« September 2021 | Main | November 2021 »

October 2021

Saturday, October 30, 2021

砂を嚙む半導体争奪戦

台湾TSMCの誘致でソニーとの合弁で熊本に工場建設が進められてますが、いろいろ問題があるようです。

TSMC誘致、日本が問われる「良い補助金」:日本経済新聞
記事では中国などの国有企業への補助金問題で批判的な立場にある日本が、TSMCの工場誘致で費用の半額とされる数千億円の補助金を負担することへの違和感と共に、「良い補助金」になるかどうかの不確実性が指摘されてます。前者はWTO違反として提訴される可能性もありますし、中国などの国有企業向け補助金を批判してきた日本政府の立場とも不整合であることから、政府内でも言われていることです。後者は補助金の意味に関わります。

TSMCの工場建設に関してはいろいろ問題がありますが、そもそも最先端の5ナノメートル(nm)レベルの半導体生産ではなく22-28nmレベルの旧世代半導体の生産が予定されているそうで、だとすれば最先端の生産設備という政府の説明はおかしい訳です。ソニーが合弁に名のりを上げた理由は、元々イメージセンサー用の28nmロジック半導体の生産委託をしており、それを国内拠点に移すことでサプライチェーンのリスク管理をやり易くする思惑と見られます。これは同時にTSMCの台湾の工場の生産能力を他へ振り向けられる訳ですからTSMCにもメリットがある訳です。

そして自動車向け半導体も同じ世代のものなので、日本国内の需要を満たすには必要かつ十分なものではあります。しかしそれは最先端半導体をふんだんに使うスマホで国内メーカーが全敗したことと裏腹な訳で、何とも複雑な気分です。そしてこの世代の半導体は国内メーカーでも生産されており、旧世代故に製造装置の減価償却も終わって安価に供給できる訳ですが、逆にそれ故に新たな設備投資を伴う増産体制は取りにくく、故に海外ファウンドリーへの生産委託が進んだという事情があります。

故にTSMCも渋った訳ですが、それを投資の半額補助という破格の条件で何とかまとめようという話です。だったら国内メーカーに補助金出しても良さそうなものですが、この辺は謎です。考えられるのはエルピーダメモリ―の失敗やジャパンディスプレイの迷走で国内メーカー支援に懲りた?それともアメリカがTSMC誘致を強力に進めるから付き合った?中国包囲網の意味から台湾企業を助けたい?いずれにしてもこれ自体で経済成長を狙えるような投資ではないらしいことは察せられます。

韓国サムスンとの技術開発競争で世界最先端の生産技術を身に着け、米インテルやクァルコムなどを追い落としたTSMCとしては今更旧世代半導体工場の建設にメリットは乏しい訳で、その意味でソニーの合弁の申し出は渡りに船ですが、ソニー以外のユーザー企業、特に自動車メーカーの反応が鈍いことに不満があるようです。ただでさえ100年に1度の大変革期と言われ先が読めない業界事情がある中で、24年の生産開始時点での需要動向も不明な中での判断ですから、自動車メーカーへリスク分散を求めるのは尤もな話ですが、自動車メーカーは東南アジアのデルタ株感染拡大による部品工場の操業停止もあり、今はそれどころじゃないってことなんでしょう。

つまり日本企業のガラパゴス化が鮮明になった訳です。電機産業の凋落ぶりはもちろんですが、トップのトヨタを含めて強い筈の自動車産業にも陰りが見えます。そしてトヨタトップの豊田彰男自工会会長が吠えました。

豊田章男会長「敵は炭素、内燃機関ではない」 自工会で:日経クロステック
CASEの時代の自動車産業の未来に対する展望がこれ?脱炭素で電動化は避けて通れない変化ですし、欧米でハイブリッド車が電動車から除外されていることへの苛立ちもあるのでしょうし、内燃機関のアナログなチューニングの技術が自動車メーカーのコアコンピタンス故に簡単に捨てられなものわかります。しかし下請けの雇用問題を質に取って正当化はいただけません。加えてオリンピック選手村内の自動運転EVの事故責任の否定もどうでしょう。「信号があるべき交差点で無かった」ことを言い訳にするんじゃCASE時代を担うメーカーとしての自覚が疑われます。

CASE by MaaSで指摘しましたが、繋がる、自動化、共有、電動化の頭文字を表すCASEは相互に関連してまして、クルマがネットに繋がりソフトのバージョンアップが行われ現在位置や目的地への経路を自動選択するというデジタルな技術革新との相性から言えばアナログな内燃機関動力は相性が悪く電動車に優位性がある訳です。しかもシェアリングを視野に入れれば個人で購入する意味すらも失われ、生産台数は4割減という観測もあります。

