« August 2021 | Main | October 2021 »

September 2021

Sunday, September 26, 2021

上辺の株価

中国恒大リスクはとりあえず市場が織り込んで株価は戻しております。懸念された2兆円相当のドル建て債の利払い実行を中国恒大が発表し、一部投資家は利払いを確認していないとしながら、猶予するとしており、連鎖パニックは起きていません。リーマン以来の市場ショックに馴れたせいか投資家の冷静さが目立ちます。加えて表面上動きを見せない中国当局も危機回避に動いたと見られ、影響は限定的との見方に傾きました。

この辺統制が容易な中国当局ならではかもしれませんが、日本のバブル崩壊やリーマンショックと違って当局の対応に対する期待が市場関係者で共有されているが故の安定という何とも皮肉な現象ですが、上辺の株価は戻しています。但しこれはこれで問題を抱えている訳なんですが。というのは終わらないアベノミクスで指摘した異次元緩和の弊害としての長期停滞に類似した状況が米株式市場にも見られる点です。端的に言えば株価水準が高すぎることが投資家に迷いをもたらしているということです。

高すぎる株価の弊害の1つ目は配当利回りの悪化です。売上から仕入れと諸経費を差し引いて法人税を支払った後の最終利益が次期繰り越し分を除いて役員報酬と株主配当として処分される訳ですが、株価が高くなれば株主は取得価格の上昇によって配当利回りが悪化する訳です。一方で元々の株主にとっては株価の上昇は売却で差益を得られるチャンスでもある訳です。

所謂インカムゲインとキャピタルゲインですが、どちらも取得価格が安ければ安いほどリターンが大きくなる訳です。故に株価の上昇は必ず天井がある訳ですが、緩和マネーの株式市場への流入で上昇を続けた結果天井が見えなくなってしまった訳です。株価は天井をつければ必ず下落しますから、その前に売って利益確定する必要があり、実際多くの投資家が利益確定売りをしているにも拘らず、その後また上昇を続ける株式市場について行けず、安全資産の米国債に資金が流れた結果、国債金利の低下で結果的に株式投資が優位になるという循環に陥っている訳です。

企業は企業で高すぎる株価を維持するために余剰資金を配当へ回したり自社株買いで株主還元したりして株価維持に努めます。その結果妙なことが起きており、株式市場へ流れ込んだマネーの多くは成長投資へ回らず株主還元と株価連動報酬による役員報酬という形で山分けされている訳です。これは事業の業績に応じて配当や報酬を得るのではなく、単なるマネーゲームになっている訳ですね。こうなるとリスクを取って新製品開発や新市場創造を行うインセンティブは失われます。中国恒大問題のような市場リスクが顕在化して株価が一時的に下げても直ぐに回復するということは誰も先行きに自信を持てない状況ということになります。株価維持が自己目的化する訳です。

一方M&Aはやりやすい環境ですが、大企業が成長力のある新興企業を手に入れることで自身の成長性に下駄を履かせる効果はあるものの、事業統合によるシナジーがなければ必ずしも成長に寄与する訳ではありません。それどころかGAFAなどIT大手が典型ですが、勢いのある同業のスタートアップ企業を買収して未来のライバルを取り込み競争を回避するとなると逆に成長にマイナス効果をもたらします。米民主党が反トラスト法適用で企業分割を含む規制を模索するのはそのためです。

という訳でアメリカでも量的緩和の継続は成長率を圧縮する効果が見えており、米FRBが年内にテーパリングを開始し更に早ければ来年半ばには利上げに踏み込む出口戦略を示唆して市場に織り込ませようとしています。また半導体や資源の供給不足によるインフレも現実に起きており、対応を迫られてもいる訳です。この点はマイナス金利にまで踏み込んで尚インフレが起きない日本のアベノミクスでは金利を下げても現金や国債への過剰需要で実質金利も下がらないのとは異なり、実質金利はマイナス圏にある訳ですが、それが成長に結びつかないことも認識されているということですね。

日本同様マイナス金利に沈んでいる欧州ECBでも量的緩和の終了は意識されていますが、日本ほどではないもののドイツなどではやはり貯蓄過剰で貯蓄投資バランスからインフレが起きにくい中で、気候変動問題への貢献に向かいます。気候変動リスクは大まかにはフィジカルリスクと転換リスクの2つに分けられます。前者は気候変動による異常気象による暴風や豪雨による風水害の増加や干ばつや山火事被害、農業被害などの現実的な被害のリスクで、後者は石炭や石油に依存しない新エネルギーへの切り替えに伴うコスト負担のリスクです。

