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December 2018

Monday, December 31, 2018

日産ワンエイト(108)

大晦日です。企業不祥事テンコ盛りの2018年を終えて、ソフトバンクIPO失速やNY株安の連鎖で日経平均2万円割れなど、明らかに経済が失速に向かっております。日銀がETF買い増しで辛うじて終値の2万円割れは防げたものの、リスクオンからリスクオフへの資金シフトは明らかです。異次元緩和から始まったアベノミクスの逆回転が始まります。

始まる前からうまくいかないと指摘したアベノミクスですが、ゴマカシゴマカシで来た結果、いよいよ誤魔化しようがなくなってきました。変節黒田節時点では不明としましたが、五輪後までは持つと見られていた景気の失速は早そうです。その場合追加緩和の手段が限られるため、景気の失速に打つ手がない最悪の状態になるってことも指摘しておきます。況や万博をや(-人-)チーン。そしてこのニュース。

大阪知事・市長、出直し選へ 19年統一地方選と同日か  :日本経済新聞
大阪都構想の亡霊が出てきました。都構想のキモは府市統合で都道府県民税と市町村民税の双方を都が徴税するということです。つまりカネと権限の集中ですね。流石に権限を失うと気付いた堺市は離脱しましたが。そして民営化された地下鉄でも散在が。
大阪メトロ、万博会場の夢洲にタワービル 1000億円超  :日本経済新聞
内緒ですが、夢洲は軟弱地盤が指摘されてます。関空の高潮被害どこ吹く風です。ついでですが、沖縄県名護市辺野古の新基地建設でも、軟弱地盤が指摘されていて、県が認可した公有水面埋め立て申請の工法では土地造成ができないのに国が工事を強行していて、明らかに嫌がらせです。話を戻しますが、維新が拘る都構想は金目当てと断定できます。そしてこれね。
商業捕鯨、展望見えず IWC脱退へ 豪州など非難  :日本経済新聞
捕鯨産業の経済規模は70億円強で40億円は政府補助金です。つまりGDP比0.001%余りのほとんど終わった産業です。それを止められないのは利権絡みです。一般財団法人日本鯨類研究所がその中心なんですが、農水省の外郭団体なのに独立行政Dどころか公益法人の認可も得ていないところに税金が投入され官僚が天下りしているんですね。

研究所を名乗ってますが、査読対象となる論文などは発表しておらず、専ら商業捕鯨再開のためのプロパガンダやロビーイングばかりやってます。南極などの調査捕鯨発生品の鯨肉を売って活動費にしてますが、売れてないからどんどん在庫が連騰倉庫に積みあがっている状況で、皮肉ですがIWCを脱退して調査捕鯨ができなになっても当面在庫処分で凌げるという笑えない状況です。この利権には山口県選出の安倍首相や和歌山県選出の二階幹事長が絡んでます。森加計問題と通底します。

その結果日本に非難が集まっており、ゴーン氏逮捕と長期拘留の問題も絡めて五輪ボイコットの機運まで出てきています。2020年が幻になるか?

ゴーン氏の問題では当初有価証券報告書虚偽記載の5年分50億円で20日間拘留後、それ以外の年度分の40億円で再逮捕して10日後の拘留延長を地裁に却下された結果、おそらく本命事件の会社法違反の特別背任罪で再逮捕となりました。特別背任には関与していないケリー氏は一転保釈が認められました。そのケリー氏が取り調べで一貫して「取締役会の決議事項であり虚偽記載には当たらない」と供述していて、これ正論です。またゴーン氏の長期拘留に海外から批判の声が上がったこともあり、地裁の拘留延長を認めない判断はそれを忖度したわれてますが、それはそれで問題です。

加えて言えば、海外メディアの報道では推定無罪原則を踏まえた報道がされてますが、記者クラブ発表を垂れ流す日本のメディアの報道姿勢が国際標準並みになれば、地裁判断も変わる可能性もある訳で、モヤモヤします。

