鉄路的地政学
前エントリーで取り上げた中国ゼロコロナリスクが現実になりました。
中国・天津、1400万人PCR検査 北京五輪控え厳戒:日本経済新聞北京五輪間近で厳戒態勢です。天津にあるトヨタ自動車の工場の操業停止に留まらず、港湾都市の天津ですから、国際的な海運のひっ迫を助長する可能性もありますし、高速鉄道で30分という北京との近さも気になります。感染力の強いオミクロン株感染者も確認されております。
繰り返しになりますが、中国のゼロコロナリスクは、それによって都市封鎖などで経済が止まり、サプライチェーンが分断されることで、世界規模の影響があることが問題なんで、米中デカップリングのリアルがより深刻になる訳です。他人事ではない訳です。
そのアメリカが18年に制定した輸出管理改革法で、米技術を組み込んだ半導体製品の特定国(主に中国)への輸出に外国企業も米商務省の許可が必要になり、日本製半導体の輸出が減ったのですが、それを穴埋めするように米国産半導体チップの輸出が増えている現実があります。経済安保を口実とした国内産業保護策になっている訳です。
半導体に関して言えば日本産半導体は汎用品主体で市況により値動きが大きい旧世代のものが中心ですが、台湾TSMCの駒本工場誘致に4千億円も補助して、それでもTSMCが渋ったのは、市況悪化による値崩れリスクを嫌ったからで、ソニーとデンソー以外の日本企業に出資を求めたのもそのためです。高額補助金で外国企業に来てもらうのにも苦労しているのは砂を噛む半導体争奪戦で指摘した通りですが、無理が通れば道理が引っ込む経済安保問題です。
この構図は三菱電機の検査不正で似たことが起きています。三菱電機は鉄道車両用機器で実質国内トップ企業で、空調機やコンプレッサーの他パワー半導体その他の重要機器も取り扱い、海外輸出も行われていますが、海外企業が検査項目や詳細な内容を契約書に記載する一方、国内向けには記載がなく、一応国の基準で検査を行うことになっていますが、海外企業向けの検査はきちんとやっている一方、国内向け出荷分は検査数値を書き換えたり省略したりという状態になっていたことが第三者委員会の報告書で明らかになっております。つまり煩いい相手には対応し馴れ合いの国内企業向けで手抜きをしていた訳です。これ日本企業にありがちなことで笑えません。
背景としてそもそも検査部門はコスト部門としてコストカット対象ですから、人員の補強も検査機器の導入も後回しで、現実的に出荷全数を検査できる能力が欠けていたことが背景にあります。更に言えば行政改革で保健所が減らされた結果、コロナ禍で保健所がボトルネックになったこととも共通した問題点があります。社会が壊れつつある衰退国でトップダウンで物事を進めようとするとこうなる訳です。そんな中でちょっと希望が持てるかなというニュースです。
送電ロスなし「超電導」実用へ JR系、脱炭素を後押し 【イブニングスクープ】:日本経済新聞以前から超電導技術はリニアより送電線でも実用化が先と見ておりましたが、JR総研が実用化にめどをつけた模様です。コイルに用いる新素材によって-269℃から-196℃都より高温で超電導が実現する結果、液体ヘリウムの1/10の価格の液体窒素を冷媒として利用可能になりコスト削減が可能になる訳です。既に鉄道数社が興味を示しています。DC1,500V電化路線での回生ブレーキによる負荷変動や大電流問題は既に指摘しましたが、変電所間隔を空けてコストダウンになるに留まらず、複数饋電区分間の電流制御で回生電流を遠く離れた力行列車へ回すといったことも考えられます。
またヘリウムはアメリカの天然ガス由来のもが世界唯一の商業輸出品ですが、シェールガスにはほとんど含まれず近年生産量が減っている一方、半導体洗浄などハイテク分野で使われることから、米政府が輸出規制を強めており、ディズニーランドのミッキーマウス風船が姿を消したのもそのためですが、リニアの超電導コイルに使うには量の確保が欠かせず、リニアの実現可能性に疑問符がつく要素の1つでもあります。今回の技術が即大出力の超電導コイルに応用できるかどうかはわかりませんが、クエンチの問題は引き続き残ります。