現状では前者が過小に後者が過大に評価されており、企業によるグリーン投資が進まない理由となっておりますが、後者には例えば石炭火力のようにグリーン投資の進捗で確実に座礁資産になるといった事情もあります。要は既存インフラが座礁資産となればインフラ保有企業への融資が不良資産化することを意味しますから、それを防ぐ為にEUのタクソノミー(分類)に従って融資先の選別やグリーンボンド投資を銀行に求めることで余剰資金を誘導しようということです。

思い出されるのは日本の高度経済成長時代の日銀の窓口規制ですが、当時の通産省の産業政策と連動して銀行の融資先企業の業種別の配分などを指導していたものです。個別企業までは明示しなかったものの、マクロ経済の調整を担う中央銀行によるミクロ介入ともとれますし、インフレ率など短期のマクロ調整を担うはずの金融政策としては越権行為の可能性もあります。

そして実際80年代後半のプラザ合意後の円高ドル安対策として金融緩和を続けた結果、窓口規制だけでは消化しきれない銀行の余剰資金が不動産に流れ込んでバブル経済をもたらした訳です。また余剰資金の増加は銀行融資による信用創造の拡大の結果銀行向けの貸出金利である公定歩合の調整の機能を低下させます。公定歩合を下げても市中に有り余る資金があればわざわざ日銀から借りるまでもない訳ですね。

ECBの政策も長期的な脱炭素目標の達成には有効かもしれませんが、本来短期的な調整である筈の金融政策として取り組むべきなのかは疑問がありますが、現実的にフィジカルリスクと切替リスクの調整を期待するカーボンプライシングで値付けされた炭素価格が安値水準にある限り難しい訳です。炭素税や排出量取引などで炭素価格上昇を誘導する政策は国の役割ですが、EUにおいても未だ不十分な水準です。その意味でEUが打ち出した国境炭素税で世界を巻き込もうとしている訳です。そんな中で日銀も遅ればせながらの政策を打ち出しました。

「グリーン金融」市場育成に一役 日銀、開示ルール促す:日本経済新聞
基本的には銀行に開示ルールを課して融資先を選別させてグリーン投資に見合う資金をゼロ金利融資する仕組みです。日銀が個別融資先を選別する訳にはいかないので、あくまでも銀行の自主的な取り組みとしてのグリーン金融に対してゼロ金利で資金提供するということですね。銀行から国債を高値で買い取っても日銀当座預金にマイナス金利が課されますから直接融資で優遇するということですが、果たして機能するかどうか。それ以前に政府の脱炭素の取り組みの本気度が問われますが、まず炭素税の導入から難題です。

そもそも政府の本気度を疑わせる事実として3.11後に50基の石炭火力発電所建設計画が出され、内13基は地元の反対や事業者の判断出て書きされたものの、残りは建設が強行されています。こんな国は先進国ではほかにないですし、仮に稼働期間40年とすると2060年代まで現役となる訳で2050年カーボンニュートラルに反しますしECBの議論で出てきた座礁資産そのものですね。

その一方で既に大手メガバンクでは内外の石炭火力発電事業への融資を停止しており、また自然災害の多発で保険金支払いが膨らむ保険業界では、気候変動の原因となる石炭火力事業への保険引き受けが忌避されております。長期に亘って資金を管理しなければならない金融機関は既に動き始めており、日銀の対応は周回遅れ且つ効果も乏しい訳です。一方中国はこんな動きです。

習氏、海外の石炭火力建設中止を表明 国連演説で 米欧との対立激化を回避 気候変動の目標深掘りは見送り
中国では国内で既に石炭火力の新設は止めており、それに留まらず既存石炭火力の稼働停止も行われております。代わってLNG火力を新設してますが、国内で停電が相次ぎ必ずしも切り替えがスムーズに進んでいる訳ではないようです。加えて中国によるLNG爆買いは元々日本が世界に先駆けて活用してきたLNGの価格を高騰させ、冬の電力危機の原因にもなりました。そんな中国が石炭火力輸出を停止すると宣言した訳です。

