« October 2021 | Main | December 2021 »

November 2021

Saturday, November 27, 2021

汗っかきと油売りのニューノーマル

2014年の汗っかきと油売りと2015年の汗っかきと油売りと戦争では主にシェール革命による原油価格の低位安定のj時代の話だったんですが、ここへ来て原油価格の上昇で変調が起きています。その結果石油備蓄の放出が決まりました。

首相、石油備蓄放出を表明 「価格安定は経済回復に重要」:日本経済新聞
要因はいろいろありまして、米シェールによるオイル生産が価格抑制に働くことに対抗するためにOPECにロシアを加えたOPECプラスの枠組みで協調減産しても足並みが揃わなかったりして、現状でも協調減産の解除過程で緩やかな増産体制が取られている中での価格上昇で、産油国側としてはこれ以上の増産はしたくないし、寧ろ消費国の石油備蓄放出に対抗して増産を止める対応を示唆しており、原油価格は寧ろ上昇しております。

石油備蓄放出の言い出しっぺはアメリカですが、これだけ原油価格が上昇してもシェールの産出量が増えていない訳で、1つはバイデン政権の環境重視の姿勢から環境規制が厳しくなったことと、金融界のESG投資のトレンドで資金が集まらなくなったことで、増産体制が組めないということです。後者は産油国も事情は同じで、現在の緩やかな増産以上の対応は取れないというのが言い分です。勿論できるだけ高く売りたい意思はあるでしょうけど。

尚、ESG投資は緩和マネーによるカネ余りを背景としたブームの様相を呈しており、個別には環境投資に繋がらないものも混ざっていますが、ESG投資を謳えば低利で資金が集まるという事情もありますが、一方石油増産投資などには資金が集まらなくなっていることは間違いありません。てことで、今回の原油価格上昇はアメリカの独り相撲の気配もありますが、それに日本に留まらず中国までお付き合いというシュールな現実があります。

但しメディアで報じられる原油価格は先物価格であって、ガソリンなど石油製品への波及という意味ではタイムラグがある訳で、実際石油備蓄放出の報に対して思惑で逆に値上がりするようなことも起きる訳です。実際にはアナウンス効果しかない訳で、足許を見られれば相場は逆に動くことも不思議ではありません。てことでガソリン価格を抑えるには別の方法を取る必要があります。

政府の目論見としては、本来紛争や災害で輸入が途絶えた場合の取り崩ししか想定していなかった備蓄ですが、法定の政府90日分民間70日分を越える150日分程度の備蓄があり、法定分を超える部分の取り崩しならば法に抵触しないという判断で凡そ数日分の放出を決め、年内に入札して年度内に取り崩すというスケジュールですから、市場の値動きに対して呑気な話ですが、本当の狙いは放出分の代金を世紀湯元売りへの補助金の財源にするということのようです。つまりガソリン価格対策は年度内にやっとという話です。

元売りへの補助金ですが、自動車の燃費改善で販売量が減少している中で、合従連衡で寡占化が進み、製油所の統廃合で減損処理が進んでいる現状から言えば、元売りへの補助金が小売りへの卸値に反映される可能性はそもそも低いですし、小売りのスタンドも減少していて地域によっては競争が抑制されている中で、やはり小売価格の低下にはつながらないと考えられます。また元売りにとっては原油価格の上昇は値上げの口実でもあり、利益を得ている訳で、その元売りに補助金を出す意味はほぼありません。

一番確実なのはガソリン税に関しては暫定税率と呼ばれるリッター25.1円の上乗せ分の減免でしょう。元々道路特定財源として上乗せされたものですが、道路整備が進みいつまでも暫定税率徴収はおかしいということで民主党政権時代の2010年4月に廃止されましたが、同額の特定税率が定められ現在も徴収されています。但し一般財源化され、また3か月連続リッター160円以上の際に停止するトリガー条項が盛り込まれましたが、東日本大震災の復興財源確保の名目で凍結されています。つまり国会開いてトリガー条項の凍結解除を議決すれば、ガソリン税の減免による価格低下は確実に起こります。リッター168円が140円台になる計算です。これなら家計負担にとっては許容範囲でしょう。

