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January 2017

Sunday, January 22, 2017

忘れた頃のBrexit

トランプ大統領就任ばかりが報道される中で、イギリスのEU離脱が久々にニュースになりました。

英、EU単一市場から完全撤退 メイ首相が離脱方針表明  :日本経済新聞
ポンド安で市場は動揺しましたが、今は収まっています。冷静に見ればメガFTAと見做せるEUの関税同盟からの離脱と新たな個別FTA締結交渉と見れば、騒ぐような問題じゃないです。そもそも工業国同士で貿易収支はイギリスの赤字基調で、保護すべき農業・畜産分野はBSE問題もあって事実上壊滅状態なので、貿易協定に関しては揉める要素が少ないですし、金融に関しても、EU側にロンドンに代わり得る金融都市は見当たらない状況で、ダブリン、フランクフルト、ルクセンブルクあたりが色気を見せておりますが、中国返還でシンガポールに地位を奪われると言われた香港の金融市場が、人民元も国際化もあって存在感を増しているように、ロンドンのオフショア市場としての機能が簡単に他所へ行くことは考え辛いです。

EU側の懸念としてはイギリスに甘い顔をすると各国の離脱派を勢いづかせるという不安があるようですが、財政危機で離脱が噂されたギリシャが残留しているように、ユーロ圏諸国の離脱は現実的に不可能と考えて良いでしょう。となると独自通貨を持つデンマークやスウエーデンが離脱候補か?って話ですが、現行体制で経済好調を維持している両国の離脱はあり得ません。

27日にはトランプ・メイ会談が予定され、外国首脳との初会談になるとの報道もありますが、米英がすり寄って保護主義へ進むという議論は無意味です。イギリスにしてみればメガFTAから抜ける以上、EUに丸投げしていた主要国との通商交渉を進めるのは当然ですし、TPP離脱とNAFTA再交渉を掲げるアメリカにとっても、イギリスとの関係は重要になります。ただ立ち位置は似ていても同床異夢ではあります。

イギリスは民族資本こそ淘汰されたものの、工業を支える電力・ガス・水利や、市場アクセスを保証する港湾・運河・鉄道・道路などのインフラも整っており、技術者も多数いてそれらのリソースがあるから外資が集まってそうしたリソースを利用した生産拠点を持つことができたんですが、シェール革命で資源国の要素が強まるアメリカでは、トランプ政権でどれだけテコ入れしても、製造業の復活は難しいでしょう。しかもフォードやトヨタを標的とした口先介入にしても、支持者からは「よく言った」と褒められるとしても、名指しされた企業の自己申告で「これだけ雇用を生み出します」と言うだけで、政策としての検証のしようがないですから、結局自己満足で終わると見ています。

その中で物議を醸す国境税問題ですが、これが案外実現可能性が高いのです。これEUの付加価値税(VAT)や日本の消費税などで輸出還付金が国境調整としてWTOルールで認められており、アメリカには同種の間接税がないことを問題視してきた共和党主流派にとっては懸案だったもので、上下両院で多数派となった状況で議会を通しやすくなっているわけで、トランプ大統領自身は「複雑すぎる」という感想を述べてますが、議会を通れば拒否権を発動することはないでしょうから、実現可能性はそれなりに高いと言えます。むしろ法人税の国境調整という制度の宿命で、正しく申告されるか?という疑問は残ります。

あとCNN記者の質問に答えなかったことで話題のロシアとの関係ですが、噂として言われるトランプ氏の乱痴気騒ぎをロシア当局に盗撮されて弱みを握られているということですが、これクリントン元大統領の女性政務官との不適切な関係があくまで地位を利用した私的な関係だったことと比べると、新大統領はロシアの傀儡ということになり、事実であれば大変なことですが、それがCIA報告に含まれていたというのは、ちょっと考えにくい。アメリカの外交を一気に無力化しかねないことでもあるわけで、そんな報告を安易に出すとすれば、情報当局としておかしいわけですが、イラクの大量破壊兵器問題やスノーデン事件に見られるように、既に組織として劣化している可能性もあり、どう転んでもトランプ大統領が目指す強い外交姿勢は成り立たなくなり、世界を混乱させることになりかねません。

