円高株高消費低迷の謎
日経平均株価が上昇基調で年内3万円台に乗せる期待が持たれていますが、ちょっと値上がりすると含み損抱えた投資家から売りが出て戻すことを繰り返していて2万7千円付近で膠着しています。但し上げ基調にはあり、年内は無理でもいずれは実現すると見られます。
とはいえ Go To 停止もあって消費は冷え込んでおり、実体経済との関係では整合性が見られないこの相場をどう見るべきでしょうか。種明かしすれば先月頃からの外国人買いの増加が寄与したものですが、世界の投資家が注目するのは米NY市場などから見て放置されて割安感が出てきたことによります。米ハイテク株中心に値上がりが続くNY市場ですが、3万ドル突破でここまで高値になると投資の旨みがなくなってしまうことがあります。
株式投資は配当狙いのインカムゲインと値上がり期待のキャピタルゲインの両方の狙いがある訳ですが、共に値上がりすれば旨みが薄れるのは当然ですし、また売り相場になった時の値下がりリスクもある訳です。基本は安値で仕込んで高値で売ることですから、相場如何では逆食らう可能性もある訳です。だからこれ以上NY株式は買えない水準に達したってことです。加えて米国債金利に上昇圧力がかかっていることもあり、株式と国債の裁定が働きにくくなっていることも指摘できます。
米大統領選でバイデン氏勝利が確実になり、グリーンニューディールや老朽化した公共インフラへの投資などで財政拡大を打ち出すバイデン次期政権ですが、議会選では苦戦し、特に上院は年明けの再投票で決着するジョージア州の2議席を民主党が取っても50:50の同数になるだけで、財源として法人税と富裕層課税の強化を見込むものの実現可能性は低く、財政赤字拡大が避けられないことから嫌気されたものです。
となると日米金利差で円安になりそうなものですが、アメリカの国内消費は堅調で、国債金利上昇は寧ろインフレ懸念をもたらします。しかもFRBはインフレ目標2%達成後も安定的に継続するまで量的緩和を続けるとコミットしており、インフレが放置されるということで、インフレ率で補正した実質金利ベースでは日米金利差は寧ろ円高方向へブレるということで、日本株高と円高が共存する相場になっている訳です。円高は外国勢から見れば日本株の低リターンをカバーし、米インフレをヘッジするという意味で、米国債の代替の役割も持ったということですね。
外国勢から注目されたからといって、東京が国際金融都市に近づいた訳ではありません。この関連で優秀なアナリストやトレーダーの所得税減免が議論されてますが、彼らは市場規模の大きなところの方が稼げる訳で、またそうした大規模市場は競争も激しく、その中で実績を上げ続けることの難しさはステータスでもある訳で、税金オマケするから来てね、に釣られて来るのは競争劣位の二流でしかありません。そして東証システム障害の後始末のニュースです。
東証、統治及ばず「引責」 システム障害で辞任、「必要なし」から一転 官邸の空気察し自ら決断:日本経済新聞風邪と共に去りぬで指摘しましたが、システム障害自体はある意味避けられないところですが、東証は証券各社へのヒアリングを徹底し混乱回避に尽力した訳で、その結果の終日取引停止だったのですが、官邸がそれを咎める空気があり忖度してトップ辞任に至った訳です。繰り返しになりますが、大証を除く地方市場が東証のシステムに乗っかっていたことと、民間市場(PTS)が規模の小ささから代替を果たせなかったことが終日停止已む無しの判断に繋がった訳で、東証の責任を問うのはお門違いです。これ日本学術介護問題にも通底する事実上の人事介入です。また代替市場が機能しないのは国の規制の結果なんで、政府が規制緩和を打ち出すならまずここからだろ。
ってことで、円高は結局日米のインフレ期待の差がもたらしたもので、それ程日本の消費は冷え込んでいる訳ですが、注意が必要なのは、これコロナ禍による不安が原因であって需要不足が原因ではない点です。繰り返しになりますが、コロナの克服こそが最大の経済政策だってことです。実際安倍政権で実施された特別給付金はその多くが貯蓄に回っていて消費には寄与していないと見られています。但しだから無駄だった訳ではなく、助けられた人も多数存在したことは確かです。その意味で一部で言われる消費税減税は無意味だし、需要喚起策としての Go To も結果的に感染拡大を招いた分マイナスの方が大きいと言える訳です。実際街にクリスマスソングは流れず規制や初詣も自粛で消費は落ち込んでます。
ひとつ謎なのがコロナ禍がより過酷なアメリカの方が消費が活発という点ですが、おそらくアメリカの方が格差拡大が深刻で、給付金などの政府支援が消費に回りやすい可能性があります。コロナ感染者の爆発的拡大も、一応国民皆保険で医療にアクセスしやすい日本に対して、オバマケアも実現できず医療へのアクセスができない人が多いことも影響していると考えられますが断定は避けておきます。
