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Saturday, June 22, 2019

地方の地雷

物騒なタイトルですが、最早地雷を抱えたと言っても過言ではない日本の地方について考えます。その前に前エントリーの香港の逃亡犯引き渡し条例改正ですが、100万人デモでG20前の揉め事を回避したい当局が折れました。勿論お手本の日本で第一次安倍政権で批判を浴びて撤回されたホワイトカラーエグゼンプション制度が高度プロフェッショナル制度に名前を変えて復活し成立したことを忘れちゃいけませんね。

そもそも香港の行政制度はイギリス統治時代を踏襲していて、宗主国がイギリスから中国に変わった形ですが、逃亡犯引き渡し条例でイギリスなどへの引き渡しは既に制度化されている訳で、本国で犯罪を犯して植民地へ逃亡するってのは昔からあって問題だった訳ですから、中国国内で犯罪を犯しても香港へ逃げればセーフってのは、中国サイドから見れば問題ではあります。

とかく独裁体制を批判され、法治ではなく人治だと言われてきた中国ですが、習近平政権の反腐敗運動もあって、法整備が進み、法の支配が確立しつつあるのも確かなので、香港の存在は犯罪者を助けるセキュリティホールになるという意味で、穴をふさぐ必要はありますが、香港市民は言論の自由がなくなることへの危機感があります。確かに政治犯弾圧に使えるツールですが。

そういう意味で落としどころが非常に難しいのですが、元々イギリス統治時代からの植民地型統治を見直して、大幅な自治権を認めることとのバーターは考えられます。そうするとウイグル、内モンゴル、チワワン、チベットの4自治区との釣り合いが取れなくなるから、4自治区の自治権の拡大も課題になるなど、困難が伴います。

個人的には自治区に留まらず、省や独立都市も含めて地方政府の自治権拡大を通じて、中国自体をEUのような連邦共同体に変化させるぐらいしか出口は無いと考えます。そうなればそこへ台湾が参加する流れも可能になります。人口大国で世界最大の民主国家と言われるインドの混乱と停滞が示すように、通常の国民国家型の民主主義体制は人口大国ではそもそも無理じゃないかと考えております。中国は日本よりEUを見倣うべし。

その意味でBrexitやイタリアの財政問題や右傾化など、EUも問題を抱えて苦しんでますが、例えばデンマークはEUに加盟しながら独自通貨を発行し、自治領のグリーンランドとフェロー諸島はEU非加盟ですし、EU非加盟で独自通貨発行しながらシェンゲン協定には加盟しているスイスやノルウェーとか、EUにもシェンゲン協定にも非加盟なのに通貨はユーロというモナコ公国など、欧州の多様性は複雑怪奇ですが、それでもまとまっているところを見せることで、中国に好影響を与えることが期待できます。その意味でBrexitやイタリアの財政問題でもう少し柔軟な対応をしても良いと思いますが。そもそもリスボン条約で定義された補完性原理に反する気がします。

そんなEUの補完性原理を見倣って欲しいのは、中央集権の強い日本です。できれば憲法の地方自治条項へ追加して欲しいです。地方の時代が言われながら、逆に地方自治が停滞若しくは後退している現実はひとえに溜息です。そうれを象徴するこのニュース。

ふるさと納税の矛盾 「人気自治体」二重取りに賛否  :日本経済新聞
ふるさと納税は制度としては寄付税制なので、ふるさと納税は税収にカウントされず、地方交付税は減額されません。一方、税収を失う自治体は東京23区をはじめ税収の多い不交付団体が主であり、取られ損ですし、高額納税者ほど控除を受けられますから、税収減の影響は大きい訳です。加えて交付団体の税収減は地方交付税でカバーされますから、トータルでは公費が増えることになります。

だから高額返礼品が可能になり、それが過熱して寄付額の3割までという規制の導入に至りました。そもそも同じ税源を奪い合う仕組みですから、問題のある制度です。寄付文化の乏しい日本に寄付文化を定着させる意図もあるようですが、寄付先進国と言われるアメリカでは、富裕層子女入学とバーターで大学に寄付というような、半ば公認賄賂制度となっている現実もあります。

税収制約から自治体が対応できない問題を解決するにしても、意義をアピールしてクラウドファンディングで資金集めすることなら、法律変えなくても可能です。自治体の本気度という意味からもその方が望ましいところです。法律変えるなら国の権限と税源を移譲することこそが地方分権の王道です。