つまりクルマを売るという従来のビジネスモデルが否定され、モビリティサービスを提供することが求められる訳です。日本でも住宅地や観光地で試行が始まったMaaSに近づく訳です。そのことは裾野市の工場跡地でウーブンシティ開発を計画するトヨタも理解している筈ですが、どこか唯我独尊と言いますか、独りよがり感が拭えないところがあります。実際地元の裾野市は困惑しています。言い換えれば工業化社会の常識だったプロダクトアウトの発想から抜けられずマーケットインの発想が乏しい訳です。MaaSは公共交通の弱点と言えるラストマイル輸送の改善とシームレス輸送というコンセプトが明確です。実際JR東日本、東急、京浜急行電鉄などで取り組みが進んでいます。これはバッテリー製造過程でのCO2排出問題でも量的に影響が軽減されるという面もあります。

但し言うは易しで自動化にしてもセンサーの性能や通信の遅延縮小など技術的課題はいろいろありますし、ネットに繋がればセキュリティの強化も欠かせません。逆に言えば自動車でもスマホ並みに高微細半導体が必要になる可能性は高い訳で、3年後に生産開始する半導体工場で作る半導体に自動車メーカーとしてのコミットメントを示せないとすると、日本の自動車工業の未来はガラパゴスまっしぐらに見えてしまいます。そんな工場に政府は補助金大盤振舞いしようというんですから、政府が助けた電機産業の凋落を自動車産業が後追いする「いつか来た道」に見えます。

ただ半導体自体は今後とも需要拡大は続くでしょうから、国内に生産工場を誘致することそのものは無駄とは言い切れませんが、3年後生産開始の半導体工場で旧世代半導体を作るってのは戦略不在としか言いようがありません。加えて言えばシリコンやゲルマニウムなどの半導体材料や還元剤に使われるマグネシウムなど中国産のシェアが高い状況からすると、米中摩擦が続く限り半導体供給に制約がかかる可能性があります。そうなると新素材の開発など研究開発を強化した方が遠回りのようで最適解になる可能性もあります。実際太陽光パネル原料がウイグル産80%とも言われ、パネル製造が滞っているという現実もあります。

自動車メーカーが内燃機関を捨てても、風力発電など新たな機械工業の分野は拓けるし、内燃機関に拘るなら寒冷地向けコ・ジェネレーションシステムなど活用できるニッチな分野を開拓という方向性もあります。大手が手掛けにくい小規模なニッチ市場は寧ろ中小企業が取り組み易いと考えられます。ってことで半導体工場を誘致して砂を噛む未来は望ましいものかどうか?

| | | Comments (0)

Sunday, October 24, 2021

分配の社会的な意味

コロナの新規感染者数が減少し結構な事なのですが、原因は不明ということで、ワクチンの効果とも自粛の効果とも言われておりますが、考えられるのは、デルタ株の感染力の強さ故に感染が一巡した可能性もあります。あれほど非難されながら強行したオリパラ開催のときに新規感染者数がピークだったことと、その後東京ではピークアウトした一方、地方への飛び火が続いたことで、警備のために大動員された全国の警察官が地方へ戻ったこと、同じくボランティアが戻ったこと、加えてお盆期間の帰省が重なったことなどで説明できます。

そして感染拡大とワクチン接種が並行して進んだ結果、疑似的に集団免疫状態が作り出されたということは考えられます。とはいえそれは逆にウイルスの変異の機会が増えたことを意味しますから、より免疫回避能力を増して感染拡大局面に至る可能性は残っております。ワクチン接種後の抗体減少も報告されておりますし、実際ワクチン接種者のブレークスルー感染も報告されております。接種時期が早かった医療関係者や高齢者は要警戒です。ウィズコロナは続いているということです。ってことでこの週末2日間の山手線渋谷駅ホーム拡幅に伴う線路切替工事で内回り線池袋―大崎間の運休の現場確認したかったけど自粛することにしました。

てことで選挙戦では給付金や賃上げなどが各党で打ち出されておりますが、例えば給付金に関しては対象や金額に違いはあっても全額国債を財源とする給付という意味では各党の違いはないんですから、選挙後速やかに国会で審議して妥協点を見つけて実行できる筈ですね。そうならないなら選挙向けのリップサービスだったってことですね。その一方日本の保険医療制度の問題点も明らかになりましたが、取り上げたいのはこのニュースです。

公的病院のコロナ病床2割増、法に基づき初の要求へ:日本経済新聞
法的に可能なのになぜ今までやらなかったのか?更に言えば病院丸ごとコロナ専門病院に指定して発熱外来併設の形にしておけば、専門医や専門スタッフを集めて効率よく対応できた筈ですし、小規模な民間病院に補償金出して1桁のコロナ病床を確保させることも必要なかったし、コロナ以外の傷病も含めた救急搬送の混乱も防げた可能性があります。この夏は車で出かけると1日最大5回程度救急車に遭遇してましたけど、防げた可能性がある訳です。こうした医療リソースの分配問題も社会的には重要な問題です。尚、補償金を受け取ってベッドを空けていた民間病院に対する批判がありますが、空けとかないと受け入れられない訳ですから無意味な批判です。つまりリソースの分散で選択と集中に反して非効率になっていた訳です。