過去の原油価格高騰は2008年のサブプライムショックをきっかけとする投機筋のコモディティ投資による沸騰でWTI1バレル96ドルと2014年の中国の財政出動による原油高観測から買われたWTI1バレル96ドルっですが、2014年は北海ブレントで1バレル110ドルをつけるなどして世界的に需給がひっ迫しました。2008年のそれは投資先を失った資金が向かった結果ですから翌年のリーマンショックで経済が失速して下落してます。課税の仕組みが異なる軽油や灯油に関しては別途考える必要がありますが、補助金出すなら供給側ではなく打撃を受ける需要側にこそ必要です。

今回の高騰はコロナショックからの立ち直り過程での需給逼迫なので2014年に似た地合いですが、アメリカでシェールオイル生産が本格化した結果程なくピークアウトし、2016年にはアメリカの石油輸出解禁で価格崩壊し、各国が備蓄を積み増した結果保管するタンクが満杯になってしまい、一時WTIがマイナスをつける珍事も起きました。つまり上述のようにアメリカのシェールオイルが当てにできなくなって汗っかき(消費国)と油売り(産油国)の関係が変わった訳です。これがニューノーマルという訳で、高止まりは続くと見るべきでしょう。とはいえ気になるニュースも。

WHO、新変異型「オミクロン」と命名 警戒最大に:日本経済新聞
デルタ型と同様「懸念される変異型(VOC)」とWHOが分類し、世界に警戒を呼び掛けております。オミクロン型が現いかどうかはわかりませんが欧州や韓国で感染再拡大が起きており、北半球は冬の低温機に向かっており、またラニーニャ現象で厳冬の予想があるだけにコロナ再拡大で経済失速のシナリオもあり得ます。

カギを握るのは米中でしょう。アメリカは共和党知事州でマスクやワクチンの義務化に反対して政治対立が続いており、今後感染状況が悪化する可能性がありますし、中国はなまじハードロックダウンで封じ込めに成功したためにデルタ株を含む変異型への免疫獲得が出来ていないので、何らかのきっかけで感染爆発の可能性があります。検疫緩和は日本にも飛び火の可能性を高めます。ダイヤモンドプリンセス号以来ガバガバな日本の検疫体制では不安です。

という訳でGo To 再開とか言われてますが、危険です。JRや航空にとってはまだまだ長いトンネルが続く可能性があります。

| | | Comments (0)

Sunday, November 21, 2021

少子千万!

小田急電鉄の小児運賃値下げが話題になっています。

小田急、小学生は全区間50円に 22年春からIC運賃で:日本経済新聞
小児運賃の値下げは19年から検討していて、コロナ禍による利用減が背中を押した形で来年度からの実施となりましたが、沿線人口の減少により、沿線への子育て世帯の呼び込みが狙いで、元々小児運賃の収入は少なく、値下げしても2.5億円程度の減収で済むということで踏み切った訳ですが、IC乗車券限定というところがミソです。

小児用IC乗車券は記名式ですから、個人情報が取得可能で、しかも小児単独よりも家族同伴の可能性が高い訳ですから、乗車履歴から子育て世帯の利用実態が見える化される訳で、有用なビッグデータになる可能性もあります。例えば沿線の商業施設利用の実態がわかれば家族向けイベントで集客に役立てるとかできる訳ですね。加えて親のクレジットカードと紐付けされたオートチャージ機能があればさらに深い情報も取得できます。さらに通学定期券の値下げも検討中ということで、そうなると私立中学に進学した後の状況も追跡できる訳で、子育て世帯をターゲットにしたプラットフォームビジネスとして成り立つという訳ですね。当然私立中進学を選択するような高レベルの所得層を選択的に追跡可能という訳です。