例えば国の出先機関の地方局を都道府県への移譲を行うことが以前から指摘され、名鉄岐阜地区の廃止問題の論考の過去エントリーでも指摘しましたが、実現してませんし、交通政策基本法で公共部門の責任が定義されたものの、あくまでも地方と事業者の話し合いで問題解決することが求められ、それを前提に国の予算が投入されるって立て付けでして、税源も財源も国が握っています。岐阜市は名鉄線の存続を望み競合する市営バスを廃止したりしている訳ですが、権限も財源もない中で成す術がなかった訳です。

例えばJR北海道の問題で「国が悪い、JRが悪い」と言って協議に応じない北海道庁ですが、使える税源があって許認可の権限が国から渡されていれば、もっと主体的に動けるんじゃないかと思いますし、自家用車によるライドシェアを導入した京丹後市のケースでも、当初特区申請がされましたが、道路運送事業法の特例を使って自家用自動車の有償運行事業として認可されました。これも地域の実情に詳しい京都府に許認可権限があれば、特区申請のようなメンドクサイことしなくても済んだ訳で、加計学園問題で噴出した国家戦略特区の諸問題を考えると、国家戦略特区なんて制度も直ちにやめて、地方への権限移譲こそ取り組むべきです。

京丹後市のケースのように、人口減少でタクシー配車ゼロという地域が現実に起きています。それに留まらずそもそも地方に就職先がないから若者の流出が止まらないし、銀行の不良債権処理を通じて再編されたメガバンクを尻目に温存された地方銀行が日銀の異次元緩和とマイナス金利政策の影響で収益悪化が止まらず、地元の融資先が衰退する中、越境営業で低利融資競争の地獄となっていて、最早地元の有料就職先とは言えない状況です。

地方銀行の優等生スルガ銀行も、元々米ウエルスファーゴを手本に個人向けリテールバンクとして業態転換を図り、企業融資で低利に泣く他行を尻目に高金利融資を実現した結果、他行の低利借り換え営業のターゲットになり、新たな収益事業としてアパートローンに進出したものの、やはり低利借り換え営業の餌食になり、追い込まれて融資書類捏造へ走った訳で、地方銀行の整理を先送りしたツケが来ています。フィンテックも未だ形にならず、袋小路の金融事情は地方の疲弊を助長します。スルガ銀行問題の真の原因はオーバーバンキングにある訳です。とはいえ地銀の統合は独禁法に抵触する押しレがあり、判断が難しいところですが、都道府県レベルで地域の実情を踏まえて判断できれば望ましいですね。

加えて最低賃金問題も地雷です。

最低賃金引き上げ、世界で論争(真相深層)  :日本経済新聞
元々英ブレア政権のマニフェストで採用され経済界の反対を押し切って実行されましたが、雇用が減るという批判は当たらず、寧ろ賃金上昇を好感して労働市場への参入が増えた結果、経済の活性化に寄与したことで、アメリカでもオバマ政権で目指され、州レベルでは実施されているところもチラホラあります。一方、韓国では文在寅政権で大幅アップされたものの、人件費増加で企業倒産や廃業が相次ぎ失敗と評価されています。

実証研究で分かれ目は賃金中央値の60%らしいということが分かってきました。イギリスは下回り韓国は上回った結果という訳です。日本はというと、現状が40%程度であり、最低賃金上昇の効果は間違いなく見込めます。ザック立憲民主党が提唱する1,300円あたりの水準と考えられます。但し問題もありまして、元々地方の賃金相場は概して低く、全国一律に上げると地域によっては60%の水準を超える可能性があります。別途賃金の地域差を縮小する策を講じないと、最低賃金上昇が地方の地雷になる恐れがあります。

この問題は結局地域が生み出す付加価値の増加しか解決策はありませんから、大胆な権限移譲で地方に自主的判断を促すことでしか出口は見えません。例えばインバウンドでも北海道ニセコ町のように雪質の良さでスキーリゾートとして世界に知られる存在になったように、一見マイナス要因でも、見方を変えればプラスに転じます。そんな地方の自主的な取り組みを促すことこそが本来の意味での地方の時代です。地雷は御免ですよね。

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