「中国より日本の石炭火力の方が高効率で環境にやさしい」というロジックに乗って途上国への石炭火力を日本が輸出しなくても中国が穴埋めするという見立ては完全に否定されました。主要国では日本だけが突出して気候変動対策に後ろ向きという現状です。中国に関して他にもソーラーパネルの設置拡大で再生エネ比率を急速に高めておりますし、国土の砂漠化防止の観点から植林を進めているのも新しい取り組みです。

勿論森林をCO2吸収源とするカーボンネガティブ政策で化石燃料の活用の余地も残す訳です。国土の森林面積比率が高い日本は、戦後の大量植林と林業の衰退で炭素吸収能力が低下する森林の老化で吸収源としては当てにできない状況ですが、テコ入れ策は議論されておらず森林法改正で皆伐される可能性があるなど逆行することばかりやっています。間伐と樹木育成をによる持続的林業へのシフトが必要です。

てな中で、手付かずなのが航空燃料問題で、今のところ決定打はありませんが、航空各社は対応を迫られます。幸いというかコロナ禍で航空需要が著しく減っている訳で、その面でも対応を迫られます。JALが空飛ぶ車によるタクシー事業参入を検討してますが、どちらかと言えば収益機会の確保以上の具体性は無いようです。ドイツやフランスでは鉄道によるコードシェア便運航が取り組まれておりますが、日本でも考えるべきでしょう。特に整備新幹線に関しては乗客減は固定費であるリース料負担の増加となる訳ですから、航空と鉄道の双方にとってのwinwin関係になる筈です。縦割りの現行法の改正は必要ですが。

あとリニアの見直しも必要です。そもそもリニアは鉄軌道式の在来型新幹線の3-4.8倍という電力消費で省電力に反します。JR東海は座席当たりのCO2排出量で航空機より優位という試算をしていますが、1列車1,000人定員のリニアと1機200-300人定員の航空機との比較はあまり意味がありません。また大電力をカバーするには原子力か石炭火力の大出力に頼る必要があり100%再生エネ電力は無理ですから、その意味でも脱炭素の逆光になります。やっぱリニアやめよう

うーん村上春樹のオマージュにはなってないよなあ。

| | | Comments (0)

Sunday, September 19, 2021

掘ったイモいじるな?

とりとめのないこと書きます。

北朝鮮「鉄道車両からミサイル」 800キロ飛行と主張:日本経済新聞
人里離れた緑深い山奥の鉄道線でトンネル出たところから鉄道車両からのミサイル発射ということで、これ日本のミサイル防衛を無力化します。発射地点が特定できなければ迎撃は困難ですし、発射の兆候を捉えるのも困難です。ミサイル防衛ったって国内やグアム島の米軍基地が標的でしょうから、元々日本の国土や国民を守るより米軍基地を守る性格が強いのに、日本の防衛費使って高い買い物させられていてそれすら無力化となると次の手は?どう転んでもアメリカの軍産複合体を喜ばせることに変わりはないでしょうけど。
仏ナバル、豪潜水艦建造を中止 米英の原潜配備支援で:日本経済新聞
そしてオーストラリアもカモられる。元々日仏で争ってフランスが落札した豪潜水艦建造計画を横取り。しかも原潜にグレードアップしている訳で、お値段もそれなりと推察されます。確かに中国への牽制にはなるでしょうし、台湾政府は歓迎の意を示してますが、一方インドネシアが懸念を表明するなど寧ろ東南アジア諸国が圧を感じています。そして収まらないのがフランス。
仏、駐米・駐豪の2大使召還 豪の潜水艦計画変更に抗議:日本経済新聞
同盟重視と言いながら黙って裏切るエグい対応はバイデン政権でも軍産複合体のコントロールがうまくいっていないってことでしょう。大量破壊兵器開発という嘘の情報でイラク開戦したように、アメリカの文民統制に疑義が見られます。台湾有事もアメリカが仕掛ける可能性があるということになります。しかし米国内では日本が親台湾に姿勢をシフトして対中国強硬姿勢に転じたという報道もあり、日本の姿勢がダシに使われる可能性は警戒しておくべきでしょう。

