ポンド飛び出し円の切れ目
サミットも終わり「新しい判断」とやらで世界経済リスクを理由に消費税増税延期が決まった日本ですが、世界から見ればヤバいのは日本だったりします。こんなニュースが案外重要です。
三菱UFJ銀、国債離れ 入札の特別資格返上へ :日本経済新聞プライマリー・ディーラーを降りることを検討中ということですが、新発国債を引き受ける義務と引き換えに当局に意見が言える権利で、大手銀行以外にも証券・生保などがメンバーで、市場環境を睨みながら国債の安定消化を支えてきた仕組みですが、メガバンクの一角の三菱東京UFJ銀行が離脱するということですから、穏やかではありません。
今のところ他のメガバンクや証券・生保などは様子見で追随の動きはありませんが、最大手の三菱東京UFJ銀が動いたわけですし、そうなるのも無理もない現実があります。言うまでもなく日銀が導入したマイナス金利政策の影響です。日銀の説明ではあくまでも新規受け入れ分だけに限定したマイナス金利適用で影響は軽微としてきたわけですが、実際は家計消費の低迷と企業の内部留保拡大で預金が増えている状況で、日銀の大量買い付けで利回りがマイナスになった国債を買うか、日銀に預けてマイナス金利を甘受するかという究極の選択となっているわけで、こんなことやってられないわけです。
加えて消費税増税延期で格付けを下げられた日本国債の大量保有は、国際銀行規制でリスク負担を求められ、資本の積み増しを求められることになります。また当然日本国債の担保価値も低下しますから、海外展開で必要な外貨調達でジャパンプレミアムとでも呼ぶべき上乗せ金利を要求されることになり、海外事業の利ザヤまで圧迫されるわけですから、遅かれ早かれこう動かざるを得ない状況にあったといえます。さてそうなると銀行が引き受けた新発国債を日銀が高値で買い取ることでベースマネーを増やす政策が入口のところで経路が切れるわけですから、日銀の異次元緩和(QQE)への影響は避けられません。実際日銀審議委員の中曾副総裁からこんな発言が。
BOJ点描 中曽副総裁「国債市場の機能維持が重要」 国債離れに危機感も :日本経済新聞銀行の反乱がどう決着するかはわかりませんが、日銀の強面は続かないということは言えそうです。そんな日銀が期待していた米FRBの利上げは、米雇用統計の発表で予想外の弱さが明らかになり、イエレン議長のこんな発言につながります。
FRB議長、米利上げ時期特定せず 雇用悪化に「失望」 :日本経済新聞景気は上向いているはずなのに雇用は増えない。正確には予想を下回る増え方しかしないということですが、これが結果的にドル高回避につながり、あえて動かなくても米利上げで緩和効果を期待していた日銀の読みが外れたわけです。それでも追加緩和に動けないのは、メガバンクの反乱だけでなく、イギリスのEU離脱問題という頭の痛い問題が立ちはだかっており、今は動きにくい局面です。所謂BREXIT問題ですが、当のイギリスでは国内対立が大きくなっています。
疲弊する英国の地方都市、EU離脱論が噴出 :日本経済新聞まるでTPPを巡る中央と地方の対立に酷似します。グローバル化と称する経済連携のメリットは中央の大企業や金融機関が受ける一方、EU由来の規制は地方が負担していて、何も良いことがないという状況です。TPP交渉で大幅譲歩した日本の農林水産業の未来図が垣間見えます。BREXITは対岸の火事ではありません。巷間言われる経済停滞も、影響を被るのはシティの金融機関だけだとすると、イギリス全体ではマイナスかどうかは微妙です。むしろEU離脱を心配するのは独仏など直接利害のある国に留まらず、EU域内の拠点としてイギリスに現地法人を置くアメリカや日本の企業にとっては悩ましいところ。実際はスイスやノルウェーのようにEUとの個別協定が結ばれるはずですから、その内容次第では影響は限られますし、移行期間の特例もあるはずですが、結局中身が決まるまでイギリスへの新規投資は手控えられることにはなります。これがリーマン級の経済ショックをもたらすかといえば、出口があるだけに一時的停滞はあっても答えはNoでしょう。
むしろEUが恐れているのは、厳しい加盟条件を突きつけられている東欧諸国の不満が噴出することでしょう。ギリシャ問題で南欧諸国への対応の甘さを見せているだけに、イギリスの残留のためにEUがさらに譲歩するようなことはできにくいわけです。加えてイギリス同様に各国内に離脱を訴える愛国右派を抱えていますから尚更です。結局EUは動けずどちらに転んでも混乱は避けられない。とすると案外震源地のイギリスが一番安定するという変なことも起こりそうです。ただ日銀にとっては金融の混乱はリスクオフ要因で円高となりますから、祈るような思いで見ていることでしょう(苦笑)。
