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Sunday, August 08, 2021

帰らざる物語

某名古屋市長が五輪女子ソフトボールの若手選手の表敬訪問を受けて金メダルにガブリとやらかして話題になっております。女子のマイナースポーツの若手選手ということで相手を見くびっていたのでしょう。実際その後の報道で様々なハラスメント発言も明らかになりました。それに怒った所属チームのトヨタから苦情が来て慌てて謝罪文をしたためて向かうも門前払い。権威に弱いだけの小物ぶりを露呈しました。

これをカノッサの屈辱になぞらえる発言がネットで見られますが、全く次元の違う話です。過去エントリーで指摘しましたが、ローマ教皇グレゴリウス7世が対立する神聖ローマ皇帝ハインリッヒ4世を破門したら、出先のカノッサ城の門前で皇帝が奴隷の扮装で3日3晩許しを請うたことに報復を恐れた教皇が破門を解きました。

表向きは神聖ローマ皇帝を跪かせる教皇庁の権威の証として喧伝されましたが、その後謀反人として教皇派諸侯を討伐して寧ろ力を増し、教皇との対立も続きました。つまり何も解決されないばかりか、両当事者の同床異夢の物語となっている訳で、政治的レトリックの構造が見えます。

加えて目撃者もいたかどうかのこの11世紀の事件が現代まで語り継がれたのは、16世紀の宗教改革でルター派を中心にローマ教皇庁の権威の空洞化のプロパガンダに用いられたことと、19世紀にドイツ統一を果たすプロイセン宰相ビスマルクによるドイツの屈辱としての語りによります。プロテスタント陣営のプロイセンは故に神聖ローマの流れを汲むオーストリアを含まない小ドイツ主義により、バイエルンのようなカトリック陣営も含まれる諸邦を統合しましたし、カトリックを貶めるプロパガンダと共に民族意識の高揚という物語を追加した訳です。

こうした宗教と国家ののっぴきならない関係は日本ではピンとこないところではありますが、世界を見渡せば宗教対立による国家の分裂は多数見られます。そして今や宗教の多くは民族や国家といった新たな物語に包摂されてきております。「宗教は大衆のアヘンだ」とはマルクスの言葉ですが、今やそれは民族や国家に引き取られ、それ故に対立がいつまでも解決できないのかもしれません。シリアスな報道の合間に流れる日本人のメダル獲得報道への違和感というか気持ち悪さというか。当然コロナ感染爆発の現実を曖昧化することに繋がります。

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帰省自粛で落ち込んだ昨年比で、19年レベルに達しないものではありますが、最早自粛要請だけでは抑えきれない状況です。五輪やってんだし、ま、いいか、という国民の本音が出てきている訳です。前エントリーの五輪関係者の地元帰還に留まらず、全国規模の感染爆発を覚悟した方がよさそうです。

こうして五輪開催もコロナ拡散も異なる立場から同床異夢の物語が紡ぎだされて認識が共有されず対立だけが不毛に続くと思うと眩暈がします。こういうことって実はあちこちに見られるんですが、例えば君は君エントリーで取り上げたリニア工事を巡る静岡県とJR東海の対立ですが、国家プロジェクトを邪魔する静岡県という報道ばかりですが川勝知事が示した南アルプストンネルの西俣、千石両非常口の避難路としての問題点も指摘していてこちらは殆ど報道されておりません。

南アルプストンネルは青函トンネルより長い国内最長トンネルになりますが、青函トンネルは本トンネルに並行して先進導坑と作業抗が彫られており、それぞれ開通後も換気装置や避難路として活用されており、また事故や災害に備えて竜飛、吉岡の定点2ケ所を設けて乗客の避難誘導や一時待機の設備を設けている訳です。それは海底トンネルだからという人がいるかもしれませんが、欧州のシンプロン基部トンネルではトンネル内に列車収容線まで設けて複数列車を収容し、乗客の避難誘導や一時待機の設備を備えています。

それに対して南アルプストンネルでは工事用斜坑を利用した非常口の設置だけで、西俣非常口は標高差320mで延長3.5kmで出口は南アルプス山中の標高1,535m地点、千石非常口は標高差250mで延長3km、出口はこちらも南アルプス山中の標高1,340m地点で、仮に辿り着いてもヘリによる救出を待つしかないというどう考えてもお粗末な設備です。定員1,000人の列車から乗客を徒歩で避難させてヘリでピストン輸送って、どう考えてもまともじゃありませんが、青函やシンプロン並みの設備を備えると事業費が上がるから目とつぶっているとしか思えません。

結局JR東海が自前で整備するとして全幹法に基づく事業許可を受けた事業ですが、その結果の手抜きと見られても仕方ありません。それを黙認している国から見れば、JR東海が自前でやると言っている事業にツッコミ入れて公費負担が生じることを忌避したいってことでしょう。この辺の話はサイドバーで取り上げた石橋克彦氏の著書でも取り上げられておりますが、地震学の最新の知見によるチェックも含めて、事業としての妥当性を再度検討すべきではないかと思います。

元々リニアの全幹法による事業許可は民主党政権時代の小委員会の答申に基づいて当時の前原国交相がゴーサインを出したものですが、国会論戦も無しに行ったこの行政手続きは問題があります。という訳で民主党政権の未熟さの置き土産という要素はありますが、それに乗っかって国土開発計画を書き換えたり財投資金融資を決めた安倍政権にも問題があります。民主党政権時代の総括を兼ねて立憲民主党が国会で取り上げるとかしないと、結局問題が見過ごされて大惨事を招くという意味では福島第一原発事故と似た性格があります。そしてここまでくるとJR東海もやめたくてもやめられない段階でもある訳で、国会で取り上げて不誠実な物語を終わらせることが必要ではないかと思います。

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