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Sunday, March 28, 2021

モダンマネーセオリープラクティス

アンカレッジの外交ショーに世界が釘付けになりました。

米中、ぶつかる国家観 経済から対立軸移る:日本経済新聞
通常の外交交渉は冒頭の2分ほどで報道陣を退出させて専門家同士で秘密会談をする訳ですが、SNSの時代にはどうせ漏れて世界に拡散されるリスクはある訳で、それなら思い切ってショーアップして世論喚起してしまえということですね。これ米中両国ともに自国民及び世界へのアピールで世論を味方につけようという意図が見えます。本チャンの交渉はいたって冷静に進んだらしいです。

外交交渉に限らず国防や情報当局のブリーフィング内容をツイッターで暴露するトランプ大統領の得意技がヒントになった可能性があります。報道界隈ではトランプ大統領時代に情報開示が進んだという笑い話まで囁かれています。その意味でバイデン政権としては良いアピールになったでしょうけど、同時に中国国内のSNSの反応で、義和団の乱と北京議定書が持ち出されたことで、米中対立の深刻さは逆に鮮明になりました。

1901年、義和団を名乗る扶清滅洋を唱える民衆の排外運動の蜂起があり、それに乗っかって清朝が支持し宣戦布告したために対外戦争となり、日本を含む8か国連合が2か月で平定したもので、北京議定書という不平等条約を呑まされた結果、清朝の弱体化に至ったもので、中国の屈辱の近代史を決定づけた事件でした。つまり同盟国を動員して対決を迫るバイデン政権に対する中国国民の率直な反応と見て良いでしょう。対立が国民レベルに浸透した訳で、中国との関係を簡単に見直せない日本を含むアジア諸国にとっては、対応が難しくなります。唯一喜んでいるのは、米中対立激化で中国の支援が期待できる北朝鮮ぐらいですね。

その一方で気候変動などでは協力を期待しており、対立一辺倒ではない訳ですが、これがかなりの難題です。そもそもグリーンニューディールはオバマ政権で打ち出されたものですが、リーマンショック後の中国の大規模財政種痘もあって需給がひっ迫して原油高になった結果、確かに風力などの再生可能エネルギーへのシフトは一定に起きましたが、それ以上にコスト面で無理があったシェール層の天然ガス採掘の技術革新が起き、その応用でタイト層のオイル採掘が可能となり、所謂シェール革命が起きたことで原油価格が下がったため、寧ろ再エネ投資はとん挫しました。

今回はOPECとロシアの減産で価格を押し上げていることもあり、再エネ関連やCO2貯蔵(CCS)や再利用(CCUS)などへの投資拡大が起きる可能性はあります。スエズ運河の座礁事故も復旧が長引けば原油高止まりの可能性もあります。但しCCSにしろCCUSにしろ、CO2分離や液化、固化の過程でのエネルギー消費がありますから、それを再エネで賄えなければ効果が減殺されることになります。

この点アメリカは油田に戻すことで原油の絞り出しに使えるということもあり、原油価格が高い状態を前提にすれば技術革新が進む可能性はあります。但しそれが経済成長を促すかどうかはわかりませんが。加えてCCSやCCUSは北海油田を抱えるイギリスやノールウェーでも可能性がある一方、油田のない日本ではハードルが高い訳ですが。やっぱりグレタさんに叱られる?

一方バイデン大統領が打ち出し議会で承認された総額200兆円の財政出動で景気回復することで長期金利が上がり株価が下がるなどの市場の反応が見られますが、法人税と富裕層所得税の増税も打ち出しており、当面は経済回復を優先して増税は後回しになると見られますが、これが重石となって結局長期金利も株価も落ち着きを取り戻しつつあります。つまり増税予告付き財政出動という訳で、これ主流派経済学者からトンデモ理論と言われた現代貨幣理論(MMT)の実践と捉えることも可能です。

日本ではリフレ派が節操なく飛びついたMMTですが、彼らが見落としているのは増税オプション付きという部分でして、元々は貨幣を負債と捉え、政府と中央銀行を連結した統合政府としての政策対応というもので、くしくもイエレン財務長官がFRB議長時代に持論として唱えた高圧経済論とも通じるるもので、後任のパウエルFRB議長も承知の上とすれば、それなりに整合性のある政策にはなります。但しインフレ対応が必要になった時には財政緊縮と金融引き締めを同時に行うことになる点が難点と言えば難点ですが、イエレン財務著菅は当面その心配はないと見立てているようです。

