中国デカップリングの同床異夢
管首相長男の総務省接待に留まらず、贈収賄事件で訴追された吉川元農水相と秋田フーズ代表との会食に同席した農水官僚も処分されました。気の毒なのは農水省の場合閣僚の不正に巻き込まれた感がある点ですが、これ森友学園疑惑での安倍前首相の「議員もやめる」発言を受けて財務官僚が公文書改ざんに手を染めたいおうに、元を質せば政治家の利益誘導が火元な訳ですし、総務省接待も首相の長男だったから断れなかった可能性が高いという意味で火元は政治家と言えます。火元を消さないと解決できません。
栃木県足利市の山林火災が続いておりますが、オーストラリアやカリフォルニアの山火事は遠い海外の出来事だったけど、身近で起きたことで認識を改めさせられます。山林は広大な空間に樹木が密集していて、一旦火が出て延焼すると、消火活動が困難なんですね。そもそも消火栓から延ばす消防ホースが届かないし、都市や田園と違って延焼の緩衝帯となる道路や田畑などの空間が無いところへ、乾燥と強風に煽られてれば近づくことすらかなわない訳で、ヘリで水を落とすぐらいしかできない訳です。
しかも火が強ければ低空からの水投下は難しいですから、高高度からの投下となり、水は塊から飛沫化してバラバラ落ちる訳ですし、雨のように連続で投下できる訳じゃないしで、消火は困難を極めます。火元に近づけないという意味で官僚接待問題と似ているような。ちなみに公務員倫理規程のきっかけとなった大蔵省過剰接待事件とは当時の武藤敏郎官房長がクビになったノーパンしゃぶしゃぶ事件のことです。森友事件の佐川理財局長が国税庁長官に出世したり、武藤氏が五輪組織委に再就職したりと、政治家の覚えめでたいといいことあるという現実を変えない限りどうにもなりません。火元が大事。
そんな中で世界は動いています。取り上げたいのはこの2つのニュースです。
米が基幹産業で脱中国 半導体など、同盟国と連携模索:日本経済新聞
米大手銀が中国シフト 成長余地大きく関係緊密:日本経済新聞アメリカの矛盾に満ちた現状を伝えます。コロナ禍で傷ついたアメリカにとって、医療品や半導体などの中国依存が進んでいた実情を明らかにしました。一方、香港やウイグル問題で強硬策をとる中国への圧力の意味もあり、中国デカップリングに舵を切る姿勢を鮮明にしました。経済と安保を連動させる姿勢が鮮明になった訳です。これはこれで歓迎すべきことですが、同盟国に協調を求める姿勢も鮮明になり、日本にもあれこれ注文を付けるってことですね。
対中安保と言えば尖閣問題としか言わない日本ですが、尖閣の防衛に踏み込んだと喜ぶべきことというよりも、中国海警法が国際海洋法で定める航行の自由の原則に反するというところに注目すれば、領土問題不介入の原則をアメリカが見直したんじゃなくて、中国の国際法違反への対応に焦点を当てたもので、アメリカの姿勢は変わっていないと見るべきです。主戦場は台湾海峡と南シナ海であり、尖閣はついでのリップサービスです。狙いは現状維持であり、その意味で台湾独立派への牽制もしています。
もう少し踏み込めば、中国が海洋主権に対して明らかな誤解をしていて、陸上の国土のような主権を海洋にももたらそうとしていることは、ある意味中国を責めるポイントになり、国際世論を味方につけられるということでもあります。ホワイトハウスに外交のプロが戻った結果、中国にとっては寧ろ手強い相手になったということです。但しタフな外交交渉を強いられる訳で、同盟国である日本が抜け駆け的な対応を取ること、例えば尖閣上陸とかの政治パフォーマンスには圧力をかけて対応すると見て良いでしょう。
同時にアメリカで失われた国内製造業の修復再生への支援も求められます。つまり日本企業の製造拠点の誘致や老朽インフラの補修やリプレースに対する資金拠出などが求められるでしょう。テキサス高速鉄道に意欲を燃やすJR東海にとってはチャンスかも。但し米銀はそんな政府の姿勢に関わらず高金利で手数料収入も多い中国シフトを鮮明にしています。とすると日本企業のアメリカ進出は米銀に頼らずに自前でファイナスする必要がある訳で、邦銀のドル調達プレミアム(上乗せ金利)負担を強いられる訳です。なかなか難易度高いですね。