一方中国は悠然と我が道を行きます。来年1月発効が決まったRCEPで目障りなインドが土壇場で離脱したお陰で、米中デカップリングに苦しむ中国の影響力を発揮しやすくなりますし、勢いに乗ってTPP加盟まで打ち出してます。これ中国は大真面目で、元々米ドル覇権に対抗すべく人民元の国際化を模索してきた中で構造改革を進め国有企業への補助金も減らすなどはしてきている訳で、また関税撤廃も即時ではなくある程度時間の猶予がありますから、交渉の余地はあります。TPPが通商協定である以上条件を満たすかどうかの審査を行って判断することが求められ政治的理由での排除は問題になります。

そして経済の内需シフトにブレーキがかかっていることもあります。これ半分は意図的なもので、アントフィナンシャルグループの上場取り消しあたりから民間企業への政府の介入が続いていますが、銀行の事業領域を侵すならば規制されること自体はやむを得ません。ジャック・マー氏が習近平氏を批判したからというのは皮相的で、おそらく上場審査の過程でBIS規制もあるし当局から銀行免許の取得を打診されていてアントが渋ったというプロセスがあってのマー氏の「BIS規制は時代遅れ」発言に繋がったと推論されます。そりゃ無理筋だわ。

また規制強化はIT企業に留まらず配車アプリの滴滴出行(ディディ)の米NY市場上場を止めたりとか、教育費高騰対策として学習塾の規制とか様々な分野に及びます。ディディに関しては米市場上場による情報漏洩を問題視したようですし、学習塾は教育費の高騰が少子化をもたらしたと批判されています。加えて不動産価格の高騰があり、中国恒大の問題が表面化しております。同社は不動産担保で調達した資金で様々な事業に投資して急成長した会社で、あたかも日本のバブル期の投資過熱を地でいくような事業展開ですが、政府の不動産融資規制で資金繰りが滞り存廃の瀬戸際に追い込まれました。日本のバブル退治とそっくりの展開です。

中国恒大だけでリーマン級の危機に至る心配はありませんが、どうなるかは中国政府次第で、今のところ買掛金の支払いに建設中物件の現物引き渡しなどで自主廃業を模索しているようで政府の支援はなさそうです。ただし2兆円相当の社債を海外勢が引き受けており、これがデフォルトに至ると中国の同業の不動産会社への投資が引き上げられる可能性があり、そうなるとインパクトの大きい経済ショックの可能性も否定できません。

グローバリゼーションの申し子として高成長を謳歌してきた中国のこの豹変ぶりはマルクス主義的歴史観のテンプレートで補助線を引くとわかります。プロレタリア革命は資本主義が高度に発展して矛盾が糊塗できなくなって起きるとされてますが、実際にはロシアも中国も資本主義が未成熟な状態で革命が起き、特に中国は工業化も不十分で極貧状態だったから、鄧小平が改革開放路線で資本主義を始めた結果豊かにはなったけれど、貧富の格差が拡大し資本主義的な矛盾に修正を迫られたので、これからは社会主義で行くということですね。所謂プロレタリア独裁で資本主義的な諸関係を見直すことが必要ということで政策をシフトしたということですね。

中国は既に1億人の富裕層がいる一方、年収2千ドルレベルの貧困層が6億人というアンバランスです。残りの7億人は所謂新中間層と言われる5千ドル~2万ドルの新興国中間層に相当し、彼らの上昇志向と消費性向の高さが高成長のエンジンになっている訳ですが、それが大手IT企業その他の大手民間企業の台頭で、上位の富裕層が固定化されて所謂チャイナドリームが消滅しかかっているということで、中国政府の政策シフトは数の上ではマジョリティである中間層の支持を得てはいる訳です。この視点から見れば富裕層の多い香港をいつまでも特別扱いする訳にはいかないし、ウイグルのように遅れた地域は共産党の強い指導で経済を浮揚させる必要があるということですね。勿論だからと言って人権侵害が正当化される訳ではありませんが。

その中国で何故か日本の自民党総裁選がメディアを賑わせています。考えてみれば中国共産党のトップ人事は中国国内ではニュースバリューが大きい訳ですから、その類推で自民党総裁選を見ているということでしょう。但し誰が選ばれても対中強硬路線は変わらないだろうという冷静な視点も失っていない訳ですが、二階幹事長の処遇が注目されているようです。田中角栄氏以来の中国とのパイプということで注目されているようです。自民党と日本国の関係は実は中国共産党が参考にしており、天安門事件は軍隊で制圧したから非難されたので、香港は警察による制圧に留めてセーフといった相場感がありそうです。そうか、自民党と中国共産党は似た者同士か。

