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Sunday, January 24, 2016

ギグ老いるショック

新年早々からのアベコベ相場も21日22日のNYダウの戻りで一服感ですが、安心して下さい(笑)。下がりますwww。1点指摘すれば、外国人投資家が売りに回っているのですが、主に産油国の国富ファンド(SWF)の売りです。原油安で財政が逼迫して資金繰りのために売りに転じたわけですから、この動きは原油価格と連動して今後も続くわけです。当面は様子見が賢明です。てなことで、本題です。、

急成長するタクシー配車システム「ユーバー」が抱える訴訟問題|ビジネスモデルの破壊者たち|ダイヤモンド・オンライン
ウーバー運転手のかなり曖昧な「雇用形態」 | The New York Times | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準
ギグ・エコノミーのギグは、ジャズなどのアドリブのセッションのことで、転じて昨今増えたITを活用した細切れ時間労働を指す言葉です。日本流に意訳すれば「日雇い経済」あたりでしょうか。日本でもルームシェアやライドシェアを特区で解禁が議論されてますが、シェア・エコノミー先進国アメリカでは議論が次のフェーズに進んでいます。

民主党の大統領候補のヒラリー・クリントン氏が大統領選出馬表明の演説でギグ・エコノミーの言葉を用い、その先進性を評価する一方、雇用者として保護されていないことを問題視して大統領選の争点としたもの。そんな背景を頭に入れると、上記の2つの記事は示唆に富みます。UberやLyftなどのシェアライドアプリで快進撃中のITスタートアップ企業が、実はてんこ盛りのトラブルを抱えているということです。

例えばUberのドライバーが事故を起こした事例では、被害者児童の両親がUberに損害賠償を請求したものの、Uber側はドライバーが乗客搬送中ではないことを理由にこれを拒否し、訴訟になっているのですが、タクシーやハイヤーなどの有償運送事業者ならば雇用主である企業の責任は当然問われますが、その部分が曖昧になっているわけです。またオンデマンドのフードデリバリーサービスを展開するマンチュリーという企業の事例で分かるように、需給のマッチングや配送サービスの質の観点から問題が出て見直されたケースもあり、サービスベンダー側からも、問題点が認識され始めたわけです。

こうしたオンライン・ギグ・エコノミーに在来型の雇用契約を適用しようとすると、硬直的になり、利点である任意性が損なわれる一方、保護されていない非正規雇用の側面は厳然と存在しているということで、見直しの機運が出てきているのです。政府主導でシェア・エコノミーに前のめりな日本の周回遅れぶりは相変わらずですが、それに留まらない問題点を指摘したいと思います。

バス運転手、経験不足か 軽井沢の事故  :日本経済新聞
スキーツアーバスの重大事故ですが、その後の報道で定点カメラの映像でブレーキランプが点灯したままだったこと、乗客証言でギアがニュートラル位置にあったこと、タコグラフで事故当時80㎞/h程度のスピードだったことなどが明らかになります。経験不足のバスドライバーによる操作ミスでスピードコントロールできない状況だったと考えられます。

運行担当のバス会社ESPが批判の矢面に立たされてますが、一義的な責任はツアーを主催した旅行会社にあります。選んだバス会社のESPが2日前にも国交省から処分を受けるなど、安全運行を担保できる事業者と言えない状況があり、また改定された標準貸切バス運賃の下限を下回る金額で運行を請け負わせていたなどです。とはいえバス事業者の責任は当然問われます。

議論を端折らせていただきますが、ネットで小泉改革の規制緩和のせいとする声が多数ありますが、正確には需給調整規制撤廃による参入規制緩和は90年代後半、橋本政権下で着手され小泉政権はそれを引き継いだだけですが、事業者の免許制が認可制に緩和された結果事故が増えたというのも、注意が必要です。というのも、参入規制の緩和で事業者自体が増えてますから、統計上事故が増えているのはそれ自体はある意味当然の結果でもあります。問題は規制緩和以前から存在した白バス問題という前史があります。

例えばレンタカー会社がドライバー付きでバスをレンタルするとか、宿泊や行楽施設の送迎用自家用バスで長い距離の送迎運行でコストは宿泊費に乗っけられていたりとか、いくつかのバリエーションはありますが、ドライバーは日雇いの契約社員だったりして明らかな法令違反なのに実質取り締まりは緩く野放し状態だったわけで、これらが新規事業者として認可を受けたものが新規事業者の中で大きなウエートを占めますから、実態を見る限り、あまり変わっていないとも言えます。むしろ半ば公然と行われていた法令違反に法の網を被せたとも言えるわけで、単に問題が見える化しただけとも言えます。ただし国交省による監査体制には課題があります。

