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Sunday, October 27, 2019

資本主義と民主主義の微妙な関係

経済のマグロ化は留まるところを知らず、株高でも新株発行による資金調達は行われず、専ら自社株買いによる株価調整で寧ろ投資家に余剰資金が資金還元されている現状があります。そして歴史的低金利で企業は低金利で資金調達が可能になりましたが、社債で調達した資金まで自社株買いに回って結局設備投資にはつながらないというマネーの空回りが続きます。

その社債を買うのは株高に乗じて売り抜けた短期投資家ですが、彼らは満期まで持つ気は更々なく、高値で買い手が現れれば売り抜けて値上がり益をゲット。一方株価が上がる前から保有する長期投資家は配当利回りの良さから債券市場には見向きもしないってことで、不可思議な株価安定のアンカーになっています。まとめると株式市場はインカムゲイン主体になりキャピタルゲイン狙いの短期投資家は債券市場でそれを実現するという逆転現象が起きています。なるほど、下手に公募増資なんかすれば短期投資家にそっぽ向かれて株価下がるし,ことほど左様に民間投資が減っている訳ですから、イノベーションなんて起きる訳ゃない。そんなマクロ経済の現状から異変が起きています。

「WeWork」の想定時価総額、予想の半分に 2兆円規模:日本経済新聞
シェアオフィス大手でソフトバンクグループが支援していたウィーワークのIPOが躓きました。シェアエコノミーの担い手としてAirbnbやウーバーと並び称されたユニコーン企業の失速ですが、これ冷静に見れば単なる不動産転貸業に過ぎない訳で、オフィス賃料が上昇基調にある裡は利幅を確保できますが、逆回転すれば悲惨なことになります。単なる白タク事業のウーバーにしろウィーワークにしろ、伝説の一角獣かと思ったらロバだったと^_^;。ソフトバンクグループの目利き力に陰りが見えます。

結局ユニコーンブームはリーマンショック後の各国の金融緩和によるカネ余りの副産物に過ぎなかったし,IPOは単なる投資家のためのイグジットに過ぎなかったってことですね。マネーゲームの果てにイノベーションはありません。ソフトバンクグループの追加投資による支援は、過去の投資の元を取るためであって、ウィーワークの事業の革新性によるものではありません。銀行(バンク)じゃないけど不良債権処理のソフトランディング狙いです。あれ?中国の国有企業と同じか?^_^;

てなわけで、明らかに資本主義が変調を来している訳ですが、資本主義と親和性が高いと言われた民主主義も変調を来しているのは偶然でしょうか?この前提から中国の改革開放路線を世界は称賛し後押ししたのですが、所謂「普通の国」になりそうもないってことでアメリカは焦っている訳です。元々冷戦期のソビエト孤立化のためにニクソン政権時代に国交回復したアメリカですが、アメリカ企業が中国当局の規制に従う現実に悩みます。

とはいえ歴史的には資本主義と民主主義は別物で、例えば古代メソポタミアの粘土板の多くは、所謂借用証のような貸し借りを記録したものと言われておりますし、ヤップ島の石貨のように現役の原始通貨まで存在するように、通貨の信任を前提とする貨幣交換は古くから行われていました。所謂物々交換も実態としては何らかの信用創造によって成立していたらしいというのが最近の研究で明らかになりつつあります。

近代資本主義に限って言えば、イギリスの産業革命に始まる産業資本主義の始まりが画期ではありますが、前段階として土地の囲い込み運動(エンクロージャー)で封建領主が農地を囲い込んで牧草地としたことで、土地を追われた農奴が都市に流入した一方、キャラコなどのインド綿製品の輸入で貿易赤字体質だったことから、輸入代替を狙ってワットの蒸気機関改良による動力革命に乗じて自動織機による綿製品の国産代替を狙ったものでした。

その際にエンクロージャーで大金を稼いだ封建領主達が初期の資本家として投資資金を提供し、都市貧民を形成していた元農奴を労働者として雇って始まったものですが、当時は長時間労働当たり前、児童労働もお咎めなしで賃金を極限まで削った挙句、原材料の綿花もアメリカなど新大陸のプランテーションで黒人奴隷労働によって安値で仕入れたものでした。民主主義どころか人道に悖るディストピアだった訳です。

それが改善されたのは、19世紀末にフランス、アメリカ、ドイツなどの新興工業国の追い上げで経済停滞に陥り、社会不安が広がったことによります。その結果劣悪な状態にあった労働者の争議が活発化した一方、フランスで起きたパリ・コミューン事件への恐怖から、労働者の権利を法律で保護する機運が高まり。世界の模範となった世界初の労働法が制定されたことによります。それによって賃金が上昇し生活改善された都市労働者が中流階級を形成し、数の論理で政治的ヘゲモニーを得たことで。所謂「最大多数の最大幸福」が実体化されたものです。新興国の追い上げによる経済停滞の結果実現した民主主義ですが、同じような局面にある現在の日本ではむしろ後退して見えるのは皮肉です。例えばこれ。

