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Sunday, January 15, 2017

リスクを恐れない迷惑な人々

トランプラリーもやっと一服ですが、止めたのは?

東証大引け、反落 トランプ氏会見後の円高嫌気 医薬品が大幅安  :日本経済新聞
11日のトランプ氏自身の記者会見でした。しかも話題の中心は経済ではなくロシア。
トランプ氏、米メディアと対決姿勢 CNNなどを批判  :日本経済新聞
CNNの記者の質問に答えず「お前のところは嘘つきメディア」などと非難。CNN記者も食い下がりますが、この辺予定調和の日本の記者クラブ会見とは大違いです。とはいえ質問にまともに答えないとすれば、報道するメディア側も打つ手がないのが現実です。トランプ流メディアコントロールだとすれば問題ですが。

ただしCNN記者が問題視していたのが、トランプ氏がロシアに弱みを握られているという醜聞に関するものであり、言ってみれば出所不明の噂ですから、fact check という意味でメディア側の態度にも疑問は残りますが、ロシアによる大統領選介入に関してはトランプ氏も認めており、真偽よりも遺恨試合的に尾を引きそうです。アメリカ流の報道の自由にとっては課題が残ります。それでも日本よりはマシなのかな。

トランプ氏会見、サイバー攻撃「ロシア関与」  :日本経済新聞
米情報当局絡みですから、真偽は藪の中として、情報当局としてもこんな発表をすることになろうとは思っていなかった筈。トランプ氏の大統領選勝利はそれぐらい想定外だったんでしょうけど、同時にアメリカの民主主義制度の中心に外国ハッカーが介入できる脆弱性があるなんて発表のシュールさは何とも。逆にアメリカ情報当局による外国選挙への介入は噂レベルでも多数あり、日本の自民党にCIA秘密資金が渡っていたことは既に公文書公開で明らかになっています。当時と違ってアメリカの圧倒的な力の優位は失われ、ロシアが同じことができるレベルに追いついてきている現実を見せつけました。ましてマンパワーに勝る中国は?

蛇足ですが、従来「関税」と訳されてきた border tax を日経が「国境税」と訳したことで、やっと現実に追いついてきたかと。WTOルールでは輸出品に対する税還付は間接税に限って認められており、担税者と納税者が形式上一致することから直接税に分類される法人税では不可能という見解もありますが、世界的に多国籍企業の法人税逃れが問題視される中、税の専門家の間では法人税の本来の担税者は法人なのか?という議論が進みます。

元々事業所得としての最終利益に課税されるわけですから、ザックリ言えば営業余剰の配分を巡って国(税金)と株主(配当)と経営者(役員報酬)の間の利害調整に過ぎない問題です。法人税減税で直接利益を得るのは株主と経営者ってわけで、法人税収の減少は国家財政を圧迫する形で国民に転嫁されるわけですから、当然「法人税減税で賃金が上がる」という議論は成り立ちませんし、話を戻しますが、こうした隠れた担税者を視野に入れれば、法人税を間接税と見做すことは可能です。問題は数値を的確に把握し課税できるのか?という実務面のハードルです。貿易インボイスのようなものが導入される可能性もありますが。

ってことで、トランプ政権の政策的な目玉はこんなところでしょう。対米貿易黒字の大きい中国やメキシコは反発するかもしれませんし、メキシコに生産拠点を持つ日本企業にとっても影響はあるでしょうけど、騒ぐほどの問題じゃありません。それより自動車ならばカリフォルニアのZEV規制で2018年にもPHV以外のハイブリッド車がZEV指定を取り消されるとか、そっちでしょ。VWのディーゼル排ガス不正をきっかけに次世代環境車の本命はEVで確定しており、EV投資を考えたら、アメリカ国内への投資は避けられないところです。てなことを頭に置けば、こんなニュースも見方が変わります。