と思いきや通学定期券の大幅値引きが北総鉄道から出ました。

北総鉄道、22年10月に通学定期64%下げ 運賃平均で15:日本経済新聞
成田スカイアクセスの車輪の下で取り上げた北総鉄道の高運賃問題ですが、来年度の累積債務解消見込みから運賃値下げを検討してきた同社は、普通運賃を平均15%値下げする一方、通学定期券は64.7の大幅値下げと打ち出しました。狙いは小田急と同様子育て世帯の呼び込みにあるということですが、同時に子育ての困難な現状故にこうした囲い込みが意味を持つということも指摘できます。

一方JR東日本は定期運賃の値上げを検討中で、こちらはピークカットが狙いで、しかも国鉄時代にインフレ抑制の名目で政府から法定割引率より高い割引率を押し付けられた経緯から、コロナ禍で乗客が戻らない中で軽微な値上げとして認可される可能性が高いという事情があります。但し狙いはあくまでもピークカットで、通勤ラッシュの混雑を減らす狙いがあります。加えてオフピーク専用定期券やリモートワークで週3日程度の利用を想定した定期券など券種の多様化も検討されており、関連事業の依存度が低いこともあり、この辺は私鉄と事情が異なるところです。

とはいえ子供の乗車履歴から追跡される子育て世帯が幸せなんだろうかという疑問も拭えません。逆に言えばターゲットにされない世帯は存在感が消える訳で。社会の分断を示すと見えます。子育ては高所得層の特権になりつつあるのかもしれません。そんなニュースがこちら。

少子化×コロナ 学費増す 私大授業料は5年で1割高 学校や塾、少人数化・遠隔授業で費用:日本経済新聞
学生争奪戦から小規模クラス化で教員数を増やした結果のコスト高に加え、コロナ禍でリモート授業を強いられたことに伴うコストも基本的に授業料に転嫁されており、教育費負担は上昇傾向にあります。私大授業料に留まらず、高校も塾も同様の傾向ですから、子育て世帯に教育費負担がのしかかっている訳です。加えてコロナ禍で失職したり働き方改革とやらで残業代が減ったりして家計収入は減少傾向だし、奨学金と称する学生ローンで学生本人も苦しむ一方、コロナ禍で飲食店を中心にバイトが消滅したりシフトが減らされたりして困窮する学生も多いなど、教育環境の悪化は留まるところを知りません。加えて国公立大学の法人化で授業料が上がってますから、教育分野でのセーフティネットは事実上存在せず、貧困家庭の子供は教育機会が閉ざされています。
中間層復活へ住宅・教育支援 コロナ下の格差拡大 田中聡一郎・駒沢大学准教授:日本経済新聞
岸田政権でも打ち出されている中間層の復活ですが、実態はゼロ年代以降の所得水準の低下で国全体が貧しくなっていて、そこへコロナ禍で家計所得が低下した結果、住宅費と教育費のウエートが高まって家計を圧迫している訳です。故に住宅費と教育費の支援が有効なんですが、その意味で公明党が打ち出した18歳以下一律10万円の給付金はそれに沿ったように見えますが、1回こっきりの10万円よりも児童手当を18歳以下へ拡充するといった恒久対策の方が望ましいと言えますし、大学生は恩恵がありません。当然そうなれば国庫の剰余金や赤字国債ではなく恒久財源を確保しなければなりません。
財政支出55.7兆円、経済対策最大に 事業規模78.9兆円:日本経済新聞
国の財政支出の真水部分は43.7兆円で地方負担と財投を合せて55,7兆円に民間支出を合せて78.7兆円とアベノミクス同様事業規模を大きく見せることに腐心したものですが、真水部分も予算の未執行分や剰余金を含んでますから偽りの数字です。しかも揃いも揃って役に立たない項目が並んでいて、日本政府の無能ぶりは留まるところを知りません。少子化はある意味そんな政府に対する国民の無言の不信任かもしれません。少子千万!

| | | Comments (0)