経産相辞任、国会にらみスピード決着 擁護の声乏しく:日本経済新聞
これ菅原経産相の悪質さは言を俟ちませんが、関電問題で紛糾確実だった経産委員会直前の辞任ってのがミソで、追及がはぐらかされた訳です。報道が事実なら議員辞職ものですし刑事訴追もあり得ますが、深追いすれば関電問題がぼやけます。安倍政権下の不祥事は後を絶たず、今回も「またか」といった感じでこちらも不感症になりつつありますが、そんな中での毒を以て毒を制する計算づくだとすれば悪辣です。それでも支持率が下がらないのは実体の乏しい成長戦略への期待からなんでしょうけど、そうした消極的支持が事態を悪化させていることに有権者が目覚めないと変わらないんでしょうね。

イギリスもBrexitで混乱してるじゃないかと言われますが、議会で議論は尽くされていて、事態は進んでいます。ジョンソン首相が提案してEUと合意した新合意案ですが、簡単に言えばアイルランドと北アイルランドの間に国境を設けない代わりに、北アイルランドとイギリス本土を隔てるアイリッシュ海に国境を設けるという譲歩案です。つまりイギリスは譲歩するからEUもアイルランドを説得しろよって含意ですね。こうすれば物品の移動に関わる関税の賦課と徴収はテクニカルな問題として政治性を排除できますから、EUもこれに乗った訳です。

メイ首相が自身の進退まで賭して否決された前合意案ではバックストップ条項が問題視され、保守強硬派の反発を受けた訳ですが、この修正案は当初与党内からも反発があったものの、理解が進んで与党を一本化した上、残留派が多数と見られる最大野党労働党からも造反が出た訳で、冷静に考えればこれしかない落としどころではあります。ジョンソン首相も当初は強硬姿勢を見せていたものの、結果的に議会を開きEU離脱期限延長要請動議も守った訳で、議会制民主主義が機能している訳です。寧ろろくな議論もないままに同盟国の韓国との関係が悪化している日本の方が深刻ですね。

忘れてはならないのはイギリスは成文憲法を持たない慣習法(コモンロー)の国ってことで、イギリスから見ればEU憲章やリスボン条約は押し付けられたという感覚があり、実際EUルールでいろいろな縛りがあるから、それに対する反発は以前からありました。この辺の構図は戦勝国に押し付けられた日本国憲法というロジックに似ています。

違うのは日本国憲法では憲法改正を国民投票で決めることになっている一方、それがないイギリスでは国民投票の位置づけが曖昧で、故に無視や再投票などの対応はそれが慣例化しかねず、投票に駆り出された国民の不興を買う訳で、扱いが難しいということもあります。逆に日本の憲法改正でもイギリスの離脱派のあからさまなプロパガンダに見られるように、そもそも公正な国民投票の実施が担保されるのか?という課題を示しています。日本の場合は国民投票の結果に法的拘束力があるので、より慎重にする必要があります。

ただ世界的には権威主義的な政権が増えてきてますが、背景に新自由主義とグローバリゼーションの結果として民主主義を体現する筈の中間層
が恩恵に浴せず少数の富裕層に富が集中して格差が拡大している現実があります。規制緩和して経済の国際化を進めれば、確かにGDPの数値は上がりますが、それが国民の最大多数の幸福に繋がっていない現実がある訳です。資本主義の進化による民主主義の後退が見られる訳で、これ放っといていいのか?ってことですね。冒頭で述べたように、資本主義の進化が実は変調につながっている現実もまたある訳です。

産業資本主義過程が進んだ結果、労働者の賃金が上がって国民の多数に恩恵が広がったのは確かですが、その結果賃金上昇で競争力を失い、新興国の台頭を許した訳ですが、逆に資本側から見れば賃金の安い新興国に生産拠点を移すのは合理的判断になります。それは同時に先進国の中間層の雇用を失うことと裏表の関係ですから、グローバル化の恩恵は資本側にはあるけど労働者側にはマイナスになる訳です。

それを金融的に克服したのがアメリカでありイギリスですが、サッチャー政権の時点で国内に工業インフラとスキルのある労働者の残っていたイギリスでは外資を呼び込んで生産拠点としての復活を実現できました。シャープが鴻海に救われたような感じですね。アメリカは時既に遅く、空洞化が後戻りできない中で、基軸通貨ドルを使った金融資本主義とコンピュータやネットなどの新技術による新たな産業創造に舵を切ります。産業資本主義から金融資本主義とデジタル資本主義への移行が起きた訳です。しかしいずれも極限的な金融緩和状況の中での仇花だったようです。こうなると、それでも成長を信じて資本主義を進化させ、非効率な民主主義は諦めるか、経済の停滞を厭わず民主主義をこそ守るべきか?そんな選択を迫られていると見ることができます。

その意味でTPPエントリー^_^;で取り上げたリニア静岡工区の未着工問題などは典型的ですが、リニア実現のために静岡県に犠牲を強いることを是とするか?なんてのは鉄ちゃんにとっては身近な問題かもしれません。

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