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April 2021

Sunday, April 25, 2021

脱炭素目標の欺瞞

4都府県に緊急事態宣言が発出されました。今回は飲食店の時短営業に留まらず、大規模イベントの中止または無観客、美術館、博物館、図書館、大型書店の規制と、前回よりも規制を強化しています。しかしクラスター発生が見られない美術館等は、元々飲食禁止で静かに閲覧が求められますから、まったく意味不明です。市民に我慢を強いる以外に何の意味があるのでしょうか。

てことで今年のGWも特に予定なしの自粛生活ですが、コロナの話題はこれぐらいにしておきます。一方で気候サミットが終わり、こちらは米中の協力体制がアピールされてます。2大排出大国が本気になることは歓迎すべきではありますが、日本の立場はここでも微妙です。

脱炭素電源、過半に引き上げ 2030年度へ政府方針:日本経済新聞
いろいろツッコミどころ満載ですが、まず電源構成。脱炭素電源過半の部分の内訳が原子力20%再生エネ30%以上ということで、これ現在稼働9基で電源構成比6%ですから、再稼働許可済みで地元合意待ちの7基プラスでは足りず、申請中の11基プラスで都合27基でもやや不足ですし、許可済み7基には東電の不祥事で運転禁止処分を受けた柏崎刈羽の2基が含まれます。

加えて40年の運転期限を迎える炉もありますから、つまり原発の新設やリプレースを前提としない限り不可能ってことです。これ新設を受け入れる地域があってすぐに工事に取り掛かったとしても、30年には間に合う可能性はほぼゼロです。あとは規制法で認められている運転期限60年への延長や休止期間をカウントしないなどの方法でフル稼働させることを狙っている訳です。所謂既成事実づくりであり、ろくに議論もしないで国際公約を盾に一点突破を狙っていると見ることができます。安全が担保され地元が合意するなら再稼働自体には反対しませんが、こういう誤魔化しを平然とやる姿勢は五輪強行の姿勢にも通じますね。

蛇足ですが、汚染処理水の海洋放出問題でも、原発由来のトリチウムは普通に海洋放出されていますが、福島のそれはメルトダウンした核燃料に触れtくぁもので、トリチウム以外の核種が取り切れずに残留していて、指摘されて再処理を約束するという具合に情報開示に後ろ向きdですし、海洋放出が唯一の解決策ではなく、2013年時点で他の方法はコストがかかるから検討もせずにいて、今まで放置してきた問題です。こうした姿勢が不信感につながっていることが問題なんです。

あとエコだましな胡麻化しがあります。京都議定書で90年比マイナス6%を約束した日本ですが、2013年以降のポスト議定書の交渉で2009年に2005年比マイナス15%を打ち出して国際的に批判を浴びます。満員電車とウサギ小屋のお陰で省エネ大国の地位を得ていた90年よりも排出量が増えた2005年を基準年とすることで誤魔化しを図った訳です。今回は更に基準年を2013年としています。

議定書の期限の2012年は東欧の非効率火力のリプレースなどで得た排出権クレジットを用いてマイナス6%目標を達成はしましたが、福島第一原発事故があり、原発停止を余儀なくされ、震災復旧と共に増加した電力需要を火力で賄ったので排出量が増えた年です。こうして基準年を変えることで削減率を高く見せる誤魔化しは政府統計不正を思い出させますが国際社会は騙せません。

それでも削減率46%という中途半端な数字になるってところに苦しさが滲みます。これも当初日米首脳会談でバイデン大統領からのプッシュに備えて半減まで覚悟していたそうですが、アメリカの経済界に反対意見が強く、調整がつかずに首脳会談時点では言及がなかったことから、改めて数字を積み上げたものです。基準年を動かすインチキでもこれが精一杯だった訳です。

アメリカにとっても気候変動問題は製造業比率の高い中国への圧力になることを意識している筈ですから、日本も目標の大幅な上方修正に付き合う必要はある訳ですが、例えば噂のアップルカーの開発で日本や韓国の複数の自動車メーカーに製造請負の打診があったり、iPhonの製造で実績のある鴻海がEV開発に名乗りを挙げたりという動きがあります。ゲームチェンジは確実に進行中ですね。

