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August 2021

Sunday, August 29, 2021

撤退は敗北に非ず

まずは前エントリーの続きを2つ。横浜市長選で野党推薦候補の山中氏が大勝しました。政局的なことはどうでもいいんですが、隣の市の住民として、迷惑施設のIR誘致が実質消えたことは大歓迎です。横浜市としては観光の目玉にしたかったんでしょうけど、コロナ禍ですべてが狂いました。

横浜港は貨物船の発着が多いどちらかと言えば色気のない港なんですが、インバウンド狙いでクルーズ船誘致に力を入れていたものの、市内で観光の目玉と言えるのは中華街ぐらいで、特に中国発のインバウンド需要の取り込みにはあまり役に立たないということで、IR誘致を観光の目玉にしようという目論見だった訳ですが、コロナ禍でインバウンド自体が消滅して見直しは避けられない状況です。加えてダイヤモンドプリンセス号のクラスター感染でクルーズ船ツアーも一時消滅し、進出を検討する海外IR事業者もコロナ禍で売上が落ちて海外進出どころじゃなくなりました。これだけ条件が揃えばIR誘致の見直しは当然の帰結ですね。

2つ目はアフガンの米軍撤退に伴う混乱ですが、カブール国際空港の近くで自爆テロが起こり米兵13人を含む100人以上の犠牲者を出しました。イスラム国が犯行声明を出しており、米軍撤退でアフガンがテロの温床になるというそれ見たことか的な論調もありますが、寧ろタリバンがテロリストと決別した結果と見ることもできます。イスラム国は国を名乗ってはいるものの、地上の唯一の国家としてのイスラム帝国を目指すという意味で、相互承認による主権国家を主体とする国際法との親和性は皆無な訳で、この点もタリバンとの違いが明らかです。

米軍のアフガン撤退に関してはバイデン政権の失点という評価もあるようですが、撤退を決めたのは2013年のオバマ大統領であり、2021年8月までの撤退でタリバンと合意したのは2020年のトランプ政権であり、バイデン政権はそれを忠実に履行しているだけです。しかしNATO軍として派兵した欧州諸国は半信半疑でどうせ撤退しないし出来ないだろうという思い込みもあったようです。故にイギリスをはじめ各国がアメリカを非難する流れになっております。

一方でアジア諸国は寧ろ米軍のアジアシフトが進むことを歓迎する流れがありますし、中東諸国は米軍撤退による力の空白への懸念から例えばイラクが仲介してイランとサウジが接近といった新たな動きも始まっています。元々複雑な中東諸国の関係も変わる可能性があります。そしてイランは中国と連携してタリバン政権との関係を模索するなど中国の一帯一路と6カ国合意が反故にされたイランをタリバンが結ぶとか脳尚爆発しそうな現実が次々と出現しそうです。

別の観点から米軍の撤退のスピード感の見事さは指摘できます。空軍輸送機を動員して安全が確保されているカブール国際空港から多数の自国兵士や自国民と現地職員などを出国させており、ピーク時には45分ヘッドのフリークエンシー^_^;確保とか、ロジスティクス重視の米軍らしいところを見せております。腰の重い欧州の同盟国がそれに追いつかないとか、日本も自衛隊機を派遣したものの邦人1人を含む15人をパキスタンに運んで任務終了と明らかに初動の遅れが指摘できます。この米軍の機動力は正規軍同士の対戦という前提で見れば強さの証明でもあり、中国やロシアは認識を改めた筈です。一部で言われる米軍は弱いという誤ったメッセージとは逆ですね。てことでやっと撤退戦の重要性に辿り着きました^_^;。

甲陽軍鑑の著者とされる高坂弾正が「保科弾正槍弾正、高坂弾正逃げ弾正」と童が歌うことを取り上げて殿の自負をさらりと表現しているように甲州武田軍団は撤退戦の素早さが売りで、殿が敵と対峙している間に仲間を逃がす訳ですが、それだけ危険を伴う任務であると同時に絶対に裏切らないと主君の信任を得ていることを自慢している訳です。

