« 帰らざる物語 | Main | 帝国の墓場の廃仏毀釈 »

Saturday, August 14, 2021

日本は沈没するのかな?

小松左京の日本沈没の冒頭の描写が丸の内の喧騒で、主人公の潜水士小野寺が友人と出会う場面です。小野寺は深海調査艇「わだつみ」のオペレーションで、友人は超電導リニア工事に関わる土木技術者で、南アルプス山中の現場へ向かうところで、2人は新幹線に乗り込むとビュッフェで談笑しながら目的地に向かい、別れます。

その友人が後に謎の死を遂げるんですが、一方主人公の小野寺は地質学者田代を乗せた深海調査艇で日本海溝へ潜り、ある発見に立ち会います。そして物語は動き出すんですが、1973年発表の小説で超電導リニアの工事が始まっている一方、新幹線にはビュッフェがあるという現在から見れば不思議な時空の捩れ^_^:が生じています。言うまでもなく完全なフィクションなんで目くじら立てる必要はありませんが。当然現在のJR東海と静岡県との対立とは無縁の物語です。

そして谷甲州との共著で2006年に発表された第二部では、沈没して世界へ散った日本人の行く末と共に、地球寒冷化がテーマとされています。昨今の気候変動問題の真逆の物語というのも変な話ですが、現実はそれどころじゃない状況です

。気温1.5度上昇、10年早まり21~40年に IPCC報告書:日本経済新聞
気温上昇のスピードが専門家の想定を超えているというニュースです。つまり脱炭素を想定より早める必要がある訳ですが、現状パリ協定で各国が表明した脱炭素目標を積み重ねても達成が難しいのにさらに上を目指せという話です。

元々温暖化が進めば、シベリアの永久凍土が解けて土中の細菌が活動を始めればCO2の排出が増えるとか、海水温の上昇で海水に溶解しているCO2の飽和点が下がることなどで、温暖化自体がCO2排出量を増やしてしまうことは言われていました。カーボンフィードバックと呼ばれる現象で、それ故温暖化が進むとある時点で加速し、元には戻らなくなる特異点が存在するとは言われておりました。それ故に脱炭素は時間との勝負なのですが、実際は排出量を増やし続けている訳で、事態は悪化し続けています。

現在進行中の問題として北半球の複数個所での山火事があります。新旧両大陸で熱波による乾燥と不安定な気候による落雷の影響でこうなっている訳ですが、当然吸収源の森林を減らしCO2を排出しますから、これ自体がまた温暖化を進めますし、特に高緯度地域では泥炭や永久凍土に封じ込められた炭素の放出にもなりますのでCO2排出量は加速度的に増えます。加えてカリフォルニアではマイクロソフトなどIT大手が排出権購入を予定する認証林まで燃えており、直接排出する訳ではないIT企業の脱炭素の手段を失うという困った事態です。

気候変動問題に関しては灼熱の氷河急行で取り上げたクライメートゲート事件ってのがありまして、気候変動問題の研究者のメールが流出し、ホッケースティックと言われた長期の世界の平均気温の推移がデータの捏造によるものと報じられ大騒ぎになりましたが、その後の調査でデータ捏造は否定されました。結果的に温暖化仮説を強化することになりましたが、このときに日本でも一部で騒いでた人たちがいます。例えば韓国情報当局の情報リークの受け手として注目されている櫻井よしこ氏などですが。

ま、それはそれとして、脱炭素の具体策が曖昧な日本にとってはより厳しい国際世論の逆風を覚悟する必要があります。とにかく電源構成一つとっても実現可能性に疑問符がつくものですが、ここでは敢えてあまり取り上げられない建設業のCO2排出を取り上げたいと思います。ザックリ言って建設業のCO2排出量は国内排出量の凡そ1/3にもなります。主要材料の鉄とセメントが生産過程でCO2を大量排出しますし、骨材と水を混ぜた生コンクリートは凝固過程で化学変化でCO2を排出します。加えて重機や建機の運転に伴う排出や資材や土砂の運搬に関わる排出もある訳で、建設業の排出削減は重要なんですが、あまり注目されておりません。

寧ろ今まさにそうですが、台風や豪雨などの被害が出るとその復旧工事や防災のための補強などが求められる訳で、災害復旧や防災工事は短期的には必要性が増す一方、それが結果的に温暖化を加速してしまうというジレンマがある訳です。そう考えると景気対策としての公共事業も積み増しも慎重であるべきということになります。

例えば風邪と共に去りぬで取り上げたJR豊肥本線と国道57号線の復旧工事で、JRは元の路盤を活かした復旧工事で50億円で半額公費補助に対して、外輪山をトンネルで抜ける別ルートで復旧した国道は800億円全額公費ということで、費用の差は工事量の差を反映しCO2排出量も相関すると考えて良いですから、鉄道の方が復旧工事でも省エネということになります。加えて簡単に予算が出てくる道路財源の潤沢さは見直すべきでしょう。関連してこれも取り上げます。

無料化の旗降ろせぬ高速料金 道路行政の矛盾手つかず 編集委員 谷隆徳:日本経済新聞
2065年無料化を予定する高速道路料金の期限を延長するというもの。原因は損傷の激しい区間があり更新費用を捻出するためということですが、同時に無料化の旗を降ろせない事情もあります。つまり道路は元々公共財だから固定資産性が免除される訳ですが、道路公団民営化で事実上事業用資産ですから、時期はともかく将来の無料化も旗を降ろす訳にはいかないということですね。

加えて過去エントリーで取り上げた減価償却の問題もあります。事業用資産ならば減価償却して補修費用のキャッシュを生み出す必要がありますが、そうなると各道路会社の収支が成り立たなくなるという事情もあります。逆に言えばそれ故補修費用捻出のためには無料化期限を先送りするしかないということですね。しかしここに潤沢な道路財源を充てれば良い訳ですが、それはしないということですね。上記盛土崩落エントリーで取り上げた民主党政権の高速道路無料化が実は現実的な解だったと評価することができます。高速道路債務を建設国債60年償還ルールに基づいて毎年度の道路財源を充てて実質的に圧縮することで、無駄な道路整備を抑制しようということになります。国道57号線復旧工事の現実を見れば十分可能と評価できそうです。

また同エントリーで新東名、新名神として部分開通している第二東名第二名神に10兆円かけるなら、東海道線の貨物増強が1,000億円と1/100で可能という点にも触れております。つまり道路財源をあるだけ使い切るのではなく、よりエコな鉄道への投資に意図的に回すことも考える余地があります。じゃないと海水面の上昇でホントに日本が沈むぞ!

| |

« 帰らざる物語 | Main | 帝国の墓場の廃仏毀釈 »

ニュース」カテゴリの記事

経済・政治・国際」カテゴリの記事

鉄道」カテゴリの記事

JR」カテゴリの記事

都市間高速鉄道」カテゴリの記事

民営化」カテゴリの記事

鉄道貨物」カテゴリの記事

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)




« 帰らざる物語 | Main | 帝国の墓場の廃仏毀釈 »