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Sunday, October 24, 2021

分配の社会的な意味

コロナの新規感染者数が減少し結構な事なのですが、原因は不明ということで、ワクチンの効果とも自粛の効果とも言われておりますが、考えられるのは、デルタ株の感染力の強さ故に感染が一巡した可能性もあります。あれほど非難されながら強行したオリパラ開催のときに新規感染者数がピークだったことと、その後東京ではピークアウトした一方、地方への飛び火が続いたことで、警備のために大動員された全国の警察官が地方へ戻ったこと、同じくボランティアが戻ったこと、加えてお盆期間の帰省が重なったことなどで説明できます。

そして感染拡大とワクチン接種が並行して進んだ結果、疑似的に集団免疫状態が作り出されたということは考えられます。とはいえそれは逆にウイルスの変異の機会が増えたことを意味しますから、より免疫回避能力を増して感染拡大局面に至る可能性は残っております。ワクチン接種後の抗体減少も報告されておりますし、実際ワクチン接種者のブレークスルー感染も報告されております。接種時期が早かった医療関係者や高齢者は要警戒です。ウィズコロナは続いているということです。ってことでこの週末2日間の山手線渋谷駅ホーム拡幅に伴う線路切替工事で内回り線池袋―大崎間の運休の現場確認したかったけど自粛することにしました。

てことで選挙戦では給付金や賃上げなどが各党で打ち出されておりますが、例えば給付金に関しては対象や金額に違いはあっても全額国債を財源とする給付という意味では各党の違いはないんですから、選挙後速やかに国会で審議して妥協点を見つけて実行できる筈ですね。そうならないなら選挙向けのリップサービスだったってことですね。その一方日本の保険医療制度の問題点も明らかになりましたが、取り上げたいのはこのニュースです。

公的病院のコロナ病床2割増、法に基づき初の要求へ:日本経済新聞
法的に可能なのになぜ今までやらなかったのか?更に言えば病院丸ごとコロナ専門病院に指定して発熱外来併設の形にしておけば、専門医や専門スタッフを集めて効率よく対応できた筈ですし、小規模な民間病院に補償金出して1桁のコロナ病床を確保させることも必要なかったし、コロナ以外の傷病も含めた救急搬送の混乱も防げた可能性があります。この夏は車で出かけると1日最大5回程度救急車に遭遇してましたけど、防げた可能性がある訳です。こうした医療リソースの分配問題も社会的には重要な問題です。尚、補償金を受け取ってベッドを空けていた民間病院に対する批判がありますが、空けとかないと受け入れられない訳ですから無意味な批判です。つまりリソースの分散で選択と集中に反して非効率になっていた訳です。

という具合に分配といっても視点を変えれば様々な問題が見えてくる訳で、分配問題の奥深さですし、成長しないと分配できないってのがウソってことも良くわかります。前エントリーでは経済学の三面合一の原理から説きましたが、分配と支出の2つの恒等式はテンプレとしてなかなか便利なので使いまわしたいと思います。

例えば消費を増やすために雇用者報酬を増やすことは大事ですが、労使間で決める賃金を国が政治的に介入できるのかということはあります。例えば岸田首相が掲げる賃上げ企業に対する減税ですが、分配の恒等式で言えば補助金を餌に雇用者報酬を増やすということになりますが、雇用調整助成金の企業による着服に見られるように、間接的に企業を助ける政策では効果は限られます。加えて言えばそもそも法人企業の7割は収支面で法人税減免レベルですからこの面でも無意味です。

という具合に政策の実効性も見ることができる訳です。その意味で選挙戦で喧伝される給付金の効果には疑問を持っておりますが、繰り返し給付金を実施したアメリカで景気が上向いていることもまた確かですが、日本で再現性があるかどうかは必ずしも自明ではありません。政策として雇用者報酬を増やす効果が期待できるのは最低賃金の引上げぐらいです。これに関しては必ず「企業が雇用を減らすから逆効果」とか「中小企業が廃業に追い込まれる」といったことが言われますが、それに関してノーベル経済学賞で面白い結果が出ています。