織田徳川連合軍による越前朝倉攻めの金ヶ崎の戦いで、同盟を結んだ浅井長政の裏切りで挟み撃ちに遭った時に殿を務めたのが木下藤吉郎、後の秀吉です。戦国時代は殿の重要性が認識されていたのに、何故かそれを忘れたように太平洋戦争のミッドウエー海戦やガダルカナル島の戦闘やインパール作戦で消耗した日本軍のロジスティクス軽視と撤退の判断ができない病は何に由来するのでしょうか?

コロナ感染が全国的に拡大している中で「光は見えている」と根拠なく述べる管首相とか、原子力に入れ込んで経営を傾かせた東芝とか、現代日本のリーダーたちも同じ病に侵されているようです。割を食うのは一般国民です。横浜市長選でもIR反対を表明した小此木氏を管首相は全面支援しましたが、IRを推進してきた筈の管氏のブレが指摘される一方、自民党内では「管さんが支援したから負けた」とも言われています。それで責任取って辞める訳ではなく自民党総裁選に出馬の意向とか、国民に目が向いていないことは明らかです。

一方の野党も立憲民主党が来月の臨時国会召集を求めており、総裁選による国会の空白を容認しております。本音は支持率ダダ下がりの管政権相手の総選挙の方が有利ということです。コロナの死者が15,000人を超え東日本大震災レベルになっており、医療逼迫で国民の不安も増大している中で、政治家は権力闘争にしか興味がないというのは憂うべきことです。国民としてはせめて自衛するしかありません。かくいう私もワクチン接種を終え、デルタ株感染に備えて不織布マスクを購入しました。

そんな中で来年度には飛べないジョナサン長崎新幹線改め西九州新幹線の武雄温泉―長崎間が開業します。佐賀県の反対で既存の九州新幹線と繋がらない孤立線として開業ですが、これも以前から指摘してきた軌間可変電車の実現可能性の低さがその通りになった訳です。そしてJR九州は新鳥栖—武雄温泉間のフル規格化を国に求めておりますが、佐賀県の反対で見通しは立っておりません。

繰り返しになりますが、佐賀県がフル規格に反対する理由は軟弱地盤で工事費が膨張することへの危惧と共に、元々福岡都市圏で全国規模の新幹線網への接続にメリットが見いだせないからですが、加えて整備5線の事業化の過程で西九州ルートのフル規格着工の受益が少ないことも指摘され、それがスーパー特急方式での着工に決着した理由ですが、日本ではフリーゲージトレインと呼ばれる軌間可変車(GCT)の開発を所与としたフル規格化の要求が強まり、それを前提として佐賀県も容認したという経緯があります。つまり事業性も疑問だし佐賀県も反対する全線フル規格化への変更の今更感は指摘しておきます。

西のスットコドッコイで指摘したように元々鹿児島ルートで予定されていなかった新鳥栖駅の設置も、駅のない佐賀県に対して事業費負担を求められたことから、負担するなら受益をということから急遽決定したもので、この時点から佐賀県の整備新幹線に対する不信感は芽生えていたと見ることもできます。こうした当事者の立場を無視した意思決定に対して佐賀県が異を唱えるのは当然です。

もう1つリニアも同じような問題に直面しています。静岡県の反対もさることながら、リニアの事業としての正当性に疑問符を突き付ける専門家が複数出てきていることもも逃せません。詳細は別項に譲りますが、少なくとも現時点はリニアは作るべきではないと考えております。そもそもコロナ禍でビジネス需要が蒸発しGWと盆暮れの稼ぎ時も自粛で客は戻らず、また技術的にも未解決の問題が多数ある中での事業継続は疑問です。

とはいえ全幹法に基づく事業として国を巻き込み、財投資金の融資まで受けて単なる民間事業ではなく疑似国家プロジェクト化しており、JR東海の一存でやめることもできない状況です。その正当性に関して国会の場で論戦されることを期待しております。

