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Sunday, January 31, 2021

見えざる手のたそがれ

与党議員の銀座の夜遊びのお陰で特措法改正案が野党案丸呑みになり、過料の額が減額されました。グッジョブd^_^wwwww。前エントリーで指摘した国家権力を飼い馴らす観点が機能しました。一方アメリカでは思わぬところに火の手が上がりました。

米株式市場にも分断の影 個人投資家SNS、ファンド標的:日本経済新聞
構図が複雑なんですが、個人投資家向けに売買手終了を無料にして躍進したネット証券のロビンフッドに、コロナ対策で連邦政府が配布した給付金を手にした個人投資家が殺到し、米株価上昇を支えていたのですが、一方ロビンフッドは個人投資家の売買注文データを大手ヘッジファンドなどマーケットメーカーに販売して収益を確保していました。ガラパゴス・スモールブラザーズで指摘した日本のネット証券とHFT投信の癒着と同じことがメリカでも起きていた訳です。

但しアメリカの個人投資家の対応は、ロビンフッドにデータを取得しているシトロンなどの空売りファンドを標的にした逆張りで対抗するというもの。ある意味アメリカらしいカウンターカルチャー炸裂となっているのが面白いところです。空売り勢は時価総額が大きくない中小型株に空売りを仕掛け、値下がりしたところで買い戻して借株を返却して手仕舞い、値下がり分のサヤ取りをする訳ですが、リスクヘッジで先物コール(買い注文)を仕込んでおく訳です。つまり先物市場の動きでヘッジファンドの意図がある程度見えることで、レディットというSNSののウォール・ストリート・ベッツ)WSB)という掲示板で情報を共有し、逆張りの買い注文を出すことでファンドに損失を与えることができる訳です。

勿論共謀しての株価操作は刑事罰を伴う犯罪ですが、個人のSNSによる呼びかけがこれに当たるかどうかは微妙なところです。今回ゲーム店を展開するゲームストップ株などが標的にされ、みるみる株価が上昇していった訳ですが、株価上昇に伴って売買注文の決済に責任を負うロビンフッドの準備金の積み立てが必要になり、資金繰りがタイトになってゲームストップ株その他の売買制限をかけたのですが、これが混乱に拍車をかけ、ロビンフッドが批判にさらされ、制限解除を余儀なくされました。その結果ゲームストップ株は値上がりを続けましたが、個人投資家には不信感が残り、SNS上で訴訟騒ぎにまで発展しました。

話はここで終わらず、大統領候補にもなった民主党オカシオコルテス下院議員が個人投資家に損害を与えたとロビンフッドを批判、また上院ウォーレン議員はSECに書簡を送り問題提起をしました。そのSECの次期委員長にバイデン政権は規制派のゲンズラー氏を指名する予定ということで、金融市場の規制強化の動きにつながりそうな気配になっています。トリプルブルーのアメリカが動き出した訳です。

ただ冷静に眺めると、各プレイヤーは合理的に行動している訳で、何が問題なのかは見えにくいのですが、市場経済の矛盾が見えたという意味で重要ということです。ヘッジファンドが金融テクニックを駆使してリターンを得る行為は、ネット証券の個人投資家の売買注文データを用いた先回りでもある訳で、同じことを個人投資家の共闘で仕掛けられたとも言える訳で、ある意味どっちもどっちなんですが、これを古典的な市場競争の枠組みで捉えることが適切なのかどうかってことですね。また売買の場を提供するネット証券にも言い分はある訳です。

本来は市場競争を通じて超過利潤(レント)がゼロに収束すると言われており、それ故に独占禁止などの競争政策が重要と言われてきた訳ですが、株式市場の実態は寧ろマージャンの点棒の取り合いに近い訳で、本来の企業の投資行動を支える機能は薄まっているのが実情です。特にアメリカが世界へ拡散させた株主資本主義は、結果的にこの傾向を強めました。昨今の企業の自社株買いでは、企業の余剰資金が投資家に還元されている訳で、本来は将来に備えた投資の原資を得るための、公募増資による資金調達の手段である筈の株式市場が逆方向へ動いている訳です。