Saturday, November 13, 2021

徒然に草生えるwwwwww

徒然に進めます。

首相看板政策で3会議新設 デジタル田園都市構想など:日本経済新聞
有識者会議に議論を投げつつ事務局案を承認させる手法は安倍、管政権と同じ手法です。加えて「分配重視」や「新自由主義脱却」を言いながらデジタル田園都市国家構想会議の委員に竹中変造を呼ぶわけです。デジタル田園都市って何?って、地方創生とDXとワーケーションを足して3で割って別の言葉で表現しますた-_-;。観光立国、インバウンドが見込めないから目新しさを装いましたってことですね。終わらないアベノミクスの不毛な総裁選が証明されました。

そもそもアベノミクスは日銀の異次元緩和以外は空手形連発でした。機動的な財政出動は公共事業転発で建設労働者の人手不足から軒並み失効遅延が相次ぎ、ほぼ1年遅れでしかもコロナ禍で工事現場のクラスター感染もあり更に遅れています。規制緩和は獣医学部新設を巡る加計学園への便宜供与に見られるように単なるレントシーキングでしたし、地方創生は単なるバラマキだし、1億総活躍は生産年齢人口の減少を低賃金の高齢者や女性の労働力率を高めて穴埋めし雇用を劣化させただけだし、以下略。しかも目玉の日銀の異次元緩和も先行き不透明です。

9月の経常黒字、前年比31%減 自動車減産・原油高で:日本経済新聞
原油高と円安と自動車輸出停滞で貿易収支は2,299億円の赤字となり貿易立国モデルが裏目に出ました。それで1兆円の経常黒字なのは所得収支黒字が大きく、穴埋めされた結果です。所得収支は日本企業の海外拠点の利益と金融配当によるものですが、何れも円安効果で円建ての数字が伸びた結果で実体経済を反映しておりません。

つまり日本は国ぐるみで貧乏になったのが実態です。こういうのを交易条件の悪化と言います。これ以上悪化させないためには緩和縮小や利上げを行うか円買い為替介入をして通貨防衛を図るしかありませんが日銀は「問題なし」と黒田総裁が表明しており危機感なし。物価はジワジワ上昇しており、スタグフレーションの入り口に立っている可能性があります。円安自体は米ドルが強すぎる結果であり、米景気のよさの反映ですが、それがロスアンジェルス港やロングビーチ港のコンテナ滞貨問題から供給制約を世界に広げている訳ですから、簡単に解消する見込みは立っておりません。経済の回復を急いだ結果です。掘ったイモ弄るな?こんな状況で上辺の株価を追うのも無意味です。

火力発電巡り日本に「化石賞」 環境NGOのCAN:日本経済新聞
米加豪ロ日と産油国が化石賞の常連ですが、期待通り^_^;今回も日本が受賞しました。COP26では石炭火力全面禁止を求める事務局に日本が抵抗したことが授賞理由です。実際合意文書には
排出削減対策のない石炭発電と化石燃料への非効率な補助金の段階的廃止」の下線部分を日本が合意文書に押し込もうとして紛糾し、12日の閉幕が延長された訳ですからCANの見立ては正しかった^_^;。

そもそもエネルギー消費国の日本がエネルギー生産国に与するっておかしくないか?COP26の中の嵐の予感的中です。立憲民主党も連合に頼らずに気候変動問題のように若者や将来世代に直接関わる気候変動問題を前面に出して投票率の低い若者の票を掘り起こすぐらいの姿勢を示すべきでしょう。政局というコップの中の嵐に囚われずコロぶナ。そもそも気候学者の真鍋敏郎氏が開発した気候モデルで温暖化がリスクとして明らかになったのに、それに背を向けるのが今の日本です。