かくして急激に増えた事業者の監査要員は特段増員されたわけでもなく、また警察、検察、国税、公取、労基などのように強制捜査権があるわけでもなく、全事業者が定期的に監査を受ける体制にはなっておらず、法令違反を抑止する力が弱いわけです。業界団体の日本バス協会(NBA)への指導はたびたびおこなわれてますが、新規事業者はほとんど加盟しておらず、実効性は乏しいところです。またNBAの存在が微妙でもあります。

民営化前の国鉄バスはNBAの前身の日本乗合自動車協会に加盟できなかったどころか、対立関係にあり、日乗協は事あるごとに国鉄バスの民業圧迫を非難してきた歴史があります。その結果国鉄バスの四原則として鉄道の先行、代替、短絡、培養に該当する路線に制限されていました。その後高速バス参入に関連して補完を加えた五原則となりましたが、これもかなり揉めた挙句のこと。結局分割民営化されて地域のバス会社となってやっとNBAに加入できたのですが、このことが示すように既存事業者の利害を代表する既得権団体でもあるわけで、新規事業者との間には利害対立があり、結果的に加盟社は全事業者の半数に満たないわけで、事故や法令違反があっても、今回もそうですが、NBAに指導するというアサッテの対応になってしまうわけです。NBA自体に排他的なところがあるわけで、実際に法令違反を繰り返す中小零細事業者への指導は届かないわけです。

今回のESPの場合も、事業者として問題だらけで国交省の処分の常連であったとしても、発注する旅行会社があり、また今回の65歳のドライバーのように、大型二種免許所持者であっても、送迎などで小型車の運転実績しかない高齢ドライバーを大型バスの長距離運行に乗務させるってのは非常識ではありますが、上記の白バス時代からの慣習を引き摺る新規事業者であれば、それほど突飛なことではないわけです。選んだ旅行会社も責任重大です。

というわけで業界全体を見渡せば法令違反は珍しくない状況で、しかも高齢化の進捗でドライバーの確保が難しくなると、経験不足で不適格な高齢ドライバーでも声がかかるし、またこういう低スキルのドライバーは大手事業者では雇ってもらえないから、中小零細事業者で、しかも日雇いの契約社員として仕事を確保するしかないということになります。というわけで、今回の事故を規制緩和の弊害、副作用とする声には疑問を呈しておきます。むしろ雇用問題として捉えるべき問題ということです。

規制緩和の影響を言うならば、バス事業そのものが既に儲からない事業になっている中で、高速バスと貸切バスが収益の見込める成長分野だったから、新規事業者がまず貸切バスへ参入し競争激化で貸切運賃が下落し、かくして安値請負で仕事を取る新規事業者の存在がツアーバスの拡大を促し、都市間輸送を担う高速乗合バスと競合する高速ツアーバスへと発展し、一国二制度状態となって民主党政権時代に問題視され、見直し議論の中で関越道バス事故が起こり、高速乗合バスの参入条件の緩和で一本化する形で統合されたのは過去エントリーで述べております。

その中で格安ツアーやインバウンドなど価格訴求要素の強い分野が貸切バスに残っていて問題が起こる可能性ありと述べておりますが、不幸にも的中してしまいました。主にドライバーの待遇改善の観点から標準貸切バス運賃基準が改訂されたばかりですが、それによって儲かる事業と見做されてバスの台数は増えたものの動かすドライバーが不足することになり、また大手事業者ほど運賃基準を順守する傾向にありますから、中小零細のダンピング営業には追い風になるなどして皮肉な結果です。これに関連してこのニュースを取り上げます。

東京労働局、バス会社を捜索 軽井沢の事故で  :日本経済新聞
所謂36協定違反の疑いですが、こう言っちゃ何ですが、日本で労基法に基づく36協定があるのはほぼ大手企業に限られます。中小企業はそもそも労使協定を結ぶにも組合がなかったり、あっても「会社潰す気か」の脅し文句で機能していないのが現実です。そういう中で安値請負の仕事を無理な条件で引き受けざるを得ないドライバーは少なからずいるわけです。

で、冒頭のギグ・エコノミーに関連してですが、日本ではITスタートアップ企業によるオンライン・ギグ・エコノミーには無縁でも、実質的に雇用者として保護を受けていないブラック・ギグ・エコノミーは蔓延しているというわけです。この現状認識を持たない限り解決策は見いだせないでしょう。むしろ問題は高齢者にもっと働いてもらおうという1億総なんちゃらだったりします。背景には年金支給の減額も作用していると見るべきでしょう。

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