最後に、毀誉褒貶はあるものの、日産を立ち直らせたゴーン氏の手腕は評価されるべきです。おそらく歴代トップの誰よりも現場に足を運んで潜在力を引き出したことは間違いありません。その点後継の志賀前社長や西川現社長はやはり現場に足が向かなかったのか、徐々に日産の業績も頭打ちになり、そればかりか不祥事を見過ごしていたという訳です。今回の件も更迭を恐れた西川社長の個人的動機も指摘されています。ましてケリー氏が言うように、問題があれば取締役会で指摘することはできた筈。司法取引で公権力を使っての権力闘争はどう転んでも後味の悪さを払しょくできません。

てなわけで、煩悩に凝り固まった日産幹部の魂は除夜の鐘で浄められるか?ゴーン(-人-)WWWW

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Sunday, December 16, 2018

COCOMしてますか?

華為技術(Huawei)を巡るニュースが連日報じられてますが、1987年の東芝機械COCOM規制違反事件と似ています。時あたかも日米貿易摩擦真っ盛りですし、安全保障問題を梃子にしている点も似ています。

東芝子会社の東芝機械がノルウェー企業と組んでソビエト向けに輸出した工作機械と制御ソフトが、冷戦期の対共産圏輸出規制委員会(COCOM)の規制に違反したとして問題になった事件です。規制品目は軍需品、高度工業製品、原子力関連品などとされ、東芝機械のこの取引が原因でソビエトの原子力潜水艦のスクリュー音が静かになり、アメリカの脅威が増したとされ、政治家による東芝製TVやラジカセのハンマー打ち壊しなどのパフォーマンスが大々的に行われました。

COCOM自体は正式な条約ではなく法的拘束力はありませんが、加盟各国は国内法で輸出規制の根拠法を制定し対応しており、日本では外国為替管理法で規制されてました。そのためアメリカの指摘を受けて日本で外為法違反で訴追され有罪判決を受け、親会社の東芝の会長と社長のトップ2人も辞任します。また議会へのロビー活動を活発に行いどうにか収集しましたが、肝心のソビエト原潜の静粛化に関する証拠開示は行われず、当時の日米貿易摩擦のネタにされたのではないかとの見方も根強くあり真相は藪の中です。

日本がCOCOMに加盟したのは1952年ですが、この年都営トロリーバス101系統今井線(上野公園―今井)が開業しました。開業時に登場した50型が実は中国天津市向けの輸出品がCOCOM規制により差し止められた結果、注文流れで東京都交通局が買うことになります。右側通行の中国向けを左側通行の国内向けに改造するという荒業ですが、朝鮮戦争の勃発もあり、何らかの政治力学が働いたのでしょう。

Huaweiに関してはいろいろと噂されてますが、少なくとも中国製だからセキュリティに問題があるということはありません。ネットや携帯やスマホにバックドアが仕掛けられていることは、スノーデン氏のリークで明らかにされてますが、あくまでもアメリカ政府の話。だから中国も同じこと考えるってことでしょうし、実際その可能性は否定しませんが、これらはソフトのバグを利用したハッキングが中心で、どこの国の製品であれ多かれ少なかれバグはありますから、敢えて言えば中国企業製品はアメリカ製品とはハッキングの勝手が違うってことはあるでしょう。それ以上でも以下でもない。つまり殆ど言いがかりです。ハッキング合戦となればマンパワーの投入量の違いがものを言う訳で、人口大国中国をアメリカが脅威と感じる訳です。

この辺のロジックは例えば中距離核戦力(INF)撤廃条約を巡るロシアの違反を理由としたアメリカの脱退にも見えますが、ロシアは核装備の近代化の一環で言いがかりと反論してます。これも実は中国や北朝鮮の中距離ミサイルが実戦配備されている現状から、ロシアの違反を口実に中国をターゲットにしていると見ることができます。延長線上には日本国内への核ミサイル配備もあり得ます。その時「事前協議」で日本が拒否権を発動できるでしょうか?アメリカに一言「COCOMしてますか?」www