そのロシアですが、シリアのアサド政権を支援してイスラム国を抑え込もうとしており、トランプ大統領もそれを支持する方向のようですが、そもそもイスラム国を巡ってはイラクでもシリアでもシーア派政権の抑圧され、独立志向の強いクルド人勢力を欧米が後押しする中でスンニ派の受難が続き、それ故にスンニ派部族がイスラム国支持を打ち出して草の根で支えている状況があるわけで、イスラム国を終わらせるにはそんなスンニ派の受難を解消してイスラム国を孤立させることこそ重要なんで、米ロ接近は問題解決をもたらしません。むしろテロの脅威は増すことになります。

てことで、トランプ大統領のアメリカは、当面の経済の好調さと裏腹に、先行きに多くのリスクを抱えています。為替のドル円もその辺を睨んで円安の戻りが見られます。で、TPPからの離脱ですが、アメリカ抜きのTPPという機運は関係国から出ていますが、日本政府は及び腰です。日米FTAへの期待もあるようですが、元々工業製品の関税は低く交渉余地が限られる一方、高関税の農業分野では一層の譲歩を迫られますから、日本にメリットはありません。しかし安倍政権だからな。

首相、外交前面に施政方針 戦後秩序転換に危機感  :日本経済新聞
「戦後レジームからの脱却」を主張してたはずが「戦後秩序転換に危機感」を抱くって矛盾甚だしいですが、反対してた筈のTPPに前のめりになったように、アメリカに言われれば何でもやっちゃう安倍政権です。トランプに接近しすぎて意のままに操られる可能性はあります。これがホントの Trump Partner's Problem でTPP-_-;。日本の場合はむしろこれを機に自立してアメリカ離れを模索するチャンスなんだが。

問題の根源はグローバリゼーションで多国籍企業に富が集中する一方、職を失う中間層の下層シフトが止まらないわけですが、これ国内の所得再配分問題であって、通商交渉で解決できる問題ではないのですが、世界規模で進む法人税減税やタックスヘイブンを利用した課税逃れの横行もあって、所得再配分がうまく機能しなくなっている点も見逃せません。だからTPPを成長戦略の柱とする安倍政権の対応は論外ですが、TPP離脱やNAFTA再交渉を掲げるトランプ政権も問題なんです。Brexitに関しては、メイ政権の国内政策が見えないきらいはありますが、主権の回復で国内の格差対策に進む可能性は高いと見ています。何しろ19世紀に救貧法や労働法を確立したイギリスですから、政治プロセスの強固さは確実にあり、むしろEUのくびきを外れることはプラスです。

てな世界の動きの中で日本ではドメスティックな炎上騒動がありました。田園都市線の19日の遅延に関する民進党の藤末健三義委のツイートが発端です。

「30分以上の遅延で無料にすべき」 電車遅延を巡る民進党議員のツイートに批判続出、本人の見解を聞いた - ねとらぼ
それに対する本人の釈明がこちら。
田園都市線の遅延に関するツイートについて | 民進党参議院議員 ふじすえ健三
藤末議員の言葉足らずのようですが、叩いた人たちも含めて大きな誤解があります。運送約款上の事業者の責任は旅客を発駅から希望する着駅まで安全に輸送することであって、時間に関する責任は基本的にありません。だから遅延しても良いという意味ではなく、藤末議員の言う遅延を防止する仕組みですが、遅延の何が事業者にとって問題なのかに関する理解が乏しい点でしょう。

平日朝のピーク輸送にリソースを総動員して最大輸送力を確保している現状では、遅延は車両や要員の回転を悪化させて事実上の輸送力低下を招きます。つまり生産性が低下して事業者は損失を被るわけで、それを避けたいという事業者側のインセンティブは実質的に存在します。それでも遅延が発生するのは、端的に言えば乗客が多すぎて混雑が遅延をもたらす状況が常態化している点にあります。

だから東急は東名―首都高経由の通勤バスを走らせたり、田園都市線の定期券で地上のバスに乗れるサービスをしたりして混雑のピークカットに努めてはいますが所詮焼け石に水で目に見える効果は出ていません。大井町線急行の7連化も発表されてますが、やはり効果は限定的でしょう。都心直結の利便性もあって高齢化が進んでも住み替えで若い世代が入ってきますから、混雑はなかなか解消しないわけです。で、ホームが混雑すると危険ということで列車の駅進入が抑止されたりして雪だるま式に遅延が大きくなるわけです。

