« コロナでクエンチするリニア | Main | 国民国家のサスティナビリティ »

Saturday, May 08, 2021

公共インフラの時間軸

2年続いて我慢のGWですが、去年のGW前のエントリーで、不要不急を控えてウンコ運べ(雑な要約^_^;)と記しました。去年はパチンコ店がやり玉に挙げられ、営業自粛させられた一方、一部店舗は営業継続して当局と対立する場面もありました。結局パチンコ店のクラスター感染は認められず、完全な冤罪だった訳ですが、今年は飲食店の自粛や酒類提供の禁止がやり玉に挙げられております。確かに飲食特にアルコール摂取を伴う場合の感染可能性は高いと言われますが、結局叩く相手を変えてやってる感出してるだけですね。しかも補償は無いし。

憲法第二十九条3項で「私有財産は、正当な補償の下、公共に用ひることができる。」とされており、コロナ感染抑え込みという「公共」のために営業自粛という形で私有財産を用いる(コントロールする)訳ですから、補償無しの自粛要請は憲法違反です。勿論正当な補償とはどういうものかは、別途法律で定める必要はありますが、それを行政の裁量だけでやろうとするから、百貨店の閉店で1日20万円とか頓珍漢なことが起きる訳です。「不要不急」は行政の責任回避フレーズです。

そして緊急事態宣言の解除か延長かという問いも去年と同じですが、感染者数も重症者数の病床使用率も去年より悪化している訳で、ホント1年間何も学習せずに国民の自粛に委ねる姿勢ばかりではコロナと戦えません。解除か延長かに関しては専門家の慎重意見を聞かず、国民への科学的に蓋然性の高い説明もなく、政治の恣意的判断ばかりが目につきます。

てことで暇だったんで踏切番エントリーで取り上げた京王線の連続立体化事業の進捗を確認してきました。密を避けながらですが、身の危険を伴う密には遭遇しませんでした。主に現在線南側で用地買収が進んでおり、場所によって工事予告の看板や重機が並ぶ作業ヤードは見られたものの、用地買収は途上です。手順としては用地買収を終えて仮線切替して現在線と撤去して跡地に高架橋本体を建設して仮線から切り替え、仮線跡地に環境側道整備ということになりますが、完成までは長い道のりです。

こうした大規模な公共事業の時間軸の長さは、特に東京のような大都市圏では用地確保から時間がかかる上、人口密集地での夜間工事は賛同を得られにくい上、騒音や振動の抑制や工事車両の出入りに関わる安全確保などの注文がつきます。加えて生産年齢人口減少で作業員の確保は年々難しくなります。予算が取れれば何とかなった時代はすでに過去のものということですね。幸い京王電鉄は自己資本比率3割超の鉄道業界でも高い信用力を持っており、また観光輸送の比率が低いこともあってコロナ禍の影響も軽微ということと、立体化が元々道路側の事業で基本事業費の14%+受益分に限られますから、投資として過大ということはない訳ですが。

但し時間軸の長さは別の問題をもたらす訳で、京王線の立体化では明大前駅や千歳烏山駅の副本線整備による輸送改善効果も狙っている訳で、過密ダイヤによるスローダウンや遅延の常態化で評判の良くない現状を改善できるとしても生産年齢人口の減少による通勤需要の縮小に加え、コロナ禍の影響で拡大しつつあるリモートワークの普及もマイナス要因です。つまり極端に言えば完成時にはそもそもラッシュ時の過密ダイヤも解消されていたという事態も有り得る訳です。それでも立体化による安全性の向上は意味がありますが。

という具合に公共インフラへの投資が難しくなっている現状がある訳で、先が見えない中での投資判断ということを意識する必要があります。加えて脱炭素の視点からの時間軸も忘れてはいけません。目標の欺瞞性はとりあえず目をつぶるとしても、2030年には2013年比46%のCO2排出削減という目標に対して整合的なのかという問いはある訳です。