ノーベル経済学賞に米の3氏 最低賃金の影響検証 カード氏ら、データ分析生かす:日本経済新聞
アメリカの各州で最低賃金上げた州と上げなかった州でファストフード店を対象に雇用の増減を調べた結果、雇用減少は見られなかったという実証研究ですが、面白いのは州毎の制度の違いで疑似的に実験的な比較が可能になったことを利用したデータ分析で「自然実験」と呼ばれる手法を確立したことが受賞の理由ということです。単純な数値の比較ではなく、より強いエビデンスが得られるようになったことと共に、従来理論的に暗黙の前提のように扱われた見方が覆された訳です。

ということで最低賃金上昇は政策としての有効性があると判断して差し支えない訳で、加えて今の日本のように労働組合が空洞化、弱体化して十分機能していない場合、国の政策として意味のあることと捉えることが可能です。そしてアメリカでは起きている給付金による景気回復ですが、トランプ政権のときから繰り返し行われてきたこともあり、職を失った多くの人を救ったことに留まらず、手元資金が厚くなった失業者が仕事を選ぶようになったことで、低賃金で重労働とか接客を伴うコロナ感染リスクの高い職種とか、所謂エッセンシャルワークほど求人難となり賃金が高くなる傾向が出てきているという点ですね。

ロスアンジェルス港やロングビー港の滞貨による沖合待機も港湾労働者の不足が原因ということで、世界規模の海運の目詰まりの原因にすらなっている訳です。ただこれはアメリカのように繰り返し大規模の給付金を実施した結果ですから、実現しても単発で終わりそうな日本の給付金で同じことが起きる可能性は低いですが。

あと重要な視点としては固定資本を敢えて減損処理して資本装備を減量化することで、固定資本減耗を圧縮できればその分が分配の原資に回せる訳ですが、当然必要不可欠な固定資本の減損は問題があるものの、個別に何が必要で何が不要かについては議論が必要です。こうした議論をリードするのも本来は言論の府である国会の役割なんですが、自公政権の国会軽視で果たせていません。例えばこれ。

再エネ「最優先に導入」 基本計画、原発議論深まらず:日本経済新聞
一応管政権の脱炭素政策を継承して策定されたエネルギー基本計画が閣議決定されましたが、実効性が乏しく、特に原発の扱いが曖昧なため、実現可能性が疑われています。これも繰り返し述べてますが、大手電力が実質保有する送電網では、稼働していない原発に先発権が認められていて、再生エネ電力の接続を申請するとそれに伴う送電線容量増加投資を原因者として負担を求められ、小規模な再エネ事業者は事実上締め出されている現実があります。日本の再エネ電力のコスト増は主にこれが原因なんですね。既に発電コスト自体は石炭や原子力よりも太陽光が下回っているのに活用できない状況がある訳ですね。原発温存のための余分なコストって訳です。これ固定資本減耗の圧縮に使えますよね。原発関連ではこれも。
LNG、備蓄能力に限界 国内2週間分で輸入増やせず 厳冬なら在庫払底も:日本経済新聞
LNGに関しては中国の爆買いや東南アジアの需要増もあってかつて日本が独占してきた市場環境とは異なりますが、加えて今年は夏の冷房需要の低下と原発再稼働でLNG火力の稼働率が下がった結果、在庫が減らないから冬に備えた在庫の積み増しが出来ないということになっており、冬に向かって不安が増しています。LNGは長期保管するとガス化してしまうので大量の在庫を持ちにくいのですが、中国など大陸国は国内の枯渇ガス田に貯蔵することで問題をクリアしており、それが出来ない日本が不利な状況に置かれている訳です。冬の電力逼迫が繰り返される可能性がある訳です。これも原発温存のコストと捉えられますから、原発を動かすのと止めるのとどちらが国民の経済厚生が高まるかという議論が欠かせません。

しかし山手線の運休現場行きたかったなあ^_^;。

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