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Sunday, August 22, 2021

帝国の墓場の廃仏毀釈

アフガニスタンでタリバンが首都カブールを陥落させ20年ぶりに政権に返り咲きました。9.11同時多発テロの主犯とされたオサマ・ビンラディンが身を寄せ、米国の引き渡し要求を拒否したことから始まったアフガン戦争ですが、NATOの枠組みによる集団的自衛権行使という名目で始まった関係で、イラク戦争に反対したフランスなども参戦していたものの、オバマ政権時のドローンによりビンラディンが殺害されたことで、米軍がアフガンに留まる理由は曖昧になりました。

容疑者を正当な裁判にかけることなく「処刑」することの問題もさることながら、タリバンのイスラム原理主義的な立場は国際的に批判を浴びていましたし、ビンラディンを匿いテロ組織アルカイダに足場を提供していた訳ですから、タリバンに代わる民主主義政権の確立が必要だったことも間違いありませんが、2兆ドルと言われる戦費以外に20年間で880億ドルの支援を行ったアメリカですが、その撤退は政権の腐敗で末端の国軍兵士に支払う給料が消える状況で、タリバンの攻勢の前に逃亡して無血入城となるのは当然の帰結でもあります。

但しNATO軍として始めた戦争を米軍単独で撤退した訳ですから、最後まで付き合った英国から不満が出るのも当然の成り行き。逆に戦争の終結を見通さないで開戦した当時の子ブッシュ政権の判断の稚拙さもあり、結果的にアメリカの威信を傷つけました。古くは英ロで権益を争いソビエト時代には衛星国として政治介入の果ての軍事介入で泥沼化しソビエト崩壊を速めたとも言われるアフガンは「帝国の墓場」とも呼ばれます。社会主義国のソビエトも民主国家のアメリカも、自国の都合で他国に介入することは同じで、植民地獲得を争った帝国主義時代と変わらない大国の身勝手の後始末は失敗の連続という訳です。

タリバンと言えばバーミヤン遺跡の破壊が印象的で、偶像崇拝を廃するというイスラムの教条主義とも言われましたが、日本の明治政府も似たようなことしてまして、廃仏毀釈と言って明治新政府の神道を第一とするという方針に対して廃藩置県前の地方官吏や民衆の一部が過剰反応して特権的と見做されていた仏教寺院の破壊に手を染めたものです。江戸時代から国学や水戸学の影響で仏教寺院に厳しい目が向けられていた背景に新政府の方針がきっかけで起きたと言われます。日本に仏教を導入したのは天皇家なのにね。それ故の仏教の優越的地位はあったかもしれませんが。

ちなみに当時盆踊りも禁止されました。浄土系宗派の時宗の開祖一遍上人が始めた遊行から派生したためですが、所謂念仏仏教と言われる浄土思想も下層の民衆には念仏を唱えるのも敷居が高いということで、僧らしからぬ異形の装束で太鼓囃子に合わせて踊るなら誰でもできるからそれを念仏の代理行為とする所謂踊り念仏を始めたことに由来します。極楽往生したければ踊れということですね。

似たよなことは中国や朝鮮半島でも起きたようです。中国では歴代王朝の帝の影響が大きく、また道教や儒教との関係もあってせめぎあいがあったり、モンゴル帝国の一部のリーダーがイスラムに帰依したりと複雑な宗教の変遷がありますが、国家と宗教の関連で言えば、アフガン全土を制覇したタリバンに明らかな変化が見られます。端的に言えば統治者としての自覚とでも言うべきものです。

タリバンの報道官がかつてのタリバンと違うと明言し、イスラム法の範囲内ですが女性の権利保護も打ち出しています。加えてイスラム首長国という明確な統治イメージも明らかにしています。これが何故画期的かと言えば、かつて世界的に非難を浴びたイスラム原理主義的な立場から、国民に寄り添い国際社会とも共存を図る意思を見せたという意味です。

