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Sunday, February 07, 2016

ダメージ・エコノミクス

日銀のマイナス金利政策ですが、1週間もたずに効果が剥落しました。

マイナス金利、逃げ水の円安効果 決定前逆戻り116円台  :日本経済新聞
問題はそれでも副作用は確実に起きるということです。
マイナス金利、家計に波及 3メガ銀が預金金利下げ  :日本経済新聞
もう無茶苦茶。副作用の強い薬を服用して健康を損なうという最悪の処方ですが、医師なら訴えられますね。

てなわけで、ダメージ・エコノミクス(Damage Economics)略してダメノミクス(DamEnomics)が今回のテーマです。国会論戦でも野党からアベノミクスの失敗を問う声が強いのですが、的外れです。アベノミクスの本質はダメノミクスだから、予想通りの結果というべきなんです。ここまで事態が進んだんですから、確信犯と見るべきです。何故か?その方が危機を煽ってやりたい放題できるからですね。東日本大震災の復興事業がどれだけ食い物にされてきたか。憲法に緊急事態条項を加えようというのも同じ流れです。国の金を好き勝手に差配して結果に責任は持たない。つまるところこういうことです。

そんな中で民間の力で国をねじ伏せたこのニュース。

シャープを鴻海が買収へ 7000億円、機構案上回る  :日本経済新聞
経営不振のシャープを巡る動きですが、経産省が産業革新機構を使った支援策をけって鴻海案に傾いたんですが、元々鴻海は早くからシャープの救済に名乗りを上げていたところへ、技術の海外流出などの難癖をつけて押し留めたのは経産省です。ま、言いがかりも甚だしいのですが、最後は鴻海の資金上積みで決着しました。

ただし水面下ではメガバンクの意向が働いたようで、今回みずほが鴻海案を後押ししたのですが、産業革新機構案で求められていた債権放棄がマイナス金利政策で受け入れられない状況になったというのが本音のようです。政権べったりの現在の日銀ですが、皮肉なことに国策を吹っ飛ばしました^_^;。グッジョブwww。

ま、ここに至るまでのシャープの迷走ぶりはすさまじいものですが、この規模の大企業だと簡単には潰れないのはソニー以来繰り返されていて、資産売却で決算を乗り切れてしまうわけですが、その結果何の会社だか分からなくなってアイデンティティを喪失するのは良くあることです。さて東芝という大物が控えておりますが、こちらはウエスチングハウス社の減損の連結を拒んだまま赤字拡大で7,000億円の損失って、まともに連結したら債務超過が疑われるレベルですが、幻となった革新機構のシャープ救済策では東芝とシャープの家電部門を統合する計画でしたが、弱者連合にしかならない愚策です。

電機業界で自力更生を果たした日立は家電から撤退を決め、パナソニックは救済合併したサンヨーの家電部門と合わせて中国ハイアールへの売却と、国に頼らずに道筋をつけているわけで、それができないシャープは迷走せざるを得なかったわけです。EMS企業の鴻海にとっては、シャープの技術力とブランド力は喉から手が出るほど欲しかったのでしょう。蜜月関係にあったアップルがiPhoneの中国販売の減速もあって先行き不透明な中、いつまでも黒子で居たくないでしょう。むしろ脱アップルを模索していたふしもあります。

PCにしろスマホにしろ、モデルチェンジが頻繁過ぎるというのが悩みで、大規模設備投資で生産ラインを整備しても、すぐに使われなくなるリスクもあります。その間隙をついて中国小米のような新興企業が、その遊休ラインで格安スマホを製造販売して市場を席巻する一幕もありましたが、結局中国市場では中間所得層の台頭でiPhoneが彼らにとってのステータスシンボルになったことがアップルの直近の業績を押し上げていたわけですから、中国の失速はアップルにとっても痛いけれどEMSの鴻海にとっては死活問題でもあります。鴻海にこの辺の読みがあったかどうかはわかりませんが、アップル依存からの脱却は意識していたのではないかと思います。

余談ですが中国の実体経済は李剋強首相自ら認める中国の経済統計の不確かさから、電力消費量や鉄道貨物輸送量で判断とカミングアウトし、「李剋強指数」と言われますが、iPhone販売数量を見る林檎指数も実用的かも(笑)。

企業再生ではJALの再建がうまくいきました。こちらは国が関与したとはいえ、あくまでも破綻処理であり、会社更生法を適用して経営者、株主、従業員、債権者が相応に責任分担して再上場にこぎつけたわけですが、かつてJALは経営危機を繰り返しては国が救済することが繰り返されてきたわけで、その悪循環を断ち切ったんですから、当時の民主党政権の判断は正しかったし、それ以前の自民党政権ではできなかったことです。一方原発事故で迷走した東京電力は破綻処理を避けて未だに迷走が続いています。

ダメな会社を保護して残すと、そこに貴重な資金や人材が滞留しイノベーションを阻害するというのは、資本主義社会の常識なんで、国が音頭取って行う「国家政略特区」で規制緩和だという「第3の矢」だとかでイノベーションが実現するわけじゃありません。シャープや東芝を巡る経産省ひいては政権の対応は明らかに統制色が強く、イノベーションを阻害し成長を妨げることにしかなりません。やはりダメノミクスなんです。

あと地方創生とやらで地方を補助金漬けにしていますが、補助金で地方が活性化されたケースがあるでしょうか。財政破綻して財政再建団体になった夕張市は、リゾート法その他の補助金を使いまくって廃墟を残したことを指摘しておきます。あるいはコンパクトシティを標榜した青森市ご自慢の青森アウガが、結局財政資金で赤字解消とか頭悪いとしか言いようがありません。地方に必要なのは補助金ではなく自力で付加価値を生み出せる産業です。地方へ拠出する補助金は国の財政を圧迫し国債依存を強めます。それは結局国民の貯蓄に支えられているわけですが、貯蓄が収益性のある事業への融資に向かわず国債消化で地方に負の遺産を増やすだけですから、これも成長力を阻害するダメノミクスです。

