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Sunday, July 24, 2016

アセット・バブル・イグジット

欧州がえらいことになってますが、単発的なテロが重なって体感治安の悪化は避けられないところも、対応が国にによって異なることが注目されます。シャルリ事件の影響もあるとはいえ、パリ同時多発テロでフランス政府が間髪入れず非常事態宣言をして大統領権限を強化し、以後期間延長を繰り返しながら現在に至ります。その一方でミュンヘン銃撃事件で犯人は単独犯でテロ組織との関係を否定したドイツ政府の冷静な対応が目立ちます。もちろん被害の程度の違いはあるんですが、戦前のナチスの台頭を許したドイツでは、慎重さが身についているのでしょう。

そんな観点からトルコのクーデター未遂事件を見ると、ちょっと待てと言いたくなります。トルコでもクーデターの1週間前にイスタンブールの空港のテロ事件などテロが頻発しています。紛争地のシリアやイラクと国境を接している関係でやむを得ないところはありますが、現政権の対応にも問題はあります。

欧米のダーイシュ(イスラム国、以下ISと記す)掃討作戦で、アメリカの空爆に空軍基地を提供するなど協調路線を取る一方、シリア・イラクで欧米が頼みとする勇猛なクルド人に対しては独立志向が強いということでトルコ国内に対立があり、クルド労働者党(PKK)をテロ組織と見做して弾圧しているわけで、ねじれがみられます。クルド人問題はEU加盟を希望するトルコに対するEUの人権問題批判もあり、複雑です。今回のクーデター未遂も、世俗主義の民主国家という現在のトルコの建国の精神に対して、エルドアン大統領がイスラム色を強めていることと共に、クルド人への弾圧も軍が問題視したと言われます。トルコでは政権の独走に軍がクーデターでストップをかけるということが度々起きており、軍自体は民主主義の守護者として国民の信任を得ている存在ではあります。

しかし不可解なことだらけです。

トルコの邦人「爆音、怖い」 軍反乱、抗議の市民が広場に大挙  :日本経済新聞
「エルドアン大統領は現政権への支持を示すため街頭に繰り出すよう国民に呼び掛けており」とあるように、丸腰の国民を武装した軍隊と対峙させて人間の盾にしたわけです。結果的に犠牲者とされる247人のうち160人以上が民間人という結果です。しかも民間人犠牲者を国民の反クーデター感情に訴えて非常事態宣言を正当化しているわけで、無茶苦茶です。こんな報道もあります。
トルコ大統領、軍反乱時に難逃れる 現地報道  :日本経済新聞
「当日の経緯を知る軍OBは「なぜクーデター勢力の戦闘機が(ミサイルを)発射しなかったのかはミステリーだ」とロイター通信に語った。」そうで、クーデター自体が狂言の可能性もあることを示唆します。一方それ以前に軍幹部の世俗派の更迭が相次ぎ、軍内部に不満がたまっていたという事情もあり、軍の組織統率力が低下していたとする見方もあります。クーデターの失敗はその結果だと。しかしそうするとトルコ軍の弱さを世界に晒したことになるわけで、加えて軍に留まらず司法や行政の政権に批判的な勢力を一掃して結果6万人超の拘束・解任で、むしろテロ対策は手薄になると見られています。シリアやイラクで劣勢のISのテロリストの越境でむしろテロを呼び込むとすれば皮肉です。

重要なのはトルコの大統領は選挙で選ばれる公職ではあるものの、トルコ憲法では名誉職で政治的な権能を持たないとされているにも拘らず、イエスマンで固めた現政権はエルドアン大統領の意のままに動いている点です。エルドアン大統領は大統領権限拡大を狙った憲法改正を目指しているそうですが、憲法改正するまでもなくこんなことができてしまうわけです。はて、東アジアの某国に似てないか?安倍政権が目指す憲法への非常事態条項の追加は危険だということと共に、トルコの場合現政権を支える与党は2015年6月の総選挙で過半数に達せず、必ずしも盤石ではありません。衆参双方で与党に2/3を与えた日本大丈夫か?安倍首相の支持層には神道系宗教の成長の家からスピンアウトした日本会議が。うーむ-_-;;。

