マグロ化するマクロ経済
毎年お盆シーズンには仕入れ先と取引先の休みを確認してスケジュール組んでましたが、今年はアッサリ10日から9連休ということで、働き方改革が進んでるんだろうか?単に今までが惰性だった?てことで社畜大移動は相変わらずですが、後半には台風直撃の予想もあり、実家から戻れない大惨事も^_^;。まあなるようにしかなりませんが。
4~6月GDP、消費が押し上げ 増税前に心理は陰り :日本経済新聞令和改元の10連休を含みますので、その分の上振れはあるとしても、予想を超える消費の強さには違和感があります。気になるのが消費の物差しとして家計調査から商業統計にシフトしたことがあります。家計調査はサンプル数の制約から誤差が大きいという理屈で、より誤差の少ない商業統計を用いたというのが公式見解ですが、商業統計にはインバウンド消費の数値が入っている訳で、適切なデータ補正を行うのでなければ、データの連続性は損なわれますが特に言及されてません。10月の消費税増税を前に消費を強く見せる必要がある訳で、邪推したくなります。
その一方で消費動向調査や景気ウォッチャー調査など消費者心理の物差しは悪化傾向が見られます。これだけが原因ではないとしても、設備投資や在庫投資は概して低調で輸出減の影響で経常収支の黒字幅も減少しています。米中摩擦や日韓摩擦で先行きに暗雲が垂れ込めてますから、ある意味企業のこうした動きは合理的でもある訳です。加えて14年の消費税増税時には凡そ3か月前から見られた前倒し消費の気配が見られず、プレミアム商品券やポイントバックなどの一連の消費落ち込み回避策も不発の可能性すらあります。控えめに言ってもお先真っ暗です。
てことでアベノミクスの神通力も尽きた現状ですが、世界を見渡せばアベノミクスの失敗を追随する動きがみられる点が気になります。例えば米FRBの10年ぶりの利下げですが、0.25%の利下げで且つ追加利下げを否定するパウエル議長の発言もあって市場は落胆し、NY株は連日下げ続けることになります。そしてトランプ政権高官の怒りの発言です。
米大統領補佐官、FRBに利下げ要求 「0.75%か1%」 :日本経済新聞これゼロ年代の小泉政権時代に財務省の溝口財務官による非不胎化為替介入に、速水日銀総裁の後継総裁として福井総裁が協力して量的緩和を行ったことが思い出されます。福井氏は平成の鬼平と言われた三重野総裁や速水総裁に近いタカ派と見られていただけに、驚きと共に政府や市場から歓迎されました。
しかし福井氏の狙いは、速水氏のゼロ金利解除時に受けたバッシングで後に量的緩和に追い込まれた経緯を見て、量的緩和の出口と再利上げをスムーズに進めるため、量的緩和が無意味な政策であることを実証するためという倒錯したスタンスのものでした。そして後に景気を見ながら量的緩和の解除と利上げを粛々と進めてバッシングを受けます。それでも僅か0.5%とはいえ利上げに踏み込んだ結果、リーマンショックに直面した後任の白川総裁に利下げ余地をもたらしました。
しかし緩和バンザイのリフレ派は納得せず、後の安倍政権誕生による白川総裁へのあからさまな政治圧力となり、セントラルバンカーとして受け入れられない白川総裁は辞任します。そして後任の黒田総裁による異次元緩和に繋がる訳ですから、今振り返れば福井総裁の思惑が時を重ねて逆に作用したと言えます。その意味で景気悪化が見られない中で政治圧力をかわすための予備的利下げに踏み込んだFRBパウエル議長の対応は、まるで福井総裁のそれとよく似ています。何しろ「為替操作国」中国に対抗するために利下げしろ!って話ですから。しかしタイミング良くIMFが反論します。
IMF「中国の為替介入みられず」 年次報告書で指摘 (写真=ロイター) :日本経済新聞中国人民元の国際化に助言してきたIMFから見れば当然の指摘です。主要通貨バスケット連動の実効為替レートに基づく基準値に一定の変動幅を認める現在の為替政策もIMFの助言に基づきます。そのため変動幅を抑える目的の為替介入はありますが、基本的には変動相場制に近いものになっており、アメリカの「為替操作国」指定は言いがかりと言って良いでしょう。
視点を変えて日米中のドル建て名目GDPの推移を見ると、アメリカの焦りもわかります。日米のGDPが最も接近したのが1995年でアメリカ7.6兆ドルに対して日本5.5兆ドルと7割水準でしたが、当時円高で国内景気は不透明な一方、ITとネットで新ビジネスが勢いを増していたアメリカとは差が開く傾向にありました。ちなみに当時中国は0.7兆ドルでアメリカの1割にも満たない存在でした。