田園都市線に限らないんですが、特に首都圏の私鉄では割引運賃の定期客のためにピーク輸送力の増強を迫られる状況で、高度経済成長時代のインフレ批判のスケープゴートにされて低運賃政策を押し付けられたこともあり、全般的に投資不足の状況にあります。その意味で混雑対策として有効なのは運賃の値上げですが、批判が怖くてそこへは踏み込めない。結果的に混雑は放置され遅延が常態化してしまうという悪循環です。あるいは戦前の大阪市営地下鉄の建設費調達で使われた受益者負担税を復活させるかでしょうか。いずれにしてもハードルは高いですが。

今回もグローバルに始まってドメスティックに終わるスタイルだなあ^_^;。

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Sunday, January 15, 2017

リスクを恐れない迷惑な人々

トランプラリーもやっと一服ですが、止めたのは?

東証大引け、反落 トランプ氏会見後の円高嫌気 医薬品が大幅安  :日本経済新聞
11日のトランプ氏自身の記者会見でした。しかも話題の中心は経済ではなくロシア。
トランプ氏、米メディアと対決姿勢 CNNなどを批判  :日本経済新聞
CNNの記者の質問に答えず「お前のところは嘘つきメディア」などと非難。CNN記者も食い下がりますが、この辺予定調和の日本の記者クラブ会見とは大違いです。とはいえ質問にまともに答えないとすれば、報道するメディア側も打つ手がないのが現実です。トランプ流メディアコントロールだとすれば問題ですが。

ただしCNN記者が問題視していたのが、トランプ氏がロシアに弱みを握られているという醜聞に関するものであり、言ってみれば出所不明の噂ですから、fact check という意味でメディア側の態度にも疑問は残りますが、ロシアによる大統領選介入に関してはトランプ氏も認めており、真偽よりも遺恨試合的に尾を引きそうです。アメリカ流の報道の自由にとっては課題が残ります。それでも日本よりはマシなのかな。

トランプ氏会見、サイバー攻撃「ロシア関与」  :日本経済新聞
米情報当局絡みですから、真偽は藪の中として、情報当局としてもこんな発表をすることになろうとは思っていなかった筈。トランプ氏の大統領選勝利はそれぐらい想定外だったんでしょうけど、同時にアメリカの民主主義制度の中心に外国ハッカーが介入できる脆弱性があるなんて発表のシュールさは何とも。逆にアメリカ情報当局による外国選挙への介入は噂レベルでも多数あり、日本の自民党にCIA秘密資金が渡っていたことは既に公文書公開で明らかになっています。当時と違ってアメリカの圧倒的な力の優位は失われ、ロシアが同じことができるレベルに追いついてきている現実を見せつけました。ましてマンパワーに勝る中国は?

蛇足ですが、従来「関税」と訳されてきた border tax を日経が「国境税」と訳したことで、やっと現実に追いついてきたかと。WTOルールでは輸出品に対する税還付は間接税に限って認められており、担税者と納税者が形式上一致することから直接税に分類される法人税では不可能という見解もありますが、世界的に多国籍企業の法人税逃れが問題視される中、税の専門家の間では法人税の本来の担税者は法人なのか?という議論が進みます。

元々事業所得としての最終利益に課税されるわけですから、ザックリ言えば営業余剰の配分を巡って国(税金)と株主(配当)と経営者(役員報酬)の間の利害調整に過ぎない問題です。法人税減税で直接利益を得るのは株主と経営者ってわけで、法人税収の減少は国家財政を圧迫する形で国民に転嫁されるわけですから、当然「法人税減税で賃金が上がる」という議論は成り立ちませんし、話を戻しますが、こうした隠れた担税者を視野に入れれば、法人税を間接税と見做すことは可能です。問題は数値を的確に把握し課税できるのか?という実務面のハードルです。貿易インボイスのようなものが導入される可能性もありますが。

ってことで、トランプ政権の政策的な目玉はこんなところでしょう。対米貿易黒字の大きい中国やメキシコは反発するかもしれませんし、メキシコに生産拠点を持つ日本企業にとっても影響はあるでしょうけど、騒ぐほどの問題じゃありません。それより自動車ならばカリフォルニアのZEV規制で2018年にもPHV以外のハイブリッド車がZEV指定を取り消されるとか、そっちでしょ。VWのディーゼル排ガス不正をきっかけに次世代環境車の本命はEVで確定しており、EV投資を考えたら、アメリカ国内への投資は避けられないところです。てなことを頭に置けば、こんなニュースも見方が変わります。

