですが、安心して下さい(笑)。下がりますwww。1点指摘すれば、外国人投資家が売りに回っているのですが、主に産油国の国富ファンド(SWF)の売りです。原油安で財政が逼迫して資金繰りのために売りに転じたわけですから、この動きは原油価格と連動して今後も続くわけです。当面は様子見が賢明です。てなことで、本題です。、

急成長するタクシー配車システム「ユーバー」が抱える訴訟問題|ビジネスモデルの破壊者たち|ダイヤモンド・オンライン
ウーバー運転手のかなり曖昧な「雇用形態」 | The New York Times | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準
ギグ・エコノミーのギグは、ジャズなどのアドリブのセッションのことで、転じて昨今増えたITを活用した細切れ時間労働を指す言葉です。日本流に意訳すれば「日雇い経済」あたりでしょうか。日本でもルームシェアやライドシェアを特区で解禁が議論されてますが、シェア・エコノミー先進国アメリカでは議論が次のフェーズに進んでいます。

民主党の大統領候補のヒラリー・クリントン氏が大統領選出馬表明の演説でギグ・エコノミーの言葉を用い、その先進性を評価する一方、雇用者として保護されていないことを問題視して大統領選の争点としたもの。そんな背景を頭に入れると、上記の2つの記事は示唆に富みます。UberやLyftなどのシェアライドアプリで快進撃中のITスタートアップ企業が、実はてんこ盛りのトラブルを抱えているということです。

例えばUberのドライバーが事故を起こした事例では、被害者児童の両親がUberに損害賠償を請求したものの、Uber側はドライバーが乗客搬送中ではないことを理由にこれを拒否し、訴訟になっているのですが、タクシーやハイヤーなどの有償運送事業者ならば雇用主である企業の責任は当然問われますが、その部分が曖昧になっているわけです。またオンデマンドのフードデリバリーサービスを展開するマンチュリーという企業の事例で分かるように、需給のマッチングや配送サービスの質の観点から問題が出て見直されたケースもあり、サービスベンダー側からも、問題点が認識され始めたわけです。

こうしたオンライン・ギグ・エコノミーに在来型の雇用契約を適用しようとすると、硬直的になり、利点である任意性が損なわれる一方、保護されていない非正規雇用の側面は厳然と存在しているということで、見直しの機運が出てきているのです。政府主導でシェア・エコノミーに前のめりな日本の周回遅れぶりは相変わらずですが、それに留まらない問題点を指摘したいと思います。

バス運転手、経験不足か 軽井沢の事故  :日本経済新聞
スキーツアーバスの重大事故ですが、その後の報道で定点カメラの映像でブレーキランプが点灯したままだったこと、乗客証言でギアがニュートラル位置にあったこと、タコグラフで事故当時80㎞/h程度のスピードだったことなどが明らかになります。経験不足のバスドライバーによる操作ミスでスピードコントロールできない状況だったと考えられます。

運行担当のバス会社ESPが批判の矢面に立たされてますが、一義的な責任はツアーを主催した旅行会社にあります。選んだバス会社のESPが2日前にも国交省から処分を受けるなど、安全運行を担保できる事業者と言えない状況があり、また改定された標準貸切バス運賃の下限を下回る金額で運行を請け負わせていたなどです。とはいえバス事業者の責任は当然問われます。

議論を端折らせていただきますが、ネットで小泉改革の規制緩和のせいとする声が多数ありますが、正確には需給調整規制撤廃による参入規制緩和は90年代後半、橋本政権下で着手され小泉政権はそれを引き継いだだけですが、事業者の免許制が認可制に緩和された結果事故が増えたというのも、注意が必要です。というのも、参入規制の緩和で事業者自体が増えてますから、統計上事故が増えているのはそれ自体はある意味当然の結果でもあります。問題は規制緩和以前から存在した白バス問題という前史があります。

例えばレンタカー会社がドライバー付きでバスをレンタルするとか、宿泊や行楽施設の送迎用自家用バスで長い距離の送迎運行でコストは宿泊費に乗っけられていたりとか、いくつかのバリエーションはありますが、ドライバーは日雇いの契約社員だったりして明らかな法令違反なのに実質取り締まりは緩く野放し状態だったわけで、これらが新規事業者として認可を受けたものが新規事業者の中で大きなウエートを占めますから、実態を見る限り、あまり変わっていないとも言えます。むしろ半ば公然と行われていた法令違反に法の網を被せたとも言えるわけで、単に問題が見える化しただけとも言えます。ただし国交省による監査体制には課題があります。