あと管首相の総裁選不出馬を受けて日経平均3万円台に乗せた東京市場ですが、この異変に驚いたのが米金融筋。元々NY市場のサブ市場としてしか見ていなかった東京市場の株価上昇でポジションの見直しを迫られました。上昇を続けるNY株価の下落時のリスクヘッジとして東京市場先物で売りポジションを取っててきた訳です。それが東京市場の独歩高で慌ててポジション調整した結果、東京市場をさらに押し上げる結果となった訳です。勿論一過性の変化ですから事後的には調整されてぬか喜びの3万円台になるでしょう。最後にこれ。

米中物流、海上運賃6倍に 急速な経済回復/コロナ再拡大 長引く目詰まり:日本経済新聞
コロナ禍の影響は世界の港湾に大きな傷跡を残しています。ロックダウンで貿易が止まり港湾に滞貨がたまり、また検疫のためにコンテナ船が沖合待機させられており、コンテナ貨物船の稼働率が下がる一方経済再開で輸送需要は逼迫し海上運賃が6倍に高騰している状況です。つまり国境を越えるグローバルサプライチェーンは動きが鈍る訳で、この状況で経済政策を打てばさらに滞貨が増えて経済が回らなくなる訳です。トヨタなど自動車メーカーの減産は半導体不足だけの問題ではなくなってきている訳です。

逆に付加価値が高く軽量な半導体は航空便が使える訳で、船便の滞貨の一方で航空便は好調で、旺盛な需要にこたえるため旅客便の客席に積んで輸送るようなことも行われております。乗客が激減した国際線エアラインにとっては思わぬ副収入という訳です。つまり当面海上物流の状況が改善する見込みは立たない訳で、敢えて経済再開を急ぐと寧ろ生産が抑制され経済成長を押し下げることになる訳ですね。また海上運賃の高騰はただでさえ原材料費の値上がりと円安で製造業を苦しめることになりますから、外需依存のアベノミクスを続ける理由はなくなります。それより経営が厳しい鉄道事業者への支援策を本気で考えないと運賃値上げで国内消費を冷やすことにもなりかねません。非常事態には政府の関与が必要です。

コロナが落ち着いたら旅行を考えている人は多いと思いますが、値上げとどっちが早いか。今の政府のコロナ対策を見る限り希望は持てません。今何時?掘ったイモいじるな?

| | | Comments (0)

Sunday, September 12, 2021

終わらないアベノミクス

総裁選とかいう自民党の内輪の祭をメディアが無批判に扱う日々ですが、本当にコロナ対策したいなら国会開いて野党と協議することが大事だし、アフガン撤退で自衛隊の救出作戦が失敗したことに対する説明も必要です。総裁選報道は完全な目くらましですね。

とはいえ漏れ聞こえる候補者の政策論が揃いも揃ってヒデー-_-;。新自由主義見直しとか所得再分配強化とか耳障りの良い話が聞こえますが、大前提としてアベノミクスの継承は暗黙の了解事項なんですね。つまり誰が選ばれても政策は変わらない訳で、おそらく総選挙を睨んだメディア露出拡大が狙いなんでしょうけど、寧ろ国民の不満や失望を強めるんじゃないかと思います。

てことでアベノミクスの検証には踏み込まず目先を変えるだけで何とかなると考えていることが見て取れますが、それには理由があります。結局日銀の異次元緩和以外に取り立てて経済政策としては何もしていない訳ですが、その結果円安で大企業の利益が嵩上げされ株価が上昇したことで、財界から評価されており、財界寄りの与党としては変える動機がない訳です。また日銀の国債爆買いで金利が抑え込まれている結果、利払い費が圧縮され財政出動がやり易くなっている点もあります。2年で2%の物価目標の達成は見通せないけど、政府にとっては居心地の良いことになっている訳です。

過去エントリーでも度々取り上げましたが、国民目線で言えばアベノミクスは終わらせるべきですが、同時に政府や財界にとってのアヘンのような心地良さがあり終われない訳です。

