引く手あ、まった!
いやはや、黒田日銀の暴走ぶりは留まることがありません。というか、異次元緩和以来、はっきりしたことはただ1つ。何でもありの緩和至上主義で、明言されている目標も曖昧化しているということ。物価目標も緩和継続による裏の目標である円安誘導の方便じゃないかと疑っております。国民にとっては盗っ人に財布を握られたようなもの。アベコベ相場に繰り出した日銀の追加策のしょーもなさが今回のテーマです。まずは政策の概要です
。日銀がマイナス金利 その仕組みと揺れた判断:日本経済新聞端的な解説としてはこれがわかりやすいと思います。つまりはマイナス金利といっても、日銀当座預金の法定準備預金額を超える部分に現在0.1%の利息をつけていますが、今回はその部分は現行通りで触らず、今後増える部分については-0.1%、つまり逆に銀行が日銀に金利を支払うというもので、法定準備額はゼロ金利(当座預金だから当然ですが)、それを超える部分についてプラス部分とマイナス部分を設けるというややこしいものですが、多分激変緩和で、今後の推移次第では見直しも含むものと考えられます。一言で言えば奇策中の奇策で、市場にサプライズを与える以外に効果は殆どない上に、従来の異次元緩和政策とは矛盾した部分もあります。
そもそも当座預金に利息が付くのはおかしなことなんですが、これ量的金融緩和をスムーズに遂行するためのもので、米FRBが始めて白川総裁時代の日銀が取り入れたものですが、要は信用力があって担保価値のある国債を銀行が持ちたがるのを買い上げるわけです。国債は流通市場での値動きはあるものの、満期まで保有すれば元本は保証されますが、それを日銀が買い上げれば金利の付かない当座預金との交換ですから、利ザヤ稼ぎの銀行にとっては痛し痒しなわけですから、見返りにごく低い利息をつけて国債を手放しやすくするという意味があります。加えて誘導目標の金利を残す意味もあります。非伝統的と言われる量的金融緩和でも、中央銀行の政策目標はあくまでも金利であるという基本を失わない意味があります。
それが異次元緩和ではベースマネーを増やしてやれば、人々にインフレ期待が生じてデフレマインドを一掃し2%の物価目標を設定するという風に説明されています。マネー供給を増やせばインフレ期待が生じるというのはおかしな議論なんですが、実際は国債を大量に買い上げて国債流通市場を干し上げることで、国債に張り付いている銀行の資金を融資に振り向けさせる狙いで所謂ポートフォリオリバランスと呼ぶものですが、銀行は日銀の国債を高値で売ってその資金で新発国債を購入しますから、いつまで経っても融資が増えないわけです。そもそも低金利だと銀行の利ザヤの元となる長短金利差も縮まってしまいますから、国債市場を干し上げれば銀行が融資を増やすという経路が説明されてますが、実際は企業の資金需要そのものが乏しく、融資は増えません。マイナス金利もこの面では効果は乏しいと見て良いでしょう。
真の狙いは国債金利の圧迫で通貨安狙いというわけですね。新年早々進行した円高の阻止で追加緩和を市場からせがまれていた状況で、何もしないわけにはいかなかったのですが、既に2014年10月の追加緩和で国債買い取り額を50兆円から80兆円に増やしており、国債市場の規模からいえば、あと20兆円増やすのが精一杯ですが、それを使えば以後の政策対応の手段がなくなる最後の手でもあり、それは温存したのが日銀の本音です。追加策の使いどころは来年4月の消費税増税にありというわけですね。故にこれまで否定し続けてきたマイナス金利を突然導入するということで、日銀審議委員の中からも「手詰まりを市場に見透かされる」という理由で反対意見が出たぐらいです。
てなわけで、市場も意図を図りかねて乱高下したわけです。サプライズはあったものの、こうした一過性の効果をどれだけ積み重ねても、動き出したリスクオフの動きは止められません。あと、当面のプラス金利とマイナス金利の併用局面では大きな動きはないでしょうけど、銀行にとっては利ザヤの圧縮が進むわけで、ますます融資を渋るようになります。そればかりか、いずれ預金の利息もゼロからマイナスにということもあり得ます。実際マイナス金利を導入したデンマークやユーロ圏諸国などではそうなっています。国民の対抗策は現金を引き出してタンス預金となると、逆効果になるわけですが、そこまで踏み込むかどうかは現時点では不明です。