つまり相互承認を原則とするウエストファリア条約由来の主権国家の概念を彼らなりに理解し消化している訳で、欧米水準から見れば問題のある対応はあるかもしれませんが、国家承認するかどうかはともかく、外交ルートでの対話は継続すべき状況ということです。その意味で中国やロシアの素早い対応は理にかなっています。勿論テロ抑止という現実的な問題への対応でしょうけど、中国の一帯一路に組み込む意図は勘ぐり過ぎです。

とはいえ難問段席で、特に国民に生活の糧をもたらす産業を立ち上げることができるのかというのは大きな問題です。元々石油が出る訳でもなく、レアアースの埋蔵が予想されるとはいえ技術もない訳で、故に手っ取り早くカネになるケシ栽培が横行したりした訳で、またそれが国内の産業振興を妨げるという悪循環の中で取り残された国という意味で、グローバル化の負の側面をを押し付けられた国とも言える訳です。そうした国の自立を助けるのは少なくともグローバル化の恩恵を受けてきた先進国の義務と考える方が良いでしょう。

基本的には井戸掘って灌漑用水として農業を起こすといった地道なことを続けるしかないでしょう。国家承認と切り離してそうした活動に援助資金を出すことも国際社会は求められます。政府が動けない分NGOなどに頼らざるを得ませんが、そしたNGO活動の安全を担保させるタリバンとの交渉は各国政府が関与せざるを得ませんし、成果が見えるまでは長い時間が必要でしょう。一方でコロナ禍も新局面dす。

米欧景気、楽観論に影 「接種で急回復」揺らぐ チャートは語る:日本経済新聞
デルタ株への置き換わりでワクチンの効果への期待が揺らいでおり、ウィズコロナ戦略は見直しを余儀なくされています。これ日本もそうなんですが、ここへきてアジアでの感染拡大で日本メーカーが構築した国際サプライチェーンを直撃しており、例えばトヨタで4割減産を決めるなどの影響が出ています。特にタイやインドネシアでは工場でクラスター感染が発生して操業停止を余儀なくされ、そうすると別の向上の後工程も停止ということで停止の連鎖が発生して収拾がつかなくなっている訳です。

結局先進国のワクチン争奪戦の結果後回しにされた途上国の生産現場をコロナが直撃している訳で、WHOが再三警告してきた通りの展開です。更にペルー由来のラムダ株が更に世界に拡散し始めており、日本にも五輪関係者から検出されています。水際対策がザルの日本でもいずれラムダ株への置き換わりが起きる可能性は高く、感染力や毒性は明らかではありませんが、最悪もう1年感染爆発に付き合わされる可能性はあります。だから五輪はやめろと言ったのに。

そういや本日は横浜市長選の投票日ですね。コロナ禍でIRの可能性はほぼ否定されましたし、上記エントリーで取り上げた上瀬谷通信施設跡地の再開発計画など相変わらずの開発優先姿勢は止めるべきでしょう。特に相鉄線瀬谷駅からの延長2kmのAGT計画はあまりにもバカバカしいですね。相鉄が下りたように事業性に疑問符がつきます。今回鉄分薄いな。

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Saturday, August 14, 2021

日本は沈没するのかな?

小松左京の日本沈没の冒頭の描写が丸の内の喧騒で、主人公の潜水士小野寺が友人と出会う場面です。小野寺は深海調査艇「わだつみ」のオペレーションで、友人は超電導リニア工事に関わる土木技術者で、南アルプス山中の現場へ向かうところで、2人は新幹線に乗り込むとビュッフェで談笑しながら目的地に向かい、別れます。