てことでアベノミクス勝手に総括しますと、何故インフレ目標がうまくいかないかは実はシンプルな答えがありまして、日本のような貯蓄過剰経済では、貯蓄が投資で消化しきれないため余剰資金が多いのに、量的緩和が加わってその傾向を強める一方、資金の調達価格である金利が下がるため、政策金利ゼロで量的緩和を続けると余剰資金の行き場がなくなり現金や国債の超過需要が発生してしまい、経済成長を促す投資が低迷して長期停滞を招くことになります。

これがアメリカのように貯蓄不足経済では金利の低下が投資を促し経済成長を促しインフレが実現する訳で、リーマンショックの時もそうでしたが、コロナ禍でも日本だけが経済の回復が遅れるということになる訳です。だから簡単ではないけれど、アベノミクスを終わらせる出口の議論は今必要なんですね。

アベノミクスを礼賛してきたリフレ派は消費低迷を消費税増税のせいにしていますが、これは間違いです。そもそも消費税収は社会保障財源とするとされており、政府支出に回る建付けですからプラスマイナスゼロでそれ自体の経済への影響は軽微です。これ経済学的には常識に属します。実際89年4月の3%での導入時にはバブル経済真っただ中だったこともあり影響は見られませんでした。97年4月の5%への改定では、橋本行革による社会保険料の値上げと重なりそちらで国民負担が増えたことと、アジア経済危機と日本の金融危機で景気が落ち込んだことの影響が大きく、消費税の影響は必ずしも明らかではありません。

14年4月の8%改定時には政府が価格転嫁を後押ししたこともあり、改定前の駆け込み需要が膨らんだ一方、改定後の落ち込みが大きく出ましたが、結果は均せば影響は消えて単なる需要の先食いだった訳です。そして19年10月の改定では14年の時のような駆け込みは見られませんでしたが、これは別途キャッシュレス決済普及を狙ったポイント還元策によると見られます。但しそれ以前にアベノミクスの影響で実質賃金が低下したこともあり、18年11月に景気はピークアウトしていた訳で、それが今に至る消費低迷の原因と見ることができます。という訳で、実証面では消費税減税は無意味ということですね。

あとウヨ曲説でも取り上げましたが、消費税減税が必ずしも値下げに繋がらない点は繰り返しておきます。消費税増税で税率が上がった分の価格転嫁は独占禁止法で禁止されている価格カルテルの例外の扱いになる一方、消費税減税で税率が下がった場合に事業者が値下げする義務はありません。特に総額表示が義務付けられている現状から言えば、値下げはあくまでも任意で大半はスルーされると見るべきです。まして交通運賃のようにシステム改修に多大なコストがかかるケースでは尚更です。総裁選候補者で消費減税に言及はありませんが、一方で総選挙を睨んで野党からは共産とれいわが消費減税の公約を掲げておりますが賛同できません。

また税法を改正するのは相当な力業でもあり、立法府のリソースを浪費することにつながりかねませんし、結果的に空手形になる可能性大です。出来ない約束はすべきではありませんね。寧ろ19年改定時のようなポイント還元策や給付金の方が現実的です。年をまたいだ結果確定申告の結果が自治体の課税台帳に反映されており、例えば住民税非課税世帯などの条件付きでの実施は直ぐにでも可能ですし、また事業者向けの持続化給付金も申請を簡素化する一方、来年の確定申告で所得減穴埋め後の剰余を返還するルールにすれば実施が早まり不正受給も阻止できます。仮に所得減がなくても実質無利子融資で資金繰りを助けることにはなります。つまり融資とのハイブリッド給付金とする訳です。

あと上記ウヨ曲説エントリーでも触れましたが、アベノミクス礼賛のリフレ派が消費減税に言及する理由は高額所得者ほど担税額が大きく、税収が社会保障費に使われることへの嫌悪感に由来します。金持ちから巻き上げて努力が足りない貧乏人のために使うなというロジックですね。消費減税はその片棒を担ぐことにもなる訳です。

またこの視点が実はMMTの決定的な欠陥を示します。MMT論者が言うように政府は中央銀行に当座預金口座を持ち、国債発行して銀行が引き受けた場合中銀当座預金口座同士のやり取りで政府口座に代金が振り込まれ、これを実際に執行して政府支出することで見かけ上銀行のような信用創造が起きている訳ですが、国債はあくまでも政府の徴税能力を担保に発行される点で中銀発行の貨幣と異なる訳です。つまり将来税で穴埋めされる前提での信用創造であり、その前提が疑われれば信用を失い大暴落するリスクを抱えている訳です。

