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Sunday, July 11, 2021

盛土の灰色すぎる夜叉

サンビーチやお宮の松など観光地の印象が強い熱海市ですが、新幹線こだまで東京まで43分の地の利があり、気候の良さや適度な集積もあって、コロナ禍で注目されている郊外移住の受け皿としても注目されていただけに、残念なニュースです。

斜面の街・熱海、警告された土石流 12年に警戒区域指定:日本経済新聞
箱根火山の末端に位置する海に面した傾斜地であり、元々開発余地は大きくないですが、加えて都市計画法に基づく市街化調整区域の指定のない非線引き自治体で、利便性から開発が止まらずに今回の伊豆山地区のような山の頂上近くまで開発の手が入ることになります。

しかし元々火山性の岩盤に軽石や火山灰などの火山噴出物が堆積した土壌が乗っかる傾斜地ということで、透水性が高く滑りやすい地質でもあります。加えてそこへ盛土すれば3層構造となりますし、今回のように元々水の集まる谷筋を建設残土で埋める形の場合、排水施設を埋め来ぬなどの対策をしなければ寧ろ水を含んだ重い土壌となって滑りやすくなります。盛土は突き固めしても火山性堆積土壌レベルのスカスカさにしかならない訳で、道路や鉄道の路盤を構成するような恒久施設の場合は排水設備や土留め擁壁の整備などが求められますが、建設残土の仮置き場などはほぼ規制がありませんし、産業廃棄物を埋めてもパッと見わからないしということで、特に地権者が自覚的にやっている場合、摘発は困難です。

その後の報道で2007-2010年に所有していた神奈川県小田原市の不動産業者の開発が不適切だったことが明らかにされます。1ha未満の開発は市の規制によるとする静岡県条例に基づいて0.9haの開発計画を熱海市に申請して許可を得ていたものの、開発面積が1haを越えていることが発覚し市が県に通知して県が実態調査して、開発面積以外にも15mとされた当初の申請の3倍以上の盛土だったり、産廃が埋められていることが発覚したりで、県はその都度是正勧告をしていたけれど無視され、その後転売されて地権者が変わりました。

他方2012年には開発が続く傾斜地ということで土砂災害警戒区域に指定されたこともあり、その後の開発行為は停滞していた模様です。現在の地権者は前地権者の不法行為は知らなかったとしていますが、一方の小田原の不動産業者は適法に処理したとして責任のなすり合い状態になっております。また開発を止められなかった熱海市や改善命令など強い措置を取らなかった静岡県に対しても批判が起きています。そういう意味で県も経過を検証することで情報開示の姿勢を見せています。行政にもネガティブな部分がある中で、これは評価すべきでしょう。

思い出されるのが豊中市の国有地払い下げをめぐる国の対応との違いです。そういやあの土地も地下にゴミが埋まっているという理由でゴミの撤去費用相当の値引きを森友学園に示したように、ゴミを埋めること自体はありふれた話として処理されていた訳です。実際ゴミは無かったみたいですが、総理案件としての不当な値引きを隠すために公文書の改ざんまでして、しかも強引に実行させた近畿財務局職員の赤木俊夫氏を自殺に追い込んだのとは大違いです。

その意味で気になるネットの反応なんですが、川勝知事も難波副知事も批判が県に向く可能性を認識しながら情報開示姿勢見せているのですが、このコンビはリニア静岡工区の工事を止めている張本人でもある訳で、それを揶揄する「水出て良かったね」とか「メガソーラー認めて土砂災害起こした」とか謂れのない悪意ある言葉が投げつけられています。今回の土砂災害では流出土砂のほぼ全量が件の盛土由来で岩石を含まない泥流だったことも明らかになっています。思い込みで事実に基づかない批判は話になりません。

てことで見かけ上区別のつかない恒久施設としての盛土と建設残土の仮置き場ですが、建設残土が法令で再利用が義務付けられている資源であることと関連します。基本的に発生した残土は再利用されなければならないのですが、そうそう都合よく再利用で持ち込める現場があるとは限りません。故に仮置きが発生する訳ですが、空き地や開発途上の土地でも仮置きを受け入れれば臨時収入が得られたりしますし、例えば耕作放棄地となっている農地へのゴミの不法投棄も地権者が「施肥だ」と強弁すればお咎めなしという現実がある訳で、どんな利用価値の低い土地でも現金収入が得られる訳です。

リニアに関連してトンネル工事で大量の残土の発生が見込まれてますが、受け入れ先が決まっているのそのうち2割ということで、実はリニア工事が順調見進めばJR東海は残土処理で手詰まりになると見込まれます。この面からも見切り発車の傾向が読み取れますし、静岡県の反対で工事が滞ているのは寧ろ猶予を得ているとも見ることができます。加えてコロナ禍による工事停止や調布の陥没事故による市街地大深度地下トンネル区間の工事停止も重なっており、リニア工事の遅延の静岡県のせいにするのはおかしいですし、県条例に抵触する工事ヤードの拡張を認めろとするJR東海の言い分は開発面積を誤魔化した小田原の不動産業者の手口と変わりません。

最後に鉄路的蛇足。今回の崩落した土地は長さ200mで50mの高低差ですから、鉄道で使われる千分率では250/1,000となります。普通鉄道構造規則の最大勾配35/1,000や廃止された碓氷峠の66.7/1,000はおろか、国内債急勾配の箱根登山鉄道の80/1,000と比べても傾斜が急なのがわかります。そこを水分をたっぷり含んだ土砂が滑った訳で、その破壊力は計り知れません。尚、特殊鉄道に属するリニアは40/1,000ですが、粘着駆動音はないリニアでは原理的には60/1,000程度までは問題ない筈ですが、鉄軌道式での実現という保険をかけていることから、ドイツICE高速新線で実績のある40.1,000が採用されたというどーでもいいウンチクで閉めたいと思います。

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