思えばBREXITの背景に反移民感情があったとされますが、シリア難民の大量流入で離脱に傾いた英国有権者は少なからずいたでしょう。ただし不可解なのが元々EUに加盟してもシェンゲン協定には参加ぜず国境管理を続けていたイギリスがどの程度影響を受けていたかは明らかではありません。むしろ旧植民地を中心としたイギリス連邦の結びつきで多数の移民を迎え、しかも独自文化を尊重し多様性を強みに変えてきたイギリスで反移民というのはどうも残留派の印象操作のプロパガンダだったんじゃないかと疑われます。むしろEUの拡大で主権国家に屋上屋をかけるようなEU委員会の官僚主義に対する反発の方が大きかったんじゃないかと。とするとBREXITは必然だった?

EU自体が今直面している問題として、リーマンショックを受けた金融を巡る問題があります。バブル崩壊後の金融危機で銀行の整理統合が進んだ日本やリーマン後に公的資金で支えられながら再生したアメリカの銀行に対して、欧州では中小銀行が乱立し整理統合が進まない現状があります。EUによる預金保険制度の統一やECBによる銀行監督など金融統合が話し合われてますが、同時にバーゼル委員会の銀行規制強化で資本増強が求められ、破綻処理で民間に負担を分担させるペイルインを盾に公的資金注入ができにくい中で、金融危機時代の日本同様貸し渋り現象が起きているわけで、マイナス金利にまで踏み込んだECBの緩和策はそれを後押しする意図もあるわけです。

ただし実際は相対的に弱いイタリアなど南欧の銀行が緩和環境で淘汰を免れ延命する一方、好調なドイツでは金余りで設備投資が進むからますます格差は拡大するわけです。とはいえドイツ自身の貿易相手国としてのイギリスのプレゼンスの大きさから、メルケル首相はイギリスの立場も理解してEUのユンケル委員長のような強硬意見は言わないわけです。それでも先が見通せない中で投資を抑制する傾向は欧州全体で強まりますから、当分欧州の低迷は避けられないところです。

アジアでは中国の減速が結果的に日台韓やASEAN諸国にも影を落としますから、アジアも足踏みという中で、独りアメリカが気を吐く状況ということになります。実際FRBは量的緩和を終わらせ、利上げにまで踏み込んでいます。アセットバブルから出口へ進んだわけです。それでも利上げは遅々として進まず、むしろ利上げ延期が好感されて株価を押し上げるというヘンテコな状況で一進一退です。このアメリカの好調をどう見るかですが、シェール革命の影響の大きさを見るべきでしょう。

共和党大会で透ける「エネルギー孤立主義」 米州総局 稲井創一 :日本経済新聞
シェール革命でエネルギー自給が可能になれば、アメリカの経常収支が改善する可能性があります。そうするとエネルギー自給体制の中で国内産業を再生して雇用を生み出すというのは結構リアルなシナリオになります。トランプドクトリンも必然か?てなわけで、世界は今までとかなり違った方向へ踏み出しつつあるようです。気候変動バリ協定が空洞化される心配はありますが。

で、日本ですが、これだけ世界が変わっているのに、日本はなぜ変われないのか。一言で言えば変わりたくないんだろうということですかね。アベノミクスの弊害がこれだけ明らかなのに、当面食うに困らない程度の安定はあるから、それを崩したくないってことでしょう。これは同時に大胆な規制緩和にもマイナスに働きますし、例えば憲法改正も難しくしますから、それだけ現状維持圧力というか慣性が強いってことなんでしょう。

