撤退は敗北に非ず
まずは前エントリーの続きを2つ。横浜市長選で野党推薦候補の山中氏が大勝しました。政局的なことはどうでもいいんですが、隣の市の住民として、迷惑施設のIR誘致が実質消えたことは大歓迎です。横浜市としては観光の目玉にしたかったんでしょうけど、コロナ禍ですべてが狂いました。
横浜港は貨物船の発着が多いどちらかと言えば色気のない港なんですが、インバウンド狙いでクルーズ船誘致に力を入れていたものの、市内で観光の目玉と言えるのは中華街ぐらいで、特に中国発のインバウンド需要の取り込みにはあまり役に立たないということで、IR誘致を観光の目玉にしようという目論見だった訳ですが、コロナ禍でインバウンド自体が消滅して見直しは避けられない状況です。加えてダイヤモンドプリンセス号のクラスター感染でクルーズ船ツアーも一時消滅し、進出を検討する海外IR事業者もコロナ禍で売上が落ちて海外進出どころじゃなくなりました。これだけ条件が揃えばIR誘致の見直しは当然の帰結ですね。
2つ目はアフガンの米軍撤退に伴う混乱ですが、カブール国際空港の近くで自爆テロが起こり米兵13人を含む100人以上の犠牲者を出しました。イスラム国が犯行声明を出しており、米軍撤退でアフガンがテロの温床になるというそれ見たことか的な論調もありますが、寧ろタリバンがテロリストと決別した結果と見ることもできます。イスラム国は国を名乗ってはいるものの、地上の唯一の国家としてのイスラム帝国を目指すという意味で、相互承認による主権国家を主体とする国際法との親和性は皆無な訳で、この点もタリバンとの違いが明らかです。
米軍のアフガン撤退に関してはバイデン政権の失点という評価もあるようですが、撤退を決めたのは2013年のオバマ大統領であり、2021年8月までの撤退でタリバンと合意したのは2020年のトランプ政権であり、バイデン政権はそれを忠実に履行しているだけです。しかしNATO軍として派兵した欧州諸国は半信半疑でどうせ撤退しないし出来ないだろうという思い込みもあったようです。故にイギリスをはじめ各国がアメリカを非難する流れになっております。
一方でアジア諸国は寧ろ米軍のアジアシフトが進むことを歓迎する流れがありますし、中東諸国は米軍撤退による力の空白への懸念から例えばイラクが仲介してイランとサウジが接近といった新たな動きも始まっています。元々複雑な中東諸国の関係も変わる可能性があります。そしてイランは中国と連携してタリバン政権との関係を模索するなど中国の一帯一路と6カ国合意が反故にされたイランをタリバンが結ぶとか脳尚爆発しそうな現実が次々と出現しそうです。
別の観点から米軍の撤退のスピード感の見事さは指摘できます。空軍輸送機を動員して安全が確保されているカブール国際空港から多数の自国兵士や自国民と現地職員などを出国させており、ピーク時には45分ヘッドのフリークエンシー^_^;確保とか、ロジスティクス重視の米軍らしいところを見せております。腰の重い欧州の同盟国がそれに追いつかないとか、日本も自衛隊機を派遣したものの邦人1人を含む15人をパキスタンに運んで任務終了と明らかに初動の遅れが指摘できます。この米軍の機動力は正規軍同士の対戦という前提で見れば強さの証明でもあり、中国やロシアは認識を改めた筈です。一部で言われる米軍は弱いという誤ったメッセージとは逆ですね。てことでやっと撤退戦の重要性に辿り着きました^_^;。
甲陽軍鑑の著者とされる高坂弾正が「保科弾正槍弾正、高坂弾正逃げ弾正」と童が歌うことを取り上げて殿の自負をさらりと表現しているように甲州武田軍団は撤退戦の素早さが売りで、殿が敵と対峙している間に仲間を逃がす訳ですが、それだけ危険を伴う任務であると同時に絶対に裏切らないと主君の信任を得ていることを自慢している訳です。
織田徳川連合軍による越前朝倉攻めの金ヶ崎の戦いで、同盟を結んだ浅井長政の裏切りで挟み撃ちに遭った時に殿を務めたのが木下藤吉郎、後の秀吉です。戦国時代は殿の重要性が認識されていたのに、何故かそれを忘れたように太平洋戦争のミッドウエー海戦やガダルカナル島の戦闘やインパール作戦で消耗した日本軍のロジスティクス軽視と撤退の判断ができない病は何に由来するのでしょうか?