そして税金ですが、政府に徴税権が付与されているのは社会運営上必要なコストを国民の負担してもらうことですが、その過程で担税能力に応じた課税に対して必要に応じて政府支出という形で事後的に所得移転が起きる訳で、これこそが社会を安定させる再分配の本質に他なりません。故にMMT論者が言うように財政赤字で社会保障費をファイナンスすることは再分配の原則に反します。MMTはリフレ派に留まらずれいわも飛びついておりますが、注意が必要です。最後に鉄分補給^_^;。

JR東日本、特急料金の変動幅拡大 来春に新幹線など
とりあえず届出だけで対応可能な特急料金の繁忙期料金の値上げでダイナミックプライシング的な対応ですが、今回はささやかな値上げに留まるものの、コロナ禍で乗客減による収支悪化を受けて取れるところから取る姿勢を鮮明にしたものです。密を避ける意味で乗客減でも大幅減便はできない一方、密を避ける意味で混雑緩和への取り組みも避けられませんし、安全対策やホームドアなどのバリアフリー投資は減らせないということで、需要のピークカットでピーク対応投資の削減も狙っている訳です。

いずれ許可が必要な運賃値上げも視野に入ると見るべきで、東急などで初乗り運賃の見直しが検討されてもいます。JRに関しては他社との協議の段階ですが、既にJR東海は対応を表明しています。コロナ後の回復が見通せない中、前エントリーのJR西日本の公募増資の話題もありますし、今後鉄道は値上げの季節になると見ておいた方が良いでしょう。消費税減税しても値下げしない可能性も高い訳です。

| | | Comments (0)

Sunday, September 05, 2021

リニアも撤退しよう

管さん辞めちゃいますね。ま、コロナでこれだけしくじった上にアフガン撤退でも後れを取って責任取ることは必要です。アフガン問題では現地大使館や外務省の動きも鈍かったようですが、外務省は係官が官邸通いして5日目に対応の指示を受けたそうですから、結局官邸の判断が遅れた結果の失態ですね。でも国民放ったらかしで内輪の祭りに興じる自民党といい、それをニュースとして垂れ流すメディアといい、危機感が見られません。

管首相に悪魔の囁きですが、党内の支持が得られない中でコロナ問題に専念したいなら、総裁選祭りの間に臨時国会召集して総裁任期が来ても総理で居座り、会期延長で衆院議員の任期切れも合法的に乗り越えたら?その間にワクチン接種が進めば感染拡大が沈静化する可能性もありますし。但し乾季でコロナが狂暴化して裏喰う可能性もありますけどね。基本政局には興味ないんでこれで終わり。

取り上げるのは前エントリーの最後で取り上げたリニア問題です。元々必要性に疑問を持っておりましたし、資金計画も無理があるし、南アルプスルートを選択したことで難工事必至ということで、実現可能性は低いと考えておりましたが、趙電導リニアの不都合な真実(川辺謙一著)で技術的に解決困難な課題があり、また地震学者の石橋克彦氏の著書の指摘もあり、事業継続は現実的ではないと評価できます。

川辺氏の指摘する技術的に解決困難な問題は大きく3つあります。1つは以前に取り上げたクエンチで他は火災事故の可能性と気密荷重です。まずクエンチの方ですが、超電導コイルと地上コイルで支持、案内、推進を行うという超電導リニアの技術的根幹に関わる問題です。クエンチで超電導コイルが磁気を失い浮上走行できなくなると共に、超電導を失ったコイルの抵抗熱による液体ヘリウムの沸騰問題もあります。液体が気体になり体積が爆発的に膨張する訳ですから、駅やトンネル内で起きれば危険でもあります。

クエンチ自体は無くせないので、発生確率を減らすことと、起きた時の安全対策が重要なんですが、JR東海は情報公開に消極的です。安全性に問題が無くても発生確率次第では安定運行が困難になる可能性があり、営業運行に供することが難しくなる可能性があります。但し高温超電導コイルの開発である程度回避可能性はありますが、未だに根幹的技術が確定していない中で2027年開業を謳う姿勢には疑問があります。