ただHuaweiが対イラン経済制裁をすり抜けて通信機器を提供してきたことは子ブッシュ政権当時から指摘されていましたから、制裁を科したアメリカの国内法には抵触するということで、司法当局が動きましたが、トランプ政権の政治介入の動きに対しては牽制されました。こういうところは腐ってもアメリカです。

つまり一皮めくれば現在進行中の米中貿易摩擦は80年代の日中貿易摩擦とさほど変わらない訳で、当時の日本が唯唯諾諾譲歩したのに対し、中国政府は対決姿勢を見せてますが、いずれ折れないとアメリカの強硬姿勢は変わらないでしょう。中国にとっては痛手ですが、人口大国であることによるネットワーク効果が国内だけでも働くということを考えると、寧ろ中国が力を付けるきっかけになる可能性は否定できません。ただし日の出の勢いだった高度成長は終わり、日本と同様の長期停滞に陥る可能性は高いですが。

アメリカは冷戦でソビエトに勝利し、日米摩擦で日本を停滞させという風に、これまでのところ戦略は成功しており、その成功体験があるから対中国の強硬姿勢も続くと考えられます。しかも今回は軍事面で同盟国の負担増を要請しながら、Huawei排除では同盟国の協力を呼びかけるというご都合主義してるわけで、逆に言えばアメリカと言えども中国を追い込むには単独では難しいってことなんですね。で、中国の停滞の影響はアメリカよりも元々関係の深い日本やEUが被る訳で、日本にとっては損なディールです。矛先が中国に向いてるうちは日本は安泰なんて浅はかです。日本の長期停滞は続きます。

喧伝される中国異質論ですが、これも早い話80年代の日本異質論の焼き直しです。相手が異形の大国であれば、アメリカはあらゆる選択肢を否定しないというスタンスになるわけです。中国の陰で日本が相手にされないのは、日本のプレゼンスが低下したからってことですね。てことで、日本としては本当は鬼の居ぬ間の洗濯のチャンスなんですが、政府はどっち向いてんだか。

いつまでも対米輸出で経済成長を目指そうとするから大変なんで、もっと国内の再分配を進めて個人消費拡大を通じた内需拡大策へシフトするべき局面です。そうせずに消費税を10%に上げようとするから、所得効果でマイナス1.8%の消費縮小がある訳で、一時的なバラマキで平準化は無意味です。逆にたったマイナス1.8%なんです。その分の賃上げ、所得向上が見通せれば消費は増えるのにそうしないからまたデフレへ逆戻りになる訳です。

基本的な考え方は2005年元旦のエントリーから変わっておりません。もう少し解説すると、国際収支の黒字は国内貯蓄によるものです。生産されて消費されなかった分が国外で消費されて国際収支の黒字になる訳ですから、国内に貯蓄過剰を抱える訳です。貯蓄過剰状態ではいくら金融緩和しても消費も投資も伸びない訳です。

ゼロ年代以降のベアゼロ春闘や小泉改革で拡大された非正規雇用によって所得格差が拡大してますが、高所得層ほど貯蓄性向が高く消費しないので、格差拡大が貯蓄過剰をもたらしているわけです。所得再分配で消費性向の高い低所得層へ所得移転することが、消費拡大には必要になります。まして生産年齢人口が減少過程にある訳ですから、年金など社会保障の削減は高齢富裕層の貯蓄性向を助長する一方、低所得者も消費抑制を余儀なくされますから、貯蓄過剰を助長します。故に税金の使い道は所得再分配重視で公共投資は既存ストックを活用した投資効率の高いものに絞る必要がある訳です。で、上記過去エントリーで取り上げた相鉄都心プロジェクトに動きが出ました。