その友人が後に謎の死を遂げるんですが、一方主人公の小野寺は地質学者田代を乗せた深海調査艇で日本海溝へ潜り、ある発見に立ち会います。そして物語は動き出すんですが、1973年発表の小説で超電導リニアの工事が始まっている一方、新幹線にはビュッフェがあるという現在から見れば不思議な時空の捩れ^_^:が生じています。言うまでもなく完全なフィクションなんで目くじら立てる必要はありませんが。当然現在のJR東海と静岡県との対立とは無縁の物語です。

そして谷甲州との共著で2006年に発表された第二部では、沈没して世界へ散った日本人の行く末と共に、地球寒冷化がテーマとされています。昨今の気候変動問題の真逆の物語というのも変な話ですが、現実はそれどころじゃない状況です

。気温1.5度上昇、10年早まり21~40年に IPCC報告書:日本経済新聞
気温上昇のスピードが専門家の想定を超えているというニュースです。つまり脱炭素を想定より早める必要がある訳ですが、現状パリ協定で各国が表明した脱炭素目標を積み重ねても達成が難しいのにさらに上を目指せという話です。

元々温暖化が進めば、シベリアの永久凍土が解けて土中の細菌が活動を始めればCO2の排出が増えるとか、海水温の上昇で海水に溶解しているCO2の飽和点が下がることなどで、温暖化自体がCO2排出量を増やしてしまうことは言われていました。カーボンフィードバックと呼ばれる現象で、それ故温暖化が進むとある時点で加速し、元には戻らなくなる特異点が存在するとは言われておりました。それ故に脱炭素は時間との勝負なのですが、実際は排出量を増やし続けている訳で、事態は悪化し続けています。

現在進行中の問題として北半球の複数個所での山火事があります。新旧両大陸で熱波による乾燥と不安定な気候による落雷の影響でこうなっている訳ですが、当然吸収源の森林を減らしCO2を排出しますから、これ自体がまた温暖化を進めますし、特に高緯度地域では泥炭や永久凍土に封じ込められた炭素の放出にもなりますのでCO2排出量は加速度的に増えます。加えてカリフォルニアではマイクロソフトなどIT大手が排出権購入を予定する認証林まで燃えており、直接排出する訳ではないIT企業の脱炭素の手段を失うという困った事態です。

気候変動問題に関しては灼熱の氷河急行で取り上げたクライメートゲート事件ってのがありまして、気候変動問題の研究者のメールが流出し、ホッケースティックと言われた長期の世界の平均気温の推移がデータの捏造によるものと報じられ大騒ぎになりましたが、その後の調査でデータ捏造は否定されました。結果的に温暖化仮説を強化することになりましたが、このときに日本でも一部で騒いでた人たちがいます。例えば韓国情報当局の情報リークの受け手として注目されている櫻井よしこ氏などですが。

ま、それはそれとして、脱炭素の具体策が曖昧な日本にとってはより厳しい国際世論の逆風を覚悟する必要があります。とにかく電源構成一つとっても実現可能性に疑問符がつくものですが、ここでは敢えてあまり取り上げられない建設業のCO2排出を取り上げたいと思います。ザックリ言って建設業のCO2排出量は国内排出量の凡そ1/3にもなります。主要材料の鉄とセメントが生産過程でCO2を大量排出しますし、骨材と水を混ぜた生コンクリートは凝固過程で化学変化でCO2を排出します。加えて重機や建機の運転に伴う排出や資材や土砂の運搬に関わる排出もある訳で、建設業の排出削減は重要なんですが、あまり注目されておりません。

寧ろ今まさにそうですが、台風や豪雨などの被害が出るとその復旧工事や防災のための補強などが求められる訳で、災害復旧や防災工事は短期的には必要性が増す一方、それが結果的に温暖化を加速してしまうというジレンマがある訳です。そう考えると景気対策としての公共事業も積み増しも慎重であるべきということになります。