半導体国内生産に補助、政府法整備 TSMC第1号認定へ:日本経済新聞
半導体補助金、既存工場にも 安定供給へ設備更新支援:日本経済新聞
TSMC誘致は経済安全保障の為ということで、それを明記した法整備をすることで韓国が検討中というWTO提訴を回避する狙いです。経済安全保障は結構なんですが、補助金を出すことで企業は潤いますが、TSMCで日本人エンジニアの雇用につながるかどうか?元々エンジニア不足の日本ですから必要なエンジニアの多くは台湾から連れてくることになるでしょう。つまり経済的にも社会的にも分配への寄与な小さいということです。加えて国内メーカーの既存工場の老朽化対策にも補助金出すんですよね。砂を噛む半導体争奪戦でも指摘したように最初から国内メーカーに補助すれば済むのに何でTSMC誘致するの?って話ですね。もっと言えばそもそも自動車メーカーなどが半導体市況に応じた値上げを受け入れれば補助金なしで自前の投資ができたんじゃないの?寧ろ生産能力の急拡大で半導体市況を悪化させかねません。頭悪ゥ。
ホームドア、避難の盲点 京王線刺傷から1週間:日本経済新聞
京王線刺傷事件の続報です。詳しい経過が明らかになり、非常通報装置は複数回押され、乗務員が応答したけど返答がなかったということで、考えられるのが駅の非常停止装置のように押せば止まると勘違いしたか、冷静に通報する余裕すらなかったか、おそらく両方でしょう。」故に乗務員は車内の状況を認識できず、乗客が乗務員室の窓を叩いて異常を察知して非常停止し、停止位置がズレたものの非常ドアコックが操作されたために位置修正が出来なかったということで、魔物(バグ)は細部に宿りますね。こうした後追い報道で非常時の対応が広く拡散されることは大事で「容疑者房はこんな奴」みたいな深堀りよりもメディア報道としては公共性もありニュースバリューの高い報道と言えます。

という訳で草生えるわ!

| | | Comments (0)

Saturday, November 06, 2021

ハロウィンの魔物

総選挙の開票特番が始まったばかりのタイミングでの臨時ニュースに驚かされました。逮捕された容疑者の供述も報じられ、仕事などのトラブルで不満を溜め、死刑になりたくて犯行に及んだことなどが報じられました。犯罪心理学的には本人に対する世間の評価が自己評価に対して著しく低いことで、自己承認欲求を拗らせた結果の犯行ということになるそうですが、自己責任を求める社会の風潮が影響している可能性はあります。ハロウィンを狙ったのはこうした劇場型犯罪の性格を表しますし、総選挙の開票特番中の臨時ニュースで世間に耳目を集めたのは意図したものかどうかはともかく、容疑者の意図に沿う結果でもあります。

気になったのが防犯カメラがなかったことを指摘する声ですが、京王でも既に新車から防犯カメラの設置は始まっているそうですが、仮に防犯カメラがあってもリアルタイムに視聴するにはマンパワーを要する訳で、寧ろ公判の証拠能力といった事後的な意味の方大きいもので、上述のように「死刑になりたくて」犯行に及んだ今回のケースでは予防や抑止の効果は無い訳です。

AIでということを言えば、AIに異常な状況をどう学習させるかが課題です。「Googleの猫」のエピソードではYoutubeに投稿された1,000万枚の画像で猫を認識したように、学習させるデータが大量に存在することが前提となります。つまり今回のような凶行は発生頻度が低すぎてAIに異常事態として認識させるのは無理ってことです。万引きレベルの発生頻度があっても簡単には見抜けないのが現実です。

てことで選挙結果は自己責任原則を追認するような結果となり心配ですが、ここで取り上げたいのは別のことでして、鉄道の安全対策のバグとでも言うべき問題です。

緊急停止、乗務員判断でドア開けず 京王線刺傷事件:日本経済新聞
調布を出発した上り特急電車で程なく凶行が起き、非常通報装置で乗客が乗務員に通報して緊急停止を要請し本来通過駅である国領駅に停車した訳ですが、その際におそらく別の乗客が停止前に非常用ドアコックを操作して停止したため、所定の停止位置より約2m手前て停車し、車両のドアとホームドアの位置にずれが起き、窓からの避難ということになったという経緯ですが、ドアコック操作の結果位置調整のための加速が出来なくなり、また転落の危険があるので車両のドアは開けず、窓からの避難を誘導したという流れです。