工事期間中に鉄とセメントを大量投入し、重機や工事車両を動かすことによるCO2排出は明らかにマイナスですし、加えて完成後の削減効果もとりあえずは見込めません。それでも鉄道輸送サービスの質の向上で自動車から需要を移転させることができるなら良いですが、需要に任せて実現できる訳ではありません。脱炭素の観点からは、公共インフラ投資はかなり絞り込む必要があります。

この脱炭素の時間軸で見ると前エントリーで取り上げた中央リニアに更に不都合となります。工事期間中のCO2排出量は京王線立体化の比じゃない程多い上に、鉄軌道式の3倍と言われる超電導リニアの電力消費量を非化石燃料電源で賄えなければ排出拡大につながります。加えてコロナ禍でビジネス客の減少もあり得ます。

そしてJR東海が当初計画していた2027年名古屋開業2045年大阪開業も後ずれ確実ですから、これの意味するところは名古屋開業が30年以降へずれるとすると、その時点で46%削減が実現している必要がありますが、下手に開業にこぎつけると、寧ろ排出拡大につながってしまうというジレンマに陥ります。同様に大阪開業が50年を越えるとカーボンゼロの実現に水を指す可能性があるということですね。

逆に言えば脱炭素目標の時間軸がかなり無理目という見方も可能なんですが、目標として掲げた以上「できませんでした」では非難を浴びます。チマチマと小さな数字を積み上げるだけでは達成不可能なんですが、政府も企業もそこまでの覚悟があるとは見えません。

ただ欧米が脱炭素にシフトしており、特にカーボンプライシングの国境調整としての国境炭素税導入の機運が出てきており、排出量取引や炭素税といった制度を導入しない国からの輸入品に炭素排出量に見合った関税を課すという流れになってきております。電力や鉄鋼など排出量の多い業種を中心に財界が反対してきたカーボンプライシング導入は避けられそうにありません。そしてこれは公共インフラ投資に更にコスト負担を強いることになります。

そうした中脱炭素が困難と見られている航空分野でも、バッテリープレインや e-fel、水素エンジンなどの開発が始まっております。まだ先を見通せる状況ではありませんが、逆にコロナ禍で打撃を受けたことが過去との決別を容易にするという点は指摘できます。EVシフトが言われながら、内燃機関に特化した技術体系から抜け出せない自動車メーカーよりも変わり身は早いかもしれません。そしてエアラインにも動きがあります。

JAL、春秋航空日本を子会社化へ コロナ後の需要見据え:日本経済新聞
JALがLCCシフトを鮮明にしました。既にANAは地方路線中心に採算の厳しい路線を傘下のピーチに移管して本体のスリム化を図っておりますが、JALは豪カンタス航空と合弁のジェットスター・ジャパンと国際線LCCという新業態のジップエアの2社を抱えておりますが、ジェットスターは主に国内線と近距離交際線、ジップエアはアジアや米西海岸などの中長距離路線、春秋は中国の来日客狙いとそれぞれ役割分担し、併せて本体のスリム化をしようということですね。大型機B777は売却しB787など中小型機中心のラインアップとしており、ビジネス客の減少に対応しようということですね。

LCCは観光など新需要の掘り起こしが狙いという訳で、加えて非航空事業の拡大をうたっており、ANAが地方創生に乗り出すのと同様、自ら需要を創り出すことを狙い、コロナ後に備えようということですね。大幅減便でも雇用を維持してホテルなど他社へ出向させて凌いだ経験も生かせます。

航空大手2社が揃ってビジネス客の減少を織り込んだ事業計画を発表した訳で、そうなるとますます超電導リニアのマッチョな時代錯誤が目立ちます。

| |

« コロナでクエンチするリニア | Main | 国民国家のサスティナビリティ »

ニュース」カテゴリの記事

経済・政治・国際」カテゴリの記事

鉄道」カテゴリの記事

航空」カテゴリの記事

JR」カテゴリの記事

大手私鉄」カテゴリの記事

都市間高速鉄道」カテゴリの記事

都市交通」カテゴリの記事

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)




« コロナでクエンチするリニア | Main | 国民国家のサスティナビリティ »