かくして急激に増えた事業者の監査要員は特段増員されたわけでもなく、また警察、検察、国税、公取、労基などのように強制捜査権があるわけでもなく、全事業者が定期的に監査を受ける体制にはなっておらず、法令違反を抑止する力が弱いわけです。業界団体の日本バス協会(NBA)への指導はたびたびおこなわれてますが、新規事業者はほとんど加盟しておらず、実効性は乏しいところです。またNBAの存在が微妙でもあります。

民営化前の国鉄バスはNBAの前身の日本乗合自動車協会に加盟できなかったどころか、対立関係にあり、日乗協は事あるごとに国鉄バスの民業圧迫を非難してきた歴史があります。その結果国鉄バスの四原則として鉄道の先行、代替、短絡、培養に該当する路線に制限されていました。その後高速バス参入に関連して補完を加えた五原則となりましたが、これもかなり揉めた挙句のこと。結局分割民営化されて地域のバス会社となってやっとNBAに加入できたのですが、このことが示すように既存事業者の利害を代表する既得権団体でもあるわけで、新規事業者との間には利害対立があり、結果的に加盟社は全事業者の半数に満たないわけで、事故や法令違反があっても、今回もそうですが、NBAに指導するというアサッテの対応になってしまうわけです。NBA自体に排他的なところがあるわけで、実際に法令違反を繰り返す中小零細事業者への指導は届かないわけです。

今回のESPの場合も、事業者として問題だらけで国交省の処分の常連であったとしても、発注する旅行会社があり、また今回の65歳のドライバーのように、大型二種免許所持者であっても、送迎などで小型車の運転実績しかない高齢ドライバーを大型バスの長距離運行に乗務させるってのは非常識ではありますが、上記の白バス時代からの慣習を引き摺る新規事業者であれば、それほど突飛なことではないわけです。選んだ旅行会社も責任重大です。

というわけで業界全体を見渡せば法令違反は珍しくない状況で、しかも高齢化の進捗でドライバーの確保が難しくなると、経験不足で不適格な高齢ドライバーでも声がかかるし、またこういう低スキルのドライバーは大手事業者では雇ってもらえないから、中小零細事業者で、しかも日雇いの契約社員として仕事を確保するしかないということになります。というわけで、今回の事故を規制緩和の弊害、副作用とする声には疑問を呈しておきます。むしろ雇用問題として捉えるべき問題ということです。

規制緩和の影響を言うならば、バス事業そのものが既に儲からない事業になっている中で、高速バスと貸切バスが収益の見込める成長分野だったから、新規事業者がまず貸切バスへ参入し競争激化で貸切運賃が下落し、かくして安値請負で仕事を取る新規事業者の存在がツアーバスの拡大を促し、都市間輸送を担う高速乗合バスと競合する高速ツアーバスへと発展し、一国二制度状態となって民主党政権時代に問題視され、見直し議論の中で関越道バス事故が起こり、高速乗合バスの参入条件の緩和で一本化する形で統合されたのは過去エントリーで述べております。

その中で格安ツアーやインバウンドなど価格訴求要素の強い分野が貸切バスに残っていて問題が起こる可能性ありと述べておりますが、不幸にも的中してしまいました。主にドライバーの待遇改善の観点から標準貸切バス運賃基準が改訂されたばかりですが、それによって儲かる事業と見做されてバスの台数は増えたものの動かすドライバーが不足することになり、また大手事業者ほど運賃基準を順守する傾向にありますから、中小零細のダンピング営業には追い風になるなどして皮肉な結果です。これに関連してこのニュースを取り上げます。

東京労働局、バス会社を捜索 軽井沢の事故で  :日本経済新聞
所謂36協定違反の疑いですが、こう言っちゃ何ですが、日本で労基法に基づく36協定があるのはほぼ大手企業に限られます。中小企業はそもそも労使協定を結ぶにも組合がなかったり、あっても「会社潰す気か」の脅し文句で機能していないのが現実です。そういう中で安値請負の仕事を無理な条件で引き受けざるを得ないドライバーは少なからずいるわけです。

で、冒頭のギグ・エコノミーに関連してですが、日本ではITスタートアップ企業によるオンライン・ギグ・エコノミーには無縁でも、実質的に雇用者として保護を受けていないブラック・ギグ・エコノミーは蔓延しているというわけです。この現状認識を持たない限り解決策は見いだせないでしょう。むしろ問題は高齢者にもっと働いてもらおうという1億総なんちゃらだったりします。背景には年金支給の減額も作用していると見るべきでしょう。