相鉄・東急接続路線「新横浜線」に  :日本経済新聞
相鉄、東急双方共に「新横浜線」の線区名で統一したのは、案内上の問題もありますが、東急が目黒線の延長と位置付けていないことも意味があります。直通は東横線と目黒線の両睨みってことですね。相鉄が直通車20000系を10連で登場させたことも、東横線直通を想定したものですし、加えて保安装置をソフトで読み替えてメトロ、東武、西武にも対応するものになっており、秩父や森林公園まで走れる訳です。

ただ困ったことに2018年のJRとの直通開始時点では相鉄新横浜線は新横浜には行かないので、案内上混乱が予想されます。おそらくJRと共通の路線系統愛称をつけると思われますが、E電以来ネーミング地獄のJR東日本だからねえwwwwwwww。「相鉄新宿ライン」かな?

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Sunday, December 09, 2018

CASE by MaaS

前エントリーの続きですが、フランスのマクロン政権がデモの影響で燃料税増税を断念しました。当面ルノー日産問題でフランス政府の干渉は防げそうですが、日産には別の問題が持ち上がっています。

自動車産業の激変が予想される中、日産の検査不正が新たに発覚しました。今回はブレーキなど安全に関わる部分の不正という重大なもので、ゴーン氏の報酬チョロマカシよりもガバナンス上の問題は大きいですし、ゴーン体制に責任を負わせるわけにはいきません。

完成検査の無視覚検査は、法令違反とは言え悪質性の程度は低かったし、そもそも制度自体が曖昧で非関税障壁の疑いもあるものでしたが、今回は国交省の業務改善命令を受けて現場調査する中で発覚したもので、検査不正は相当広範囲に行われていた模様です。ルノーとのアライアンスで海外製造拠点への投資が優先された事情から、その分国内製造拠点への投資や人員配置が手薄になったのは否めませんが、こうした製造現場の実態を把握できていなかった日産経営陣の責任は重大です。

検査不正の背景に。検査場の狭さとか検査員の不足といった事情があったようで、その中で増産体制が組まれた結果、検査部門がボトルネックとなり、検査で引っかかるとたちまち検査品で検査場が埋め尽くされてしまうため、右から左に流すしかなかったというような事情があったようです。それに対してスペースや人員の拡充を求める現場の声は経営陣に届かず放置された結果ということで、役員報酬を巡る金商法違反などより重大なガバナンスの欠如と言えます。必要な投資が行われなかったという意味で、経営陣の責任は重大です。

それはさておき、自動車産業を巡る変化予想でCASEというキーワードが語られます。繋がる(Connected)、自動化(Autonomy)、共有化(Shareing)、電動化(Electrical)です。これ相互に関連があって、車をスマホのようにネットにつなぐことで、付加的なサービスや機能が提供されるに留まらず、自動運転との関連で車間通信で衝突回避しますし、自動運転が実現すれば、稼働率の低いマイカーという保有形態が見直され、必要な時だけスマホで呼び出して使うことが可能になりますし、電動化は自動運転との相性が良く、また部品点数も減って特にエンジンのような作り込みも要らないから価格低下が予想され、自動車メーカーの優位性がなくなると言われます。

そのため自動車各社は優位性を維持するための投資を求められますが、例えば自動運転に関してはグーグル系列のウェイモが先行していて後追いになっている現状があります。電動化に関してもトヨタがハイブリッドシステムで世界をリードしたものの、特許で囲い込んだために追随するメーカーが現れず、米カリフォルニア州のZEV規制からも外されて焦っております。トヨタとしては究極のエコカーとして燃料電池車(FCV)を想定し、ハイブリッド車はつなぎという位置づけだったのですが、本命のFCVも水素供給網の整備が進まず、他方バッテリーEV向けの急速充電器の設置は進んでおり、またVWのディーゼル不正問題もあって自動車各社のEVシフトが鮮明になる中、トヨタは梯子を外された格好です。

