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Sunday, September 11, 2016

マクロまっくろ

北朝鮮の核実験がありました。南シナ海問題で中国包囲網をと粋がっていた日本もそれどころじゃない。安保理決議に拒否権を持つ中国次第ではあんまり中国を問叩けない。幸い今回は中国も同調してくれましたが。

ただ基本的に北朝鮮の核開発は誇張された部分があると思います。そもそも核の抑止力は敵対する国同士で敵国の核施設を叩けば少なくとも核による反撃は防げるわけで、冷戦時代の米ソでは軍事機密の壁もあって、複数存在する核ミサイル発射施設を完全に叩けないから、どちらも核攻撃ができない状況だったわけで、冷戦が終わった段階で、本来終わる話なんですが、中国の核開発で米中間は同様の関係ながら、中国は既に核先制不使用を宣言してますので、アメリカが同様の宣言を出せばやはり当面は問題がないのですが、アメリカ国内と同盟国の反対で潰されました。もうちょっと言えば日本政府がそれにコミットしたわけです。脅威を煽ったと見られても仕方ありません。

で、例えばイギリスの核装備は核弾頭搭載のSLBM装備の原潜を配備して、公海の深海に潜んで発射するから敵に直接叩かれないということで、ある意味弱者の戦略なんですが、ソ連解体で核装備を継承したものの、経済規模から重荷になっているロシアも、STARTで戦術核削減でアメリカと合意しながら、戦略核の規模は保持し、それをSLBM化して原潜に搭載するとしているわけで、ある意味ロシアも弱者の戦略を取るようになったという意味で、ロシアの立ち位置は、アメリカと力づくで対立はしないけどちょっかいは許さないというスタンスなわけです。てことで、北朝鮮はこれを見習ったわけです。

ただし核弾頭をSLBMに搭載可能とするためには、相当な小型化が必要で、今のところ北朝鮮にはそこまでの技術はないだろうという見立てですが、ミサイル発射と併せて立て続けに行うことで、見かけ上の核抑止力を演出することは可能という目論見かと思います。つまり当面は核搭載SLBMがアメリカ本土に着弾する可能性は低く、アメリカがその気になれば北朝鮮のミサイル発射施設を攻撃して核による反撃を封じることは可能と見ているいうことで、実際アメリカは北朝鮮の直接交渉要求を無視しています。てことで北朝鮮の挑発は今後も続くでしょうけど、騒げば術中にはまるだけ。騒ぎ過ぎないことが大事です。

てことでこの問題は脇へ置いといて、マクロ経済の問題についてが本題です。4-6月期のGDP改定値が発表されましたが、まさかの上方修正でした。

GDP年率0.7%増に上方修正 設備投資上振れ  :日本経済新聞
数値のずれ自体は珍しいことではなく、元々個別の推計値を集成する二次推計値となるGDPの数値ではよくあることです。加えて生産=所得=分配という定義上の関係もあり、季節調整や年度の数値集成などの要請もあって細かく動くわけです。集計が早い消費などの数値から速報値が推計され、そこへ設備投資や在庫増などの供給側の推計値が出てきたところで改定値に反映されるわけで、今回で言えば速報値段階で消費がプラスながら弱かった一方、改定値では設備投資と在庫増が予想より上振れしたことが要因とされます。

で、問題は設備投資と在庫増の関係なんですが、消費が好調で在庫不足から生産を強化して在庫を積み増したいけど、生産設備の制約から設備増強が必要になったということならば、両者の関係は明白で、強い消費に背中を押されて企業が積極的な投資を始めたということになりますが、消費は前期比プラスながら弱いわけで、これは当てはまりそうにないということで、考えられるのが1つはインバウンド消費の減少ではないかと。所謂爆買いが終わって、商品在庫が積み上がり、在庫増ということで、設備投資とは直接結びつかないということですね。

設備投資増はむしろ大都市圏の再開発ブームや相続対策の賃貸アパート着工の増加などが寄与したと見られます。ある意味低金利の影響ですが、地価で見ると局地的にバブル越え地点も見られるなど過熱気味。持続性はハテナです。ただし消費に関しては、前期(1-3月)がうるう年効果で上振れしており、それを前提に見れば、弱いと断定できるかどうかは微妙ですが、少なくとも設備投資や在庫増とは関係ないとは言えます。

そして2月以降の貿易収支の黒字化の影響が持続していることが指摘できます。貿易収支は15年度を通して赤字基調だったのが、円高になった2月に15,500億円、3月に1.1兆円の黒字を記録して以降、黒字基調で推移しています。円高と原油安で輸入金額が減ったことが寄与したものですが、少なくとも現物取引である貿易収支で見る限り、円安期に赤字、円高転換で黒字という現実があります。円安で所得収支黒字は減ってますが、経常収支の黒字は高水準で辞されており、円相場の変動は国内の所得配分を動かすだけの意味しかないわけです。てことでマクロまっくろなんですね。