政府としてはかなり踏み込んだと自覚しているでしょうけど、30年目標の半減にしろ50年目標のカーボンゼロにしろ、産業構造を見直して構造的に変えなければ実現不可能なものな訳で、そうした議論がさっぱり見えないのが気になります。アンモニアや水素の活用が言われますが、当面水素もアンモニアも化石燃料由来に変わりはない訳で、結局再生可能エネルギーへの転換を促すことと、仮想発電所(VPP)などの省エネ技術の深掘りへ向かう必要があります。

原発の新設やリプレースは、可能だとしても鉄とコンクリートの塊の建造物になりますから、鉄もセメントも製造工程でのCO2排出と鉄は熱処理工程で、セメントは水と混ぜて凝固する過程でCO2を放出します。つまり発電プロセスだけのカーボンゼロに過ぎない訳で、使用済み燃料の最終処分も決まらない中、ライフサイクルアセスメントを考えると脱炭素にはなりません。寧ろ問題の先送りで子孫に困難を押し付けることになりますから問題です。原発はあくまでも現存のものの可能な範囲での再稼働に留めるべきです。

現状コロナ禍と米中デカップリングにスエズ運河座礁事故による海運の混乱で半導体不足による生産調整もあり、世界的に排出量が減っておりますが、コロナ後に元に戻るかどうかは微妙です。サプライチェーンの見直しで貿易が減少しヒトの国際的な移動も減るとすれば、運輸部門の排出量は減少する可能性があります。

一方国内で見ると密を避ける意味で公共交通が忌避されてマイカー移動が増えるとすれば排出量が増える要因にもなります。この状況でEVやFCVへのシフトをしても電源や水素が脱化石燃料化出来てなければ削減効果は限られますし、技術革新や充電/水素ステーションの設置などコストは確実に発生する訳です。それなら寧ろ公共交通の助成で運輸部門全体の削減を狙う方が確実です。EVシフトは従来の元受けメーカ―を頂点とする多段階の下請け企業の存続を危うくすることに変わりはない訳で、下請け企業の業態転換を促す必要はどちらにしても生じます。

加えてEVシフトと自動運転とシェアリングが進むと、タクシー並みに稼働率が上がると考えられますから、新車販売は現状の4割程度まで減るという試算があります。つまり自動車の台数が減る訳で自動車産業の将来は厳しいものになります。そう考えると、日本のリーディング・インダストリーとされてきた自動車産業への依存は国を衰退させるだけということになります。製造業の衰退はしかしCO2排出削減には資するので、皮肉ですが日本はその意味で世界のトップランナーになる可能性は十分にあります。

FCVに関しては水素供給システムを視界に組み込む必要がありますが、その意味でトヨタのFCVバスSORAの販売は理にかなってますが、ドイツのシーメンスでは鉄道向けの燃料電池車両を開発しており、トヨタもJR東日本への燃料電池システムの供給を考えているようです。水素供給システムを普及させて水素の消費量を増やさないと結局コスト面で普及しないというジレンマに気付いた訳ですね。

鉄道サイドでもディーゼル車のメンテナンス問題で電動化を進めたい訳ですから、価格次第では普及する可能性はあります。但し脱炭素の代替燃料というよりも、制御が困難で出力が不安定な再生エネルギー電力の貯蔵手段としての活用も考えるべきです。再生エネ拡大が避けられないなら、そこへリンクを張る方が将来性がある訳ですが、そうした全体像をイメージするような議論があまり見えないのが気がかりです。

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Sunday, April 18, 2021

台湾海峡は波高しか?