EVに関しては日産が先行してますが、ビジネス的には大成功には至らず、新興企業の米テスラモーターズの先行を許しています。テスラモーターズ自体は典型的なガレージメーカーからスタートしたもので、ZEV規制が示すように環境意識の高いカリフォルニアでマイカーを電動化するガレージメーカーは多数存在しましたが、その中でイギリスのライトウエートスポーツ車のロータスエリートのプラットフォームを利用して、ノートPC用のリチウムイオン電池など汎用部品を使って世界初の量産EVとなるロードスターを世に問い成功を収めます。

バッテリーの搭載量で性能が規定されるEVです。とはいえ重量の嵩むバッテリーを大量に搭載すれば良いとはいきません。その意味で実用的なセダンではなく2シーターのロードスターならばパッケージしやすいし、趣味性故に高く売れるわけですね。こうして投資資金を上手に回収しながら技術を磨き、高級セダンのタイプSやクロスオーバーSUVのタイプXへと展開した戦略は見事です。加えてソーラー発電や家庭用バッテリーなどの事業化でシナジーを追求してEVのバリューを高めます。日本でも日産リーフが同様の訴求をしてますが、普及には至っておりません。

そして量産型セダンのタイプ3では製造ラインの自動化でコスト圧縮に挑みます。これは必ずしもうまくいかなかったのですが、マスク氏は製造現場との徹底した対話で解決策を見出し軌道に乗せます。この辺は日産幹部にとっては耳の痛い話でしょう。同時に自動車産業の雇用創出力という観点からは、従来通りとはいかない厳しい現実を示してもいるわけです。

とはいえテスラの成功はあくまでも所得水準の高い先進国の話でして、新興国への波及はむしろシェアリングが中心になると考えられます。そのときのキーワードがMaaSです。Mobility as a Serviceの略で、クラウド上のソフトウエアを利用するSoftware as a Serviceのもじりでもあります。言い換えれば移動(mobility)のサービス化でもあります。これ喩えればPCからスマホへの変化に相当します。これつまりハードとしての自動車のコモディティ化を意味します。

ただしMaaS技術的ハードルは決して低くはないので、先進国で先行して新興国へ波及する流れもスマホと同じと考えられます。そうすると自動車メーカーはまず利益の取れる先進国市場の劣化を余儀なくされるわけで、先進国にとっては雇用の縮小と共に格差拡大を覚悟しなきゃならないってことでもあります。

逆に言えば輸送サービスを提供する運送業にとっては劇的な生産性向上のチャンスでもあり、生産性格差で人手不足を余儀なくされる現状を良い方向へ転換できるチャンスではあります。但しあくまでもチャンスであって、AI自動運転で人手不足が解消するという発想では未来は開けません。

例えば自動運転が実現すれば移動中に仕事するとか就寝中に移動するとかが可能になるわけで、これある意味交通機関に求められるスピードの概念が変わることを意味します。朝の会議に間に合わせるために早起きして始発に乗るとか、前泊するとかが必要なくなるわけですから、この観点から言えばスピードを訴求するリニアは無用の長物になる可能性があります。公共交通にも変化をもたらす訳です。

そんな中で京浜急行が富岡地区の住宅地でゴルフ用電動カートを用いた興味深い社会実験を行いました。

「電動カート」は郊外住宅地の新交通になるか | ローカル線・公共交通 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準
ゴルフ場用の電動カートを用いた輸送サービスの実験です。京急沿線には丘陵地帯を切り開いた住宅地が多数存在しますが、道路が狭く勾配も急ということで、バス路線の設定が難しく、高齢化で居住を諦めたり相続放棄で放置されたりして空き家が増えている訳ですが、20km/h以下の低速ながら勾配に強い電動カートを用いて最寄りのバス停やスーパーまでの輸送サービスを行ったものです。

面白いのはスマホアプリの京急バスナビに連動させることで、モードの異なる交通システムをシームレスにつないだ点で、システム開発には横浜国大やベンチャー企業も関与する形で、謂わばオープン化が実現している点です。住宅地内のラストマイルの交通手段ですが、MaaSの要素が揃っています。京急にとっては高齢化が進む沿線住宅地のてこ入れではありますが、鉄道がラストマイルの戸口輸送にアプローチする流れは東急田園都市線や江ノ島電鉄などでも無人運転バスの実証実験の事例があり今後活発化すると見られます。

