ハロウィンの魔物
総選挙の開票特番が始まったばかりのタイミングでの臨時ニュースに驚かされました。逮捕された容疑者の供述も報じられ、仕事などのトラブルで不満を溜め、死刑になりたくて犯行に及んだことなどが報じられました。犯罪心理学的には本人に対する世間の評価が自己評価に対して著しく低いことで、自己承認欲求を拗らせた結果の犯行ということになるそうですが、自己責任を求める社会の風潮が影響している可能性はあります。ハロウィンを狙ったのはこうした劇場型犯罪の性格を表しますし、総選挙の開票特番中の臨時ニュースで世間に耳目を集めたのは意図したものかどうかはともかく、容疑者の意図に沿う結果でもあります。
気になったのが防犯カメラがなかったことを指摘する声ですが、京王でも既に新車から防犯カメラの設置は始まっているそうですが、仮に防犯カメラがあってもリアルタイムに視聴するにはマンパワーを要する訳で、寧ろ公判の証拠能力といった事後的な意味の方大きいもので、上述のように「死刑になりたくて」犯行に及んだ今回のケースでは予防や抑止の効果は無い訳です。
AIでということを言えば、AIに異常な状況をどう学習させるかが課題です。「Googleの猫」のエピソードではYoutubeに投稿された1,000万枚の画像で猫を認識したように、学習させるデータが大量に存在することが前提となります。つまり今回のような凶行は発生頻度が低すぎてAIに異常事態として認識させるのは無理ってことです。万引きレベルの発生頻度があっても簡単には見抜けないのが現実です。
てことで選挙結果は自己責任原則を追認するような結果となり心配ですが、ここで取り上げたいのは別のことでして、鉄道の安全対策のバグとでも言うべき問題です。
緊急停止、乗務員判断でドア開けず 京王線刺傷事件:日本経済新聞調布を出発した上り特急電車で程なく凶行が起き、非常通報装置で乗客が乗務員に通報して緊急停止を要請し本来通過駅である国領駅に停車した訳ですが、その際におそらく別の乗客が停止前に非常用ドアコックを操作して停止したため、所定の停止位置より約2m手前て停車し、車両のドアとホームドアの位置にずれが起き、窓からの避難ということになったという経緯ですが、ドアコック操作の結果位置調整のための加速が出来なくなり、また転落の危険があるので車両のドアは開けず、窓からの避難を誘導したという流れです。
車内がパニックの中で非常通報システムで乗務員に報せた乗客がいたことと、ドアコック操作をした乗客がいたことで、非常通報装置と非常用ドアコックはある程度乗客に周知されていたと見ることができる一方、ホームドアの存在が乗客の避難を妨げてしまったということですね。ホームドアは主に視覚障碍者の安全対策として法制化されており整備が進んでいます。それ故に鉄道の安全装備としては歴史も浅く、鉄道事業者とメーカーによる様々な試行もあり、現場が消化しきれていない可能性はあります。
それぞれ目的があって導入された安全装備がそれぞれ活用された結果、バグが生じたという意味で現代的な問題点です。経済学用語で「合成の誤謬」というのがありますが、部分最適を積み上げた結果、全体最適がバグるということですね。国領駅での停止にしても、本来の通過駅に緊急停止する場合の定位置停止機能がどうなっているのかは現時点の公開情報では不明ですが、京王線で導入されているデジタルATCで通常の停車駅ならばそれでカバーされますが、非常停止を想定した乗務員訓練も行われていると考えられます。
とすれば指令経由でATC信号を変更することなく乗務員の判断と技量で定位置停止ということが考えられます。特に地下トンネル内の緊急停止は乗客の避難誘導が難しくなりますので、乗務員の判断で駅に停止して乗客をホームに避難させるという選択になる訳ですが、ドアコック操作で停止位置がズレた訳です。ならばドアコック操作が余分だったのかと言えば、車内の緊迫した状況からはいち早く避難したい乗客心理もありますし、こういうことも起こり得ることを想定しておくべきでしょう。
実際停止位置がズレた場合の対策としてホームドアには線路側からの操作でホームドア以外の開口部を開く仕組みがある訳で、ボタン操作でロック解除することでホームドアの戸袋部が観音開きになったり横にスライドしたりする仕組みだったり、ホームドア戸袋の境に線路側から開く扉があったりと、仕様の異なる対策が施されているそうですが、どの駅がどのシステムかなんて鉄ちゃんでも知らない人が殆どです。
今回のケースでは国領駅のホームドアの仕様がどうなのかはわかりませんが、少なくともドアを開かずに窓からの避難誘導をした乗務員は把握していなかった訳で、況や乗客をや、ですね。車内犯罪のみならず地震などの災害時や停電や事故時に同様の状況は起こり得る訳ですから、この辺駅員や乗務員への周知と共に乗客への告知が大きな課題として浮上します。航空ではビデオで緊急時の救命胴衣や脱出シュートの使い方をビデオで流したりしてますが、圧倒的に多数の乗客を乗せる鉄道の場合は難しいところです。
あと京王線の場合都営新宿線との相互直通のために在籍車は10号線規格という地下鉄直通規格になっており、車両限界に沿った建築限界が採用されていることもあり、窓の開口制限がかけられています。ホームドアの存在と共にこれが乗客の避難を困難にした訳です。これも安全のためですが、海外では側窓は固定窓で非常時には備え付けのハンマーで叩き割って避難するという仕様だったりします。バスでは輸入連接バスで国内でも同様のものがありますが、圧倒的に乗客の多い日本の鉄道での応用は難しいでしょう。
京王線では京王線新宿へ至る地下トンネルは郊外電車規格の広めのトンネル断面ですが、当時の地方鉄道法準拠で車両の最大幅2,744㎜の前提で建設されたのですが、旧5000系の2次車から100㎜拡幅されて最大幅2,844㎜となり、2段ユニット窓の下段にストッパーがついて開口制限されて特認を得ました。その為に10号線規格で最大幅2,800㎜で建設された京王新線には入線できず、都営新宿線開業前の新線新宿―笹塚間の折り返し運転で6000系が京王新線に召し上げられて、京王線新宿発着の特急急行通勤快速が5000系に返り咲きしたなんてこともありました。最後は蛇足でした^_^;、
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