という具合に分配といっても視点を変えれば様々な問題が見えてくる訳で、分配問題の奥深さですし、成長しないと分配できないってのがウソってことも良くわかります。前エントリーでは経済学の三面合一の原理から説きましたが、分配と支出の2つの恒等式はテンプレとしてなかなか便利なので使いまわしたいと思います。

例えば消費を増やすために雇用者報酬を増やすことは大事ですが、労使間で決める賃金を国が政治的に介入できるのかということはあります。例えば岸田首相が掲げる賃上げ企業に対する減税ですが、分配の恒等式で言えば補助金を餌に雇用者報酬を増やすということになりますが、雇用調整助成金の企業による着服に見られるように、間接的に企業を助ける政策では効果は限られます。加えて言えばそもそも法人企業の7割は収支面で法人税減免レベルですからこの面でも無意味です。

という具合に政策の実効性も見ることができる訳です。その意味で選挙戦で喧伝される給付金の効果には疑問を持っておりますが、繰り返し給付金を実施したアメリカで景気が上向いていることもまた確かですが、日本で再現性があるかどうかは必ずしも自明ではありません。政策として雇用者報酬を増やす効果が期待できるのは最低賃金の引上げぐらいです。これに関しては必ず「企業が雇用を減らすから逆効果」とか「中小企業が廃業に追い込まれる」といったことが言われますが、それに関してノーベル経済学賞で面白い結果が出ています。

ノーベル経済学賞に米の3氏 最低賃金の影響検証 カード氏ら、データ分析生かす:日本経済新聞
アメリカの各州で最低賃金上げた州と上げなかった州でファストフード店を対象に雇用の増減を調べた結果、雇用減少は見られなかったという実証研究ですが、面白いのは州毎の制度の違いで疑似的に実験的な比較が可能になったことを利用したデータ分析で「自然実験」と呼ばれる手法を確立したことが受賞の理由ということです。単純な数値の比較ではなく、より強いエビデンスが得られるようになったことと共に、従来理論的に暗黙の前提のように扱われた見方が覆された訳です。

ということで最低賃金上昇は政策としての有効性があると判断して差し支えない訳で、加えて今の日本のように労働組合が空洞化、弱体化して十分機能していない場合、国の政策として意味のあることと捉えることが可能です。そしてアメリカでは起きている給付金による景気回復ですが、トランプ政権のときから繰り返し行われてきたこともあり、職を失った多くの人を救ったことに留まらず、手元資金が厚くなった失業者が仕事を選ぶようになったことで、低賃金で重労働とか接客を伴うコロナ感染リスクの高い職種とか、所謂エッセンシャルワークほど求人難となり賃金が高くなる傾向が出てきているという点ですね。

ロスアンジェルス港やロングビー港の滞貨による沖合待機も港湾労働者の不足が原因ということで、世界規模の海運の目詰まりの原因にすらなっている訳です。ただこれはアメリカのように繰り返し大規模の給付金を実施した結果ですから、実現しても単発で終わりそうな日本の給付金で同じことが起きる可能性は低いですが。

あと重要な視点としては固定資本を敢えて減損処理して資本装備を減量化することで、固定資本減耗を圧縮できればその分が分配の原資に回せる訳ですが、当然必要不可欠な固定資本の減損は問題があるものの、個別に何が必要で何が不要かについては議論が必要です。こうした議論をリードするのも本来は言論の府である国会の役割なんですが、自公政権の国会軽視で果たせていません。例えばこれ。

再エネ「最優先に導入」 基本計画、原発議論深まらず:日本経済新聞
一応管政権の脱炭素政策を継承して策定されたエネルギー基本計画が閣議決定されましたが、実効性が乏しく、特に原発の扱いが曖昧なため、実現可能性が疑われています。これも繰り返し述べてますが、大手電力が実質保有する送電網では、稼働していない原発に先発権が認められていて、再生エネ電力の接続を申請するとそれに伴う送電線容量増加投資を原因者として負担を求められ、小規模な再エネ事業者は事実上締め出されている現実があります。日本の再エネ電力のコスト増は主にこれが原因なんですね。既に発電コスト自体は石炭や原子力よりも太陽光が下回っているのに活用できない状況がある訳ですね。原発温存のための余分なコストって訳です。これ固定資本減耗の圧縮に使えますよね。原発関連ではこれも。
LNG、備蓄能力に限界 国内2週間分で輸入増やせず 厳冬なら在庫払底も:日本経済新聞
LNGに関しては中国の爆買いや東南アジアの需要増もあってかつて日本が独占してきた市場環境とは異なりますが、加えて今年は夏の冷房需要の低下と原発再稼働でLNG火力の稼働率が下がった結果、在庫が減らないから冬に備えた在庫の積み増しが出来ないということになっており、冬に向かって不安が増しています。LNGは長期保管するとガス化してしまうので大量の在庫を持ちにくいのですが、中国など大陸国は国内の枯渇ガス田に貯蔵することで問題をクリアしており、それが出来ない日本が不利な状況に置かれている訳です。冬の電力逼迫が繰り返される可能性がある訳です。これも原発温存のコストと捉えられますから、原発を動かすのと止めるのとどちらが国民の経済厚生が高まるかという議論が欠かせません。