ぶっちゃけ金融は規模の経済の世界ですが、アメリカを含む先進国の低金利では規模だけではどうにもならない訳で、だからこそ成長力があり高金利な新興国へ資金がシフトしてきた訳です。中国の経済成長もこうした資金シフトに支えられてきたものですし、巨大化しても尚成長余地があり金利も高いし、特に米ドルの通貨覇権を背景にフィーを稼げる米銀の立場は強い訳です。バイデン政権が経済と安保の連動で基幹産業の国内回帰やインフラ整備を打ち出しても、米銀にとってはさほどおいしい話ではない訳です。
加えて言えばそもそも製造業の新興国シフトは先進国の賃金の高止まりが促したもので、中国も例外ではありません。高くなったとはいえそれでも中国の賃金水準は先進国から見れば魅力な訳ですし、加えて国内富裕層の拡大で国内消費市場の魅力が増している訳で、この観点から中国との関係を断つのは容易ではありません。日本もそうですが、韓国、ドイツなど中国内需依存の強い国がアメリカのデカップリング政策に協力できる余地は限られます。そもそもアメリカのGMも中国で売上を作ってますし。
加えてコロナ禍が中国に追い風となっている現実もあります。何だかんだで主要国の中でコロナを克服して経済成長を実現した国は中国だけで、2020年も主要国で唯一プラス成長を実現している一方、変異種の脅威にさらされている先進各国は終息のめどは未だ立ちません。厄介なのはRNAウイルスであるコロナウイルスは当たり前に変異しますし、変異はランダムに全方位に起こる訳で、結果的に免疫迂回など感染拡大に有利なウイルスが生き残りますから、感染力を更に高める可能性が高く、いずれ現時点で有効とされるワクチンの無効化も視野に入ります。
その意味で現在先進国で展開されているワクチン争奪戦は事態をさらに悪化させる可能性があります。元々医療や衛生環境が脆弱な途上国へのワクチン供給はハードルが多く、国際協調で秩序立てて行う必要があります。それに対してアメリカでは自国民優先で国内生産分のワクチンの国外供給を止めてますし、いち早くワクチン接種に踏み切ったイギリスでは、コロナ対策で苦境に立ったジョンソン首相の「Brexitのお陰で早期承認が出来た」とのプロパガンダに政治利用されている状況で、EUは加盟国の調整で身動きできない状況ではありますが、全加盟国の公平性と加盟国の薬事承認の歩調を合わせるという難易度の高い調整を強いられている状況です。日本は単純に出遅れただけですけどね。
つまりワクチン接種の遅れで途上国の感染拡大が今後とも続くとすれば、途上国発の変異種による感染再拡大が何度でも起こり得ることを意味します。とすると中国デカップリングで途上国への生産シフトをしたくても出来ないことが現実化する訳で、ますます中国デカップリングを困難にさせます。ついでに言えば未知の変異種が繰り返し出現するような状況で五輪開催ができると考える楽観論はこうした現実を見ていない訳です。
最後にテキサス高速鉄道のかの可能性が開けるかもしれないJR東海の悲報です。
JR東海、2340億円赤字 今期最終、新幹線低迷が痛手:日本経済新聞今期4,500億円の赤字を見込むJR東日本と比べれば約半分の数字ですが、2020年3月期に4,000億円近い黒字計上だったことから6,000億円以上の減益となる訳で、そのほとんどの原因が新幹線の不振ということですから、新幹線依存度の高さが浮き彫りになります。
更に順調に債務を減らしてきたところでのコロナショックですが、ザックリ発足時5兆円規模だった長期債務を3兆円まで減らした訳で、大体JR東日本と同等の経営の成果は出ている訳ですが、問題はリニアに偏った投資姿勢にあります。コロナ禍でリニア工事現場でのクラスター感染で工事が止まったり、静岡県との対立による工事着手遅れで2027年の開業は絶望的です。