本題に入る前にJR来宮駅での電動車いすを巡るネット炎上問題を取り上げます。事実関係の詳細を把握していないので、あくまでも一般論ですが、車いす生活者に限らず障碍者は健常者に対して少数であることがあまり意識されていない感じですね。多数派である健常者が自らの意思で自由に移動ができる一方、介助者を必要とする障碍者の移動はそれだけ制約が多い訳ですが、バリアフリーが叫ばれ、障碍者でも可能な限りの移動の自由を実現することは重要です。

しかし現実は健常者目線での対策ばかりで、当事者である障碍者にとっては使い勝手が悪いケースは散見されます。それに対して注文を付けることは当然ある訳で、それを受け止める社会の側が注文を拒否することは、意識するとしないとに拘わらず差別に当たるってことは指摘しておきます。

大事なのはあくまでも個人の自由意志の実現なんで、勿論実現のハードルが高い現実はありますが、それを話し合って社会的合意を導き出す必要はあります。参議院に重度障碍者2人を送り込んだれいわ新鮮組のお陰で国会議事堂の改装が実現したように、声を挙げなければ無視される現実があることに対しては意識を持つべきです。れいわの主張には同意できないことが多いですが、この点だけは認めます。

で、本題ですが、既に中国デカップリングのエントリーでも指摘しましたが、日米の首脳が詰めで話し合った結果、52年ぶりに日米共同声明で台湾が言及されたことは、予想されたこととはいえ大きな出来事です。

日米声明「台湾海峡」明記 初の会談、中国の威圧に反対:日本経済新聞
アメリカは日本に対して軍事的にどこまで出来るかを確認した筈です。北朝鮮核開発に対して軍事行動を考え日本に協力を求めたクリントン大統領に当時の細川首相が当時の憲法解釈に則って「出来ません」と答えたけど、政府はそれを伏せてい日米通商協議の問題にすり替えて半導体協議の決裂を発表して取り繕いました。コロナ禍の中でわざわざの膝詰め会談ですから、当然今回も同様の話が出た筈ですが,管首相はどう答えたかは今後の推移から類推するしかありません。

アメリカは元々日本の安倍政権が提案したインド太平洋クワッドとして日米豪印4か国の連携を進め、おそらく北大西洋条約機構(NATO)のような集団安保体制の構築を狙っていると思われますが、これは安倍政権が解釈変更した集団的自衛権の行使より踏み込んだ話になりますし、国内世論の拒否感が強いので、即答できる問題ではないと思いますが、いずれ何らかのアクションが出てくるでしょう。

ただ心配なのは中国の国内世論の行方でして、香港やウイグルの問題を含めて習近平政権は中国の国内世論の支持を得ているという頭の痛い問題があります。この点は国民に銃口を向けるミャンマー国軍とは大違いってことです。これ喩えれば戦前の軍部の暴走を招いた日本の高揚したナショナリズムによる世論の沸騰に近い訳で、ABCDラインによる経済制裁の締め付けに寧ろ国民は怒り、主戦論を唱える皇道派が慎重な国際派を抑えて勢いを得た結果を招いた訳です。

注意が必要なのは中国が核保有国であり、しかも旧ソビエト時代からの核軍縮交渉が継続するロシアとは違って核軍縮の交渉の枠組みも存在しない中で、米中の軍事的対峙は核戦争の脅威を増すことにあります。そうなれば人類滅亡の扉を開くことになりますから、それだけは回避する必要があります。中国政府は日本の軍部よりは理性的でしょうから、いきなりそうなるという訳ではありませんが、国内世論の動向次第ではどうなるかわかりません。その意味で一方的な締め付けには慎重になる必要があります。

更にアメリカは台湾の国家承認による1つの中国政策からの離脱まで考えている可能性があります。その場合日本や欧州は共同行動を求められますが、当然中国は断交で対抗することになり、現実的に可能かといえば微妙です。特に欧州の足並みが揃わない可能性があります。中国は経済的に困窮する中東欧やギリシャなどへ接近しており、アメリカの意に反して共同行動をとらない可能性があります。

ただし実現可能ならば中国が主張する第一列島線以西の領有権は根拠を失う訳で、中国の海洋進出を抑制することが可能になります。戦前日本の国際連盟委任統治領だった南シナ海の島嶼群は、日本政府が台湾に属する行政区分としていたものが、サンフランシスコ講和条約と同時に発効した日華平和条約で台湾の領有権を放棄した一方、中国の国連加盟で中華民国が地位を失い、南シナ海が空白地帯になったことで、ベトナムやフィリピンなどの沿岸国が一部の島を占拠して既成事実づくりに動いた後で、日本統治時代の行政区分を盾に中国が海洋進出の足掛かりにしようとしたことで拗れた訳で、元を質せば戦後処理のバグのようなものです。

