見えざる手の穢れ
いやはや、秋葉原の安倍辞めろ、安倍帰れコールは大変な騒ぎでした。これがなくても都議選での自民党の敗北は自明でしたが、都民ファーストの勝利ってのはちょっと違います。公明党が小池知事側についたことと、築地市場の豊洲移転問題を選挙前に方針を示して争点から外したことで勝負ありです。小池知事には特にシンパシーはありませんが、こんがらがった現状を起点に考える限りはこれしかない落としどころです。
気になるのが投票率の低さで、これだけ注目された選挙なのに、前回は上回ったもののやっと5割の水準です。こうなると組織票頼みの公明党や共産党が有利になる一方、浮動票を都民ファーストの会がさらって、国政レベルの2大政党の自民党と民進党は激減。寧ろ民進の方がダメージが大きく、敢えて言えばフランスの総選挙と似た構図です。既存政治勢力に対する不信感が表面化したわけで、深刻な問題です。
やはり森加計問題がボディブローのように効いている。安倍首相自身は外遊に逃げて意味のない閉会中審査が招集されましたが、ミエミエのアリバイ作り。政権側は成長戦略としての規制緩和で正当な手続きを邪魔する文科省を抵抗勢力に仕立てようとするでしょうけど、森友、加計を導いた見えざる手が穢れていたんじゃないかという疑惑ですから、国家統治の根幹にかかわる問題です。
これアメリカでも一部の経済学者が問題視してますが、所謂レントシーキングと呼ばれるもので、大企業や富裕層や政府高官の縁故者等による利益誘導全般ですが、近頃は例えば法人減税のように各国が競い合って減税するような状況が見られるようになり、主権国家の根幹を侵食する問題と捉えられております。規制緩和や減税など、所謂新自由主義的な政策の帰結として、格差拡大が各国で問題になっておりますが、少数の富裕層や大企業が自分たちに有利な政策を金で買う結果、ますます格差拡大が進むということで、ピケティが示した累進課税の強化ぐらいしか打つ手がない状況です。一部で成長がないから格差が拡大したという風に誤読されてますが、成長が処方箋にはなり得ないのが現実です。
それを端的に示すのが、米FRBの利上げに拘らず物価上昇が鈍い問題ですが、欧州も似たり寄ったりで、いよいよ日本のように成長率がゼロ近くになり、ピケティが謎としてきた日本の低金利が米欧双方で見られるようになっています。正確には欧州では国によりけりですが、ドイツのように長期金利がマイナス圏に沈んでいる国と信用不安が抜けないギリシャやイタリアのように厳しい状況の国が同居してますが、イタリアの大手銀行モンテパスキの国有化で株式や劣後債を保有する個人の保護を欧州委が認めるなど、銀行同盟の進捗を足踏みさせる状況にあります。こんなじゃドイツが慎重姿勢を崩さない財政統合は夢のまた夢。Brexitで結束を呼び掛けてもEUの統合は進まないと見るべきでしょう。
そんな中でイギリスとフランスで行われた総選挙の結果が興味深いところです。イギリスのメイ首相にとっては手痛い敗けですが、経済より移民制限を優先するハードブレグジット路線は修正を迫られます。ただし伸びたのは2大政党の片方の労働党であり、Brexitに反対の中道の自由民主党や地域政党のスコットランド国民党は議席を減らしており、Brexit自体は信任されたと見て良いでしょう。ただし下院の安定多数を握って対EUで交渉力を高める戦略は否定されました。ま、ある意味時間切れ強制離脱ならば究極のハードブレグジットではありますが、だれも望まないですね。
とはいえ投票率が66%と大幅に高くなり、特に若者の投票率が高まってその票が労働党へ流れた結果というのが面白いですね。Brexitを問う去年の国民投票のときには経済が好調だったことで、ある意味国民の大胆な判断ができたんでしょうけど、その後のポンド安による輸入物価上昇が国民生活を圧迫し、特に失業率の高い若年層が、鉄道の再国有化や大学授業料無償化などを訴える労働党コービン党首を支持した結果です。ある意味アメリカのサンダース現象が再現した形ですが、同じ2大政党制でも、エスタブリッシュメントと見做されたクリントンとそれを攻撃するトランプというねじれた構図と異なって、ある意味イギリスの民主主義はバランス感覚を保つ健全さがあるのだなと感心します。
