前エントリーの続きですが、フランスのマクロン政権がデモの影響で燃料税増税を断念しました。当面ルノー日産問題でフランス政府の干渉は防げそうですが、日産には別の問題が持ち上がっています。
自動車産業の激変が予想される中、日産の検査不正が新たに発覚しました。今回はブレーキなど安全に関わる部分の不正という重大なもので、ゴーン氏の報酬チョロマカシよりもガバナンス上の問題は大きいですし、ゴーン体制に責任を負わせるわけにはいきません。
完成検査の無視覚検査は、法令違反とは言え悪質性の程度は低かったし、そもそも制度自体が曖昧で非関税障壁の疑いもあるものでしたが、今回は国交省の業務改善命令を受けて現場調査する中で発覚したもので、検査不正は相当広範囲に行われていた模様です。ルノーとのアライアンスで海外製造拠点への投資が優先された事情から、その分国内製造拠点への投資や人員配置が手薄になったのは否めませんが、こうした製造現場の実態を把握できていなかった日産経営陣の責任は重大です。
検査不正の背景に。検査場の狭さとか検査員の不足といった事情があったようで、その中で増産体制が組まれた結果、検査部門がボトルネックとなり、検査で引っかかるとたちまち検査品で検査場が埋め尽くされてしまうため、右から左に流すしかなかったというような事情があったようです。それに対してスペースや人員の拡充を求める現場の声は経営陣に届かず放置された結果ということで、役員報酬を巡る金商法違反などより重大なガバナンスの欠如と言えます。必要な投資が行われなかったという意味で、経営陣の責任は重大です。
それはさておき、自動車産業を巡る変化予想でCASEというキーワードが語られます。繋がる(Connected)、自動化(Autonomy)、共有化(Shareing)、電動化(Electrical)です。これ相互に関連があって、車をスマホのようにネットにつなぐことで、付加的なサービスや機能が提供されるに留まらず、自動運転との関連で車間通信で衝突回避しますし、自動運転が実現すれば、稼働率の低いマイカーという保有形態が見直され、必要な時だけスマホで呼び出して使うことが可能になりますし、電動化は自動運転との相性が良く、また部品点数も減って特にエンジンのような作り込みも要らないから価格低下が予想され、自動車メーカーの優位性がなくなると言われます。
そのため自動車各社は優位性を維持するための投資を求められますが、例えば自動運転に関してはグーグル系列のウェイモが先行していて後追いになっている現状があります。電動化に関してもトヨタがハイブリッドシステムで世界をリードしたものの、特許で囲い込んだために追随するメーカーが現れず、米カリフォルニア州のZEV規制からも外されて焦っております。トヨタとしては究極のエコカーとして燃料電池車(FCV)を想定し、ハイブリッド車はつなぎという位置づけだったのですが、本命のFCVも水素供給網の整備が進まず、他方バッテリーEV向けの急速充電器の設置は進んでおり、またVWのディーゼル不正問題もあって自動車各社のEVシフトが鮮明になる中、トヨタは梯子を外された格好です。
EVに関しては日産が先行してますが、ビジネス的には大成功には至らず、新興企業の米テスラモーターズの先行を許しています。テスラモーターズ自体は典型的なガレージメーカーからスタートしたもので、ZEV規制が示すように環境意識の高いカリフォルニアでマイカーを電動化するガレージメーカーは多数存在しましたが、その中でイギリスのライトウエートスポーツ車のロータスエリートのプラットフォームを利用して、ノートPC用のリチウムイオン電池など汎用部品を使って世界初の量産EVとなるロードスターを世に問い成功を収めます。
バッテリーの搭載量で性能が規定されるEVです。とはいえ重量の嵩むバッテリーを大量に搭載すれば良いとはいきません。その意味で実用的なセダンではなく2シーターのロードスターならばパッケージしやすいし、趣味性故に高く売れるわけですね。こうして投資資金を上手に回収しながら技術を磨き、高級セダンのタイプSやクロスオーバーSUVのタイプXへと展開した戦略は見事です。加えてソーラー発電や家庭用バッテリーなどの事業化でシナジーを追求してEVのバリューを高めます。日本でも日産リーフが同様の訴求をしてますが、普及には至っておりません。
そして量産型セダンのタイプ3では製造ラインの自動化でコスト圧縮に挑みます。これは必ずしもうまくいかなかったのですが、マスク氏は製造現場との徹底した対話で解決策を見出し軌道に乗せます。この辺は日産幹部にとっては耳の痛い話でしょう。同時に自動車産業の雇用創出力という観点からは、従来通りとはいかない厳しい現実を示してもいるわけです。