仮にそこまで考えたアメリカの戦略があるとしても、経済的に深く繋がった現在のサプライチェーンを前提にする限り、米中の軍事賞衝突は経済を大混乱させるだけになりかねません。故に経済的なデカップリングをアメリカは日本を含む同盟国に求めるでしょう。加えて自国の基幹産業の立て直しをその中で図ることになりますから、軍事面に限らずコスト負担を求めてくるでしょう。どこまで付き合うかは難しい判断になります。アフガン撤退は戦力の集中の為とすればアメリカの本気を伺わせますが。

実際はもっと手前でコロナ禍への対応で中国に後れを取っている現実がある訳ですが、ワクチン接種が進むアメリカに対しても後れを取る日本政府の無能ぶりは際立ちます。前エントリーで指摘したように自粛による人々の行動変容以外に対策を打たないでコロナを克服できる訳ないんで。実際まん延防止等重点措置がまん延しつつあります^_^;。今年も自粛で我慢のGW確実ですね。これがどれだけ経済を痛めているか。コロナか経済かという二択じゃないんです。

ワクチン接種も医療従事者への接種が終わらないうちに一般高齢者への接種が始まりましたが、これつまりワクチン接種を受けていない医師による一般人へのワクチン接種というクラスター発生原因になりかねない愚策で、限られたワクチンをどう配分するかの戦略不在です。こういった広義のロジスティックスがデタラメじゃ、中国との軍事的対峙なんて現実的に無理です。そしてこんなデタラメも。

多重委託、無責任の連鎖 COCOA不具合の重い教訓:日本経済新聞
デタラメトランスフォーメーションの深い闇が可視化されました。これ発注者の厚生労働省の問題であると同時に受注側の問題も浮き彫りにしました。巷間IT土方とも謂われる土建業界も真っ青な多重下請け体制で公金がピンハネされ責任は曖昧ということですね。コスト意識が希薄で言い値で受注できるからこういうことが起きる訳で、構図は公共事業と同じです。

減耗する固定資本エントリーで指摘したように、公共事業不要論ではなく、公共投資を積み重ねて見かけ上のGDPをかさ上げしても、資本の維持費である固定資本減耗の増加で財政が圧迫され経済厚生を低下させることが問題なんです。まして生産年齢人口の減少で現役世代の負担が高まる訳ですから、公共インフラを増やし過ぎないことは大事です。加えて生産年齢人口減少は労働力減少を意味しますから、事業の遅れによる負担増も見る必要があります。ただでさえ乗数効果の見込めないコスパの悪い事業を無理に進めることは経済の足を引っ張ります。

その意味で整備新幹線やリニアにも慎重であるべきで、実際北陸新幹線の工事の遅れや静岡県との対立と関係のないリニアの工事遅れもあります。あと宇都宮ライトレールも用地買収と工事の遅れから開業が1年延期で23年3月となり、事業費も1.5倍に膨らんでます。北海道新幹線も工事が足踏みしており、開業延期もありそうです。それでも公共事業を求める声が大きいのは、それで潤っているノイジーマイノリティがいるからということですね。

こうした土建国家体質が実はDXをも阻害している訳です。DX関連ではマイナンバーカードの普及が進まないのは、こうしたいい加減な政府の姿勢が国民に見透かされているからです。しかもマイクロソフトのインターネットエクスプローラーのプラグイン機能を利用して様々な紐付けを試みている訳ですが、IEのプラグイン機能の脆弱性が明らかにされてマイクロソフトがエッジという新ブラウザに切り替えを推奨しているのに、古いテクノロジーで開発されたマイナンバーカードの安全性に疑問符が付くことには無頓着では、なるほど国民の信頼は得られない訳です。一事が万事の日本政府はどこへ向かうのでしょうか?