同じように長期債務を減らしたJR東日本は、老朽車両の置き換えやハイブリッド気動車や蓄電池車ACCUMの開発、無線閉そくATACSの開発と埼京線で実用化、Suicaシステムの開発と導入など鉄道事業全般の強化策を講じる一方、駅の改修や駅ビル、駅ナカビジネスの強化など多様な投資を行って事業環境の変化に備えてきたことから、コロナ禍で更に投資を加速させ、山手線や京浜東北線のワンマン運行の前倒しなどを打ち出しております。ワンマン運行に関してはドライバレスの目標を掲げてますが、おそらくメトロのような通常のATOによるワンマン運行をとりあえず実行ということになるかもしれませんが、余剰資金をほぼリニアにつぎ込んだJR東海よりも事態に柔軟に対応できる状況にはあります。コロナ禍が長引くとすると、この差は今後大きくなると考えられます。
加えてJR東日本と西武HDの包括提携にも触れておきます。共同記者会見では具体像が明らかとは言い難いですが、当面JR東日本のシェアオフィス会員による軽井沢プリンスホテルのリモートワーク利用など限定的ですが、新幹線とプリンスホテルとのコラボと見ると、結構応用範囲が広がりそうです。当面資本提携は無いとしても、資材調達などでの鉄道事業での協業もあり得ますし、例えばバス事業やホテル事業など両社の事業横断的な提携もあり得ます。唯我独尊なJR東海が名鉄や近鉄との提携ができるかと考えると、この差も結構大きいと言えます。
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Comments
JR東日本は業務提携よりも非鉄道事業分野の分社化や事業売却を進めたほうが良い気がします。
セゾングループの解体で西友から独立した無印良品(良品計画)やファミリーマートが花開いたように、
SuicaやビューカードなどJR東日本の営業エリアの足枷がなくなれば、飛躍的な発展が期待できます。
売却益は設備投資に回して、ワンマン化、無人化などの合理化を前倒しで進めて
通勤需要の減少に早く対応しないと、利用客がそのツケを払うことになりそうです。
Posted by: yamanotesen | Saturday, March 13, 2021 12:51 AM
セゾングループだとクレディセゾンもありますね。とはいえセゾンの場合結局事業の切り売りに追い込まれて空中分解した訳で、東芝など電機産業の迷走を先取りした要素はあります。
西武HDとの提携はどう具体化するかはわかりませんが、JR東日本と金融系コンサルのサインポストの合弁会社が、無人店舗システムでファミリーマートと包括提携したことが話題になりました。結構思いがけない展開があるかもしれません。
JR東日本に関しては少子化の影響を早くから注目していたので、ある意味コロナ禍のような逆境に対して対応力のある投資をしてきたことから、他社よりはやや有利かなと思います。逆に定期客比率が高い南海が最も落ち込みが少ないなど、影響を受けていないから将来に不安は無いと言い切れないところです。
>yamanotesenさん
>
>JR東日本は業務提携よりも非鉄道事業分野の分社化や事業売却を進めたほうが良い気がします。
>
>セゾングループの解体で西友から独立した無印良品(良品計画)やファミリーマートが花開いたように、
>SuicaやビューカードなどJR東日本の営業エリアの足枷がなくなれば、飛躍的な発展が期待できます。
>
>売却益は設備投資に回して、ワンマン化、無人化などの合理化を前倒しで進めて
>通勤需要の減少に早く対応しないと、利用客がそのツケを払うことになりそうです。
Posted by: 走ルンです | Saturday, March 13, 2021 02:33 PM