この観点から注目なのがJR東日本の品川新駅です。先日「高縄ゲートウェイ」の駅名決定を発表しネット上ではいろいろ言われてますが、これかつて東海道上にあった高輪大木戸と呼ばれる簡易関所に因んだ名前だそうです。そうなら駅名は「高輪大木戸」にして英語名をTakanawaGatewayと案内すれば特に外国人の混乱するカタカナ駅名を避けられたし、地域の歴史文化を踏まえた新しい街づくりとしての重厚感も演出できたはず。JR東日本のネーミングセンスはホント酷いです。

これE電騒動以来繰り返されてますが、もう少し何とかならなかったかと思います。ただしゲートウェイに込めた玄関口の意味は分かります。先進的な職住近接開発を目論んでいる訳ですが、新駅を起点にしたMaaSを考えているとすれば、JR東日本の思い入れが偲ばれます。そこは理解できるけど、ネーミングセンスは残念過ぎます。

MaaSと直接関係はありませんが、東武鉄道のTJライナーやリバティ、西武鉄道のSトレイン、京王電鉄のけ京王ライナー、意外性の東急Qシートと有料サービス導入が続いています。JR東日本は元々グリーン車や通勤ライナーのサービスを行っていましたが、これ首都圏だけの話ではなく、京阪電気鉄道のプレミアムカーのように関西でも見られます。

京阪の場合インバウンドで特急列車の混雑が常態化しており、着席サービスの導入を求める声があったようですが、この辺大量輸送を得意としながら過去の投資不足もあって混雑解消が進まない中で、公共交通と言えども将来安泰とは言えない時代を迎えるということで、選択的有料着席サービスは輸送の質を求めるユーザーを取りこぼさず増収機会も得られ、駅から先のラストマイル輸送との一貫性を持たせる意味も考えられます。そう見ると興味深い動きではあります。

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Sunday, December 02, 2018

大後悔時代そしてインド

日産ゴーン逮捕その後。

報酬先送り文書、効力巡り攻防 ゴーン元会長と特捜部  :日本経済新聞
逮捕容疑の有価証券報告書虚偽記載が退任後に受け取る株価連動報酬で、それを記載した報酬文書が日産の秘書課の秘密の金庫に保管されてたそうで、その記載内容によっては報酬を約した契約文書と見做され、未記載は違法性があるということらしい。つまりまだ受け取っていない報酬の約束が未記載ってことで、概算年10億円でその内5年分が逮捕容疑の50億円とか。

これやっぱ無理筋です。もちろんゴーン氏が隠そうとしたことは間違いないとしても、報酬文書の解釈問題という微妙な問題でいきなり逮捕ですから、やはりバランスが悪い。おそらく特別背任罪を視野に入れてるんでしょうけど、2兆円企業の日産にとっての50億円です。会社ぐるみで数千億円規模の粉飾をした東芝とは2桁違うし、会社の利益を棄損する意思が証明されなければ特別背任罪に問えません。やはり森友問題で籠池夫妻を長期拘留した時と同じような不透明感が漂います。

一方韓国では、三菱重工業の徴用工訴訟の判決が確定しました。先日の新日鉄住金の訴訟と同様、2012年に原告敗訴とした下級審の判断の見直しを迫り大審院が差し戻した差し戻し審の上告審ですから、よほどのことがない限り、覆る可能性は無かった訳で,和解すれば終わった話です。2012年は大統領選で李明博大統領から朴朴槿恵大統領に保守同士で政権交代した年で、文在寅現大統領は大統領候補として戦って敗れた訳で、韓国司法の判断は一貫しており、一部報道で見られる進歩派政権に忖度した判決ではありません。