しかし山手線の運休現場行きたかったなあ^_^;。

| | | Comments (0)

Saturday, October 16, 2021

分配の経済的な意味

岸田新総理の施政方針演説に有権者の失望が広がっているようです。元々低かった内閣支持率が下がり、与党にとっては誤算でしょうけど、それでも野党の選挙協力が道半ばの今のうちということですね。終わらないアベノミクスで指摘したように。誰が選ばれても同じという現実が早くも明らかになった訳です。特に分配重視を掲げていた筈の岸田氏が「成長なくして分配なし」と言って前言を翻したことは野党からの指摘を待つまでもなく国民に深く印象付けられました。

そもそも分配の意味が分かってんのかな?という疑問が湧きます。経済成長というのはマクロ経済指標のGDPの拡大を意味しますが、GDPは生産の指標であり、算出には産業別の政府統計から産業連関表に基づいて重複部分を取り除くというややこしい計算をする訳ですが、マクロ経済学では三面合一の原則というのがありまして、生産と分配と支出はイコールとなるという原則です。故に分配と支出を定義する2つの恒等式からGDPを推計することも可能な訳です。実際速報値などで活用されます。

分配:GDP=雇用者報酬+営業余剰+固定資本減耗+間接税-補助金
支出:GDP=消費+政府支出+設備投資+在庫投資+輸出-輸入
分配は企業会計と同じ仕組みで、雇用者報酬は人件費、固定資本減耗は減価償却費、間接税は消費税などの物品税の他にも固定資産税などの資産税、印紙税などの取引税、事業税など幅広く企業が担税者となる税一般を指します。但し補助金や税控除などを受けている場合はそれを引く必要があります。そしてそれらを引いた残余が営業余剰です。企業で言えば最終利益に相当するもので、元々GDPが1国で生み出された付加価値の合計で、これは企業の営業総利益(粗利)の相当する訳ですから、企業会計の原理で分配の実相を示すことになります。

支出の方は所得と言い換えた方がわかりやすいですが、生産によって生み出された付加価値がどう使われたかを示します。消費は最終消費支出、所謂個人消費を意味しますが、先進国では多少のばらつきはあるもののおおむね6割程度あり、残りは貯蓄に回ります。つまり家計に視点を合わせた分析となる訳ですが、貯蓄は金融仲介を経て政府支出や企業の投資活動に使われる一方、国内で消費できない分は貿易を通じて外国との間で調整されます。つまり右辺の第2項位以降は貯蓄でまとめられ、貿易黒字は生産に対しての過少消費を、貿易赤字は過剰消費を意味します。

ザックリ言えば雇用者報酬と消費には深い相関があるというのは直感的に理解できると思いますが、故に分配重視は消費低迷の日本の現状から導き出される最重要な課題ということは自明でしょう。そして分配をいう場合、必ずと言っていいほど成長して分配の原資を得るということが言われますが、人口問題を取り上げた過去エントリーで書いたように、2002-2008年のGDP+2.7兆円に対して雇用者報酬-1.5兆円、固定資本減耗+1.5兆円ということで、リーマン前の景気回復基調の時代ですが、雇用者報酬が減って固定資本減耗が増えて、成長の果実は残余である営業余剰にすべて取られている訳ですね。この傾向はアベノミクス時代も基本的に変わりません。

つまり分配自体に歪みが認められる訳で、これを是正することが必要なんです。加えて言えば2009年と2020年にはマイナス成長となった訳ですが、前者はリーマンショック後の低迷、後者はコロナ禍で流石に営業余剰は減少したものの、それ以上に雇用者報酬は減っている訳です。これも非正規雇用者の雇い止めや正社員の希望退職、企業倒産や廃業による失業など複数の経路がある訳ですが、今回のコロナ禍ではそれに留まらず雇用調整助成金を受け取った企業による助成金の着服も幾つか報告されております。

具体的には支給された助成金よりも従業員への休業補償が少ない事例ですが、これ上記の分配の恒等式に照らせば、本来雇用者報酬と相殺関係にある補助金の一部が企業に内部留保されたことを意味しますので、その分営業余剰が増えている訳ですね。典型的な焼け太りですが、こうしたことが許容される制度自体に問題がある訳です。しかし政権からは11月に期限を迎える特例給付の延長だけで、問題点を洗い出して改善する意志は見られません。加えて本来失業給付に使われる筈の雇用保険料の積立金の取り崩しで積み立て不足となり、雇用保険料の改定が検討されております。社会保険料は消費税以上に逆進性が高い訳ですが、消費税で騒ぐならこちらの方が問題です。

結局分配の問題は制度上の歪みをどう是正していくかという議論になる訳ですが、こうした議論が与野党ともに希薄なのが気になります。またメディアがこうした問題を指摘しないから「成長なくして分配なし」みたいなツッコミどころ満載なフレーズを何の衒いもなく政治家が口にする訳ですね。