トヨタ「トランプ対策」奏功するか 米で1.1兆円投資  :日本経済新聞
トヨタにしてみれば5年間で100億ドルのアメリカ国内投資はわけないところ。それでトランプ政権へのリップサービスになるなら安いもの。トランプ氏にとっても「あのトヨタを動かしてやったぜ。ウェーイ!」と支持者にアピールできます。しかもこれエビデンス不要です。実勢を追跡するような支持者はいないってことですね。アメリカでは政策のエビデンスが強く求められ、オバマ大統領もそれゆえ思い通りの政権運営ができなかったんですが、トランプ流だと名指しされた企業がこういう反応をする限り、支持者から「トランプ氏スゲー!」の反応が返り支持率が上がるという構図です。これこんなのと同じになるってことです。
見えた?GDP600兆円 計上分野広く、五輪特需も  :日本経済新聞
アベノミクスで2020年に名目GDP600兆円達成を掲げていますが、それとは別に国連勧告に則った算定基準の改定があり、研究開発費等のGDP算入が2016年度中に実施と予告され、2016年10-12月期改定値から適用されました。新基準は過去に遡って適用されますから、GDP数値目標を設定したときの数字が隠れてしまい、比較不能になってエビデンスが成り立たなくなるわけです。

元々フローの数字に過ぎない名目GDPで数値目標自体意味がないんですが、税収に波及しますから、名目GDPの目標達成は歳入増による財政再建というストーリーとして上書きされるわけで、増税や歳出削減などの痛みを伴う対策なしに財政健全化をアピールするというレトリックなんですが、そんなアベノミクスをトランプ政権が見習っているとすれば、米欧二極でエビデンス不在の経済政策が進められることを意味します。今年最大のリスク要因でしょう。

日本に関しては変化なしではあるんですが、問題は必ず訪れる日銀の緩和政策の限界です。ただでさえトランプ相場で長期金利に上昇圧力がかかる中、既にマイナス金利水準=元本より高く買っている国債は満期まで保有しても損失が出ますから、それを見越した損失引当金を積んでいる状況ですが、元々低金利でほとんど金利収入が消えている中実際に金利上昇局面になれば引き当てが追い付かなくなり損失を出す可能性があります。そうなれば中央銀行発の大規模な金融パニックは避け難く、リーマンショックを簡単に超える水準の信用不安になります。日銀の緩和政策でリスクを集中させた結果ですから如何ともし難いところです。迷走する東芝

東芝、原発事業で陥った新たな泥沼:日経ビジネスオンライン

ややこしい構図なんですが、米原子力子会社WHの建設協力会社であるCB&Iの原発部門S&Wを巡る新たな減損が数千億円規模ということで、完全に再生シナリオが狂いました。そもそもCB&IがS&Wを切り離したのは原発建設を巡る規制強化で工事が度々中断し工期が遅れコストが増える中、WHとの間でも事業費の増額を巡って係争していたのを、S&WをWHが買い取ることで目先の損失を回避したんですが、資産査定の結果、追加減損が発生したわけです。CB&Iにとっては原発リスクを切り離せた一方WHは当座の損失は回避できたもののリスクを背負い込んだわけで、結果としてのリスク集中がそもそも問題なのですが。「原発は儲かる」は幻に。

話題を変えますが、本日1月15日は軽井沢のスキーバス事故から1年にあたります。

バス会社社長ら現場で献花 軽井沢事故1年  :日本経済新聞
事故を受けて再発防止策が講じられ改正道路運送事業法も施行され、貸切バス運賃の値上げなども行われたものの、違反は後を絶たず、特に基準を下回る低運賃請負はなくなりません。だからドライバーの待遇改善も進まずドライバー不足は解消されない状況です。それどころかインバウンドブームに乗じてバスの台数そのものは増えており、安値受注合戦はなくならないという悪循環です。バス会社にしてみればブームに乗っかれってことなんでしょうけど、その結果が事故などのリスクを大きくしているのだとすれば救われません。リスクを恐れないのは迷惑なんだってことを声を大にして言いたいところです。

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