とはいえテスラの成功はあくまでも所得水準の高い先進国の話でして、新興国への波及はむしろシェアリングが中心になると考えられます。そのときのキーワードがMaaSです。Mobility as a Serviceの略で、クラウド上のソフトウエアを利用するSoftware as a Serviceのもじりでもあります。言い換えれば移動(mobility)のサービス化でもあります。これ喩えればPCからスマホへの変化に相当します。これつまりハードとしての自動車のコモディティ化を意味します。
ただしMaaS技術的ハードルは決して低くはないので、先進国で先行して新興国へ波及する流れもスマホと同じと考えられます。そうすると自動車メーカーはまず利益の取れる先進国市場の劣化を余儀なくされるわけで、先進国にとっては雇用の縮小と共に格差拡大を覚悟しなきゃならないってことでもあります。
逆に言えば輸送サービスを提供する運送業にとっては劇的な生産性向上のチャンスでもあり、生産性格差で人手不足を余儀なくされる現状を良い方向へ転換できるチャンスではあります。但しあくまでもチャンスであって、AI自動運転で人手不足が解消するという発想では未来は開けません。
例えば自動運転が実現すれば移動中に仕事するとか就寝中に移動するとかが可能になるわけで、これある意味交通機関に求められるスピードの概念が変わることを意味します。朝の会議に間に合わせるために早起きして始発に乗るとか、前泊するとかが必要なくなるわけですから、この観点から言えばスピードを訴求するリニアは無用の長物になる可能性があります。公共交通にも変化をもたらす訳です。
そんな中で京浜急行が富岡地区の住宅地でゴルフ用電動カートを用いた興味深い社会実験を行いました。
「電動カート」は郊外住宅地の新交通になるか | ローカル線・公共交通 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準
ゴルフ場用の電動カートを用いた輸送サービスの実験です。京急沿線には丘陵地帯を切り開いた住宅地が多数存在しますが、道路が狭く勾配も急ということで、バス路線の設定が難しく、高齢化で居住を諦めたり相続放棄で放置されたりして空き家が増えている訳ですが、20km/h以下の低速ながら勾配に強い電動カートを用いて最寄りのバス停やスーパーまでの輸送サービスを行ったものです。
面白いのはスマホアプリの京急バスナビに連動させることで、モードの異なる交通システムをシームレスにつないだ点で、システム開発には横浜国大やベンチャー企業も関与する形で、謂わばオープン化が実現している点です。住宅地内のラストマイルの交通手段ですが、MaaSの要素が揃っています。京急にとっては高齢化が進む沿線住宅地のてこ入れではありますが、鉄道がラストマイルの戸口輸送にアプローチする流れは東急田園都市線や江ノ島電鉄などでも無人運転バスの実証実験の事例があり今後活発化すると見られます。
この観点から注目なのがJR東日本の品川新駅です。先日「高縄ゲートウェイ」の駅名決定を発表しネット上ではいろいろ言われてますが、これかつて東海道上にあった高輪大木戸と呼ばれる簡易関所に因んだ名前だそうです。そうなら駅名は「高輪大木戸」にして英語名をTakanawaGatewayと案内すれば特に外国人の混乱するカタカナ駅名を避けられたし、地域の歴史文化を踏まえた新しい街づくりとしての重厚感も演出できたはず。JR東日本のネーミングセンスはホント酷いです。
これE電騒動以来繰り返されてますが、もう少し何とかならなかったかと思います。ただしゲートウェイに込めた玄関口の意味は分かります。先進的な職住近接開発を目論んでいる訳ですが、新駅を起点にしたMaaSを考えているとすれば、JR東日本の思い入れが偲ばれます。そこは理解できるけど、ネーミングセンスは残念過ぎます。
MaaSと直接関係はありませんが、東武鉄道のTJライナーやリバティ、西武鉄道のSトレイン、京王電鉄のけ京王ライナー、意外性の東急Qシートと有料サービス導入が続いています。JR東日本は元々グリーン車や通勤ライナーのサービスを行っていましたが、これ首都圏だけの話ではなく、京阪電気鉄道のプレミアムカーのように関西でも見られます。
京阪の場合インバウンドで特急列車の混雑が常態化しており、着席サービスの導入を求める声があったようですが、この辺大量輸送を得意としながら過去の投資不足もあって混雑解消が進まない中で、公共交通と言えども将来安泰とは言えない時代を迎えるということで、選択的有料着席サービスは輸送の質を求めるユーザーを取りこぼさず増収機会も得られ、駅から先のラストマイル輸送との一貫性を持たせる意味も考えられます。そう見ると興味深い動きではあります。
Recent Comments