強靭化に背を向けるサプライチェーン
確定申告を終えてほっと一息の週末です。この時期更新が遅れますが、しがない個人事業主ゆえご容赦を。
ま、しかし税務署へ行ってみればパソコン並べて電子申告という今までと違った光景で、過去に電子申告した場合は16桁の整理番号が郵送で告知されており、それで個人認証して事実上納税者を番号で管理しており、マイナンバーを先取りしているのですが、そうすると次回からのマイナンバー紐づけの意味があるのか?という疑問がわきます。国税の範囲内での識別番号と省庁横断且つ民間利用も想定されるマイナンバーではセキュリティの脆弱性に大きな違いがあります。国税と年金に限定すべきでしょう。
ま、しかし電子申告がここまで定着すれば、むしろ給与天引きの被用者の納税でも、年末調整を廃止して個人による確定申告を義務付ける方が合理的です。その分間接部門で付加価値を生まない企業の人事部の仕事を減らせるわけで、その分マーケティングや研究開発にリソースを振り向けられるようになりますが、メンバーシップ型雇用で過大な人事権を企業が握る日本の雇用慣行では無理っぽいところ。結局働かない正社員が威張る日本の企業風土は変わりそうもないですね。
また確定申告は個人として国家権力と対峙する場面でもあり、納税者としての自覚を得る意味で重要です。私事になりますが、顧客のリストラで売り上げダダ下がりの一方、円安で仕入れが上がって、固定費はそのままというい収益構造で所得大幅ダウンですが、図らずも税の還付がありました。納税はある意味こういう時のバッファの意味もあるわけで、納税は国民の義務ではなく権利であると実感します。
てなことはいいんですが、東日本大震災から5年となり、メディアは特集を組むなどしてますが、25兆円もの財政資金を投入しながら道半ば。しかも内14兆円はインフラ投資に回り、巨大防潮堤が飛び飛びに作られてつながらないという変なことも起きているわけです。これ単純な話で、防潮堤の建設は被災地でも賛否が分かれており、むしろ海が見えずに避難が遅れるということが震災時にも実際に起きているわけで、工事が進まない中で、反対者のいない無人地帯だけ工事が進んだわけで、要は救うべき人がいないところばかり作られているということで、何のための復興事業なのか、本当にひどい話です。
またサプライチェーンの寸断も漸く解消されたものの、被災地立地企業の売り上げは震災前の水準に戻っていません。元々が過疎地で人も戻らない中ではやむを得ないところですが、風力やバイオマスなどの再生可能エネルギーなど新産業を興すことができていないわけで、ただ土建屋だけが潤ったという状況です。尤もそのサプライチェーンに変調が見られる昨今の日本ではあります。
過去エントリーを見ていて目に留まったのが中越沖地震のときの自動車メーカー横断の危機管理です。工場のみならず従業員の自宅も被災して工場再開のめどが立たない中で、自動車各社はラインを止めて人を応援に出して短期間に工場を再開させたわけで、危機管理のお手本のような出来事でした。災害の規模が違うとはいえ東日本大震災ではその教訓は残念ながら生きませんでした。そして自然災害もないのにラインが止まった最近のニュースがこれですね。
トヨタ、車両工場の全ライン6日間停止 愛知製鋼事故受け :日本経済新聞系列の愛知製鋼の爆発事故で特殊鋼部品の供給に不足が生じるためのやむを得ない措置ですが、中越沖地震のときのリケンとどこが違うかというと、系列会社で、しかも配合の僅かな差で品質が変わる特殊鋼は秘密のレシピで簡単に系列外のメーカーに肩代わりさせられないという事情があったからですが、巨大化したサプライチェーンでいわば急所と言えるところでの事故でお気の毒ではありますが、危機管理の観点からは2007年の中越沖地震当時より後退したと評価せざるを得ません。
また問題はそれに留まらず、ドイツやアメリカで進むiioTが日本の少なくともトヨタでは無理という現実を突きつけた出来事でもあります。ドイツのインダストリー4.0では、参加企業の技術やマンパワーなどの情報を開示して、適宜開示されたリソースを組み合わせて個別にラインを形成するわけですが、トラブルが起きればその部分を迂回する別ルートの形成まで自動化されていますから、今回のトヨタのようなトラブルがあっても、その時点での最善の迂回ルートが簡単にできるわけですが、秘密のレシピを含む愛知製鋼のようなサプライヤーがあると成り立たない仕組みです。