世界史的に似た状況は19世紀末の1873年から1996年までのイギリスに見られます。当時のイギリスは産業革命のアドバンスを使い果たし、米独仏の新興工業国の追い上げで窮地にあったのですが、同時に都市中間層の台頭もあり、紆余曲折はあったものの、中間層のヘゲモニーとしての民主政治が確立した時代でもあります。そして世界の労働法規のひな型となったイギリス労働法で労働時間に上限が設けられ、労働者の立場が確立した時代です。イギリスは結局覇権国の地位を失いますが、その一方でゆりかごから墓場までの手厚い社会保障を実現していくわけですが、これ丁度アベノミクスの逆ってことです。むしろこの大不況期にイギリスは経常赤字を拡大したのですが、日本は経常黒字を継続しており、打つ手もあるわけです。てなわけで Asset Bubble EXIT 略してABEXITがテーマになるわけです。

とはいえアベノミクスの本質はダメノミクスであり、出口でのリバウンドのショックは考慮する必要はあります。例えば今の日本でいきなり利上げができるかと言えば答えはNoです。まずは伸びきった日銀のバランスシートを徐々に縮小するしかありません。具体的には物価目標を取り下げた上で、保有国債は満期まで保有して償還させるわけですが、保有国債の期限も伸びて平均7年になってますから、保有水準を下げるだけで少なくとも7年以上かかるわけです。しかも高値で買い取っていてマイナス金利債もありますから、発券銀行の特権である通貨発行益の多くが失われ、経常経費を差し引いた剰余金の政府上納も減るわけで、その分財政に負担を与えます。結局金融政策は時間軸での資金の移転に過ぎないわけで、将来世代の負担増になるという意味では赤字国債による財政出動と大差ないわけです。

ただし国債償還による自然減もさらに時間をかけないと財政を通じた経済下押しJは避けられないわけで、実際には国債買い入れ額を徐々に減らしながら、日銀の保有国債全体でマイナス金利にならない範囲で対応するぐらいしかできません。急に買い入れをなくせばそのことによる国債暴落が起きかねませんので。てことは現状維持を言いながら徐々に買い入れ額を減らすぐらいしか方法がないわけで、その分出口に要する期間は伸びることになります。

また注意すべきは日銀当座預金の銀行勘定ですが、すべてマイナス金利が適用されているわけではなく、当座預金の名が示す通り、法定準備金相当額は金利なし、法定分を超えた超過準備のうちマイナス金利実施日の今年2月16日時点の当座預金残高の超過分に限定的にマイナス金利が適用されます。ですから銀行は以後の当座預金増加分にマイナス金利がかかるわけですから、預金を増やさないようにする一方、新発国債までマイナスの現状ではプラス0.1%の部分の預金準備を死守しようとします。事実上の不胎化というわけですね。この状況で国債が暴落して年利0.1%以上の利回りが見込まれると取り崩しが始まるわけで、ベースマネーの減少が早く進んで市場が収拾がつかなくなる事態もあり得ます。準備預金マネーが地雷になるわけで国債買い入れを減らすだけでも慎重にしなければなりません。現実的には10年20年と長い時間をかけざるを得ない。わけです。

ヘリコプターマネー導入の議論で期待が膨らんだのか、BREXIT後の円高が反転してドル円は一時107円まで戻しましたが、60年償還ルールのある日本では導入は不可能です。というよりも、赤字国債の借換債発行が制度化されていて、それが財政赤字の歯止めを失わせた現実があり、実質ヘリマネと変わらないということで、追加策としては不可能という意味ですが、それだけ後始末は困難を極めます。ある意味上記の経常黒字の継続が財政赤字の許容度を高めている可能性があり、困った問題です。

てことで参院選でアベノミクス継続を訴えて勝利した与党陣営ですが、早速秋の臨時国会で大規模な財政出動を打ち出すとしております。課題は財源で、10兆円20兆円といった数字が飛び交っているものの、既に税収の上振れ分やマイナス金利で浮いた国債金利見込み額も使い切り、真水となる剰余金は1兆円がいいとこ。残りは建設国債や財投で水増しとなりそうです。しかし建設国債は使途がインフラ建設に限られる一方、人手不足で執行が滞っている現状ではあまり増やせません。見方を変えれば建設コストの見直しで人件費を高く設定することで、間接的に賃上げにつなげるという経路は考えられますが、不足している建設職人は養成に10年はかかり実際建設現場では高齢の職人ばかりという状況では賃上げは彼らの懐を潤すだけで若年層の雇用増にはつながりません。

