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Sunday, August 22, 2021

帝国の墓場の廃仏毀釈

アフガニスタンでタリバンが首都カブールを陥落させ20年ぶりに政権に返り咲きました。9.11同時多発テロの主犯とされたオサマ・ビンラディンが身を寄せ、米国の引き渡し要求を拒否したことから始まったアフガン戦争ですが、NATOの枠組みによる集団的自衛権行使という名目で始まった関係で、イラク戦争に反対したフランスなども参戦していたものの、オバマ政権時のドローンによりビンラディンが殺害されたことで、米軍がアフガンに留まる理由は曖昧になりました。

容疑者を正当な裁判にかけることなく「処刑」することの問題もさることながら、タリバンのイスラム原理主義的な立場は国際的に批判を浴びていましたし、ビンラディンを匿いテロ組織アルカイダに足場を提供していた訳ですから、タリバンに代わる民主主義政権の確立が必要だったことも間違いありませんが、2兆ドルと言われる戦費以外に20年間で880億ドルの支援を行ったアメリカですが、その撤退は政権の腐敗で末端の国軍兵士に支払う給料が消える状況で、タリバンの攻勢の前に逃亡して無血入城となるのは当然の帰結でもあります。

但しNATO軍として始めた戦争を米軍単独で撤退した訳ですから、最後まで付き合った英国から不満が出るのも当然の成り行き。逆に戦争の終結を見通さないで開戦した当時の子ブッシュ政権の判断の稚拙さもあり、結果的にアメリカの威信を傷つけました。古くは英ロで権益を争いソビエト時代には衛星国として政治介入の果ての軍事介入で泥沼化しソビエト崩壊を速めたとも言われるアフガンは「帝国の墓場」とも呼ばれます。社会主義国のソビエトも民主国家のアメリカも、自国の都合で他国に介入することは同じで、植民地獲得を争った帝国主義時代と変わらない大国の身勝手の後始末は失敗の連続という訳です。

タリバンと言えばバーミヤン遺跡の破壊が印象的で、偶像崇拝を廃するというイスラムの教条主義とも言われましたが、日本の明治政府も似たようなことしてまして、廃仏毀釈と言って明治新政府の神道を第一とするという方針に対して廃藩置県前の地方官吏や民衆の一部が過剰反応して特権的と見做されていた仏教寺院の破壊に手を染めたものです。江戸時代から国学や水戸学の影響で仏教寺院に厳しい目が向けられていた背景に新政府の方針がきっかけで起きたと言われます。日本に仏教を導入したのは天皇家なのにね。それ故の仏教の優越的地位はあったかもしれませんが。

ちなみに当時盆踊りも禁止されました。浄土系宗派の時宗の開祖一遍上人が始めた遊行から派生したためですが、所謂念仏仏教と言われる浄土思想も下層の民衆には念仏を唱えるのも敷居が高いということで、僧らしからぬ異形の装束で太鼓囃子に合わせて踊るなら誰でもできるからそれを念仏の代理行為とする所謂踊り念仏を始めたことに由来します。極楽往生したければ踊れということですね。

似たよなことは中国や朝鮮半島でも起きたようです。中国では歴代王朝の帝の影響が大きく、また道教や儒教との関係もあってせめぎあいがあったり、モンゴル帝国の一部のリーダーがイスラムに帰依したりと複雑な宗教の変遷がありますが、国家と宗教の関連で言えば、アフガン全土を制覇したタリバンに明らかな変化が見られます。端的に言えば統治者としての自覚とでも言うべきものです。

タリバンの報道官がかつてのタリバンと違うと明言し、イスラム法の範囲内ですが女性の権利保護も打ち出しています。加えてイスラム首長国という明確な統治イメージも明らかにしています。これが何故画期的かと言えば、かつて世界的に非難を浴びたイスラム原理主義的な立場から、国民に寄り添い国際社会とも共存を図る意思を見せたという意味です。

つまり相互承認を原則とするウエストファリア条約由来の主権国家の概念を彼らなりに理解し消化している訳で、欧米水準から見れば問題のある対応はあるかもしれませんが、国家承認するかどうかはともかく、外交ルートでの対話は継続すべき状況ということです。その意味で中国やロシアの素早い対応は理にかなっています。勿論テロ抑止という現実的な問題への対応でしょうけど、中国の一帯一路に組み込む意図は勘ぐり過ぎです。

とはいえ難問段席で、特に国民に生活の糧をもたらす産業を立ち上げることができるのかというのは大きな問題です。元々石油が出る訳でもなく、レアアースの埋蔵が予想されるとはいえ技術もない訳で、故に手っ取り早くカネになるケシ栽培が横行したりした訳で、またそれが国内の産業振興を妨げるという悪循環の中で取り残された国という意味で、グローバル化の負の側面をを押し付けられた国とも言える訳です。そうした国の自立を助けるのは少なくともグローバル化の恩恵を受けてきた先進国の義務と考える方が良いでしょう。

基本的には井戸掘って灌漑用水として農業を起こすといった地道なことを続けるしかないでしょう。国家承認と切り離してそうした活動に援助資金を出すことも国際社会は求められます。政府が動けない分NGOなどに頼らざるを得ませんが、そしたNGO活動の安全を担保させるタリバンとの交渉は各国政府が関与せざるを得ませんし、成果が見えるまでは長い時間が必要でしょう。一方でコロナ禍も新局面dす。

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デルタ株への置き換わりでワクチンの効果への期待が揺らいでおり、ウィズコロナ戦略は見直しを余儀なくされています。これ日本もそうなんですが、ここへきてアジアでの感染拡大で日本メーカーが構築した国際サプライチェーンを直撃しており、例えばトヨタで4割減産を決めるなどの影響が出ています。特にタイやインドネシアでは工場でクラスター感染が発生して操業停止を余儀なくされ、そうすると別の向上の後工程も停止ということで停止の連鎖が発生して収拾がつかなくなっている訳です。

結局先進国のワクチン争奪戦の結果後回しにされた途上国の生産現場をコロナが直撃している訳で、WHOが再三警告してきた通りの展開です。更にペルー由来のラムダ株が更に世界に拡散し始めており、日本にも五輪関係者から検出されています。水際対策がザルの日本でもいずれラムダ株への置き換わりが起きる可能性は高く、感染力や毒性は明らかではありませんが、最悪もう1年感染爆発に付き合わされる可能性はあります。だから五輪はやめろと言ったのに。

そういや本日は横浜市長選の投票日ですね。コロナ禍でIRの可能性はほぼ否定されましたし、上記エントリーで取り上げた上瀬谷通信施設跡地の再開発計画など相変わらずの開発優先姿勢は止めるべきでしょう。特に相鉄線瀬谷駅からの延長2kmのAGT計画はあまりにもバカバカしいですね。相鉄が下りたように事業性に疑問符がつきます。今回鉄分薄いな。

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