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Sunday, January 10, 2016

アセット・バブル・エコノミクス・コーポレート・ベンチマーク

Asset Bubble Economics Corporate Bentchmark 略して ABECoBe(アベコベ)てなネタですた^_^;。

思えばアセット・バブル・エコノミクスをアップしてはや3年余り。正直申し上げまして当時はまだ冗談半分のネタでしたが、実際に踏み込んで現在に至るわけですが、当時はいくら安倍晋三がバカでも、ここまではしないだろうと、あるいは本人バカでも周りが止めるだろうと。いずれも裏切られました。自民公明の現政権与党は、支える官僚込みでバカ集団ですわ。またそれを支持する財界も矛盾を突かないメディアも、バカの三役そろい踏み。なるほど安保法制も通るわけだし、いずれ戦争もおっ始めるかも。今国会でもこんなやり取りが。

安倍首相、妻がパートで働き始めたら「月収25万円」 例え話が波紋
雇用の増加が平均賃金を下げているたとえ話のつもりだったようですが、いろいろな意味で安倍晋三のバカさ無知さをさらけ出してしまいました。簡単に計算すると、主婦がパートで月25万円稼ぐと仮定すると、パートとはいえ正社員並みのフルタイム週5日1日8時間勤務で月22日勤務として176時間ですから、25万円/176時間≒1,420円となり、最新の最低賃金改定値の全国加重平均786円の約1.8倍で現実離れしているわけです。加えて言えば扶養控除を巡る103万円の壁問題で、女性活躍のために扶養控除見直しをぶち上げたの誰でしたっけ?って話もあります。主婦のパートが多くの場合扶養控除の範囲内となる年103万円以下に抑える傾向は以前からあったわけで、これを満たす水準は月6万3千円余りに過ぎません。それをなくして大いに稼いでもらいましょうという政策を提案しているご当人が、こんな基礎的な算術で躓き炎上ってシャレになりません。恥ずかしすぎるわ。

ことほど左様に思い付きとしか思えない政策を打ち出して、結果の検証なんてできませんから、またぞろ新手の政策を打ち出しの連続で、結果なん出ないわけですが、特に財界が評価するのは円安株高を実現したことの1点に尽きるのでしょう。これも正確に言えば、リーマンショック後の円高株安が反転したのは2012年11月ごろで、野田政権の時代でした。これは単純に世界経済がリスクオン、になっただけで単純な経済循環の結果に過ぎないんで、だれが政権にいても変わらないものです。

このリスクオン/リスクオフというのは、金融取引の国際化が進んだ結果、世界の余剰資金が瞬時に動いて相場を動かす現象です。かつて海外送金しようとすれば、外貨建て為替を当日の相場で購入し、それをエアメールで送るとか手間がかかったわけですが、今やクリック1発ですから、日米欧中心に中央銀行が通貨供給量を増やしても、それが国内の流動性を高めるとは限らず、世界中を駆け巡るわけです。中国をはじめとする新興国の台頭は、工業化の遅れで国内の資本構築が遅れていた国々に外部から資金がもたらされた結果と見れば、不思議でも何でもないわけですが、資金の出し手は主に先進国や資源国の余剰資金ですから、何らかの理由で流動性が変化すると、資金が引き揚げられたりもするわけです。1997年のアジア危機や98年のロシア危機などがそれですね。

リーマンショックも同様ですが、ちょっと違うのがアメリカ自身の金融緩和よりも、主に日本の量的緩和の影響を指摘できます。つまり低金利国の日本で資金調達してアメリカ経由で世界へ投資された資金の変調と見ればわかりやすいのですが、ゼロ年代にアメリカの金融仲介機能はかくも肥大化していたわけです。リスクオン/リスクオフというのは、専ら資金の出し手の強気/弱気に対応したものということですね。国内資金余剰を抱えながら金融緩和が続く日本はその出し手側というわけです。つまりグローバル経済の中での流動性の変化に対して脆弱な位置にいるというわけです。

アベノミクスが本格的に始動したのは2013年4月に黒田総裁が打ち出した異次元緩和(QQE)からと見て良いですが、この時点でドル円100円前後の水準にありました。QQEの結果円安が進んで現在120円前後まで進んだんですが、それによって企業決算は軒並み好決算の一方、輸入価格の上昇で家計の実質所得はマイナスです。その結果国内消費は弱く、経済亜足踏み状態です。7-9月のGDP速報値のマイナスが改定値でプラスに転じたことが話題になりましたが、統計の正確性云々よりも、誤差範囲程度の成長率の低さこそが実態です。つまりアベノミクスは経済として効いていないことがバレてきたと。ま、裏の目的が実質的な円安誘導ですから、その意味では大成功なんですが、恩恵は企業に偏っているわけです。