てなわけで日本に戻りますが、消費税増税延期と経済対策としても財政出動を打ち出した安倍政権ですが、日銀が追加緩和に動きにくい状況での財政出動ですから、財政健全化は後退を余儀なくされるわけで、これリカードの等価性定理そのままに、財政悪化は将来の増税を連想させて消費を冷やしますから、結局消費は回復せずむしろ家計は貯蓄に励みますが、三菱東京UFJ銀の反乱で、預金の増加分を国債で吸収する回路が細くなるわけで、いよいよアベノミクスが構造的に動かなくなる局面ということですね。それでも財政出動で経済を争点に選挙で勝つシナリオを描いているんですからおめでたい。例えばリニア。
リニアに3兆円支援 鉄道網整備へ政府マネー拡大 :日本経済新聞これ2027年予定の名古屋開業後8年のインターバルを置いて大阪延伸を着工するところを8年前倒しだけですから、最速2037年の大阪延伸という話であって、目先の経済に直接プラスになる話じゃないです。むしろ財投債という政府保証債を用い、これ事実上の国債で民間資金より低利で調達できるってだけの話です。むしろこれを突破口として整備新幹線の財源に同じ手法を用い、前倒し着工することが狙いでしょう。現状既に整備区間の開業で発生するリース料まで財源に充ててまだ足りず、着工区間の開業後のリース料を担保に民間から借り入れて手当てしている状況を政府保証債に切り替えて安定財源にしようということです。例えばJR北海道の経営不振で札幌延伸が間に合わない可能性があるわけで、これで首の皮1枚ということでしょうけど、その前にJR北海道助けてやれよ。そもそも青森県の惨状を見れば、新幹線は開業しても観光地へアクセスする二次交通が枯渇していては無意味です。地方を救うのはむしろこちらかも。
ウーバー、京都で始動 地方創生をネット企業が支援 :日本経済新聞ウーバーに代表されるライドシェア問題は、過去に放置国家の呆の支配やギグ老いるショックなどのエントリーで指摘してきましたが、記事は京都府京丹後市久美浜町でNPO法人がウーバーの相乗り配車アプリを活用して地域の足を確保するということで特区構想に名乗りを上げたものですが、結果的には道路運送法第78条、第79条で定義される自家用自動車の有償運行として認可を受ける形で実現しました。京丹後市といえば北近畿タンゴ鉄道の経営不振から入札によりウィラーの支援で京丹後鉄道として再出発したところですが、鉄道は残ってもタクシー会社すら撤退して二次交通壊滅状態だったわけで、78条運行は一応理に適ってます。
ウーバーとしてはこれを突破口に都市部への進出を狙っているようですが、むしろ世界中のユーザーが直接配車アプリを使うことで、どれだけ域外の観光客を呼び込めるかが注目点でしょう。それ次第で公共交通の衰退で観光客すら呼べない地方の起爆剤になる要素はあります。ただし日本では結局地方のタクシー会社との提携などの形に落ち着くんじゃないかと思います。というのは、京丹後市でも問題になりましたが、自家用車が任意保険に入っているかなどの問題で規制をせざるを得ない状況がありますので、それならば地方の法人タクシーがリスクテイクする形の方が法的にもすっきりします。世界的なネット企業といえども日本の法の支配は尊重すべきことは言うまでもありません。
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Comments
リカードの説は仮説にすぎませんし、一般国民が国家の財政なんて気にすると言う説がそもそもおかしく、それよりも直近の所得の方が直接的に大きい。
海外の格付け機関の影響は無視できるでしょう
これまでずっと厳しい評価をしてきたが何の影響もありませんでした。
Posted by: ando | Wednesday, June 22, 2016 04:03 AM
仮説に過ぎないから無視してよいんですか?経済学の理論や学説で凡そ仮説じゃないものなんてありません。検証を重ねてエビデンスに基づいて前提条件や有効範囲を明らかにするから科学なんですね。
識字率1割そこそこの19世紀のロンドンと違って、識字率ほぼ100%の21世紀の日本の方が、リカードの仮設の前提条件を備えていると思いますが。そして実際に消費の低迷が見られる現実を説明できます。
あと格付け機関云々は本文中で問題視しておりませんが、コンテクスト的に意味不明です。
Posted by: 走ルンです | Wednesday, June 22, 2016 08:38 PM