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Thursday, October 17, 2019

かがやきを失った北陸新幹線

台風19号凄かったですね。いろいろトピックスがあって整理がつかないまま更新が遅れてますが、タイトルの北陸新幹線をはじめ鉄道にも大きな爪痕を残し、復旧のめどが立たない路線もあります。また台風の進路の関係もあってより広域に被害が出た点、特に連続雨量が記録的で、各地で堤防の決壊や浸水の被害も出ました。

その一方、台風15号の学習効果で鉄道が早めの計画運休に踏み切ったことや、それに付随してイベントの中止や店舗の営業見合わせ、宅配などサービスの停止など、被害を減らし混乱を回避する動きが広がったことは評価すべきでしょう。その一方でネットでは相変わらずデマが拡散されてます。その中で特に目立ったのがダム関連ですが、「民主党政権が中止した八ッ場ダムが安倍政権で復活して利根川水系を洪水から救った」ってのがあります。民主党政権は確かに八ッ場ダムの見直しに着手し、事業を停止しましたが、一方で第三者委員会を立ち上げて事業の在り方を再検討した結果、野田政権時に復活させてます。その是非はともかく、事実関係にウソを交えるのは悪質です。加えてこれ。

八ツ場ダム、試験湛水を開始:日本経済新聞
10月初めに試験湛水を始めたばかりで空っぽだった訳で、本稼働すれば一定の貯水量を確保しなければならない訳ですから、今回のように水を受けきれなかった可能性が高いですし、寧ろ緊急放流すらあり得た訳です。今回神奈川県の城山ダムの緊急放流の情報がメディアで流れましたが、城山ダムに限らず事前放流をしたところはなかったとか。去年の西日本豪雨で下流の大洲市に洪水被害をもたらしたとされる肱川の教訓は活かされませんでした。

肱川の場合、市街地に接する下流域で堤防未整備のところがあって、上流2ケ所のダムの運用で治水対策は名目上考慮されていたのですが、連続雨量の想定を超えればどうにもならない訳で、治水対策ならばダムを造るお金で下流域の堤防整備すれば良さそうなものですが、用地費がかかる割に土木工事量はダムより少なく、有体に言えば儲からないから後回しにされたのでしょう。そういう意味でダム治水は問題大有りです。今回の八ッ場ダムでも、大量の水と共に土砂も流入していて、一説によれば推定堆積量は通常の100年分とか。これその分貯水量が減ってダムの寿命を100年縮めたことを意味します。

ただ多くの自治体では財政に余裕がなく堤防や調整池の整備が進まない現実もあります。やはりネットで称賛された東京都の地下調整池も長い期間をかけて整備されたもので、一朝一夕にできたものではありません。税収が多く財政余力の高い東京都だから可能だったとも言えます。今後人口減少もあり、地方の財政余力はますますタイトになると予想されますから、財政余力のある自治体への人口集中は続くことになります。現実的には治水対策上、居住を諦める地域も出てきます。

他方で人口密集地域故の問題点もあります。

台風19号、首都圏に浸水もたらす 想定上回る雨で:日本経済新聞
武蔵小杉に限らず、高津区でも同様の浸水があり、死亡者も出ましたが、元々周りより低い地域にマンションが林立した結果、連続雨量の増加で排水設備の能力を超えてしまった結果です。武蔵小杉では地下室の配電盤が浸水して電気が止まり、水道が使えずトイレも流せないなどの深刻な被害が出ました。また横須賀線武蔵小杉駅も同様に電気設備が浸水して自動改札が水を被り、運転再開後も通過扱いが続き、自動改札は復旧したものの、エスカレーターとエレベーターは使えず、平日朝には30分待ちと言われる改札規制の列が伸びているとか。スペースの都合とはいえ電気設備を地下に置くことのリスクを示しました。

武蔵小杉に関しては限界都市川崎で指摘した問題を思い出していただきたいんですが、浸水リスクのある低い土地に林立するマンション群の資産価格が維持可能かどうかですね。価格が下がれば転売が困難になって流動性が低下しますから、武蔵小杉マンション民の多くはここでそのまま老いを迎えることになり、限界都市となります。川崎市は企業のリストラで工場跡地の再開発が課題なのは理解できますが、居住地としてのクウォリティを維持できない過剰な開発に歯止めをかけることを考えないと、将来廃墟になるリスクを負います。

ただ川崎市も一応ハザードマップで浸水リスクは明示していたのですが、多摩川の決壊を想定したものだった訳で、想定と異なる事態での被災ではあります。せめて浸水リスクのあるエリアだけでも開発抑制すれば良さそうですが、そうすると工場をたたむ企業が跡地を高く売れなくなるから再開発が進まなくなるってことですね。こうして目先の利益という見えざる手に導かれて、廃墟化することになります。