加えて言えば昨今の国際公法と国際私法の関係に関する考え方の変化も見逃せません。例えばナチス占領下のアウシュビッツ輸送に協力したとしてオランダ国鉄が賠償に応じるなど、政府間の条約や協定と私人同士の債務債券関係は別とする考え方が広がっています。政府間の協定である1968年の日韓請求権協定は私人同士の請求権を含まないという韓国司法の判断は妥当です。

あとおまけ。「韓国と戦争だ!」と叫ぶ威勢の良いこと言う人いますが、日韓共にアメリカと軍事同盟を結んでますが、仮に日韓で紛争が勃発したとしたらアメリカはどう動くか?答えは国連憲章第53条第1項後段の「敵国条項」により、アメリカは国連安保理に通告することなく日本を攻撃します。北朝鮮問題で連携が必要なのに何やってんだか。そんな日本の首相に米中の仲裁の期待が語られるって何の冗談?

そのG20もトランプ旋風が話題ですが、皮相的な対立は本質ではありません。このニュース。

トランプ関税、米製造業に跳ね返る GMが北米5工場停止 (写真=共同) :日本経済新聞
トランプ大統領の意図に反してアメリカの製造メーカーが国内工場のリストラを発表したもの。特にGMは中国市場のウエートが高く、またEVやコネクテッドか―などへの投資のために売れないセダン工場を閉じるというもの。輸入原料や部品の関税による値上げで利幅が圧迫される中、EVやコネクテッドカーなど100年に1度と言われるイノベーションに鎬を削る自動車メーカーとしては、儲からない製造拠点を維持する理由はありません。これ日産ルノー問題にも通底しますが、企業が国を選ぶ時代が顕在化したってことです。

この構造が何かに似てると薄々感じてましたが、これ英東インド会社のビジネスモデルですね。大英帝国のベルエポックを画した会社ですが、世界各国の貿易に関与して利益を上げていた点は日本の商社のようでもありますが、決定的に異なるのが武装の特権を得ていて、場合によっては略奪行為も辞さない存在でした。昂じてインドの植民地経営を仕切る存在となりましたが、インド各地を統治するマハラジャを賄賂で篭絡して有利な条件で交易をした、所謂分割統治の主体でした。

つまり、昨今謂われるグローバリゼーションの正体は、巨大化した多国籍企業が主権国家をインドのマハラジャよろしく選別し有利な条件を引き出すことと見れば解けます。これが例えば諸国間の法人税減税競争だったりFTAやEPAなど自由貿易を促進すると言われる国際協定だったりします。当然TPPや日欧EPAも含みますし、アジアのRCEPも同様です。いずれも主権国家の主権を制限する協定という点で、企業に有利に働きます。

日本ではあまり報道されませんが、通商を巡る国際協定ではほとんど最恵国条項が盛り込まれています。これ締約国、加盟国の1国が示した通商交易条件の最も低い水準が他国にも波及するってことでして、例えばTPP加盟国でもあり個別FTAも結ぶチリのワイン関税はTPP加盟各国に留まらず日欧EPAで欧州産にも波及するし、逆に欧州に譲歩した乳製品に関してはTPP加盟国にも波及するという関係になります。こうしてFTAやEPAのネットワークを通じて関税や障壁がどんどん押し下げられていくって話です。このコンテクストで種子法廃止や水道民営化法、農業や漁業への企業参入の自由化など、今将に国会で揉めている数々の法案の成立を政府が急ぐ理由でもあります。いずれもTPPや日欧EPAの関連法ってことですね。

この観点から言えば、例えばBrexitはイギリスの主権回復の主張から出てきた話ではありますが、イギリス自身がスコットランドの独立問題やBrexitの障害になっている北アイルランドの扱いなどで言ってみればバラバラでして、それに留まらず例えば女王陛下がロンドンシティに足を入れる場合には市長の事前承認が必要だったり、一方オートレースで有名なマン島は王族領(王族の私有財産)とされ治外法権扱いとなっていますし、加えて英連邦に所属するインド、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなど一応独立した主権国家ながら女王陛下を元首とするコモンウェルス(共和国)があり、その他に未だに存在する植民地や自治領が世界にあり、ある意味本国も含めて分割統治されていたようなものです。この複雑怪奇さがBrexitをもたらしたとも見えます。