火災事故の可能性に関しては火災発生元が3つあり、1つは地上コイルで、強度と絶縁性能を両立させるために樹脂製となっており、発熱による発火の可能性がります。2つ目は先頭車に搭載されたサービス電源用のガスタービン発電機で、3つ目は支持輪と案内輪のゴムタイヤです。いずれも通常は防火性能の範囲内で使えるでしょうけど、高負荷がかかるなどの異常時にも安全ということはできません。

実際宮崎実験線では試験車両が全焼したことがありますし、山梨実験線でも配電盤のショートで出火し社員が負傷しています。問題はメディアに抜かれるまでJR東海が発表しなかったことで、情報開示に消極姿勢を見せています。ガスタービン発電機ですが、車上の超電導コイルの一部を集電用として地上コイルの磁気による電磁誘導集電が一応試されていますが、L0系先頭車の一部で採用されているのみで、実用レベルにあるかどうかは不明です。

3つ目の気密荷重問題は川辺氏が山梨実験線での試乗で耳ツンを体験しており、気密性能が不十分な可能性があるということです。従来の新幹線でも初期に耳ツンがありましたが、気密性能の向上で現在はほぼ解決されてますが、気密性を高めると換気が出来ないので新幹線では特殊なファンで気密性能を維持しつつ換気をする仕組みになっております。当然リニアでも同様の処理はされている筈ですが、速度が速いこととトンネル通過や40/1,000という勾配で外気の気圧変動が大きいことから、十分な性能を実現できていないということですね。

気密構造では外気の気圧変動に対して車内の気圧変動を抑えることで、車体が膨らんだり縮んだりする訳で、それに耐えられる車体強度が求められますが、高速走行のために軽量化も求められることから、大幅な改善は見通せないため、現時点では汚物タンクの逆流の恐れがありトイレも設置できないという困った問題です。これは自動ウン転エントリーでも触れております。

気密荷重問題はトンネル区間が多くアップダウンの激しい現行南アルプスルートの固有の問題と見ることも可能であり,敢えて事業を継続するなら明かり区間の多い伊那谷ルートへの変更も一応選択肢にはなります。静岡県の反対姿勢もありますし。また現行新幹線規格への変更ならば既存技術の範囲内で対応可能ですが、そうすると財政投融資資金まで投入した事業の公共性に疑義が生じることから返済を求められる可能性もあります。国会承認は必要ですが、事業停止に伴う損失の補填資金にシフトすることは考えても良いでしょう。そう思うのはこんなニュースがあるからです。

JR西日本、公募増資など最大2786億円調達 グループ初:日本経済新聞
JRとしては初の公募増資の実施ですが、コロナ終わりそうにないエントリーで指摘した税効果資産の資本計上で黒字化が求められる今期の見通しがコロナ禍の長期化で見通せなくなった結果、公募増資せざるを得なくなった訳ですね。数字上は自己資本比率も高く公募増資は寝耳に水と見られ株が売られ下げましたが、事業規模が大きく借入金依存が強い故に資本の健全性が強く求められるため、背に腹は代えられなかった訳ですね。ちなみにJAL,、ANA、SKYの航空3社は既に公募増資実施積みです。

JR西日本の場合本州3社の中では経営基盤が弱くやむを得ないところですが、株式市場では鉄道株全般が売られる展開となりました。JR東日本はコロナ禍で早まった人口減少対策の前倒しとコスト削減で乗り切る姿勢ですし、JR東海は東海道新幹線という金の成る木がある一方、その儲けをリニアに投じている現状がある訳ですから、リニアをやめれば持ちこたえられる可能性はあります。その際に財政投融資の低利融資を引き揚げずに維持すれば、JR東海に事業停止の判断を促しやすくなります。逆に言えば許可した国の責任も帳消しという政治判断になります。この辺が落としどころとしては妥当なところかなと思います。

あとコロナ後を展望すれば、東名阪メガ集積の経済効果よりもリモートワークの拡大で地方の活性化の方がニーズがあると考えられます。東海道新幹線で言えばのぞみよりもこだまの時代になるということです。その意味でもリニアは時代錯誤な存在と言えます。コロナを口実に撤退するなら理解も得やすいでしょう。

| | | Comments (0)

« August 2021 | Main | October 2021 »