あと中国武漢のハードなロックダウンはハイテクを駆使して強制的に個人の行動変容を求めた結果の封じ込めであったことも忘れてはいけません。冒頭の個人のセルフコントロールによる自由意志の実現が大事なんで、行政の効率化のためのマイナンバーカードでは見向きもされないということを理解すべきです。

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Sunday, April 11, 2021

バス特ヤメ得ダレ納得

コロナ感染がジワジワ増えてます。大阪など3府県6市に続いて東京、京都、沖縄の3都県でもまん延等防止重点措置の発出が決まりました。緊急事態宣言解除から大阪で3週間、東京で2週間で感染拡大となり自粛要請ということで、感染予防の先回りではなく後追いになっている訳ですから、こういうのを「いたちごっこ」って呼びます。

去年の緊急事態宣言発出は、専門家会議西浦教授の接触8割減の提言に基づいて、感染実態も治療法もわからない状態では、とりあえず人々の接触機会を8割減らす行動変容を求めるという意味だった訳ですが、結果的に感染拡大を阻止することが出来て、感染拡大が止まり結果オーライでうまくいったという評価となったようですが、GWの自粛生活で運輸、宿泊など旅行関連の需要大収縮となって、これが夏の Go to 解禁に繋がったようですが、結果的に今年のGWも自粛を余儀なくされております。

本当は自粛による人々の行動変容の間に検査体制の拡充やICUを含む病床確保、人工呼吸器やエクモのオペレーター確保など、やるべきことがたくさんあったのに、何も手を打たず秋冬の感染拡大で再度の緊急事態宣言となった訳ですから、このままだと自粛と緩和の繰り返しでいつまでも感染拡大が止まらない悪循環となります。変異種に関しても去年から指摘されてきたことで、変異を防ぐには感染拡大を抑えるしか方法はありません。

一方人々の馴れで行動変容もうまくいかなくなってきており、このままでは自粛のストレスばかりで先が見えない状況が続きます。何かに似てるなと思ったら、97-98年の金融危機の時もこうでした。バブル崩壊で企業の過剰債務と裏にある銀行の不良債権が見えない中で、取引先がいつ飛ぶかわからない疑心暗鬼の中で経済が冷えていったものです。当時の小渕政権は有効な対策を打ち出せず、当時の民主党案を丸呑みして長銀、日債銀の2行の破綻処理を行うというあたり、与党議員の夜遊びで特措法改正で野党案丸呑みした管政権も似ています。

会う人が陽性者かもしれない中での人々の疑心暗鬼が解消されなければ Go To でバラマキしても効果は限られます。結局金融検査マニュアルに基づく厳格な銀行の資産査定と企業の過剰債務の処理が進んでやっと出口に向かったのは小泉政権になってからです。不良債権も感染症も検査と隔離が大事ですね。奇策はありません。

コロナ禍で打撃を受けた運輸業界ですが、2月28日に国際興業バスがPASMOのバス特典サービスの停止を実施し、首都圏のバス事業者が続々追随しています。PASMOの普及・促進のためのバス特典が所期の目的を達成したことを理由としていますが、もちろん本音は運輸収入減少に伴うコスト圧縮でしょう。停止されるのは引落額1,000円毎にバスチケット付与を停止するもので、バスチケットの利用は10年間有効としています。

国際興業バスでは金額式定期券サービスを行っており、そちらへの移行を促しています。バス特は元々首都圏共通バスカードのプレミアムに変わるサービスとして導入された経緯がありますから、元々経過措置だったということのようです。更に遡れば都区内共通回数券に行きつき、先払い特典としての歴史は古い訳です。

但し何故今かということに、コロナ禍が無関係とは言い切れないでしょう。そして国際興業が口火を切る形で西東京バス、伊豆箱根バスと五月雨式に同様の発表が相次ぎ、4月に入って継続している事業者は都営バス、東急バス、京成バスなど少数にとどまりますし、京成バスは4月25日にやはり停止を発表しており、ます。千葉や茨城の事業者までは把握しきれませんが、おそらく今後も追随する事業者が相次ぐと思います。

おまけとして東急世田谷線も4月末に停止ということですが、こちらは「せたまる」という専用ICカード乗車券を先行導入し、10回乗車で1回分のチケットを付与するサービスを実施して回数券を廃止し、PASMO導入で一時2種類のカードリーダーを搭載していましたが、汎用性のない「せたまる」はユーザーの減少で廃止された経緯があります。結果的にプレミアム廃止ですね。東急バスに関しては今のところアナウンスはないようです。