また作業者個々人の専用タブレットに作業指示を送信する仕組みですが、これがドイツ語に留まらず多言語をサポートしており、作業者の熟練度に応じた簡略から詳細にわたる表現のバリエーションも用意されるなどしており、なるほどこの仕組みならシリア難民も受け入れられるわけです。移民や難民の受け入れはこれだけで議論すべき問題ではありませんが、日本政府も移民受け入れを検討しているとかですが、受け入れ側の企業に全くこういった準備の気配すらない状況では実現は無理でしょう。人口減少の中で人手不足はますます深刻になります。
ただ注意が必要なのは、人口減少を補おうとして少子化対策を行うことは意味がありません。なぜならば元々高齢化によって現役世代の負担が増している状況で、出生率が奇跡的に上がって子供が増えれば、育児にマンパワーを取られますから、人手不足はより深刻になるわけです。高齢者の増加は当面続き、ピークアウトは2050年以降ですから、それまでは少子化対策は控えるべきです。ただし国民の権利としての出産と育児の環境整備は、少子化とは無関係に必要なことですから、今話題の保育所問題などは解決を模索する必要があります。
高齢化に関連して高齢者バッシングの風潮もありますが、年金で優遇されているなどの近視眼的な議論で意味がありません。高齢者の扶養はどのみち必要なことで、年金制度も保険料と積立金だけで成り立っているのではなく、財政負担もあるわけです。制度の存続だけを考えれば、財政負担を増やすことで対応は可能なんで、主に保守派が言う支給削減も、リベラル派が言うGPIFの損失問題も、実は本質的には些末な問題です。
そしてもっとマクロの視点で見れば、高齢化の進捗は現役世代の縮小のみならず、所謂ライフサイクル仮説による貯蓄の取り崩しの方が大きな問題です。老後資金のために貯蓄に励む現役世代は、リタイア後にその老後資金を取り崩すわけです。年金も超長期の貯蓄と見做せますから、マクロ的には含めで考えても問題ありません。そして生産=所得=消費+投資(貯蓄と等価)の等式にあるように平均年齢が低く貯蓄過剰だったかつての日本は投資資金が潤沢で、労働力の供給と共に資本の厚みでも優位にあったわけですから、高齢化はこれが逆転することを意味します。
つまり消費と投資の関係が逆転し、投資が細くなることを意味します。所謂資本の劣化が起きるわけです。その状況で現役世代が減少して生産が減れば所得が減り、消費は一定水準を維持しますから、行きつく先はビンボーまっしぐらなわけです。貿易収支の赤字転落もこのメカニズムによります。回避策は労働力の減少を補って余りある生産性向上ですが、製造業ではIoT抜きにはあり得ない話です。てなわけでトヨタの未来は大丈夫か?
もう1つの回避策は海外直接投資による外需の取り込みですが、これは曲がりなりにも日本企業は対応しており、貿易収支の赤字を所得収支の黒字で完全にカバーできています。尚、原発停止で原油や天然ガスの輸入増で貿易赤字に転落したとおっしゃる皆さんは、マクロ経済を知らない無知をさらけ出していると言えます。そもそも最大でも4兆円の輸入増で10兆円を超える貿易赤字を説明できないです。
それと震災復興でも触れた公共インフラの問題も注意が必要です。無人地帯の防潮堤のような経済的価値のない投資を行う余力は今の日本にはありません。公共インフラに限りませんが、固定資本は企業会計の減価償却に相当する維持費が必要です。マクロ経済指標では固定資本減耗と呼び、単年度主義の公会計では減価償却は制度化されていませんが、マクロ指標としての固定資本減耗は計上されます。これは私たちが払う税金が原資ですから、公的インフラが増えれば増えるほど国民負担は増えるということを忘れちゃいけません。
ちょっと気になるのは、維持費の観点からは軌道系システムは当面逆風になるということで、少なくとも新規投資は慎重であるべきです。報道では北陸新幹線の延伸ルートが話題で、とあるブログで国益で判断せよと指摘されてますが、整備新幹線は元々地方とJRの同意という形で国益をスルーする仕組みなので何寝言言ってんだって話ですね。むやみに固定資本を増やさないという観点からいえば、事業に着手しないのが一番国益に適うということは指摘しておきます。
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