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Sunday, October 21, 2018

3度目の正直な消費税

いやヤバい事件です。例のサウジアラビア人ジャーナリストの事件ですが、何がヤバいって、変節黒田節で指摘したように、金の裏付けを失った米ドルの信用の源泉は石油であり、ドル基軸通貨体制は事実上石油本位制であるからです。WTIや北海ブレントなどの先物主導で相場形成される原油価格の安定が信用の源泉となっています。

輸出国で生産調整され消費国で備蓄され、かつての金本位制時代のように諸国で持ち合って価値が共有されている訳で、産油国の中でも特にアメリカの立場を忖度して生産調整に熱心なサウジアラビアの存在なしにアメリカに好都合なドル基軸通貨体制はありません。だから両国間関係にヒビが入る事態は世界を揺るがすことになります。

不思議なのは今回の事件がトルコ政府捜査当局のリークによって発覚した点です。サウジアラビアの在外公館内で起きた事件ですから、本来トルコ政府の捜査権は及ばない訳で、被害者のアップルウォッチで録音したデータを被害者の婚約者に預けたIphoneで樹脂似たというストーリーが語られてますが、相応にセキュリティを備えたサウジ在外公館の内部情報がアップル社のデバイスで易々と突破されたってことのリアリティは悩ましいところ。真偽は不明です。

そしてトルコもクーデター未遂事件への関与の容疑でアメリカ人牧師を拘束してアメリカから制裁を受けていたわけで、牧師は釈放されたものの経済的に苦しいトルコは、この事件を外交カードにしてアメリカやサウジアラビアを揺さぶる姿勢を見せています。失礼ながらトルコだけでここまでやれるか?第三国の関与の可能性もあります。あるいは強硬姿勢で事を進めるムハンマド皇太子の失脚を狙ったサウジアラビア人や米CIAの関与などもあり得ますが、結果としてサウジアラビア内外の対立の激化は避けられません。そういやソフトバンク株も売られましたが。

本題の消費税問題ですが、過去エントリーでSuica甘いか消費税Suica甘いか消費税再びで述べましたが、そもそも三党合意で消費税増税を決めた民主党政権時代も税収の上振れで補正予算が組まれていて、そればかりか復興増税で組まれた復興特別財源も余る状況だったってことは改めて指摘しておきます。

民主党政権以前から、大蔵省→財務省の予算編成のスタンスは、歳入を保守的に見積もってきましたから、税収の上振れ自体は珍しいことではなくほぼ毎年繰り返されてます。そして補正予算が組まれ、本予算で落とされた案件に予算付けされるということが繰り返されてきたわけで、災害復旧もその範囲でやれば本来増税は必要ないし、余れば次年度へ繰り越して次年度の国債発行を抑制することだってできた筈です。それをごまかし続けながら、景気対策と称して赤字予算を続けた結果が、GDP比200%超の赤字財政です。

少子高齢化で社会保障を持続可能にするためには財源が必要なんだという議論も要注意です。消費税増税の一方で小泉政権当時の年金改革で所謂百寝南進プランとか言われましたが、実質は保険料の値上げとマクロ経済スライドと称する給付の削減ですし、後期高齢者医療制度と称して切り分けた医療保険制度ですが、実質は現役世代が加入する組合健保や協会健保からの拠出金で賄い、各健保は拠出金ねん出の必要から保険料を値上げしている訳で、単なる負担の付け回しです。

消費税増税の本当の狙いは、輸出企業への戻し税による還付にある訳で、これあまり知られておりませんが、輸出品に関しては消費税は課税されない一方、仕入れ段階で負担した消費税が輸出時に還付されます。つまり実質的には輸出補助金になっているわけで、WTOルールでも流通の多段階で課税される付加価値税型物品税に限って還付を認めています。消費税の国境調整と呼ばれる措置です。消費税の手本とされた欧州の付加価値税をはじめ、EUの準加盟国的なポジションのカナダや社会主義国故に国税の考え方がなかった中国でも導入されており、主要国で同種の国境調整が行われていないのはアメリカぐらいです。