それにひきかえフランスの総選挙は投票率44%と国政選挙では信じられないような低投票率で、マクロン大統領率いるアン・マルシェ(共和国前進)の大勝という都議選に似た結果で、社会党、共和党という2大政党は議席を減らしています。つまり政治不信の結果であり、浮動票が消えた結果新しい政治運動である共和国前進や共産党など組織票を動員した勢力が浮上した構図です。ちなみにマクロン氏と大統領選を争った国民戦線ルペン党首が初めて議席を得ているのもその表れです。
マクロン氏のスタンスはEU統合強化で、そのために規制緩和や労働市場改革をしてドイツに寄り添おうということですが、これサルコジ政権で大失敗した路線なんですよね。で、反動で社会党オランド政権が誕生したわけですが、絶好調のドイツに経済で後れを取り成す術なく停滞し、またリビアやシリアへの軍事介入で成果を得られずむしろテロの標的になるなどしており、このままではフランスがEUのお荷物になりかねない状況でマクロン政権が誕生したわけですが、国民の不信感の払しょくは難しいでしょう。ドイツにしても、EU統合強化を謳うマクロン政権を手放しで歓迎はしないでしょう。
そうなるとBrexitに対して強面で対応してEUの結束を図るということになりますが、これ第1次大戦後のヴェルサイユ条約での対ドイツ強硬姿勢を再現する危険性があります。イギリスに対して強硬姿勢を示すことで、世論の支持を保とうとするんじゃないかと思います。ある意味国民戦線ルペン党首とEUに対するスタンスの違いはあっても、大衆迎合的になる可能性は高いでしょう。となるとBrexitは波高し?
一応お断りしておきますが、私はBrexitショックの株安で、欲しかったけど高くて買えなかった株を拾うことができたんで、イギリスに対して見方が甘くなっている可能性は否定しませんが^_^;、基本的にBrexitはまあうまくいくんじゃないかと思っております。総選挙で示された国民の意思も明確ですし、変えるべきを変え守るべきを守る本来の保守主義が機能していると見ているんで、元々EU内で特権的な地位にあったイギリスにとっては、EUの統合強化にどこまで付き合うかは、いずれ問題になるところです。
加えてEUの強面に対してはいくつかの強力なカードがあります。その1つが英領ジブラルタルの帰属問題でして、仮にスペインへの返還を持ち出せば、EUの態度を変えさせることは可能でしょう。それどころか紛争を抱えるキプロス問題も解決できず、旧ユーゴの和平交渉の失敗でNATO軍の軍事介入に頼らざるを得なかったなど、EUの紛争解決能力の低さから言って、イギリスとの決定的な対立は結局プラスにならないということで軟化する可能性は一定に存在します。ましてトランプ政権でアメリカが当てにできないしウクライナを巡るロシアとの対立もあるしということで、どっかの時点でイギリスとEUは和解するしかないでしょう。
てなこと言ってる間に北朝鮮のICBM発射実験成功の発表があり、レッドラインを超えたとするアメリカの軍事オプションに関心が集まりましたが、トランプ大統領の他人事ツイートで軍事オプションは早々に消えました。冷静に考えて、アメリカが軍事オプションを行使できる状況は、中国が中朝国境で軍事行動を起こし、それに呼応してアメリカが動くというシナリオでしょう。ただしそれをやるには韓国の同意は当然として、ロシアの黙認も取り付ける必要があります。北に融和的な文ジェイン政権誕生の韓国の同意もロシアゲート問題を抱える中でのロシアの同意もハードルが高いでしょう。せめてということで、北朝鮮と取引のある中国企業を制裁対象にして揺さぶりますが、習近平主席は動じない。そもそも中国の制裁が甘いというのは、勝手な思い込みでもあります。