都営バスの対応も注目です。元々都区内運賃が他社より10円安い210円で、加えて90分ルールといって、初乗車後90分以内に再度乗車した場合、100円引きとなるサービスで、折り返しでも別系統でも有効という都営バスの独自サービスですが、やはり今のところバス特停止はアナウンスされておりません。公営交通の都営バスが民間よりも踏み込んだサービスというのは面白いところですが、黒字転換したとはいえ長年赤字を続けた都営地下鉄とのシナジーが期待できないからバス事業の独立性が高いってことでしょうか。東京メトロとの角逐も影響しているのでしょう。PASMOを共通プラットフォームと捉えた独自サービスという意味では都営バスは一歩抜きんでた存在ではあります。

公営交通は元々地方公営事業として独立採算が求められているため、例えば大阪市営バスが大阪シティバスとして民営化されたように、民営化自体は制度上可能なんですが、それが唯一の解ではないことは注意が必要です。尼崎市のように阪神バスへの業務委託で存続したり、姫路市営や岐阜市営のように撤退したケースもあり、地域の実情によりさまざまです。

てことで前エントリーで取り上げた台鉄の事故に絡めて「公営だから問題、民営化すべき」という議論がありますが、台鉄はその歴史過程も含めて特殊の事例です。正式には台湾鉄道管理局と称し、元は日本統治時代の台湾総督府鉄道を引き継いだものですが、国民党政府の独裁体制の中で強い権限を有しており、それが民主化後も継続している訳で、公社化以前の現業機関としての国鉄に匹敵する強い権限を持ち労組も強く、一方で民主化後の改革路線で新自由主義的な政策で国内交通の鉄道独占は崩されております。

加えて台湾高速鉄道も民間資本による別会社の運営で連携が無く、実態としてはJR九州から九州新幹線を除いた存在ってことですね。台湾高鉄も九州新幹線のように山陽新幹線直通需要を拾えないので経営は苦しく、仮に統合しても採算性が改善する見込みは薄いと言えます。つまり仮に民営化しても採算性の見込みは立たない訳で、政府の関与は必要になります。公営は悪民営は善という単純な話ではない訳です。

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Sunday, April 04, 2021

鉄路的ニュースの蛇足

徒然なるままに勧めます。

ルネサス火災「生産再開1カ月」 車メーカー追加減産も:日本経済新聞
車用半導体不足に悲報です。自動車メーカーは追加減産を迫られますが、車の制御にいまや必需品となる半導体はTier2以下の下請け企業からの調達であり、規模の経済のバイイングパワーで買い叩いてばかりいたら,いざというときに足りないということになりました。元々自動車用は数世代前のもので、半導体メーカーとしては古い生産設備で対応可能な一方、その分買い叩かれるからスマホ用など極限的に微細化したものを高く売るために短期間で設備投資を繰り返さないとついていけない厳しい競争環境にあります。

その結果ルネサスもそういった先端分野は台湾などのファウンドリー企業への外注で対応し国内工場は自動車向けなど旧世代向けの古い設備を温存してコストを抑えてきた訳ですが、逆に同じ製造装置が手に入らないなどそれが裏目になりました。今や産業のコメと言われる半導体も、気が付けば海外生産が当たり前になっていた結果、いざというときに手に入らなくなるという意味では昨年のマスク騒動に通じますが、同時に京浜東北線の209系末期のトラブルも思い出されます。パワー半導体の世代交代で交換部品の調達が困難になって京浜東北線にE233系1000番台を投入し常磐緩行線の2000番台を後回しにした訳です。209系は電装品を交換して千葉地区へ転用されましたが。