例えば風邪と共に去りぬで取り上げたJR豊肥本線と国道57号線の復旧工事で、JRは元の路盤を活かした復旧工事で50億円で半額公費補助に対して、外輪山をトンネルで抜ける別ルートで復旧した国道は800億円全額公費ということで、費用の差は工事量の差を反映しCO2排出量も相関すると考えて良いですから、鉄道の方が復旧工事でも省エネということになります。加えて簡単に予算が出てくる道路財源の潤沢さは見直すべきでしょう。関連してこれも取り上げます。

無料化の旗降ろせぬ高速料金 道路行政の矛盾手つかず 編集委員 谷隆徳:日本経済新聞
2065年無料化を予定する高速道路料金の期限を延長するというもの。原因は損傷の激しい区間があり更新費用を捻出するためということですが、同時に無料化の旗を降ろせない事情もあります。つまり道路は元々公共財だから固定資産性が免除される訳ですが、道路公団民営化で事実上事業用資産ですから、時期はともかく将来の無料化も旗を降ろす訳にはいかないということですね。

加えて過去エントリーで取り上げた減価償却の問題もあります。事業用資産ならば減価償却して補修費用のキャッシュを生み出す必要がありますが、そうなると各道路会社の収支が成り立たなくなるという事情もあります。逆に言えばそれ故補修費用捻出のためには無料化期限を先送りするしかないということですね。しかしここに潤沢な道路財源を充てれば良い訳ですが、それはしないということですね。上記盛土崩落エントリーで取り上げた民主党政権の高速道路無料化が実は現実的な解だったと評価することができます。高速道路債務を建設国債60年償還ルールに基づいて毎年度の道路財源を充てて実質的に圧縮することで、無駄な道路整備を抑制しようということになります。国道57号線復旧工事の現実を見れば十分可能と評価できそうです。

また同エントリーで新東名、新名神として部分開通している第二東名第二名神に10兆円かけるなら、東海道線の貨物増強が1,000億円と1/100で可能という点にも触れております。つまり道路財源をあるだけ使い切るのではなく、よりエコな鉄道への投資に意図的に回すことも考える余地があります。じゃないと海水面の上昇でホントに日本が沈むぞ!

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Sunday, August 08, 2021

帰らざる物語

某名古屋市長が五輪女子ソフトボールの若手選手の表敬訪問を受けて金メダルにガブリとやらかして話題になっております。女子のマイナースポーツの若手選手ということで相手を見くびっていたのでしょう。実際その後の報道で様々なハラスメント発言も明らかになりました。それに怒った所属チームのトヨタから苦情が来て慌てて謝罪文をしたためて向かうも門前払い。権威に弱いだけの小物ぶりを露呈しました。

これをカノッサの屈辱になぞらえる発言がネットで見られますが、全く次元の違う話です。過去エントリーで指摘しましたが、ローマ教皇グレゴリウス7世が対立する神聖ローマ皇帝ハインリッヒ4世を破門したら、出先のカノッサ城の門前で皇帝が奴隷の扮装で3日3晩許しを請うたことに報復を恐れた教皇が破門を解きました。

表向きは神聖ローマ皇帝を跪かせる教皇庁の権威の証として喧伝されましたが、その後謀反人として教皇派諸侯を討伐して寧ろ力を増し、教皇との対立も続きました。つまり何も解決されないばかりか、両当事者の同床異夢の物語となっている訳で、政治的レトリックの構造が見えます。

加えて目撃者もいたかどうかのこの11世紀の事件が現代まで語り継がれたのは、16世紀の宗教改革でルター派を中心にローマ教皇庁の権威の空洞化のプロパガンダに用いられたことと、19世紀にドイツ統一を果たすプロイセン宰相ビスマルクによるドイツの屈辱としての語りによります。プロテスタント陣営のプロイセンは故に神聖ローマの流れを汲むオーストリアを含まない小ドイツ主義により、バイエルンのようなカトリック陣営も含まれる諸邦を統合しましたし、カトリックを貶めるプロパガンダと共に民族意識の高揚という物語を追加した訳です。