何故かと言えば中立金利の低下が背景にあるからで、結局アメリカの潜在成長力がそれだけ低下した現実が見えているのかもしれません。経済を過熱させるような過度な景気浮揚は望めないことに気付いているんじゃないかと思います。逆に主流派にどっぷり浸かったサマーズ氏には理解できず、インフレ懸念から批判した訳です。で、上記のグリーンニューディールが進むと仮定すると、その果実は成長よりも温暖化を遅らせるという公益の形でもたらされる可能性が高く、コスト負担で成長が相殺されてしまう可能性が高い訳です。温暖化が進めば別のコスト負担が増えますから、よりマシな未来はどちらかは自明ですが。

加えて言えばこれまで移民の受け入れで労働力を補充してきた移民国家のアメリカですが、コロナ禍でその持続可能性に疑問符が付きます。これは欧州も同様ですが、技能実習生などで「移民ではない」と強弁しつつ外国人で労働力を補充しようとしている日本はどうなるでしょうか。寧ろ増税を予告して財政出動するアメリカをこそ見習うべきではないかと思います。

日本も含めてですが、先進諸国の低金利が、コロナ禍では政策余地をもたらしていることも確かです。緊急の低利融資や劣後ローンに加え、公募増資もやり易い市場環境なので、業績面では厳しくてもつなぎ資金は豊富という状況です。そして中国デカップリングで指摘したように、途上国のワクチン供給が見通せない状況では、感染拡大に伴う変異種の侵入で先進国も感染再拡大を繰り返すとすると、移民に頼った労働力補充は難しい訳です。それ以前に国内雇用が戻らなければ移民受け入れの余地も狭まりますし。

長くなりましたが、整理すればグリーンニューディールによる成長は見込めない一方、成長余地のある中国は成長の結果としての温暖化ガス排出増が避けられないと見れば、グリーンニューディールに別の意味が見えてくるということですね。つまり中国に協力を呼び掛けながらコスト負担のプレッシャーをかけることが可能ってことです。但しそのためにはアメリカ自身が本気で温暖化ガス排出削減に取り組む必要がある訳ですが、この辺のは一時米中軍事演習を敢えて行い、実力差を見せつけた流れと同じ狙いがあると言えそうです。

ということを踏まえると、日米同盟強化は軍事面に留まらずこの面でも同盟国の協力を求めることになるということですね。中国をさし置いて日本が排出拡大する訳にはいかなくなるってことです。再エネで出遅れている日本にとっては厳しい話になるでしょう。生産年齢人口減少が急な日本では、マイナス成長も覚悟する必要があると見込まれます。鉄道関連で言えば北陸新幹線や北海道新幹線の工事遅れに見られるように、作業員が集まらない現実があります。その北韓同新幹線関連でJR貨物が危機感を持っています。

JR貨物社長の期待と懸念、「第2青函」具体化後押し:日本経済新聞
第2青函トンネル問題は脇へ置きます。実現可能性も含めて現時点で論じるに値しないからですが、それより以前に北海道内の貨物ルートの分断の可能性に危機感を表したインタビューです。背景には七飯町と長万部町が鉄道に拘らない姿勢を示し、長万部以南の函館本線が廃止の可能性が出てきたことによります。愛なき成長戦略でも触れましたが、仮に廃止となれば青函トンネル経由で運行する貨物列車が存続の危機に直面します。船やトラックによる代替輸送となれば積み替えによるコスト増もあり、消費者に負担をかけることになりかねないということですね。仮に貨物列車を廃止するするとなると、貨物調整金で存続しているIGRいわて銀河鉄道、青い森鉄道、道南いさり火鉄道が一蓮托生で危機に瀕することになります。ネット通販の普及で北海道向け貨物も好調で、北海道発の農産品輸送と相まって双方向の需要が旺盛なだけに、JR貨物としても捨て置けない問題ですが、逆に言えばそんな重大問題を七飯町や長万部町レベルの自治体の判断に委ねるというのが異常でもあります。はっきり言って国の出番です。鉄道貨物に関してはアメリカではこんなニュースがあります。
カナダ貨物大手、米社買収 3兆円 メキシコまで鉄道網:日本経済新聞
大陸国のアメリカでは貨物鉄道は有力な投資先と見られており、環境負荷が低いということでグリーンニューディール銘柄でもあります。3か国の新たな貿易協定(USMCA)発効やサプライチェーン見直しも追い風で、買収額290億ドル、日本円で3兆円余りを民間資金で賄えているのですが、日本の鉄道貨物の置かれた状況とは大きく異なります。とはいえリニアに財投資金3兆円出せるなら、貨物ルート維持に資金提供は問題なく可能な筈ですね。貨物は選挙の票にならないから放置されるでしょうけど-_-;。

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