トヨタ「トランプ対策」奏功するか 米で1.1兆円投資  :日本経済新聞
トヨタにしてみれば5年間で100億ドルのアメリカ国内投資はわけないところ。それでトランプ政権へのリップサービスになるなら安いもの。トランプ氏にとっても「あのトヨタを動かしてやったぜ。ウェーイ!」と支持者にアピールできます。しかもこれエビデンス不要です。実勢を追跡するような支持者はいないってことですね。アメリカでは政策のエビデンスが強く求められ、オバマ大統領もそれゆえ思い通りの政権運営ができなかったんですが、トランプ流だと名指しされた企業がこういう反応をする限り、支持者から「トランプ氏スゲー!」の反応が返り支持率が上がるという構図です。これこんなのと同じになるってことです。
見えた?GDP600兆円 計上分野広く、五輪特需も  :日本経済新聞
アベノミクスで2020年に名目GDP600兆円達成を掲げていますが、それとは別に国連勧告に則った算定基準の改定があり、研究開発費等のGDP算入が2016年度中に実施と予告され、2016年10-12月期改定値から適用されました。新基準は過去に遡って適用されますから、GDP数値目標を設定したときの数字が隠れてしまい、比較不能になってエビデンスが成り立たなくなるわけです。

元々フローの数字に過ぎない名目GDPで数値目標自体意味がないんですが、税収に波及しますから、名目GDPの目標達成は歳入増による財政再建というストーリーとして上書きされるわけで、増税や歳出削減などの痛みを伴う対策なしに財政健全化をアピールするというレトリックなんですが、そんなアベノミクスをトランプ政権が見習っているとすれば、米欧二極でエビデンス不在の経済政策が進められることを意味します。今年最大のリスク要因でしょう。

日本に関しては変化なしではあるんですが、問題は必ず訪れる日銀の緩和政策の限界です。ただでさえトランプ相場で長期金利に上昇圧力がかかる中、既にマイナス金利水準=元本より高く買っている国債は満期まで保有しても損失が出ますから、それを見越した損失引当金を積んでいる状況ですが、元々低金利でほとんど金利収入が消えている中実際に金利上昇局面になれば引き当てが追い付かなくなり損失を出す可能性があります。そうなれば中央銀行発の大規模な金融パニックは避け難く、リーマンショックを簡単に超える水準の信用不安になります。日銀の緩和政策でリスクを集中させた結果ですから如何ともし難いところです。迷走する東芝

東芝、原発事業で陥った新たな泥沼:日経ビジネスオンライン

ややこしい構図なんですが、米原子力子会社WHの建設協力会社であるCB&Iの原発部門S&Wを巡る新たな減損が数千億円規模ということで、完全に再生シナリオが狂いました。そもそもCB&IがS&Wを切り離したのは原発建設を巡る規制強化で工事が度々中断し工期が遅れコストが増える中、WHとの間でも事業費の増額を巡って係争していたのを、S&WをWHが買い取ることで目先の損失を回避したんですが、資産査定の結果、追加減損が発生したわけです。CB&Iにとっては原発リスクを切り離せた一方WHは当座の損失は回避できたもののリスクを背負い込んだわけで、結果としてのリスク集中がそもそも問題なのですが。「原発は儲かる」は幻に。

話題を変えますが、本日1月15日は軽井沢のスキーバス事故から1年にあたります。

バス会社社長ら現場で献花 軽井沢事故1年  :日本経済新聞
事故を受けて再発防止策が講じられ改正道路運送事業法も施行され、貸切バス運賃の値上げなども行われたものの、違反は後を絶たず、特に基準を下回る低運賃請負はなくなりません。だからドライバーの待遇改善も進まずドライバー不足は解消されない状況です。それどころかインバウンドブームに乗じてバスの台数そのものは増えており、安値受注合戦はなくならないという悪循環です。バス会社にしてみればブームに乗っかれってことなんでしょうけど、その結果が事故などのリスクを大きくしているのだとすれば救われません。リスクを恐れないのは迷惑なんだってことを声を大にして言いたいところです。