実は北朝鮮は経済成長しているんじゃないかという見方がアメリカなどで出ており、ニューヨークタイムズによれば1-5%程度の経済成長の可能性を報じています。一応2008年時点でのGDPが米ドルベースで262億ドルで人口が2,500万人ですから、1人当りGDPは1,000ドル程度でベトナムbなどと同じぐらいですが、北朝鮮は石炭やレアアースなどの鉱物資源の豊富な資源国でもあります。そして2008年といえばリーマンショックの年で先進国がこぞって打撃を受けた一方、中国が大胆な財政出動で経済を浮揚させて所謂デカップリングで世界経済の失速を踏みとどまらせたのですが、その結果原油など資源価格が高騰した時期でもあります。中国の電力需要拡大や鉄鋼生産の拡大で石炭需要が増したわけですから、北朝鮮がその恩恵を得ても不思議ではありません。仮に5%成長が続いたとすれば、凡そ1.5倍強の400億ドル程度になっていても不思議ではありません。つまり昨今のミサイル実験の繰り返しは、金回りが良くなった結果であり、その原因を作ったのは他でもないアメリカだってことです。
てなわけで北朝鮮問題は決め手がないまま推移すると思いますが、その中国経済が明らかに成長鈍化しており、皮肉ですがそれが北朝鮮にとっては一番のとばっちりになるでしょう。尤も中国の経済減速は世界も返り血を浴びることになりますが。
てな状況で例えば東芝メモリーの売却先を巡って技術流出を心配する政府のバカさ加減に呆れます。毎年3,000億円から4,000億円を投資して技術の陳腐化を防がなきゃならない半導体で技術流出を心配するってほとんど冗談みたいな話です。そんな風だから日本や欧州の技術を導入して世界最大の高速鉄道網を構築した中国を「パクリだ!」とかdisってる暇があったら、整備新幹線の中途半端なハードの見直しを真剣に考えるべきです。そんな中でこのニュース。
時速360キロの新型新幹線 JR東日本、30年度投入へ :日本経済新聞FASTECH360(E954系)で目指した速度を再度新しい試験車で目指すわけですが、E954系の成果として320㎢/hのE5系とE6系が登場したわけですが、320km/h運転区間は宇都宮―盛岡間に留まり、宇都宮以南240km/h、大宮以南110km/h、盛岡以北260kom/h、青函トンネル内140km/hの速度制限を受けています。2030年の札幌開業を睨んでと言っても、ほぼ全区間で360km/h運転ができなければ、東京―札幌間で4時間の壁は切れないわけで、対航空で優位に立つことはできません。それもこれも財源ねん出を優先して中途半端なハードを作ったツケでして、相当な追加投資が必要ですが、JR東日本単独では難しいし、パートナーのJR北海道には頼れないしということで、試験車で速度制限区間のスピードアップがどこまで可能なのかは未知数です。特に大宮以南と青函トンネル内の制限解除は殆ど不可能と言ってよいでしょう。経営面の不透明さも指摘される中国高速鉄道ですが、今更ながら差をつけられてしまいました。一方こんなニュースも。
JR東、英国の鉄道営業権を応札へ 事前審査通過 :日本経済新聞イギリスのフランチャイズ制に基づく鉄道営業権を取得しようということで、これが記事にあるように成長エンジンになるかどうかは微妙ですが、いつまでも内弁慶のドメスティック企業ではだめだということで世界へ出ることは良いことです。この経験を活かして国内にフィードバックして、新しい公設民営鉄道の在り方を提案できれば面白いかなと思っております。
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