更にトランプ現象ですが、アメリカも東海岸と中西部、南部と西海岸とそれぞれ別の国のように住民意識が異なります。前2者は共和党、後2者は民主党の地盤ということで、かなりはっきりとした分断が見られる中で、トランプ大統領が誕生しました。元々州政府の権限が強いアメリカでは、連邦政府のみならず州政府へのロビーイングが盛んです。その結果州政府にロビーして通した政策が企業を利すると、他州も倣ったり連邦政府も結果的に動いたりしますから、ある意味企業にとっては天国のような国です。だからトランプの強面は企業にとってはちっとも怖くない訳で、ここに注目すると裏で起きている企業による主権国家の無力化に目が行かなくなります。

で、日本にいると気が付きにくいんですが、分割統治はイギリスやアメリカだけの問題じゃないんで、Brexitの一方の当事者であるEUも、加盟する主権国家の上部組織として定義されており、やはり主権を制限するという意味でイギリスやアメリカの分割統治システムと似たフラクタル構造にあります。ユーロの番人であるECBは米FRBを手本にしてますし、関税同盟、通貨同盟に加えて移動の自由を保障するシェンゲン協定で労働力の国境を越えた移動を可能としてます。

結果的にEUと加盟国の関係がアメリカの連邦政府と州政府の関係と酷似することになります。ギリシャやイタリアの南欧問題とか、近ごろ民族主義の台頭著しい東欧問題とか、統合によって分断が顕在化しており、アメリカとの相似相が見られます。幸いなのはEUはまだ米連邦政府ほどの力を持たないからトランプが出現しませんが、汎西欧主義を謳うフランスのマクロン大統領が打ち出したEUによる安全保障構想はEUの統治機能強化とセットですから、ある意味隠れたトランプかも。日産ルノー問題で対峙する日本政府は頼りない。あと内緒ですが、地方政府に北京政府=共産党が君臨する中国も相似相ですね。

国鉄分割民営化で鉄道改革で世界をリードしたと言われますが、欧州の鉄道改革で手本とされたのは、むしろアメリカです。1970年のペン・セントラル鉄道の破綻後、紆余曲折を経て国有化され、鉄道資産保有公社のコンレールとなり、経営悪化の鉄道会社の多くもコンレールに合流し、上下分離して鉄道会社は線路使用料を払って鉄道運営する存在になり、州をまたぐ長距離列車は連邦運輸公社(AMTRAK)へ移管されました。

アメリカでは民間での再建に失敗し国有化して、再度民間に売却したり、規制緩和で路線の改廃再編が行われたりと紆余曲折はありましたが、欧州では元々国ごとに地域分割されていて国境をまたぐ国際列車も多数運行されていたこともあり、アメリカの上下分離を取り入れてオープンアクセスで新規参入を促す形になりました。貨物を除いて上下一体の日本の国鉄改革は参考にならなかった訳ですが、寧ろJR北海道問題に見るように、日本が上下分離をせざるを得ない現状では日本が欧州を手本にせざるを得ません。

長くなりましたが、今後MaaSの時代には鉄道と自動車産業の境界も曖昧になり、ハイブリッドな産業進化が見込まれます。一方で人手不足で都営バスにまで減便の波が押し寄せる現状でもあります。3万点の部品を集成するアセンブリ―産業ですそ野が広く雇用創出力の高い自動車産業の変化は片方で雇用不安を呼び起こす一方、生産性向上に制約のある運輸などのサービス産業は人手不足に悩まされ、産業間の労働力移転も困難です。結局この問題を解決しない限り、社会の分断は無くならない訳です。規制緩和すれば良しとはいきません。グローバル時代の後の大後悔時代は暫く続きそうです。

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