もう一点指摘しておきたいのが、日米に留まらず世界的に公的債務が膨張傾向にあり、特にドイツの反対で実現できなかったEU共同債の発行が決まったこともあり、公的債務拡大は当面続くことは確実ですが、一方で需要が消滅したエアラインなど多くの企業で資金繰りのために借り入れを増やしている訳で、官民共に債務拡大が続いている訳ですが、アメリカで国債金利上昇が見られるものの、それでも低金利が続いていることです。
これ各国中央銀行の金融政策が緩和的だから緩和マネーが溢れていることで説明できますが、それに留まらず日本に典型的に見られる貯蓄の増加が寄与していると考えられます。とすると上記の日米の消費性向の差が為替を円高方向に向かわせていると言える訳で、いろいろと説明がつくことにはなりますが。
ネット通販拡大の恩恵を受ける宅配便を例外として、エアラインに限らず運輸事業の逆風は厳しいところですが、日本のエアラインの大手2社ANAとJALは共に当面自力更生を模索しており世界で見られる政府による救済はなさそうです。竹中平蔵氏が国際線の1社体制をぶち上げて話題となりましたが、ANAもJALもその気はないと見て良いでしょう。何れもグループ内にLCCを抱えており、採算性の低い路線を傘下のLCCに肩代わりさせて高採算のビジネス路線を温存する方向性を打ち出しています。ただ長引けば耐え切れなくなることは考えられます。その際には拡大路線にまい進したANAの方が苦しい訳で、それを見越したANA養護が真意かと思います。とにかく裏の多い人物ですので真に受けない方が良いでしょう。
そして苦しいのは鉄道も同じで小規模な地方私鉄は資金繰りに知恵を絞りますが、規模の大きいJRは当然必要資金の規模も大きい訳で、もっと抜本的な対策が必要です。特に元々経営基盤の弱いJR北海道とJR四国においてはなおさらです。<
a href="https://www.nikkei.com/article/DGXZQODF2510G0V21C20A2000000" target="_blank">JR北海道・四国への支援拡大を発表、コロナで旅客急減:日本経済新聞JR北海道は3年で1,302億円、JR四国は5年で1,025億円の資金支援ということです。但し債務の株式化や利子補給を含むということで、真水は少ないとっ考えられます。前者は2020年までに設備更新や省力化投資の資金としてJR北海道へ2年間で400億円、JR四国へ2011年以来512億円を支援しておりますが、鉄道・運輸機構からの融資分を株式化するってことだと思います。つまり国有企業としての両社を国は潰さないという意思表示ではあります。
但しJR北海道で問題になっている大幅な路線存廃の議論は別ということで、沿線自治体と道庁の支援策が無ければ大幅な路線縮小が避けられないのは今までと変わりません。国としては債務の株式化に踏み込んでも最終的に経常黒字を安定させて株式上場すれば取り戻せる訳です。但し国策として株式保有を続ける可能性はありますが。というかNTTもJTも国の持ち分は残っている訳ですし郵政関連も同様で、JR本州3社の持ち分全放出による完全民営化の方が少数派です。
あとは経営安定基金の積み増しも考えられますが、今のところ言及はありません。実際は鉄道・運輸機構への預託により相場より高い利回りを保証して事実上の補助金としている一方、JR九州上場時に取り崩したように、追加の設備投資で発生する減価償却費を上場時に減損処理して減らす原資になる訳で、基本は株式上場がゴールという立場を維持しているようです。つまり国鉄改革時の基本方針は変えない訳で、自治体への負担を求めるということですね。あとついでにこれも取り上げておきます。
北陸新幹線、敦賀延伸1年遅れ 地元負担増を懸念:日本経済新聞元々生産年齢人口の減少で人手の確保が困難になる中で、震災その他の災害復興と五輪関連で取り合いになりますから、工事の遅れは当然起きる訳で、遅れれば当初見込みの事業費は膨張する一方、JRが負担するリース料は受益の範囲で確定していますから、地元負担が増えることになります。また開業が遅れれば整備新幹線財源として開業後の整備新幹線リース料が当てにされている訳で、当然2030年開業予定の北海道新幹線札幌延伸が遅れることも視野に入ります。JR北海道にとっては頼みの綱の北海道新幹線延伸ですが、狂いが生じることになります。整備新幹線スキームも限界に達したと言える状況です。果たして上場のゴールに辿り着くでしょうか。
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