車内がパニックの中で非常通報システムで乗務員に報せた乗客がいたことと、ドアコック操作をした乗客がいたことで、非常通報装置と非常用ドアコックはある程度乗客に周知されていたと見ることができる一方、ホームドアの存在が乗客の避難を妨げてしまったということですね。ホームドアは主に視覚障碍者の安全対策として法制化されており整備が進んでいます。それ故に鉄道の安全装備としては歴史も浅く、鉄道事業者とメーカーによる様々な試行もあり、現場が消化しきれていない可能性はあります。

それぞれ目的があって導入された安全装備がそれぞれ活用された結果、バグが生じたという意味で現代的な問題点です。経済学用語で「合成の誤謬」というのがありますが、部分最適を積み上げた結果、全体最適がバグるということですね。国領駅での停止にしても、本来の通過駅に緊急停止する場合の定位置停止機能がどうなっているのかは現時点の公開情報では不明ですが、京王線で導入されているデジタルATCで通常の停車駅ならばそれでカバーされますが、非常停止を想定した乗務員訓練も行われていると考えられます。

とすれば指令経由でATC信号を変更することなく乗務員の判断と技量で定位置停止ということが考えられます。特に地下トンネル内の緊急停止は乗客の避難誘導が難しくなりますので、乗務員の判断で駅に停止して乗客をホームに避難させるという選択になる訳ですが、ドアコック操作で停止位置がズレた訳です。ならばドアコック操作が余分だったのかと言えば、車内の緊迫した状況からはいち早く避難したい乗客心理もありますし、こういうことも起こり得ることを想定しておくべきでしょう。

実際停止位置がズレた場合の対策としてホームドアには線路側からの操作でホームドア以外の開口部を開く仕組みがある訳で、ボタン操作でロック解除することでホームドアの戸袋部が観音開きになったり横にスライドしたりする仕組みだったり、ホームドア戸袋の境に線路側から開く扉があったりと、仕様の異なる対策が施されているそうですが、どの駅がどのシステムかなんて鉄ちゃんでも知らない人が殆どです。

今回のケースでは国領駅のホームドアの仕様がどうなのかはわかりませんが、少なくともドアを開かずに窓からの避難誘導をした乗務員は把握していなかった訳で、況や乗客をや、ですね。車内犯罪のみならず地震などの災害時や停電や事故時に同様の状況は起こり得る訳ですから、この辺駅員や乗務員への周知と共に乗客への告知が大きな課題として浮上します。航空ではビデオで緊急時の救命胴衣や脱出シュートの使い方をビデオで流したりしてますが、圧倒的に多数の乗客を乗せる鉄道の場合は難しいところです。

あと京王線の場合都営新宿線との相互直通のために在籍車は10号線規格という地下鉄直通規格になっており、車両限界に沿った建築限界が採用されていることもあり、窓の開口制限がかけられています。ホームドアの存在と共にこれが乗客の避難を困難にした訳です。これも安全のためですが、海外では側窓は固定窓で非常時には備え付けのハンマーで叩き割って避難するという仕様だったりします。バスでは輸入連接バスで国内でも同様のものがありますが、圧倒的に乗客の多い日本の鉄道での応用は難しいでしょう。

京王線では京王線新宿へ至る地下トンネルは郊外電車規格の広めのトンネル断面ですが、当時の地方鉄道法準拠で車両の最大幅2,744㎜の前提で建設されたのですが、旧5000系の2次車から100㎜拡幅されて最大幅2,844㎜となり、2段ユニット窓の下段にストッパーがついて開口制限されて特認を得ました。その為に10号線規格で最大幅2,800㎜で建設された京王新線には入線できず、都営新宿線開業前の新線新宿―笹塚間の折り返し運転で6000系が京王新線に召し上げられて、京王線新宿発着の特急急行通勤快速が5000系に返り咲きしたなんてこともありました。最後は蛇足でした^_^;、

| | | Comments (0)

« October 2021 | Main | December 2021 »