こうした宗教と国家ののっぴきならない関係は日本ではピンとこないところではありますが、世界を見渡せば宗教対立による国家の分裂は多数見られます。そして今や宗教の多くは民族や国家といった新たな物語に包摂されてきております。「宗教は大衆のアヘンだ」とはマルクスの言葉ですが、今やそれは民族や国家に引き取られ、それ故に対立がいつまでも解決できないのかもしれません。シリアスな報道の合間に流れる日本人のメダル獲得報道への違和感というか気持ち悪さというか。当然コロナ感染爆発の現実を曖昧化することに繋がります。

お盆の旅行予約、感染再拡大でも前年超え ANAは4割増:日本経済新聞
帰省自粛で落ち込んだ昨年比で、19年レベルに達しないものではありますが、最早自粛要請だけでは抑えきれない状況です。五輪やってんだし、ま、いいか、という国民の本音が出てきている訳です。前エントリーの五輪関係者の地元帰還に留まらず、全国規模の感染爆発を覚悟した方がよさそうです。

こうして五輪開催もコロナ拡散も異なる立場から同床異夢の物語が紡ぎだされて認識が共有されず対立だけが不毛に続くと思うと眩暈がします。こういうことって実はあちこちに見られるんですが、例えば君は君エントリーで取り上げたリニア工事を巡る静岡県とJR東海の対立ですが、国家プロジェクトを邪魔する静岡県という報道ばかりですが川勝知事が示した南アルプストンネルの西俣、千石両非常口の避難路としての問題点も指摘していてこちらは殆ど報道されておりません。

南アルプストンネルは青函トンネルより長い国内最長トンネルになりますが、青函トンネルは本トンネルに並行して先進導坑と作業抗が彫られており、それぞれ開通後も換気装置や避難路として活用されており、また事故や災害に備えて竜飛、吉岡の定点2ケ所を設けて乗客の避難誘導や一時待機の設備を設けている訳です。それは海底トンネルだからという人がいるかもしれませんが、欧州のシンプロン基部トンネルではトンネル内に列車収容線まで設けて複数列車を収容し、乗客の避難誘導や一時待機の設備を備えています。

それに対して南アルプストンネルでは工事用斜坑を利用した非常口の設置だけで、西俣非常口は標高差320mで延長3.5kmで出口は南アルプス山中の標高1,535m地点、千石非常口は標高差250mで延長3km、出口はこちらも南アルプス山中の標高1,340m地点で、仮に辿り着いてもヘリによる救出を待つしかないというどう考えてもお粗末な設備です。定員1,000人の列車から乗客を徒歩で避難させてヘリでピストン輸送って、どう考えてもまともじゃありませんが、青函やシンプロン並みの設備を備えると事業費が上がるから目とつぶっているとしか思えません。

結局JR東海が自前で整備するとして全幹法に基づく事業許可を受けた事業ですが、その結果の手抜きと見られても仕方ありません。それを黙認している国から見れば、JR東海が自前でやると言っている事業にツッコミ入れて公費負担が生じることを忌避したいってことでしょう。この辺の話はサイドバーで取り上げた石橋克彦氏の著書でも取り上げられておりますが、地震学の最新の知見によるチェックも含めて、事業としての妥当性を再度検討すべきではないかと思います。

元々リニアの全幹法による事業許可は民主党政権時代の小委員会の答申に基づいて当時の前原国交相がゴーサインを出したものですが、国会論戦も無しに行ったこの行政手続きは問題があります。という訳で民主党政権の未熟さの置き土産という要素はありますが、それに乗っかって国土開発計画を書き換えたり財投資金融資を決めた安倍政権にも問題があります。民主党政権時代の総括を兼ねて立憲民主党が国会で取り上げるとかしないと、結局問題が見過ごされて大惨事を招くという意味では福島第一原発事故と似た性格があります。そしてここまでくるとJR東海もやめたくてもやめられない段階でもある訳で、国会で取り上げて不誠実な物語を終わらせることが必要ではないかと思います。

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