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Sunday, April 25, 2021

脱炭素目標の欺瞞

4都府県に緊急事態宣言が発出されました。今回は飲食店の時短営業に留まらず、大規模イベントの中止または無観客、美術館、博物館、図書館、大型書店の規制と、前回よりも規制を強化しています。しかしクラスター発生が見られない美術館等は、元々飲食禁止で静かに閲覧が求められますから、まったく意味不明です。市民に我慢を強いる以外に何の意味があるのでしょうか。

てことで今年のGWも特に予定なしの自粛生活ですが、コロナの話題はこれぐらいにしておきます。一方で気候サミットが終わり、こちらは米中の協力体制がアピールされてます。2大排出大国が本気になることは歓迎すべきではありますが、日本の立場はここでも微妙です。

脱炭素電源、過半に引き上げ 2030年度へ政府方針:日本経済新聞
いろいろツッコミどころ満載ですが、まず電源構成。脱炭素電源過半の部分の内訳が原子力20%再生エネ30%以上ということで、これ現在稼働9基で電源構成比6%ですから、再稼働許可済みで地元合意待ちの7基プラスでは足りず、申請中の11基プラスで都合27基でもやや不足ですし、許可済み7基には東電の不祥事で運転禁止処分を受けた柏崎刈羽の2基が含まれます。

加えて40年の運転期限を迎える炉もありますから、つまり原発の新設やリプレースを前提としない限り不可能ってことです。これ新設を受け入れる地域があってすぐに工事に取り掛かったとしても、30年には間に合う可能性はほぼゼロです。あとは規制法で認められている運転期限60年への延長や休止期間をカウントしないなどの方法でフル稼働させることを狙っている訳です。所謂既成事実づくりであり、ろくに議論もしないで国際公約を盾に一点突破を狙っていると見ることができます。安全が担保され地元が合意するなら再稼働自体には反対しませんが、こういう誤魔化しを平然とやる姿勢は五輪強行の姿勢にも通じますね。

蛇足ですが、汚染処理水の海洋放出問題でも、原発由来のトリチウムは普通に海洋放出されていますが、福島のそれはメルトダウンした核燃料に触れtくぁもので、トリチウム以外の核種が取り切れずに残留していて、指摘されて再処理を約束するという具合に情報開示に後ろ向きdですし、海洋放出が唯一の解決策ではなく、2013年時点で他の方法はコストがかかるから検討もせずにいて、今まで放置してきた問題です。こうした姿勢が不信感につながっていることが問題なんです。

あとエコだましな胡麻化しがあります。京都議定書で90年比マイナス6%を約束した日本ですが、2013年以降のポスト議定書の交渉で2009年に2005年比マイナス15%を打ち出して国際的に批判を浴びます。満員電車とウサギ小屋のお陰で省エネ大国の地位を得ていた90年よりも排出量が増えた2005年を基準年とすることで誤魔化しを図った訳です。今回は更に基準年を2013年としています。

議定書の期限の2012年は東欧の非効率火力のリプレースなどで得た排出権クレジットを用いてマイナス6%目標を達成はしましたが、福島第一原発事故があり、原発停止を余儀なくされ、震災復旧と共に増加した電力需要を火力で賄ったので排出量が増えた年です。こうして基準年を変えることで削減率を高く見せる誤魔化しは政府統計不正を思い出させますが国際社会は騙せません。

それでも削減率46%という中途半端な数字になるってところに苦しさが滲みます。これも当初日米首脳会談でバイデン大統領からのプッシュに備えて半減まで覚悟していたそうですが、アメリカの経済界に反対意見が強く、調整がつかずに首脳会談時点では言及がなかったことから、改めて数字を積み上げたものです。基準年を動かすインチキでもこれが精一杯だった訳です。

アメリカにとっても気候変動問題は製造業比率の高い中国への圧力になることを意識している筈ですから、日本も目標の大幅な上方修正に付き合う必要はある訳ですが、例えば噂のアップルカーの開発で日本や韓国の複数の自動車メーカーに製造請負の打診があったり、iPhonの製造で実績のある鴻海がEV開発に名乗りを挙げたりという動きがあります。ゲームチェンジは確実に進行中ですね。

政府としてはかなり踏み込んだと自覚しているでしょうけど、30年目標の半減にしろ50年目標のカーボンゼロにしろ、産業構造を見直して構造的に変えなければ実現不可能なものな訳で、そうした議論がさっぱり見えないのが気になります。アンモニアや水素の活用が言われますが、当面水素もアンモニアも化石燃料由来に変わりはない訳で、結局再生可能エネルギーへの転換を促すことと、仮想発電所(VPP)などの省エネ技術の深掘りへ向かう必要があります。

原発の新設やリプレースは、可能だとしても鉄とコンクリートの塊の建造物になりますから、鉄もセメントも製造工程でのCO2排出と鉄は熱処理工程で、セメントは水と混ぜて凝固する過程でCO2を放出します。つまり発電プロセスだけのカーボンゼロに過ぎない訳で、使用済み燃料の最終処分も決まらない中、ライフサイクルアセスメントを考えると脱炭素にはなりません。寧ろ問題の先送りで子孫に困難を押し付けることになりますから問題です。原発はあくまでも現存のものの可能な範囲での再稼働に留めるべきです。

現状コロナ禍と米中デカップリングにスエズ運河座礁事故による海運の混乱で半導体不足による生産調整もあり、世界的に排出量が減っておりますが、コロナ後に元に戻るかどうかは微妙です。サプライチェーンの見直しで貿易が減少しヒトの国際的な移動も減るとすれば、運輸部門の排出量は減少する可能性があります。

一方国内で見ると密を避ける意味で公共交通が忌避されてマイカー移動が増えるとすれば排出量が増える要因にもなります。この状況でEVやFCVへのシフトをしても電源や水素が脱化石燃料化出来てなければ削減効果は限られますし、技術革新や充電/水素ステーションの設置などコストは確実に発生する訳です。それなら寧ろ公共交通の助成で運輸部門全体の削減を狙う方が確実です。EVシフトは従来の元受けメーカ―を頂点とする多段階の下請け企業の存続を危うくすることに変わりはない訳で、下請け企業の業態転換を促す必要はどちらにしても生じます。

加えてEVシフトと自動運転とシェアリングが進むと、タクシー並みに稼働率が上がると考えられますから、新車販売は現状の4割程度まで減るという試算があります。つまり自動車の台数が減る訳で自動車産業の将来は厳しいものになります。そう考えると、日本のリーディング・インダストリーとされてきた自動車産業への依存は国を衰退させるだけということになります。製造業の衰退はしかしCO2排出削減には資するので、皮肉ですが日本はその意味で世界のトップランナーになる可能性は十分にあります。

FCVに関しては水素供給システムを視界に組み込む必要がありますが、その意味でトヨタのFCVバスSORAの販売は理にかなってますが、ドイツのシーメンスでは鉄道向けの燃料電池車両を開発しており、トヨタもJR東日本への燃料電池システムの供給を考えているようです。水素供給システムを普及させて水素の消費量を増やさないと結局コスト面で普及しないというジレンマに気付いた訳ですね。

鉄道サイドでもディーゼル車のメンテナンス問題で電動化を進めたい訳ですから、価格次第では普及する可能性はあります。但し脱炭素の代替燃料というよりも、制御が困難で出力が不安定な再生エネルギー電力の貯蔵手段としての活用も考えるべきです。再生エネ拡大が避けられないなら、そこへリンクを張る方が将来性がある訳ですが、そうした全体像をイメージするような議論があまり見えないのが気がかりです。

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