というわけで、いよいよ迷走する黒田バズーカですが、出口戦略がますます困難になり、正常化は黒田総裁の任期中には無理な状況です。その間に財政再建も進まず通貨の信任を棄損して、将来世代に大きなツケを回すことになります。すでに日本の経済規模は基軸通貨であるドル建てで2/3に減価しており、2010年に逆転された中国とはすでに倍以上の差をつけられている状況を直視すべきです。その中国は現在資金流出が止まらず、人民元安を阻止しようとしています。通貨安が国益に反するからですね。あえて円安にして通貨の信任を棄損し富を減らす日本のありようは異常です。
閑話休題。金利の英訳はi nterest で、利子、金利のほか、興味、関心の意味もあります。通貨当局の暴走にinterest を失わないことが大事です。「黒田バズーカ」を礼賛するリフレ派の議論はすでに破たんしており、例えば原油安で物価が下がったというのは、リフレ派の議論では特定品目の値下がりは他品目の有効需要を押し上げるから一般物価はむしろ上がるというのがありましたが、見事に外れてます。というか、元々値動きの大きい生鮮品とエネルギーは外すのが常識で、所謂コアコア指数というのですが、米FRBはこれを物価指標としています。日銀の異次元緩和ではなぜか生鮮品のみを除外したコア指数を指標としており、元々ここに誤魔化しがあったのですが、裏の目的である円安が実現すれば物価は上がるわけで、実際食料品などは値上がりしており、日銀もそれを理由に成果を強調しています。全くふざけた話です。「黒田バズーカ」からマイナスされたのは interest ではなく intellect (知性)ではないのか。つまり「黒田バカ」^_^;。
日銀が銀行に融資を促すのは、ある意味当然ですが、少なくとも国内には融資案件が見当たらないのが現実です。2003年のソニーショック以来続く日本の電機メーカーの逆風は終わらず、未だに過剰設備に苦しんでいて、しかも産業革新機構のような官製gファンドに助けられて延命している状況をどう見るのか。中国のバブル崩壊と過剰設備は以前から言われておりましたが、中国当局は元高を維持して過剰設備の解消に踏み込んでいます。今の中国の減速はその結果なわけで、痛みを緩和して問題を先送りして結果的に国力を低下させている日本の方が問題です。今回も中国ショックのような言われ方をしていますが、国内の産業構造転換ができない日本の問題なんです。
で、民間投資が増えないから公共投資を増やして景気浮揚というのですが、これは1930年代のような真正デフレのときならともかく、今の日本ではむしろリターンの少ない非効率な投資が行われて結果的に国全体の生産性を下げています。そんな中でこんな救いのないニュースが。
JR北海道が道内全線区で赤字 14年度、札幌圏も26億円 :日本経済新聞JR北海道の劣化は止まらないばかりか、当面赤字確定の北海道新幹線まで引き受けなければならないわけですが、道庁をはじめ地元自治体はJR北海道に自助努力を求めるばかりです。投資収益逓減の法則はこうした末端で出現し、ジワジワと拡大していくものです。以前から整備新幹線の問題点を指摘し続けてきましたが、将来性のない中途半端な投資を積み重ねても、むしろメンテナンスで足を引っ張るだけというのが如実に現れてます。
JR北海道に関しては以前からローカル輸送からの撤退を提言しております。元々国鉄分割民営化時に安易な値上げはしないという「公約」があって運賃改定もままならず、特に通学定期券の割引率が私鉄やバスより高率なままとなっている一方、JR北海道のように札幌都市圏以外では事実上通学にしか利用されていないローカル列車の維持は原価割れ輸送そのものです。実際割引率の差でJR高山本線と並行する名鉄各務原線や名松線と並行する近鉄大阪線・山田線では、通学利用がJRに流れている現実があります。いずれも収益性の高いJR東海だから維持できているので、JR北海道では無理です。象徴的なニュースとして石北線上白滝駅の最後の1人の女子高生が卒業と共に駅の廃止が決まり、メディアを賑わせましたが、そこからこの通学定期券のよる実質原価割れ輸送の問題に切り込んだ報道は見られません。ここを何とかしないとJR北海道は救われまあせん。