他方減耗する固定資本エントリーで指摘したように、公共と民間とを問わず投資はある程度活発に行われている訳ですが、その結果固定資本が増えるとその維持費となる固定資本減耗は増える訳です。つまり投資主導の経済成長は分配を圧迫する要因となる訳で、そうなるとますます雇用者報酬に回せる原資が減る訳ですね。つまり「成長なくして分配なし」は大ウソってことです。私がリニアに疑問を持つ理由の1つでもあります。

生産年齢人口の減少に伴って主張される生産性向上も要注意です。生産性の指標とされる全要素生産性(TFP)はGDP成長率を設備投資などの資本要因と労働力の投入量という労働要因で説明される部分を控除した残余であって直接計測は不可能です。あくまでも成長の結果の残余なので、コロナ禍のような経済減速下では意味のない話です。確かに資本と労働には一定の代替性が認められ、故に省力化投資で労働人口の減少を補う余地はあるのですが、資本の増強は維持費の増加を伴うので、一部で言われるシンギュラリティで汎用AIが実現すれば人類は労働から解放されるってのもウソッパチってのがわかります。労働によって賃金を得られないのに維持費は負担せよってディストピア以外の何物でもありません。

話が拡散してきましたのでまとめますが、豊かさを維持するための省力化投資によるある程度の資本による労働の代替は必要ですが、それは慎重に進められるべきことであって、成長のネタじゃないってことです。そんなことを考えたのはこのニュースに接したからですが。

JR東日本の変電所火災、機器トラブルが原因か:日本経済新聞
JR東日本蕨基幹変電所の火災で長時間運休が起きました。日曜日だったこともあって混乱は限定的だったとはいえ、駅間に停止した列車内で長時間閉じ込められた人も相当数いた訳ですが、メディアでは復旧の遅さや情報提供の的確さなどに報道の重点があったよう見見受けられ、乗客を線路に降ろして徒歩避難をもっと早くすべきだったとか、電車にバッテリーを搭載して最寄り駅まで運行継続できなかったかという視点は見られましたが、そもそもJR東日本の電力トラブルは今回が初めてじゃなく、過去にも繰り返されてきたことを取り上げた報道は無かったように思います。

JR東日本の電力トラブルは結構頻繁に起きてまして、直流饋電区間境界のエアセクションに絡む事故では2015年8月4日の桜木町での事故では断線した架線が車両に触れで火災まで起きています。みなとみらい祭当日ということで大きな影響が出ました。また2006年には東京駅地下の変電所でブレーカーのトラブルで火災が起き、京葉線が長時間停まって振替輸送で地下鉄東西線が大混乱した事故もあります。そして2015年3月15日の高崎線籠原駅構内の火災事故では、碍子の劣化で動力用のDC1,500V電流が漏電したもので、不幸なことに高崎線の運転上の重要拠点の籠原駅構内だったこともあり、復旧が遅れ3日後に再開というトラブルです。

他にも多数あってJR東日本のに集中している理由ですが、これは日常的に大電力を扱うが故の問題と考えられます。特に籠原の事故では直接の原因は碍子の劣化だったんですが、絶縁不良で架線を吊るビームを通じて架線柱から地絡したと考えられますが、鉄製の架線ビームからコンクリートの架線柱を経てとなると相応に電気抵抗の大きい経路で地落した訳ですが、とにかく同じ饋電区間で15連2列車が同時に力行すれば10,000Aを簡単に超えてしまう大電流を扱っているため、異常電流を検知して回路を遮断するブレーカーが働かないし、メーター目視の係員の目にも異常が見えないという不幸な偶然が重なったということで、首都圏輸送を担うJR東日本がDC1,500Vの饋電システムを用いる限り避けられないトラブルではあります。路線立地の特性と過大な社会的役割がもたらしたトラブルということができます。

また東京地下駅の変電所火災ですが、元々変電所などの電力系設備は省力化が進んでいて通常無人で稼働している訳ですが、その分トラブルが起きた時の対応遅れの可能性はある訳で、逆にそれ故に火災時の延焼を防ぐ防火システムが組み込まれ、正常に作動した為に人が入れず消火活動に支障して復旧を遅らせました。動力用電力の制御はJR東日本にとっては大きな課題なんです。

蕨基幹変電所は東電からの受電設備を持ち他の変電所へ分配する役割を担っていたため、当初広域で運行停止に追い込まれましたが、他変電所は順次別系統に切り替えて運行再開したものの、直接饋電区間の京浜東北線赤羽―大宮間他の再開が遅れた訳です。そして人が侵入したりサイバー攻撃を受けた痕跡はなく、機器トラブルと見られるというのが現時点で分かっていることです。

一つ考えられるのが7日夜の地震の影響です。震源地から少し外れた埼玉が震度5強で震源地より揺れが激しかったことから、その影響は考えられます。また籠原事故のように元々巨大すぎる上に負荷も大きい饋電システム故に機器の劣化や日常点検での見落としの可能性もありますし、マンパワー的に補修が間に合わない可能性もあります。車載バッテリーに関してはE235系から搭載されるようになっており、置き換えの終わった山手線はとりあえず安心です。横須賀線・総武快速線はE235を選んで乗るか^_^;。

| | | Comments (2)