でも日銀は物価動向に拘りがあるようで、原油安を受けての2014年10月のハロウイン緩和みたいな余計なことをして批判を浴びるわけですが、それでも黒田総裁が強気を崩さず、2%の物価目標を取り下げない理由はおそらくGDPデフレーターの動きだろうと思います。QQE後も目立って動かなかったんですが、2014年4月の消費税増税でプラスに転じ、その後じりじり上げているのですが、これつまり政府が音頭を取ってやった消費税増税分の価格転嫁がきかけで、それに尾錠してコスト上昇分の転嫁が始まったと見ることができます。特に原油価格の下落は追い風で、その結果食料品を中心に価格転嫁が進んだわけですね。

GDPデフレータはGDPの名目値と実質値の差で、長くマイナスが続いていたわけですが、それが反転したことを以てデフレ脱却と見ているようです。その結果QQEを続ければ物価目標は後ずれはあっても達成されると見ているようです。注意が必要なのはGDPデフレーターの統計数字としての性格でして、国内物価の上昇分は付加価値の増加として算入されて名目値を持ち上げる一方、輸入物価の上昇分はコストに算入されて実質値を押し下げますから、単純な輸入物価の価格転嫁がダブルで計上されて大きく見える点です。

しかも輸入物価上昇分の価格転嫁が終わればそこまでの一過性の現象ですから、これが続くためにはさらに円安に誘導しなきゃならないわけで、それは歓迎されないし、結局家計所得を増やすしかないから、政府だけでなく日銀までもが企業に賃上げを要請するという倒錯した事態に至ります。本当は原油安の恩恵を最大化し家計実質所得を押し上げるために物価目標を取り下げてQQEを終わらせるのが通貨当局として正しいのですが、真逆の判断をしているわけです。

かくして米FRBの年末の利上げをきっかけにリスクオフが鮮明になり、日本株は新年5日続落と戦後初の動き。いやこれは中国の失速のせいだと言うなかれ。中国人民元の下落は香港などのオフショア市場の先物主導で進んでおり、米利上げによる資金の逆回転を見込んだ投機の結果です。投機ですから短期で終わっていずれ落ち着くと思いますが、米利上げで中国から資金が流出するという連想からの商いですから、米利上げが起点です。ま、中国当局の経験値の低さが火に油を注いだのは間違いないですが。てなわけで、タイトルのアベコベが今後進むわけです。謹んで新年のお祝いを申し上げますwwwwwwwwww.

で、めでたいニュースを2つ。

北海道新幹線・東京―新函館北斗 最安で1万5460円  「青春18きっぷ」追加料金で乗車可に :日本経済新聞
北陸新幹線、大阪延伸ルートで新たに2案 協議難航も  :日本経済新聞
北海道新幹線の開業で在来線が分断されると、青春18キップの扱いがどうなるか注目されましたが、在来線乗り継ぎのつなぎという名目で2,300円のオプション券を追加して乗車できるようにという妥当なところに落ち着きました。めでたい。

2つ目は北陸新幹線の敦賀以西のルート問題。こちらは着地点が見えませんが、元々弦が開業時点でフリーゲージトレインを導入して湖西線経由で京都・大阪へというJR西日本の目論見が、当のフリーゲージの開発が進まず事実上白紙となり、焦ったJR西日本が小浜京都ルートを持ち出して迷走したわけですが、利害関係がかなり複雑です。事業性を考えれば米原ルート1択でしょうけど、それだと大都市側をJR東海に依存してJR西日本としてはうまみがない。加えてアーバンネットワークの拡大で活性化された在来線の切り離しは考えにくいし、さりとて敦賀乗り継ぎは新在の駅の高低差が大きくなる見込みで越後湯沢のほくほく線乗り継ぎの悪夢の再現と北陸サイドが不満と。では切り離し可能な小浜線に着目したわけですが、そこへ議員の賀田引鉄が重なり迷走というわけですね。

元々フリーゲージは開発自体無理だし無意味と申し上げてまいりましたが、これが現実です。また整備新幹線の財源はJRの並行在来線の切り離し区間が長いほど、また関係する自治体が多いほど多くなるわけで、この観点からだと議員の我田引鉄で持ち出された舞鶴ルートが最善となります。ただし事業性はほぼ議論されてませんが、国会議員による利益誘導としては旨味があるわけです。

というわけで最後に、やめよう整備新幹線(怒)。

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