つまり異次元緩和や大規模財政支出などのマクロ経済政策が必要な状況なのかという疑問があるわけです。日銀は今月、金融政策の検証をすると言ってますが、これを追加緩和のサインと見る向きが多いのに驚きます。経済は低位安定ながら一応巡航速度で動いているし、むしろ金利低下が不動産価格を押し上げてバブルの様相すら見せている中で、むしろ緩和の出口を明確にすることで、将来の出口ショックを緩和することが重要です。少なくとも日銀が掲げる2%物価上昇が実現すれば金利は上昇します。ギリシャショックで明らかのように、金利上昇は唐突に起こり経済を混乱させますから、そうなる前に財政再建を進めるべきなんですが、そんな気さらさらない政府の対応です。

米FRBが利上げを宣言しタイミングを模索している状況ですが、日米で経済の基調にそれほど差があるわけではないのに、金融政策のスタンスが真逆ってのはかなり変です。同時に異次元緩和の出口にはかなり時間をかけざるを得ないわけですが、政権に近過ぎる今の日銀にそれが可能かと言われれば、無理かなと。政府の反対を押し切って量的緩和政策を終わらせて中央銀行の独立性を見せた福井総裁のような芸当は望み薄でしょう。

歴史を紐解くとフランスのルイ15世時代、摂政オルレアン公爵フィリップ1世に請われて経済顧問となったジョン・ローに行きつきます。ジョン・ローはスコットランド生まれの金融家で、若いころ貴族の娘を争って決斗で相手を死なせ、死刑判決を受けて収監されるも、友人の手引きで脱獄し大陸に渡り、アムステルダムを起点に金融家として頭角を現し、実績を買われたものです。

ローは兌換紙幣を発行し納税に使える法貨とし、市中に流通させると共に、フランス政府発行の国債の流通市場を整備してその売買を通じて紙幣の供給量を調整するなど、現代に通じる金融政策の基礎を築いたのですが、ルイ14世時代の浪費で財政赤字が深刻なフランスの財政再建は叶わず、フランス領ルイジアナの開発計画を発表してミシシッピ開発会社を立ち上げ、ロンドンで株式募集をかけるという奇策に出ます。その際配当原資として不換紙幣を発行してこれに充て、投資利回りを好感されて高値を付けました。一方フランスの政府財政は好転せず国債が暴落すると、フランス国債をミシシッピ開発会社の株券と交換するという奇策を重ね、フランス経済は好況に沸くことになります。

しかしバブルは続かず、銀行の取り付け騒ぎで支払い能力以上の現金が引き出され、それをきっかけに発券銀行を併合していたミシシッピ開発会社株が暴落しバブルがはじけました。ロー自身は職を辞しフランス国外へ逃亡し、この時の混乱が原因でのちのフランス革命の遠因となるというわけです。ちなみにミシシッピ開発計画の中心都市ニューオーリンズはオルレアン公爵に因んだ名前です。リフレ派の紡ぎだす物語の破局的な結末ですが、安倍と黒田は革命起こしたいのかwww。

日銀も株価連動投信(ETF)を年6兆円買い増すことを発表してますが、国債と違って償還の無い株式の保有ですから、ローの国債と株式の交換に匹敵する奇策です。国債80兆円に対してETF6兆円だから問題ないというのは間違い。新発債だけで毎年40兆円発行される国債に対し、IPOや増資で増える株式は兆円単位にも満たないので、株式市場を歪めているわけです。加えて国債は償還まで持ち続けることで時間はかかっても保有高を減らせますが、株式はいつの時点かで売らなきゃならないわけですし、あと特にETFの性格上ファストリテイリングのような値嵩株の買い付けが多くなるので、結果的に投信による間接保有ながら日銀が筆頭株主になるという矛盾もあります。これバブルと言われる中国国営企業の実態とどう違うのかって話です。

財政政策に関しては、東日本大震災のときにも指摘しましたが、公共工事の増大で資材費や人件費が高騰した結果、復興事業の進捗が阻まれたわけですが、台風3連発で大きな被害を受けた岩手県や北海道の復興が遅れることは避けられないところ。仕掛かり中の事業の一時停止をしてでもリソースを被災地に振り向けるべきなのは言うまでもないところです。そんな中でJR北海道がダメージを受けており、特に根室本線の復旧は年単位を要するところ。経営問題を抱えるJR北海道にとっては、公的支援を得ても自己負担分は確実に経営体力を奪うことになります。

気になるのは北海道産農産物の輸送が滞っていることで、ジャガイモ、タマネギ、ニンジンなどの価格が高止まりしており、被災地以外の地域の食卓を圧迫します。ジャガイモに関してはわさビーフでお馴染みの山芳製菓が製造の一時休止を決めたりと経済に悪影響が出ています。災害復興のような必要不可欠な財政支出が阻害されるのでは、何のための財政政策なのかと問い詰めたいところです。

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