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Saturday, January 07, 2017

タックス・ウォーが始まる

トランプ劇場は年を越えて続いておりますが、就任前からこれほど楽しませてくれる、もとい^_^;話題の多い米大統領は稀有の存在です。ま、歳も改まりましたし、今年の展墓ぷらしきことを書いとくか。まずはこれ。

初夢トランプ占い(5)税制 法人税下げ競争 再燃 規制緩和は国内優先か :日本経済新聞
天下の日経新聞が良くもこんな恥ずかしい記事を載せるなあ。トランプ税制に関して幾つか断片的な情報は耳に入りますが、それを理解してイメージを構成する力量が日経に記者にはないようです。簡単に言えば予告されている法人税減税の中身が、単なる税率下げではないってことです。いやこれアメリカに限らず、欧州やアジアで法人税減税を競い合うような状況はあるんですが、自国の税収を減らすことが簡単にできないことぐらいわかりそうなもの。税収中立の原則に従って税制そのものを見直しているんですが、日経を含め日本のメディアではその部分がすっぽり抜けていて、税率だけを比べるような表層的な報道ばかりです。

アメリカでも直近の歴代政権はほぼ例外なく法人税減税の論点整理をしており、子ブッシュ政権時代にはスウェーデンなどの法人付加価値税まで俎上に載せられましたが、主に議会のねじれがあり、また保守、リベラルを問わず議員がロビー活動に晒される中、結局実現しませんでした。しかし論点の掘り下げ作業そのものは行われているので、トランプ氏のようなぽっと出の大統領でもまともなプランをまとめられるし、議会を説得できれば実現可能性はそれなりにあります。幸いというか、大統領選と同時に行われた議会選挙で共和党が上下両院で過半数を占めており、加えて中身次第で民主党議員の賛同も得られる可能性のあるプランならば議会を通る公算はあります。

で、トランプ氏のこれまでの主張から敷衍して、トランプ氏が狙うのは国内産業の復活であって、ある意味わかりやすいですし、加えてアップルやスターバックスで問題になったアメリカ企業の租税回避策をやめさせることです。ブッシュ政権時代の対テロ戦争で資金源を断つ目的で規制強化して、例えばマカオのバンコ・デルタ・アジアの北朝鮮関連の預金を封鎖して金正日政権に打撃を与えたりしたわけですが、その流れでマネーロンダリングの拠点としてのタックスヘイブンの金融機関にアメリカ国籍の個人と企業の口座情報開示を迫り、見える化されたことで、アップルやスタバの租税回避まで明るみに出たわけです。あと例のパナマ文書のリークですが、これがいろいろ謎な部分がありまして、中国接近を狙うイギリスへの牽制のほか、プーチンや習近平の身内や知人、アイスランドの現職首相などの個人名が晒されましたが、いずれも当時のオバマ政権と対立したり意に添わなかったりする人物ばかりというところに政治的な意図が見え隠れします。ただしこれが英国民にBrexitを決断させた可能性もありますが。

てなドロドロの状況で、漏れ聞こえるトランプ税制では、法人税率が35%から20%になるとか、キャッシュフロー課税になるとか、輸出分の売り上げを除外できるとか、逆に輸入は海外現地法人が立地国に支払った税金の還付を認めないとか、いずれも断片情報としては聞こえてきます。はっきり申し上げますが、この程度の断片情報からトランプ税制の枠組みを再構成することは、アメリカを含む世界で進む税制に関する議論をフォローできていれば可能です。上記の日経記事が恥ずかしいというのはそういう意味です。

法人税率を下げるために課税ベースの拡大は世界の常識で、日本でも民主党政権時代に、虫食い状に課税ベースを蝕んでいる租税特措法減税の見直しが議論されましたが、当時の経団連とメディアが叩いて阻止されました。租税特措法減税は例えば設備投資減税にしろ研究開発減税にしろ、企業の申告によっていますから、実態が見えにくく、当局も当該企業も国民の批判に晒されることのない聖域だったわけですが、そこを踏んだ民主党政権がバッシングされたわけです。しかし世界の常識とはかけ離れた話です。加えて法人減税は海外からの投資を呼び込む意図もあるわけで、その意味では日本のように租税特措法で当局と阿吽の呼吸が取れる国内企業に有利な仕組みの見直しは避けて通れません。