そして北陸新幹線ですが、千曲川の決壊でJR東日本の長野新幹線車両センターに浸水しE7/W7系10編成120両が被災しました。全30編成中の2/3が使えない状況で、長野―上越妙高間を除いて運転再開はしたものの、本数は限られています。北陸新幹線はかがやきの電源問題で東北・上越新幹線から車両を回せないという制約があります。元々2電源だった200系もあさま用のE2系n編成も既に配車済みです。余談ですが、糸魚川駅は新幹線50hz在来線60hzと捩れてます^_^;。

ここも長野市のハザードマップに記載されていて、JR東日本も把握していたにも拘らず,車両の疎開はしなかった結果の被災です。高くついた痛恨の判断ミスですね。かなり深く水没してますから、床下機器の交換だけでは多分済まないで、廃車も視野に入ります。その場合上越新幹線のE4系の代替でE7系投球が決まっているので、当面E4系を延命して新製E7系を北陸新幹線に回すってことになると思いますが、車両yメーカーの能力の制約もありますから、車両不足による間引き運転は不通区間の長野―上越妙高間が復旧しても続くことになります。そうなると各駅の乗車機会確保が優先されますから、速達列車のかがやきは当分お預けになるでしょう。かがやきを失った北陸新幹線は当分続きます。

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Comments

計画運休が上手くいったのは台風が通過したのが土日だったからあって、結果論に過ぎません。空振りや復旧に時間のかかる可能性のある不確実な自然災害に対して、「計画」は馴染まないと思います。

そもそも台風でも電車が止まらない限り出勤しなければいけないことが問題であり、民間の鉄道会社に家父長的な役割を押し付けているように見えます。台風でも人身事故でも通勤に支障があるときは躊躇なく休暇をとれるよう、労働者が不利益を被らないことを本来なら国が法律で保障すべきです。

八ッ場ダムや長野新幹線車両センターの水没も結果論です。
事前に車両を高架の営業線に退避しておくべきだったとか、水害対策が不十分だったとか、そもそも車両基地の場所が良くないとか色々言われますが、仕方のないことだったと思います。

ただし、車種の集約が遅れている点はJR東日本の落ち度です。
運行管理システムの度重なる障害の反省として、東北新幹線用車両、上越・北陸新幹線用車両、ミニ新幹線用車両の3車種に集約する方針で、E4系は2016年度には全廃の予定でした。ところが2020年度まで延期され、今回のE7系水没によってさらに延びる可能性が出てきました。車種が多いことでダイヤ乱れの際の運転整理には時間がかかり、ホームドアの設置もままならず固定柵でお茶を濁す有様です。そこに災害時の車両融通のなさが露呈し、今後の投資計画にも影響を与えそうです。

JR東日本には、羽田のアクセス線や中央線のグリーン車などにうつつを抜かさず、猛省してもらいたいものです。

Posted by: yamanotesen | Saturday, October 26, 2019 04:32 PM

おっしゃる通り、土日でなく平日だったら計画運休できたかどうかって問題はありますね。ただ台風15号の時の中途半端な対応から見れば1歩前進ではあります。

企業のリストラで人減らしが進んでますが、かつて鉄道ストが盛んだった時代も、貸布団手配して会社に泊まり込んだりして、仕事に穴開けないようにしていた日本の企業文化は昔からかもしれません。

一方で公共性を問われる鉄道やバスなどの運輸事業者は、万が一にも運行に穴開けられないから、乗務員など現業社員に長時間の拘束時間を課して待機させることが労基法の業種別例外規定で認められてたりしますが、そうした負担の上に日本が誇る正確な運行が担保されているってことは知られておりません。逆にそれが組合の団結を強めてきたのかもしれませんが、その組合も弱体化していて、バスドライバーなどは賃金低下で人が集まらなくなっているというスパイラルに陥っております。

鉄道事業者は現状そこまで至りませんが、若年人口の減少が続く以上、いつかはそうなるかもしれません。駅に行けば必ず電車はやって来るということ自体が維持不可能になる可能性もあります。そういったことも踏まえて社会全体で見直すべきでしょう。

新幹線車両基地の水没については、立地の水没リスクについて鐡道・運輸機構から十分な説明がなかったという声がJR東日本から漏れてきてますが、自治体のハザードマップの確認はやればできたことですから、やはりJR東日本には落ち度ありと言えます。ただ機構とは東北新幹線盛岡以北のスピードアップ問題も絡むので、不信感で調整が進まなくなるなどの影響はあるかもしれません。

車種構成の複雑さは、整備新幹線にしろミニ新幹線にしろ末端の枝分かれで需要を掘り起こしてきた結果でもあり、そもそも東海道新幹線ほどの需要のないところに立地している以上やむを得ない部分はあると思います。JR東海のように号車毎の座席数まで揃えるってのは、とにかく量をこなす必要からですね。逆にだから車両の更新も進めやすいとも言えます。

この辺の評価はいろいろな視点が入り組みますので一筋縄ではいかないかもしれませんね。

Posted by: 走ルンです | Saturday, October 26, 2019 05:39 PM

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