公示地価6年ぶり下落 訪日客減や外出自粛が打撃:日本経済新聞
コロナの影響がくっきり出てます。大都市商業地が軒並み下落し、特にインバウンドに支えられてきた大阪市の下落が大きい一方、同じインバウンド依存でもに北海道ニセコ地区が逆に上昇しております。雪質の良さで海外富裕層のスキーリゾートとして評価が定着し、彼らはセカンドハウスとして土地建物を購入するからこうなる訳ですが、その結果スキーリゾートで働く地元の人たちは中心の倶知安町内に住めない現実に直面しています。更に1杯3,000円のラーメンなど富裕層相場の飲食価格の上昇もあり、住みにくい街になりました。富裕層はプライベートジェットと車移動ですから、北海道新幹線が出来ても使われない可能性が高く、寧ろ俗化を嫌って離れる可能性もあります。
首都圏で「空き家バンク」利用活況 供給不足に課題も:日本経済新聞
関連しますが、首都圏近郊で空き家売買が活発になっています。リモートワークしてみたら狭隘な住宅事情がネックに。ならば郊外の広めの家に転居という流れですね。公示地価ニュースでも例えば長野県軽井沢町が上昇していたりします。東京都の転出超過がニュースになりましたが、結局近郊への転出であって、東京一極集中の是正ではありません。軽井沢町の地価上昇はJR東日本と西武HDの提携の追い風でもあります。北陸新幹線はかがやきよりもあさまが大事?東海道線の特急湘南や飯能市の移住CMなど両社の提携は時流に乗っているかも。JR東海もこだま売り出しのチャンスです。リニアよりも将来性あるかも。
大動脈スエズ運河遮断、供給網リスク一段と 大型船座礁:日本経済新聞
これルネサス工場火災と同様のサプライチェーン危機ですが、とりあえず復旧しました。賠償問題はこれからが本番ですが、保険会社は戦々恐々ですね。個々のニュースの注目点はそもそも全長400mもの巨大輸送船の存在です。400mというのは東海道新幹線のぞみ16両編成の長さですね。グローバル化で海運需要が増えた結果、輸送船の大型化が進んだ訳ですが、総重量の大きい船舶は操船が難しく、直ぐに動かないし舵を切っても直ぐに曲がらないしスクリュー反転させても直ぐに止まらないし横風に弱いしということで、ある意味起こるべくして起きた事故と見ることもできます。その400mの船が幅300mの運河で横向きになった訳ですから大変です。

スエズ運河は砂漠の中の運河で底面がV字状になっていて中央部の水深の深いところしか船舶の航行はできません。故に航行する船は船団を組んでエジプト人パイロットの指示の下で航行する必要があります。鉄道で言えば単線のシステムなんですね。これ鉄道では指導式閉そくと言われる運行管理システムと同じです。高架化等で線路切替の時に腕章を付けた指導員添乗を条件に単線扱いで運行するという形で使われたりしますが、言ってみれば人間通票って訳ですね。

「京急」社員たちが悲痛告白、低賃金と重労働の驚きの実態とは | News&Analysis | ダイヤモンド・オンライン
京急の神奈川新町事故をきっかけに疑問を持った鉄道ジャーナリストのレポートですが、驚きの実態が綴られております。精神論が横行しヒヤリハット報告もままならず、現場にストレスがかかる状況は問題です。
台湾で特急脱線、50人死亡 工事車両と衝突か:日本経済新聞
台湾花蓮県で台鉄タロコ号の事故です。斜面に停止いていた工事車両が無人で滑落してたまたま通りかかった列車に衝突して脱線したままトンネルに嫁級して大破という悪いことの連鎖で大事故となりました。台鉄といえば2018年のプユマ号事故が思い出されますが、今回は鉄道側の有責事故ではないらしいことがせめてもです。但し同エントリーでも指摘しましたが、公営で元々赤字体質な一方、高速道路や空港の整備で高速バスや国内航空との競争が激しく、加えて台湾高速鉄道の別法人での開業など、厳しい競争条件の中でアグレッシブな設備投資を続けた一方、コスト削減要求で現場にストレスがかかる構造問題を抱えております。ある意味台湾政府の新自由主義政策の矛盾の現れと見ることもできます。

プユマ号事故エントリーでも取り上げましたが、在来線高速化の技術的解決策としての制御付き振り子システムは線路に負荷を与えるものであり、JR北海道のトラブル頻発の原因の1つでもあります。JR東日本E351系の失敗に見られるように必ずしも最適解ではないことは知るべきです。一方の車体傾斜システムは比較的汎用性はあるとはいえ、やはり地上側の事情で例えばJR四国2600系では空気ばねへの圧搾空気供給が間に合わず土讃線向け2700系では制御付き振り子に戻した事例もあり、結局適材適所を心掛けるしかない訳ですね。

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