Sunday, October 10, 2021

コロぶナ日本

コロナの新規感染者数が減少に転じ、緊急事態宣言も解除されましたが、病床使用率も重症者数も高水準にあり、また冬に向かって感染再拡大の心配もあり、警戒は続けざるを得ません。そんな中で総裁選で述べたコロナ対策を早期に実現するなら、予算委員会開いて補正予算と関連法を通せば良さそうなものを、首班指名と代表質問が終わったら解散総選挙で、しかも投開票日を最大限前倒しして10?31だそうで、選挙結果如何に拘わらず事後の招集される国会でまた首班指名と代表質問を繰り返す訳で、コロナ対策はいつまでも実現できません。

メディアの政局報道では支持率が高い裡にとか言われますが、支持率は50%程度と低く、しかも株価まで下げて岸田ショックと言われる始末。それでもコロナの新規感染者数が減少に転じた今が選挙のチャンスという訳ですね。どこまでも自分たちの都合で動く自公政権です。当然こうした中で体制が整わないうちに開催されるCOP26への備えは穴だらけということで、さてどんな批判を浴びるでしょうか?

100年に2度の目標が対策しなければ4℃上昇のところをせめて2℃という妥協の産物という点は前エントリーでも触れましたが、正確には既に現時点で産業革命前から1℃の温度上昇が実現している訳で、許容範囲はあと1℃ということです。同時に1℃の上昇でも既に異常気象が日常的に観測され、旱魃や風水害の被害が顕在化している訳で、2℃目標の達成でも厳しい現実は変わらないし、まして4℃、IPOOの最新のシミュレーションによる4.4℃上昇がいかに地獄かは想像を絶します。しかしそれに直面するのは20歳未満の若者たちということで、その意味でグレタさんの怒りは正当なものです。大人たちはどうすべきか真剣に考える必要があります。

真鍋氏「研究、ただ心から楽しんだ」 米大で記者会見:日本経済新聞
ノーベル物理学賞を受賞した真鍋氏がただ好奇心から没頭した研究が気候モデルの数理解析で、現在のIPCCの議論の下敷きになっておりますが、氏曰く「コンピューターを使いたいだけ使え、好きな研究ができた」と日米の研究環境の違いに言及する一方「私にとってはノーベル平和賞」と述べ、気候変動で苦しむ人々の救済を訴えています。ただ好奇心から始まった研究で大きな政治的影響力をもたらしたことへの率直な感想です。

研究者の海外流出は昔からあった訳で真鍋氏の場合協調性を求められる日本の学界が苦手だったようですが、更に政府による科研費の圧縮で研究者は研究費の確保に煩わされてますます研究環境を悪化させている訳です。しかも「役に立つ研究」が重視され好奇心に基づく基礎研究はないがしろにされております。これ例えば水俣病を告発した医師が村八分に遭ったように「役に立つ」の中身は結局マネタイズ可能かどうかにある訳で、その意味では真鍋氏のような研究は歓迎されないという点では今も昔も変わらないのかもしれませんね。人文科学軽視も同じ文脈です。

というかコロナ禍でのオリパラ開催強行に見られるように、そもそも科学軽視なのかもしれません。この夏の感染拡大を見ると明らかにオリパラ開催期間に新規感染者数も病床使用率も上昇しており、無関係と強弁されてますがおかしな話です。スポーツ関連ではこんなニュースも。

F1日本GP、2年連続で中止 関係者入国確実にならず:日本経済新聞
欧州中心に開催されるF1サーカスですが、豪、シンガポールなど欧州以外の開催地は軒並みコロナ禍の影響を受けて中止が相次ぎます。入国後2週間の自主待機となると殆どにチームは日本に来れないということですね。厳格な検疫を重視するならオリパラは開催すべきではなかったってことです。五輪は良くて四輪はアウトというヨタも囁かれましたが^_^;。そして地震です。
地震で日暮里・舎人ライナー脱輪 女性2人が転倒し軽傷:日本経済新聞
水平の案内輪で左右の誘導板に沿って走行するAGTで脱線?という疑問は報道写真で解けました。ポイント部で起きたものですが、標準AGTでは四輪操舵でポイントは分岐部の案内板を少しだけ動かして先頭部の案内輪を誘導してセルフステアリングする仕組みなので、ポイント部に誘導板のない区間が存在します。この事故では舎人公園駅の出発側で副本線からの合流があり、地震発生を受けて地上職員による非常停止ボタン押下で急停止した結果、たまたま先頭車がポイント部にあって走行路を外れたということのようですね。

これは同時にドライバレスのAGTだから起きた事故ということも言えます。急停止のタイミングが悪かったと言えばそれまでですが、通常の鉄道ならば運転士の判断で安全に停止させることは可能ですが、ドライバレスだとそれがないってことです。自動ウン転エントリーの続きの議論になりますが、鉄道におけるドライバレスの実現のハードルは高いってことです。