一方安全保障問題ではウクライナとカザフスタンが火種になっており、何れもロシアが絡みます。ウクライナ問題の背景としてソビエト崩壊で冷戦が終結したときに、NATOと対峙してきたワルシャワ条約機構(WTO)は共に不要ということで相互に解散と申し合わせられ、WTOは解散しましたがNATOは残り、旧ユーゴ紛争ではベオグラード空爆など軍事行動を取っている訳で、ロシアからすれば「約束が違う」という話なのですが、EUの東欧圏への拡大までは容認できても軍事同盟のNATOへの加盟は容認できないし、ましてウクライナは隣国でもあります。
勿論東部ウクライナへの介入がそれで正当化される訳ではありませんが、NATOの東方進出禁止はそれでもロシアからすれば譲歩なんですね。また譲歩を引き出すための高めの要求という面もあります。加えてアメリカの中国シフトでロシアへの圧が弱まっている面もあります。鬼の居ぬ間の洗濯でもあります。
中央アジアのカザフスタンの紛争でもロシア軍を送り込んで鎮圧しましたが、産油国でもあるカザフスタンが石油価格上昇で国内向けに低価格で出荷していたのをやめた結果の国民の不満が爆発したもので、ロシアが介入する謂れはなく、こちらの方が問題ですが、米欧の利害に絡まないからなんでしょう。実は慌てているのは中国でして、国境を接し石油供給源でもあるに留まらず、中国と欧州を結ぶチャイナランドブリッジと呼ばれる鉄道輸送路の要でもあります。ルートはウイグルからカザフスタンを経てカスピ海北側ルートではロシアからポーランドを経てドイツに至るもので、日通が日本発の船と鉄道の継走ルートとして売り込んでいます。
カスピ海南側ルートではイランからトルコを経て欧州へということですが、カザフスタンとロシアは1,520㎜のロシアンゲージであり、国境でコンテナの積み替えが発生するものの、スエズ運河経由の船便で40日かかるルートを25日程度で結ぶということで、スエズ運河座礁事故のときも生きていたルートです。
カザフスタンで内戦となればこのルートが使えなくなり、中国経済にも打撃となる訳で、中国は気が気じゃなかったでしょう。加えて言えばカザフスタンを含む中央アジア諸国と中国、ロシアは上海協力機構という同盟を結んでおり、今回のロシアの行動はそれも無視している訳で、機構を主導する中国に顔を潰すことにもなります。そういう意味で西側諸国は「勝手のやっとれ!」ってことなのかもしれませんが、民主主義や普遍的価値を理由に中国に圧力をかける西側諸国のダブルスタンダードではあります。
一方でウイグルから中央アジア、ロシア南部を経てイラン、トルコに至る地域はイスラム回廊でもあり、中国、ロシア、イランの反米同盟という上部構造とイスラムという下部構造の乖離もあり、元々火種を抱えているということも言えますが、米欧にとっては触らぬ神に祟りなしが本音かもしれません。最後にこれ。タイに延びない中国「一帯一路」鉄道 すれ違う思惑 アジア総局長 高橋徹:日本経済新聞一帯一路構想で昆明から南下してラオスに至る高速鉄道が整備され、客貨両用で整備されたのですが、それに繋がる筈のタイの高速鉄道がタイの計画変更で旅客専用となり、しかもラオス国境に至らない可能性が出てきたということです。
中国の思惑としてはタイからマレーシアを経てシンガポールまでの構想で客貨両用が前提だったものが、タイ政府が一方的に計画を変更したもの。建設や技術指導は中国に依存するものの、中国の思惑は崩れることになります。タイ政府が中国に伍してこうした動きを見せているように、米中のはざまで振り回されるだけじゃないしたたかさは日本も見習うべきところがあります。日本にとってはつらいオチだ-_-:。
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