同じような市場の混乱は日本の電力でも生じたのは電気が足りない訳じゃないエントリーでも取り上げましたが、報道が進むにつれていろいろなことが明らかになっています。元々コロナの影響で電力需要が低下し、卸電力市場(JPEX)の価格はキロワット5円程度まで下がっていて、新電力にとっては顧客拡大のチャンスでした。加えて在宅時間が増えて家庭の電力費が増える傾向も追い風となった訳ですが、それが何時でも簡単に余剰電力を調達できると逆に油断を生んでしまいました。

大手電力も4割を占めるLNG火力への依存が強く、やはりコロナの影響で電力需要が低下したことを受けて、またアジアのLNGスポット価格も低迷し、余剰分の転売も損失につながるので、安定供給で中東カタールからの長期契約の調達を減らしていました。そこへ暮れからの寒波がアジアを直撃し、また中国の経済回復もあってLNGスポット価格が跳ね上がり、電力需要も上ブレした結果、LNGの在庫不足となって企業の自家発電電力の買取などで凌いだわけですが、その結果JPEXへの売り物が減少して相場が跳ね上がり、顧客獲得に走った新電力が裏喰った訳です。

但し新電力の供給不足は結果的に大手電力が融通するので電力不足にはなりませんが、その転売価格はJPEX連動が原則なので、今月分が決済される3月末が地獄と言われております。これも新電力も大手電力も合理的に判断して行動した結果であり、見えざる手は機能しなかった訳です。こうして仕組みが複雑になると、市場原理が本来の働きを期待できず、コロナや寒波のようなブラックスワンの出現で混乱する訳です。

その意味では民間企業でも事実上中国共産党の指導下にあって、議決権が有名無実化している中国株が本来の姿に一番近いという皮肉な現実があります。株主は黙って金出して配当貰って満足すべしってことですね。アントの上場廃止とジャック・マー氏の消息不明は未だに謎ですが、最強の規制当局としての中国という視点で見ると、金融規制やデジタル規制に踏み込もうとするトリプルブルーのアメリカや、主権国家の上位機関として加盟国に義務を課すEUと何が違うのか?説明はなかなか困難です。

見えざる手は機能せず、中国のような見えるけど見ちゃいけない手^_^;が機能するということですが、これが可能なのは経済成長で国民が豊かになった実感があるからで、そうでなければ国民の不満が爆発します。ある意味中国のような国家資本主義体制は効率的で成長経済の推進はやり易い訳ですが、そうなると当然LNGスポット価格の高騰に見られるように資源消費が拡大してCO2排出量が増える訳で、実は中国のような成長経済にとってはここがウイークポイントになります。

自動車の電動化で中国が先を行こうとしていますが、現状EV生産や廃車後の廃棄処分家庭まで含めたライフサイクルアセスメントで見ればガソリン車よりCO2排出量は多いと言われます。特に石炭火力依存度の高い中国においては尚更ですね。てことで巷間謂われる中国封じ込めは経済制裁や軍事的圧力よりも、資源消費低減を突き付ける方が効果的ではあります。とはいえ巨大市場となった中国国内市場へのアクセスを失いたくないのが先進国の本音でもあります。だから中国封じ込めは確実に失敗すると見ておきましょう。

てことで、自動車の電動化よりも公共交通へのてこ入れによる脱クルマ社会を目指すのが実は最善手かもしれません。その意味ではネット通販の拡大による宅配便需要の増大が実は深刻だったりします。その意味ではフリュグスカムで取り上げた夜行列車の復活よりも、鉄道貨物の拡大が優先度が高いと言えます。今後も続く生産年齢人口の減少でドライバー不足は続きますから、この面からも必要です。

ってことで、アメリカやEUも見えざる手に変わって見える手の活用に舵を切る流れですが、日本でも国民目線での公正な見える手にシフトすることが、結局中国封じ込めにもつながる訳です。鉄道のような枯れた技術の活用で資源節約社会を目指す方が、大規模な研究開発を伴う技術革新に頼るよりも確実ですし。

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