そしてゴムタイヤ走行のAGTの脱線は同時に低速域でゴムタイヤ走行する超電導リニアの問題にも波及します。垂直方向の支持輪と水平方向の案内輪の組み合わせとなる原理はAGTと変わりませんが,U字型ガイドウエーに収まるリニアでは同様の脱線はないものの、浮上走行を前提に支持輪も案内輪も浮上走行時には折り畳んで収納される仕組みです。地震による緊急停止時に電力供給が止められフラップによる空力ブレーキで減速し収納していた支持輪案内輪を出して着地する仕組みです、高速走行からの着地ですからそれ自体大きな衝撃を受ける可能性があり場合によっては破損も有り得るでしょうし、支持輪案内輪が出てこないで直接着地もあり得ます。その場合に備えて鉄製のローラーがついていますが、相当大きな衝撃があるでしょう。そう考えると活断層だらけの危険地帯を走るリニアは正直乗りたくないですね。そしてオマケ。

消毒用アルコールを検知 JR西日本、ロッカーで漏れる:日本経済新聞
JR東海は運転士の体調不良でも列車を停めなかったけど、JR西日本は乗務予定の運転士と車掌のアルコール検知で一部運休の判断をしました。結果は消毒用アルコールの誤検知だった訳ですが、安全側に判断したJR西日本の対応は褒められるべきでしょう。

| | | Comments (0)

Sunday, October 03, 2021

COP26の中の嵐の予感

ドイツ総選挙で社会民主党(SPD)が第1党となり、現与党キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)、緑の党、自由民主党(FDP)の順となり、連立協議は難航が予想されています。予想通りに緑の党は躍進したものの、その結果連立協議を難しくしている面があります。最も有力とされるSPD、緑の党、FDPの組み合わせでは環境対策に重点を置く緑の党と市場主義的なFDPが組めるのか?という問題があります。ちなみにこの組み合わせ、各党のシンボルカラーから「交通信号」と呼ばれています^_^;。

選挙戦ではスウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさんが演説したりして気候変動問題への関心を高めましたが、欧州では洪水や熱波などの異常気象の被害が広く認識されており、有権者の関心も高い訳ですが。同じころアジアの某日本国では、自民党総裁選とかいう内輪の祭に興じて「ぼくがかんがえたさいきょうのこっか」を競うものの、気候変動問題への言及はほぼなく、関心の低さが見えています。これはメディアにも責任がありますが。

そして10/4の臨時国会召集で首班指名し岸田新首相が組閣して新政権を発足させ施政方針演説とそれを受けた各党の代表質問をこなし会期末の14日に衆院解散して総選挙という段取りですが、忘れてならないのが10/31から英グラスゴーで始まるCOP26が選挙期間と被ることです。なるほど日本の政治家たちは人類共通の課題よりも自分たちの立場の維持を優先させる訳ですね-_-;。

2015年のCOP21で締結されたパリ協定に基づき締結各国が目標を定め出揃った今回は、目標の評価へと歩を進めます。つまり各国が自国のロードマップを示し進捗を報告し、それを他国の評価に晒す訳です。つまり目標と進捗のツッコミ合戦の始まりとなる訳ですが、エネルギー基本計画で明らかにした電力構成でもツッコミどころ満載の日本が火だるまになることは目に見えています。

ちょっとおさらいですが、2012年に期限を向かえる京都議定書の後のポスト議定書の議論で日本が示したのが2005年比15%削減の目標でしたが、それでは不十分として国際的に非難を浴びました。当時の議論のベースとなったIPOOのシミュレーションでは、このまま対策をしない場合の世界の平均気温の上昇が2100年には産業革命前プラス4℃となるので、これを半分の2℃に抑えるということで、当時は過去の排出による環境悪化の責任ということで先進国だけに削減義務を割り当てるということで、日本には少なくとも90年比25%の削減が求められている中での話だった訳です。この辺はエコだましエントリーでも取り上げました。

ちなみにIPOOの最新のシミュレーションでは対策しない場合の気温上昇は4.4℃とされており、やや悪化しております。これはデータが増えたことで精度が増した面と、実際に排出が増えた面と双方が影響したものですが、今上昇はカナダやシベリアが温帯化する一方現在の温帯域は熱帯化して砂漠化するなど経済面での大きなダメージをもたらしますし、シベリアの永久凍土の解凍で未知のウイルスが環境中に放出され新たな感染症をもたらす可能性とか、病原性ウイルスの熱耐性が高まり代謝を高めて体温を上げてウイルスを弱らせる人体の免疫力の低下など影響は多岐に亘ります。

その後2009年の総選挙で民主党政権が成立し、2009年のCOP15コペンハーゲン会議で踏み込んだ目標を示したものの具体策に乏しく、3.11以後は原発稼働停止による火力発電依存が避けられないとポスト議定書から脱退しました。ちなみに京都議定書の6%削減目標はクリアしていましたが。民主党政権では炭素税に相当する温暖化対策善が既存の石油石炭勢に上乗せする形で導入されたものの、税率が低く実効性は殆どありません。財界の反対が大きかったという事情はあるにせよこの中途半端な腰砕け的日和見で日本の気候変動問題への関心は低いままですし、再生エネ導入のための固定価格買取制度も詰めが甘く既得権として悪用されました。