加えて先進国で公共インフラがかなり整っている日本のような国では、追加的なインフラ整備は収益逓減の法則で経済効果が低下する一方、固定資本の増加は維持費に相当する固定資本減耗の増加でそれ自体が財政を圧迫しますから、国全体で見た生産性を下げるだけです。あと財投活用は結局民間資金を吸い上げるだけですから、民間の設備投資の代替で低収益の投資が行われるわけで、これも成長の足を引っ張るだけで無意味です。

インフラ投資を是とする議論は、結局ストックの増加に意味があるのですが、そのストックの収益性が低下することを防ぐ手立てはないわけです。逆に社会保障に関しては高齢化による財政の圧迫から給付を見直せのような議論はフローしか見ていないのですが、例えば年金制度は制度ストックとしての意味合いがあるわけで、収支のデコボコはあっても持続可能であれば機能するわけで、そのためには保険料の原資となる雇用者所得が安定していることが大事なわけです。その意味でGPIFのリスク投資は避けるべきですが、いくら得した損したという議論は相手の議論の土俵に乗るだけです。制度の安定性を図って未納をなくすことが重要。将来の保険料の原資を増やす意味で最低賃金の上昇などで後押しすることが重要です。最低賃金問題は目先の景気への直接的な効果をうたうならばフローの議論の範疇を抜けられず、ちょっと違うというべきです。

また気になるのがこれだけ若者の貧困が言われているのに、廉価な公営住宅が不足している点。一方で人口減少の結果としての空き家の増加という現象があるわけですが、民間住宅ストックを活用した公営住宅の充実という形で、低稼働の民間ストックを活用して低所得層の生活支援を行うというようなストック面で国民生活を支える仕組みがあって良いのですが、一方で住宅ローン減税など持ち家を後押しして住宅ストックを増やして空き家問題を深刻化させるというバカなことを止めるべきです。結果的に住宅ストックの稼働率が上がって生産性を改善できます。

そんなこんなでまとまりつかないけど最後にこれ。

ナリタ・ハネダを経由しない訪日客が急増する?:日経ビジネスオンライン
あまり知られていませんが、富士ドリームエアラインズ(FDA)が好調です。発着枠の制限が厳しい成田・羽田に対してがら空きで着陸料も格安どころか補助金もらえるところすらある地方空港を活用し、エンブラエルの80人乗りクラスのリージョナルジェット機を用い、パイロット養成も自前。お陰で同型機を使うJALのパイロット養成まで受託収益の柱の1つにし、小型で燃費が良く80人乗りで搭乗率を高く維持できる一方LCCのように安売りはしないから利益率が高いというわけです。加えて国際チャーター便への参入を目指しているとか。バス2台分程度の定員ならばツアーの募集のハードルも下がり、外国人観光客を直接地方空港へ送り込むことも計画中ということです。

日本全国に立派な地方空港があり、それを小型のリージョナルジェット機で結べば、新幹線よりもはるかに小さな需要でも成り立つわけで、しかも国際チャーター便で直接外国人を地方へ送り込むといった新幹線にはできない芸当もできるわけです。並行在来線切り離しを含めて地方財政の重荷になる整備新幹線よりもこれだろって話です。立派だけど赤字を垂れ流す地方空港の収支改善にもなり、活性化にもつながるわけです。FDAに限らず例えば北海道庁は新幹線に期待するより北海道エアライン(HAC)を支援する方が良いのではないかと。その上でJR北海道の路線維持は市町村を巻き込んで模索するということですね。これ交通政策基本法の趣旨にも合致します。

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