自動ウン転の悲哀
1週間前のニュースです。
運転士が不在で新幹線3分走行 トイレで離席 JR東海:朝日新聞運転士の体調不良は起こり得る話ですし、JR東海の内規では指令に通告して停止した上で離席してトイレを済ませることになっておりますが、運転士は運転士免許を持たない車掌を座らせ離席したということで、内規違反で処分を受けた訳です。
内規違反は問題ですが、さりとて過密ダイヤの東海道新幹線で指令に通告して列車を停めてトイレへという行動はとりにくいのも確かですし、恥ずかしさもあるでしょうし、遅れの原因を作ったことでの処分もあり得ます。そんな状況で指令に通告して列車を停めることができたかどうかは微妙なところです。その意味で乗務員の体調管理は重要ですが、自己責任を問うことには限界がありますし、企業としての対応も限界があります。解決策として運転士免許を保有する車掌を乗務させる方法がありますが、車掌全員という訳にはいきませんから、これも自ずから限界があります。
運転士の体調不良問題と言えば思い出されるのが山陽新幹線の居眠り事故です。2003年2月26日、山陽新幹線上り線岡山駅手前を150km/h走行中のひかり126号の運転士が10分間居眠りして26km走行し、ATCにより岡山駅に停止したものの、所定の停止位置より100m手前で停止したものです。この運転士は乗務前8時間の睡眠時間を確保していたものの、睡眠時無呼吸症候群により眠りが浅かったことから、居眠り運転に繋がったものです。
という訳で、安全上は問題はなかったものの、停止位置が100mもズレたように、ドライバー不在では正常運転はできない訳です。その点からすれば、今回の事態も直接安全を脅かすものではありませんが、仮に運転士離席中に死傷事故が起きれば、偶然であっても運転士の過失責任は問われることになります。刑事罰の可能性がある訳です。
とするとJR東日本が山手線で実現を目指すドライバレス自動運転はどうなるのだろうか?という疑問が湧きます。JR東日本では運転士と車掌の職制の違いをなくすとしており、山手線では唯一現存する駒込―田端間の踏切解消のめどが立ったことで、またコロナ禍でコストダウンの要請も強まることから前倒しの可能性もあります。仮にドライバレス自動運転中に死傷事故が起きた場合の責任の所在がどうなるかは法的にクリアにしておく必要があります。添乗する乗務員は責任の重さに鑑みればより好待遇の運転士側に寄せられるかどうかも問われます。
その意味で参考になるのが横浜市の金沢シーサイドラインの逆走事故のケースですが、逆走を検知できない保安装置のバグということで改修されました。当然事業者の横浜新都市交通に法人としての責任が問われます。シーサイドラインのような自動運転AGTの場合、通常は保安要員の添乗もなく、ドア扱いも含めて自動化されていて、指令所で遠隔監視する訳です。
中央リニアも一応ドライバレスですが、鋼索鉄道のような特殊鉄道に分類されるとはいえ、事故時の責任分担がどうなるかなど技術面以外にも課題はあります。山手線同様乗客係を兼ねた保安要員が添乗するとして、500km/h走行の列車を事故回避のために止める判断を迫られる訳ですし、総定員1,000人になる列車の緊急停止時の乗客誘導は困難を極めます。加えて言えば地上コイルも車上の超電導コイルも強力な磁場は発生させるものですから、消磁されていないと人体への影響もあります。そうした困難な現場判断を迫られる訳ですから、過酷な乗務になりそうです。ちなみに山梨実験線のL0系にトイレはありません。
だから鉄道の場合はドライバレスと言っても厳密には地上での遠隔監視がある訳で、相応の責任分担があります。また専用走行路を走り走行路上に障害物がないことを前提としております。故に公道走行を前提とする自動車の自動運転とは根本的に異なる訳ですが、自動車でもドライバレスのレベル5を目指す動きはあります。その為にGPSの精度向上と3Dマップの開発、車間通信による衝突回避などの要素技術の開発は目覚ましいものがありますが、事故時の責任分担など社会制度の見直しも問われます。
これ言ってみれば仮想的に走行路を管理することが求められる訳で、それを民間ベースの投資で実現することが果たして現実的に可能かどうかは微妙です。可能性があるとすればトラックやバス・タクシーなどの商用車のドライバー不足対策としての自動運転ならば、ドライバーの労働力投入を代替する資本装備の増強という側面で可能性があるかもしれないというものということになります。
加えて言えばコネクテッドカーとして走行データを吸い上げて付加サービスを販売するプラットフォーマーに収益機会が生まれる可能性はあります。但しこれはクルマを走る行動センサーにするという意味ですから、そんな車のオーナーは言ってみれば転がされて財布の中身をかすめ取られる存在になるということですね。下手すれば休日のドライブ先も車に教えられて誘導されるとか、オーナーの筈なのにクルマに使われることになります。
これ実際ウーバーイーツなどの外食デリバリーのワーカー達が早い者勝ちで仕事を取り合い、競合が多いほど低価格落札となる現状を見ると、まるでスマホに使われているような感じですね。てことでCASEと言われる100年に1度の自動車の技術革新の行き着く先は結構ディストピア感がありますね。ならば鉄道など公共交通への公的支援とのイコールフッティングを考える価値はあります。
元々資本装備率の高い鉄道ですが、同時に自動化しても労働集約的な要素は残りますから、雇用面では寧ろ望ましいかもしれません。思い当たるのは鉄道をバッサリ切り捨てた北海道では、少なからぬ鉄道関連の雇用が失われて地域の衰退が止まらない現実があります。一方妻子を交通事故で失った米バイデン大統領のインフラ投資が鉄道投資に傾いています。グリーンニューディールとの整合性もありますし。
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