そして「貯蓄から投資へ」のウソ。国民が銀行に預けたお金は融資によって企業の投資を助け、金利として還元されるわけで、元々貯蓄=投資なんです。何も家計が自らリスクを取って株式投資とかする必要はないんで、やりたい人が自己責任でやるべきことです。それをGPIFその他の公的なお金を株式で運用した上げ底相場でさらに個人にも株を買わせようというのはどういうことなのか。それで相場が上げても、結局余ったお金が株式市場に張り付くだけの話で、企業のM&Aや議決権行使を前提とした株式保有でない限り、株を買う行為は銀行預金と変わりません。ただ元本保証はなく紙くずになるかもしれないけれど配当がついて値上がりもあるかもしれないというリスク資産を保有するということです。株式投資は経済統計上は貯蓄にカウントされるってのは経済学の教科書にも書いてある高校生レベルの知識です。

で、その株価ですが、大型IPOとして注目された郵政3社の上場ですが、無残な状況です。

郵政上場3カ月(上)熱狂去り 見えた弱点 マイナス金利も逆風 :日本経済新聞
成長戦略も曖昧なまま高配当で釣って個人に競って買わせるという悪質な対応が裏目です。今回のマイナス金利も逆風どころか、郵政審が預入限度額を1,000万円から1,300万円に増やしたものの、むしろ利益を圧迫します。もういろんな意味でダメージしかない。しかも問題はそれに留まりません。
郵政上場3カ月(下)「公平な競争」なお遠く  :日本経済新聞
郵政はユニバーサルサービスを盾に税優遇や集配車の駐車禁止特例などで不公平とヤマト運輸が意見広告したものの無視。ユニバーサルサービスの郵便事業と収益事業の宅配便がリソースを共有していることから、競争条件は不公平で、例えば佐川が撤退したアマゾンの宅配業務を郵政が安値受注していたりします。少子化の影響でドライバー不足に悩まされ、ヤマトもドライバー確保の必要から宅急便の値上げやサービスの見直しに踏み込んでいるだけに、無視できません。同様に預入限度額の拡大は特に地方銀行との競合が避けられないところですし、今後融資業務への進出などでただでさえ利ザヤが薄い低金利状況で値を上げるところもあります。このような不公正競争は市場を歪め経済厚生を低下させますからやはりダメノミクスです。

バス事故のエントリーで日本バス協会(NBA)の前身の日乗協と国鉄バスの対立について述べました。国鉄分割民営化で名実ともに地域の民間バス会社になってからJRバスのNBA加盟が実現したように、イコールフッテイングは重要です。加えて郵政の場合は民営化以降現場従業員の非正規化を進めており、正社員主体のヤマトや佐川を圧迫しているんですから、バス事業における中小零細の新規参入組の性質も備えているわけで、二重の意味で不公正な競争環境と言えます。

ドライバー不足から結果的に高齢ドライバーの就業が増えて事故のリスクが増すということも視野に入れる必要がありますが、それ以上に安定運用を旨とする年金積立金を上記のように株式市場へ突っ込むようなことはやめる伊べきです。年金不安から引退できない高齢者を増やして「1億総活躍」とかって、ブラック企業を助けるだけです。ダメノミクス大爆発です(怒)。

本当にイノベーションを目指すなら、自動運転車の活用とかそっちだろと思います。当然それに伴う法整備も課題ですが、特に人口減少で公共交通の維持が難しい地方の究極の交通インフラとして活用を考えるべきでしょう。世界で広がるライドシェアの活用も、ちょっと待てと言いたいところ。Uberに代表されるオンラインサービスが、実際は様々なトラブルを引き起こし、特にアメリカでは雇用問題として議論になっていることを見るべきでしょう。日本の議論は暇な若者の存在を疑いもない前提としているようですが、ライドシェアのドライバーのリアルとして、過疎地ほど高齢ドライバーとなるのが現実です。

なお、自動運転車の普及は公共交通を圧迫するという側面もありますが、スマホで呼び出していつでも使える自動運転車はカーシェアでの普及が見込まれます。つまり高い維持費をかけて自己保有するインセンティブがなくなるので、結果的に自動車生産台数は4割減るという試算もあります。それでもGoogleはじめ資本力に勝るIT企業が本気で開発している現状から、特にアメリカでは自動車メーカーも渋々動き始めています。つまりマイカーが淘汰されて道路の過剰なトラフィックが減るということになりますので、いきなり大都市でもとはならないまでも、公共交通に少なからぬインパクトを与えるでしょう。

東武東上線のTJライナーや京急のモーニング・ウイング号をはじめ、このところ私鉄の有料着席サービスの話題が続きますが、自動運転車が普及して道路がインテリジェンス化されて渋滞も緩和されてという状況になれば、いつまでも混雑のなくならない現在の都市鉄道も少なからず影響を受けるという意味で、少なくとも着席サービスの選択肢は用意しておきたいという風に先回りしているものと見ることができます。自動運転車に関しては日本では自動車メーカーは運転支援に留まり本気度が低いようですが、鉄道事業者は既に意識し始めています。

長くなりましたが、現状のダメ出しは枚挙に暇がないですね。確実に言えるのは、効かない経済対策で日本経済の成長力は圧迫され、体力を失うということになります。その時に目先をごまかす国際紛争が仕掛けられる可能性が高いのは歴史の教訓です。油断大敵です。

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