地域の足を守るというなら、イギリスに倣ってフランチャイズ制を導入する手があります。地元自治体やバス会社が出資した三セクで第二種事業者としてローカル列車を運営するわけですが、参入のハードルを下げるために、資産である車両や乗務員はJR北海道への委託を認め、運行管理やメンテナンスはJR北海道で一元化し、運賃は上限だけ定めて自由化するというような形にすれば、バス事業者にとっては鉄道を軸とした路線再編で需要掘り起こしの余地が出てきます。整備新幹線の並行在来線切り離しが認められるなら、これぐらいは可能なはずです。
加えてJR北海道に残る都市間輸送分野も新幹線頼みができない以上別の方法を考えるべきです。そこにこんなニュースが。
(ビジネスTODAY)ハワイ便、運賃競争再燃 ANA、エアバスA380導入を発表 座席数で日航追う :日本経済新聞これデルタと争ったスカイマーク争奪戦でANAが繰り出した必殺技だったA380引き受けの結果ですが、ANAは抜け目ないというか、発想が戦略的です。欧米などの長距離路線への投入にはたった3機では遣り繰りができませんから、近場の海外と言えるハワイ線で、しかも需要は旺盛な割にJALの6便に対して4便と劣勢な中で、座席集で優位に立とうという戦略です。加えて言えばビジネスユースの強い欧米路線では大型機で便数を集約すると利便性が低下するということもあります。転んでもタダでは起きないですね。教祖の激しい航空業界らしい話です。
これと比較して整備新幹線問題で右往左往するJR各社の近視眼ぶりが残念です。JR北海道本体のてこ入れは航空業界とのコラボが望ましいいのではないでしょうか。昨今北海道を訪れる外国人が増加しているんですから、対東京の速達性よりも外国人観光客の誘致に力を入れたほうが活性化につながるわけで、道庁もHACに肩入れするぐらいなら、JR北海道に資金提供して航空との連携を深める方向で対応すれ良いと思います。あるいは場合によっては航空会社に経営をゆだねることも選択肢になります。整備新幹線問題はドル箱の国内航空を圧迫するものとして対立意識が強いですが、東京から5時間かかる新幹線に期待して財政支出するよりもずっとましな地域活性化策となります。銀行の融資拡大から大幅に逸脱いたしましたが^_^;、リターンの見込めない投資をするぐらいならば見直し引き返すことも重要です。新幹線は魔法の杖でも打出の小槌でもないのです。
それともう1つ。やはりJR北海道がらみですが。
日高線復旧費、8億円増 JR北試算で38億円に :日本経済新聞日高線は高波被害で長期運休中でいまだに復旧のめどが立っておりません。運休が長引けば結局鉄道がなくても何とかなるとなって未来が閉ざされるわけですから、危機的です。そういえばJR東海の名松線末端部こそ復旧が決まりましたが、今年3月26日改正でやっと運転再開です。JR東日本では大船渡線、気仙沼線、のBRT化と山田線(宮古-釜石)の三陸鉄道移管による復旧が決まった一方、只見線(会津川口―只見)は放置されています。ローカル線の存続問題はJR北海道だけの問題ではないのですが、結局利益誘導の果てに強引に建設されたローカル線がJRの経営の足を引っ張る構図です。投資案件の取捨選択がいかに重要かいい加減気づけよ(怒)。
おまけ。記事中の貨物新幹線はできの悪い官僚の思い付きに過ぎません。上下50本の貨物列車の存在が営業最高速度140㎞/h制限の理由ですが、それを解消するために貨物列車を200㎞/hで走らせようというわけですが、新幹線の構造規則上、軸重16t*4軸*16両=総重量1,024tの構造物荷重を想定しており、ギリギリ1,000t列車を置き換えられますが、そのためにコンテナの積み替え行う分のロスは考えていないんですね。E5系量産車10連の空車重量が455tで積車重量500t未満と半分以下ですから、そんな列車を200㎞/hで走らせれば線路のメンテナンスに負荷がかかります。フリーゲージ以上に実現可能性は低いと言わざるを得ません。
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