また発送電分離を目指した電力改革でも分社した別法人ならオーケーという緩い法的分離の結果、大手電力会社の市場支配力は温存され、結果九電ショックが起きる訳です。これも繰り返し述べてますが、大手電力としては自社の原発や大規模石炭火力などの大規模電源の接続を優先し、他社が電源接続を希望する場合は原因者たる発電事業者に送電線容量増加投資負担を求めるものです。

さらに先発権を盾に稼働していない原発とそのバックアップ電源の筈の石炭火力の双方の合計出力分の枠を押さえている訳で、実際は物理的に空きがあっても接続拒否される建付けとなっております。加えて例えば太陽光発電の累計出力合計で接続の可否を見ることで接続拒否している訳ですが、そもそも立地や気候によって出力が変動する太陽光がフル稼働になることはあり得ず、せいぜい7-8割程度が上限です。つまり送電線の運用が圧倒的に大手電力に有利な形になっている訳ですね。

そして安倍自公政権では電力容量市場の立ち上げという大手電力に有利な仕組みを作りました。これは予想される電力需要に対して各発電事業者に出力容量を申告させ入札することで電力の安定供給に資するという触れ込みですが、出力が不安定な再エネ排除の仕組みでしかありません。曲がりなりにも50年カーボンゼロを謳う日本政府の本気度が知れます。

これも繰り返しになりますが、電力の安定供給を狙うなら蓄電こそが王道です。化石燃料電力の比率を下げるには再エネと省エネが2本柱であって、蓄電はその双方にとって有力な技術となります。蓄電池の性能改善は著しいですが、一方で素材となるリチウムやコバルトなどの獲得合戦で途上国の強制労働や児童労働が問題視されている現実もあります。また容量の大きい蓄電池は発火事故の可能性もありますし、容量を増やせば質量が嵩みますから厄介なところですが、家庭用電力に限って言えばEVのバッテリーの活用が1つの解になります。

一方で地域にマイクログリッドをベースとした仮想発電所(VPP)では余剰電力で電気分解した水素を貯蔵し必要に応じて燃料電池で出力することで出力調整するのが現実解ですね。所謂エネルギーの地産地消ですが、同時に余剰電力を系統送電網へ供給することでVPPとしての機能を果たす訳です。それによって電力料金の低減に留まらず地域に現金収入をもたらす可能性もある訳で、国の交付金に頼るより確実な地方活性化策になります。

この意味からも小型モビリティとしての乗用車はバッテリーEV、蓄電池重量が嵩みバランスが悪い大型トラック・バスや鉄道車両には燃料電池という棲み分けが目指すべきモビリティの未来ということになります。脱炭素で注目される水素ですが、自動車メーカーが開発をリードした日本の現状はガラパゴス化の気配が見えます。

最後にカーボンプライシングに関してですが、炭素税と排出量取引の2つの方法論がある訳ですが、制度のシンプルさで言えば炭素税に軍配が上がります。但しその際に既存の石炭石油税と温暖化対策税との関係を整理する必要がありますが、ほぼ100%輸入頼みの日本のエネルギー事情に鑑みれば石炭石油税に上乗せする形を基本として実際に加工や消費で排出される段階での課善と組み合わせる形で数千円/tぐらいから始めて段階的に引き上げていくというのが現実的な方法でしょう。

その際に道路財源に充てられる部分に関しては現状維持として炭素税の間接税としての性格から、逆進性緩和策として税収増分は社会保障財源として国民の還元することが望ましいところです。財政悪化で圧迫されている社会保障財源の確保の意味でも望ましいし地齋欧州の炭素税導入国ではそうしています。実質的に大量排出する企業にストレスを与えて排出削減のインセンティブとすると同時に法人善減税で厳しい財政を助ける意味もある訳です。

一方道路財源の温存は潤沢すぎる道路財源問題の温存につながりますが、排出削減の視点から公共交通の補強策としての支出によって排出削減を図る余地はある訳で、鉄道の基盤整備などへの支出が認められるような法改正が望ましいところです。

という訳で、来る総選挙でこういった議論が与野党で展開されるなら良いのですが、例えば脱原発を打ち出す立憲民主党からして連合の集票力に頼らざるを得ない中で、連合の有力単産である電力労連は原発再稼働を肯定してますし、実際民主党政権は福島第一原発事故のときも電力自由化のときも足を引っ張られました。一方脱原発を打ち出す共産党は産業別労組の立ち上げを政治的理由から邪魔した過去があります。つまり大企業正社員クラブで労働運動を停滞させた連合と、その連合と犬猿の仲ながら労働運動をつぶした過去を持つ共産党に頼らなければならない立憲民主党の立ち位置は端からハンディキャップマッチなんですね。それ以前に脱炭素政策の軸を示す必要はありますが。

| | | Comments (0)

« September 2021 | Main | November 2021 »