でトランプ税制で法人税率を20%に下げるのも、課税ベースの拡大によって行われるわけですが、その際にキャッシュフロー課税が導入されるんじゃないかという観測がされてます。これ簡単に言えば減価償却による無税の資金留保は認めない代わりにキャッシュアウトを伴う設備投資は奨励されるから、設備投資が活性化して国内産業の復活を後押しするというわけです。

あと輸出の売上計上除外は事実上輸出分の法人税減免になり、日本の消費税に相当する付加価値課税がなく輸出還付金がないアメリカにとっては、言ってみれば貿易のイコールフッテイング税制となるわけで、高関税を課せばWTOに提訴されて敗ける可能性もあり、現実的には難しいですが、国内税制を弄って同等の効果を狙うのはあり得ます。仮にこれがWTOに提訴されても、そのときは付加価値税の輸出還付を行っている国を逆提訴して対抗するつもりでしょう。当然日本も対象になります。

そして輸入課税ですが、これアップルやスタバなど海外で資金留保している多くの米多国籍企業にとっては、海外生産を見直さざるを得なくなる上、米連邦政府にとっても、莫大な税収増をもたらす可能性があります。これを原資に老朽化が進むインフラ投資を積極化するというシナリオにリアリティが出てくるわけです。そんな背景を日本のパワーエリート達は理解できているのでしょうか。

トランプ氏介入、トヨタにも メキシコ投資に「あり得ない!」  :日本経済新聞
これ日本財界の賀詞交歓会でトランプ景気でイケイケムードの中、豊田章男社長がそれでもメキシコ工場への投資は予定通り行うと述べた直後のツイートだったってこともあり、一転財界人を慌てさせたようですが、上記の背景が見えていれば、フォードがメキシコへの工場移転を撤回した理由と共に、違った反応になったはずです。とりあえずトヨタはトランプ氏にアメリカ経済のメンバーと認められたとも取れ、ある意味メキシコに工場作ると損するぞという忠告と受け取ることも可能です。「メキシコに工場を作っても米国内の雇用は減らない」といった反論をしてますが、トランプ氏はそんなこと聞いてないんで、アメリカ国内に投資を呼び込もうということです。ある意味そのための法人税減税でもあるわけです。はっきり申し上げて、日本以外のグローバルエリートにとって自明のことすら、日本のパワーエリート達は理解していないということがバレちゃったわけです。企業の租税回避は各国とも悩みの種だけど、こうして自国に税収を引っ張ろうとしている状況はあるわけで、これ恥ずかしいを通り越して日本の未来が危ないぞ。

ただ誤解のないように申し上げておきますが、私自身はトランプ支持でも何でもないですし、おそらくトランプ改革は失敗するんじゃないかと踏んでます。特にインフラ投資に関しては、既に完全雇用に近い現在のアメリカで、財政出動で公共工事を積み増しても、震災後の日本と同じように深刻な人手不足に見舞われるだけの可能性があります。ただしアメリカは従来移民受け入れで人手不足をクリアしてきたわけですから、移民排斥を公言するトランプ氏はわざわざそれを難しくしているわけです。公共事業拡大の必要性と難しさを示すこんな報道も。

NYで列車脱線、100人超負傷 大半が軽傷か  :日本経済新聞
NYメトロノース傘下のロングアイランド鉄道は昨年10月にも事故を起こしておりまして、しかも今回と似たようなターミナル駅での暴走事故で、日本のATSに相当する保安装置があれば防げた可能性がありますが、収益に結びつかないということで鉄道会社は投資に及び腰です。連邦政府の補助が必要ではないでしょうか。一方でこんな話題も。
「幻の地下鉄」に学ぶインフラ投資の試練  :日本経済新聞
100年前に構想されたNY地下鉄セカンド・アベニュー線ですが、大恐慌やww2で計画が中断。戦後も市財政の破綻で事業化が遅れに遅れてやっと2007年に着工されたものの、人手不足で工事はべた遅れ。クォモ市長が発破をかけて昼夜突貫工事の末、異例の元旦開業となり、試乗したニューヨーカーたちも驚きとともに喜びを分かち合ったということですが、これだけならいい話で終わりですが、既に人手不足は顕在化していて、今後公共事業の拡大の困難さを示してもいるわけで、喜びも半ばということになります。こんなことも踏まえながら、トランプのアメリカがどうなっていくか、興味は尽きません。

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