ここで思い出していただきたいのがトランプ大統領の誕生で導入が囁かれた、法人税の仕向け地課税による国境調整です。結局国内小売業などが影響を被るとして見送られましたが、その代わりにトランプ大統領は制裁関税を次々に繰り出しているという訳で、WTOの前身のGATTでフランスが物品税還付の特例として提案しアメリカが認めたことから始まったものという歴史過程を踏まえると、見え方が違ってきます。例えばEUは加盟条件として付加価値税率15%以上としており、殆どの国で20%前後となっていますが、これが欧州企業の輸出の後押しにどれだけ貢献しているか。また日本政府や財界も折に触れて消費税増税の必要性を言うのもわかります。

という訳ですから、一部で吹き上がっている消費税増税再延期は今回は無いと見るべきでしょう。とにかく消費税が増えるほど戻し税の還付が増える一方、ビジネスにやさしい安倍政権では法人減税も行われてますから、負担は減って還付は増える天国のような状況です。基本的に財界の意向には逆らえないでしょう。

でも消費にマイナスなのは確かなので、その回避策を小賢しく画策しておりますが、相も変らぬ自動車減税と住宅減税。成熟国の日本では自動車は基本買い替え需要ですから、減税で優遇しても需要の先食いが起きるだけで、寧ろ事後の落ち込みは大きくなりますし、人口減少で空き家対策が求められてる現状でまだ住宅増やすんかいって話ですね。

その一方でトヨタの豊田昭雄社長は自動車関連税の軽減を政府に迫っておりますが、輸出で還付金受け手法人税もまけてもらった上に、商売の邪魔になる税制無くせって言うんですからどこまで強欲なんだと呆れます。そうそう、日銀の異次元緩和のお陰で為替も円安ですから、それだけでも大儲けです。

それはそれとして、消費税問題は論点が多いので絞りますが、上記の過去エントリーで取り上げたのは、主に消費税率を5%から8%を経て10%と小刻みに段階的に上げる結果、JRなど鉄道事業者のシステム改修がばかにならないって話です。その結果ICカード乗車券に限って1円単位の運賃として現金運賃と2本立てにすることが認められましたが、これに限らず商店のPOSシステムや銀行の決済系システムなど小刻みな増税での負担が増す絵です。今回に限っては延期していた増税の実施ですから、ある程度の対応は織り込まれているでしょうけど、軽減税率が問題を複雑にします。

早速スーパーやコンビニのイートインコーナーの扱いが物議を醸してますが、8%の軽減税率適用のために飲食禁止にせよというトンデモな話になっております。勿論ここで軽減税率を認めれば外食産業の反発を招くわけですが、重要なのは、どう線引きをしようと、軽減税率の運用を巡るトラブルは避けられませんし、軽減税率適用を巡って利権争いとなれば政治家を巻き込んだ泥仕合も起こります。モリカケ問題が示すところは、その方が政治家の口利きの余地があるってことかも。

ただある意味この軽減税率導入があるが故に、準備を進める意味でこのタイミングで消費税増税を表明せざるを得なかったという側面もあり、この辺のからくりに気付いた立憲民主党が増税反対にシフトしてきており、野党の追及の口実を与えるあたり、香ばしいですな。

あと与党サイドから電子決済限定でのポイント還元やらプレミアム商品券やらと有象無象が飛び出しており、消費税問題で選挙が戦えないってのが与党議員の本音のようです。特に前者は中小事業者の導入促進を狙ってクレジットカード決済手数料の上限設定なんて話まで飛び出してます。これ日本が電子決済で出遅れているのを取り戻そうって意図なんでしょうけど、民間の相対取引の領域まで踏み込むって中国だってやらないぞ。

それ以上にそもそも複数税率を区分経理で対応しようとしてますが、どれだけ手間が増えるのか考えたないのでしょう。インボイスを導入すればそんな面倒はないんですが、ここでも現在見なしで控除される仕入れ消費税が証拠で明示されることへの反対が一部であるとか。これ透明性がが増す訳ですが、それを嫌う企業があるってことですね。腐っとる(怒)。

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