コロナ感染が全国的に拡大している中で「光は見えている」と根拠なく述べる管首相とか、原子力に入れ込んで経営を傾かせた東芝とか、現代日本のリーダーたちも同じ病に侵されているようです。割を食うのは一般国民です。横浜市長選でもIR反対を表明した小此木氏を管首相は全面支援しましたが、IRを推進してきた筈の管氏のブレが指摘される一方、自民党内では「管さんが支援したから負けた」とも言われています。それで責任取って辞める訳ではなく自民党総裁選に出馬の意向とか、国民に目が向いていないことは明らかです。
一方の野党も立憲民主党が来月の臨時国会召集を求めており、総裁選による国会の空白を容認しております。本音は支持率ダダ下がりの管政権相手の総選挙の方が有利ということです。コロナの死者が15,000人を超え東日本大震災レベルになっており、医療逼迫で国民の不安も増大している中で、政治家は権力闘争にしか興味がないというのは憂うべきことです。国民としてはせめて自衛するしかありません。かくいう私もワクチン接種を終え、デルタ株感染に備えて不織布マスクを購入しました。
そんな中で来年度には飛べないジョナサン長崎新幹線改め西九州新幹線の武雄温泉―長崎間が開業します。佐賀県の反対で既存の九州新幹線と繋がらない孤立線として開業ですが、これも以前から指摘してきた軌間可変電車の実現可能性の低さがその通りになった訳です。そしてJR九州は新鳥栖—武雄温泉間のフル規格化を国に求めておりますが、佐賀県の反対で見通しは立っておりません。
繰り返しになりますが、佐賀県がフル規格に反対する理由は軟弱地盤で工事費が膨張することへの危惧と共に、元々福岡都市圏で全国規模の新幹線網への接続にメリットが見いだせないからですが、加えて整備5線の事業化の過程で西九州ルートのフル規格着工の受益が少ないことも指摘され、それがスーパー特急方式での着工に決着した理由ですが、日本ではフリーゲージトレインと呼ばれる軌間可変車(GCT)の開発を所与としたフル規格化の要求が強まり、それを前提として佐賀県も容認したという経緯があります。つまり事業性も疑問だし佐賀県も反対する全線フル規格化への変更の今更感は指摘しておきます。
西のスットコドッコイで指摘したように元々鹿児島ルートで予定されていなかった新鳥栖駅の設置も、駅のない佐賀県に対して事業費負担を求められたことから、負担するなら受益をということから急遽決定したもので、この時点から佐賀県の整備新幹線に対する不信感は芽生えていたと見ることもできます。こうした当事者の立場を無視した意思決定に対して佐賀県が異を唱えるのは当然です。
もう1つリニアも同じような問題に直面しています。静岡県の反対もさることながら、リニアの事業としての正当性に疑問符を突き付ける専門家が複数出てきていることもも逃せません。詳細は別項に譲りますが、少なくとも現時点はリニアは作るべきではないと考えております。そもそもコロナ禍でビジネス需要が蒸発しGWと盆暮れの稼ぎ時も自粛で客は戻らず、また技術的にも未解決の問題が多数ある中での事業継続は疑問です。
とはいえ全幹法に基づく事業として国を巻き込み、財投資金の融資まで受けて単なる民間事業ではなく疑似国家プロジェクト化しており、JR東海の一存でやめることもできない状況です。その正当性に関して国会の場で論戦されることを期待しております。
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