それが2018年にはアメリカ20.5兆ドル、日本5兆ドルに対して、中国は13.4兆ドルにまで肉薄しています。しかもITとネットが息切れ気味のアメリカに対して、まだ伸びしろのある中国ですから、アメリカの焦りは大きい訳です。一方日本は停滞著しく、アメリカの1/4、中国の1/3弱と差をつけられています。加えてドル建てではなく実効為替レートで見たGDPは2014年に既に米中逆転が起きています。つまり物価水準が低いから名目値は追いつかないけど、少なくとも1億人は居ると言われる先進国レベルの高収入層の購買力は既に逆転しているってことです。
実はこれが中国の高成長をけん引していると見られます。現状沿岸の都市部限定でしょうけど、バブル期の日本に匹敵するようなボリュームのコンシューマーが国内市場を活性化させていて、残る13億の民がそれを支えている構図ですが、よくよく考えれば日本の高成長も後背地としての台湾、韓国、ASEANの成長に支えられてきた訳で、そうして日本が築き上げたアジア型バリューチェーンを中国は国内に抱えてるってことです。
実はこれ、欧州と中東アフリカの関係やアメリカと中南米の関係も似ていますが、経済成長に伴って国民意識が芽生えてくると、いつまでも開発独裁的な先進国にとって都合の良い途上国に留まることが難しくなり、民主化される訳です。そうして新興国としてグローバル市場に出てくると、取引相手を自分たちで選びますから、アジアの国が成長著しい中国になびくのも自然ですし、同様に中南米やアフリカも、民主化や人権問題でとかく内政に口出ししたがる欧米より寛容な中国を選ぶ傾向も出て來る訳です。逆に香港の民主化やウイグルの自立は中国政府として認め難い問題ってことですね。アメリカのベネズエラへの圧力も同じ文脈で見ることが出来ます。
あとEUの東方拡大も中国と同じ成長の構図を作るためという見方が可能です。面白いのは東方拡大に積極的だったイギリスがBrexitで揺れている一方、東西統一で旧東ドイツを国内に取り込んだドイツはそうでもなかったけど、結局東欧からの移民取り込みにはうまく対応した一方、誇り高いフランスは波に乗れなかったので、EUの統合強化に活路を求めている訳です。この構図で見ると、朝鮮半島の南北融和は少子化が進む韓国にとっては成長戦略なんですね。確実に言えるのは、某日本国は取り残されつつあるってことです。
ただ誇ることじゃないんだけど、日本の低成長は欧米にも同様に起きており、その意味では日本は世界をリードしてたことは間違いありません。その意味でFRBパウエル議長の利下げを巡る動きが福井日銀総裁の轍を踏んでいるように見える問題は示唆に富みます。低成長化するアメリカが中国の追い上げに危機感を抱き、金融政策への政治介入まで日本を見倣うのか?
これトランプ政権だけの問題じゃなくて、対中強硬策は寧ろ民主党議員の方が熱心だったりします。しかも日本の異次元緩和に倣って現代貨幣理論(MMT)を唱えて社会保障充実を主張する大統領候補者まで現れてます。幸いアメリカの主流派経済学者たちはこぞってMMTを批判してますが、逆に日本では歓迎する人たちがいて、かつて日銀を叩いた所謂リフレ派と被っています。結局金融緩和と財政出動を重ねて効果が逓減している日本と同じ轍を踏むだけですね。尤も米中摩擦で輸出に頼れず財政出動で強引に経済を下支えしようとする中国もいずれ同じ轍を踏みます。マクロ経済政策が効かなくなって経済がマグロ化する訳です。
中国に関しては日本に先んじている部分もありまして、短期間で急速にインフラ整備を行った結果、鉄鋼やセメントの供給過剰でダンピングまがいの低価格輸出に向かったのも確かですし、過剰な生産力を国内で消化しきれないから一帯一路で周辺国へのインフラ輸出攻勢をかけている訳ですが、それでも過剰生産力を抱えた国有企業のゾンビ化は避けられず、その裏には過剰債務があり銀行から見れば不良債権なんですが、ハードランディングは暴動を誘発しかねないので、時間をかけて処理する結果、いつまでも処理が進まないってことになります。蛇足ですが、中国の高速鉄道は日本列島改造論で描かれた旅客列車を高速新線に移して在来線の貨物輸送を強化するというコンセプトに忠実です。
地方の隅々まで立派な道路が出来て、世界一の高速鉄道網を完成させたものの、内実は大赤字だったりします。この面では北海道新幹線を除いて辛うじて黒字の日本の整備新幹線の先を行ってます。投資主導型の経済成長の限界から来る帰結ですが、票になるからとにかく新幹線という日本が危ういのは固定資本減耗に沈む未来に繋がるからですね。いい加減目を覚ませ!
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